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問.俺は魔王を倒して世界を救った勇者なんだが、それでも税金って払わないとダメなの?  作者: 夢神 蒼茫


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第23話 ペコニア、再び

「なるほど。テンプル騎士団のお取り潰しで、一番得をしたのが国王って事か」



 話を聞く分には、確かに国王のジャンが仕組んだ可能性にも聞こえる。


 しかし、デビィドは二人が持っていない情報を掴んでいる。


 そのために、ここへ飛んできたのだから。



「だが、その話、前提条件が間違っているんだよな」



「勇者様、それはどういった意味で?」



「それはだな……」



「魔王様が滅んでいなかったと言う点ですよ!」



 いきなりの発光。


 そして、そこから現れる人影。


 他でもない、それは魔王軍幹部ペコニアであった。



「ゲッ! ついて来やがったのか!」



「知らなかったの? 徴税官からは逃れられないのよ」



 勝ち誇ったペコニアと焦るデビィド。


 ティエラとモロコスもまた臨戦態勢に入る。


 装備は農作業用の衣服であるが、それでも勇者パーティーが3人も揃っているのである。


 魔王軍幹部最弱のペコニアであれば、十分に対処できるという判断だ。


 だが、そこはデビィドが二人を制した。



「待て、二人とも! 今のペコニアには手が出せん!」



「え!? どういう事ですか!?」



「答えは、こ・れ・よ♪」



 そう言って取り出したのは、ペコニアの『個人証明札マインカード』。


 国民である事の証であり、王国法の保護下にあるという事でもある。


 そうなると、暴力行為は厳禁であり、殺人罪、傷害罪に問われる。


 それに即座に気付いたティエラとモロコスは、すぐに気を鎮めた。



「何がどうなってそんな事に!?」



「転生した魔王リボンちゃん様の養育費を真っ当に稼ぐんだと。まあ、就いている職業自体は“普通”とは言い難いけどな」



「って、魔王、転生しちゃってるの!?」



「転生の術に失敗して、“人間”に転生してしまったがな」



「ああ、なるほど。それで“降伏”という形を取ったってわけか」



「おまけに“徴税官タックス・コレクター”にまでなってやがるぞ」



「うっわ、最悪……」



 ティエラからすれば、一番嫌いな職業であった。


 あれやこれやと“節税”に努めている側からすれば、根掘り葉掘り調べてくる徴税官とは水と油。


 さっさとお引き取り願いたい相手ではあるが、同時に強制的に排除できない相手でもある。


 合法的に安全を確保しつつ、こちらに一方的に嫌がらせを仕掛けられる立ち位置まで確保しているのは、ペコニアの目の付け所が鋭いと言わざるを得なかった。



「ペコニア、魔王はどうした?」



「リボンちゃん様は『勇者を破産確定まで追い込んだから満足!』と申されて、お昼寝タイムに突入しております」



「マジでガキだな。体に魂まで引っ張られてんじゃないか?」



「かもしれませんね。まあ、どのみち、ここまで追い込めたのですから、魔王様としても留飲を下げられたのでしょう」



「単に税金を搾り取っただけじゃねえか!」



「金は天下の回り物。しかし、それは金のある者だけが吐ける台詞。今の素寒貧のあなたは、英雄ではなく、ただのクズ(・・)よ。社会的敗北者さん♪」



「言いたい放題、言ってくれんじゃねえか、ペコニア!」



「金は万能ではないけど、金が無ければ何もできないのもまた事実よ。富を失い、名声も失いつつある勇者デビィド、はてさて、あなたには何が残るのかしらね?」



「あたしがいるわよ!」



 ティエラの叫びが二人に割り込む。


 魔王軍一の切れ者と、勇者パーティーの頭脳担当。


 互いに視線をぶつけ合い、バチバチと火花を散らす。


 しかし、暴力行為は一切厳禁だ。


 互いに国民である以上、理由なき暴力は相手に隙を晒す事になる。


 先に物理的に手を出した方が負け。


 そうなると、頭脳と弁舌が物を言う。


 しかし、“職業ジョブ”という優位性がペコニアにはある。


 徴税官には相手の財務状況を捜査する権利があるため、これを“物理的”に排除する手段はない。


 なので、ティエラが用いる武器もまた“法律”。


 だからこそ、素早く切り出せた。



「ペコニア、悪いんだけど、ここから出て行ってくれないかな?」



「理由は?」



「もちろん、“不法侵入”よ。あなたには、この農場を監査する権限はない。なぜなら、徴税官はあくまで、“徴税権の売買”を行う職業に過ぎず、この土地の税に関する事は、ここの開拓権を付与した領主様だって事!」



 ティエラの理論武装は“徴税権の有無”に関する事だ。


 徴税官はあくまで、買い取った徴税対象の監査ないし徴税を行う職業だ。


 デビィドの件にしても、誰もやりたがらなかった“勇者への査察”を引き受けたからこそできた。


 しかし、ティエラの実家が営む農場は、あくまで地元貴族が開拓権を認められた土地であり、契約時に交わした上納物を納める事で成り立っている。


 ゆえに、“国王に雇われたお前には関係のない土地だ”というわけだ。


 主君の主君は主君に非ず。


 国王には“陪臣”への命令権などない。


 ペコニアの動きは不法行為だ、というのがティエラの言だ。



「つまり、こちらには法的権限が無い。だから出て行けと?」



「そう言う事!」



「でも、そちらに“滞納者”がいらっしゃいますが?」



 それこそが最大の急所だ。


 デビィドは高額納税者であり、しかもそれを滞納している。


 おまけに督促状まで無視した札付きの悪というのが、国税局側の視点だ。


 そこから派遣されているペコニアも、当然その視点を持っている。


 税の徴収が手温かったのも、「勇者を締め上げたら後が怖いのではないか?」という反発を警戒しての話でしかない。


 だが、ペコニアにとっては留飲を下げるまたとない機会であり、そうした“後の事”など埒外であった。


 法的には問題なく、感情を無視すれば、ペコニアの行動こそが正しい。


 これを解決しない事には居座られる上に、最悪、デビィドの身柄を確保される。


 それだけは回避せねばとティエラも必死で頭を働かす。



「勇者様、まだ現金資産は持っていますか?」



「あ、ああ。かなり目減りしちゃったがな」



「それ、全額、ペコニアに渡してください」



「おいおい。俺の生活、崩壊するが!?」



「ここにいれば、衣食住は大丈夫。“女”にだって不自由しませんから」



「え、いや、お前、モロコスと結婚したんじゃ?」



「理由あっての“仮面夫婦”って奴です。モロコス、結婚してから、あたしに指一本だって触れてませんよ。婚姻届の書類一枚、役所に提出しておしまい。夫婦としての関係は、ぺらっぺらに薄いんですよ、紙切れくらいに」



 明らかになる意外な事実。


 ティエラは結婚こそしていたが、デビィドへのみさおを通していたのだ。


 しかも、モロコスもそれを了承しており、あくまで表向きだけ夫婦になっていたのだと言う。



「なるほどなるほど。状況は理解しました。では、徴税官の権限において、滞納者デビィドの預貯金を全額没収させていただきます」



 パチンと指を鳴らすと、勝手にデビィドのカードが飛び出し、軽く発光。


 中身を確認すると、紐づけされている銀行口座から預金が引き出され、その残高が見事に“0”になっていた。



「わぁ~、本当に素寒貧すかんぴんになっちまったぜ」



「大丈夫よ、勇者様。税関連の役人やら徴税官って税金の取り立ては厳しいけど、それはあくまで“払わない奴”に対してだけ。税務署やら国税局ってのはね、税金を“払う奴”と“払おうとする奴”には意外と親切なもんよ」



「よくご存じで。富農の娘はその手の方々との付き合い方に精通しておりますね」



「ひとまずはそれで今日のところは引き上げてくれない?」



「まあ、良いでしょう。残りの金額は、次に訪問して夫婦になったあなたから徴収するとしましょうか」



「ペコニア、お疲れさん。勇者様との仲人役、悪くない結果だったわ」



「いえいえ、金にだらしない旦那様への気苦労は絶えませんね、奥様」



 見事なまでの嫌味の応酬だ。


 当事者であるデビィドはほぼそっちのけでホイホイ話は進み、ティエラの機転によって、徴税官あくまを祓う事に成功した。


 しかし、これはあくまで時間稼ぎ。


 算出された徴税金がある限り、いずれ必ずやって来るのは確実だ。


 それまでに対策しなくてはと、更に頭を動かすティエラであった。

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