第22話 強制捜査
「……で、実際のところ、どうなんだ?」
確かに、巨大な組織がいきなり検挙されるなど、あまりに唐突過ぎる。
それこそ、事前に仕込みでもあって、潰す気が無い限りは説明が付かない。
モロコスが不審に思うのも無理はないかと、デビィドは考えた。
「モロコス、実際に現場にいたお前の視点からはどう考える?」
「それがしは国王の策謀だと見ている」
「え!? ジャン陛下が企んでいたってか!?」
「あまりにも唐突過ぎたし、そもそもいきなりの抜き打ちで強制捜査が入り、神殿の奥の院や騎士団長の部屋から“邪神の神像”が出てきたなんてあやふやなものだ」
「査察の最中に“仕込んだ”って事か?」
「それがしはそう見ている。手のひら大のそれっぽい小さな像を持ち込み、さも家探ししていたら出てきましたなんてやりかねんぞ、あの国王なら」
そのモロコスの言葉に、ティエラもうんうんと頷く。
ティエラ自身は神殿関係者でもないため、直接の被害はないであろうが、それでも国王に対して悪感情を抱いているように見える。
少なくとも、以前謁見した時のような態度ではない。
露骨に毛嫌いしている風すら感じさせた。
「多分、テンプル騎士団が抱えていた膨大な財産が目当てだったんじゃないかと、あたしは思うのよね」
「テンプル騎士団ってそんなに金持ちなのか?」
「そりゃ、世界規模の銀行“テンプル銀行”を経営しているからね。『個人証明札』の紐づけ口座の“指定金融機関”の一つだし、流れ込む金の量は膨大よ」
「あ~、そういや俺も口座、持ってたわ。普段、窓口なんか行かないから、あんまり馴染みが無いけど」
実際、デビィドのような感覚の国民は少なくない。
カード決済は当たり前で、税金も自動引き落としが主流となっている。
窓口に行かずとも、残高さえちゃんとあれば、全てが円滑に金が回るようになっている。
そのため、口座を作った後は銀行の窓口に行く事もないと言う人もかなりいる。
窓口に行くのは、“ローン”やら“融資”を依頼するときくらいというのが、銀行と言う存在であり、そこまで馴染んでいるとも言える。
「そもそも、“金融業”という業種自体を始めたのが、テンプル騎士団なのよ?」
「え、そうなの!?」
「魔王軍との戦争が起こる前、今よりずっと平穏だった時代に遡るけど、神様所縁の地を巡る“聖地巡礼”が流行ったのよね。んで、その旅の巡礼者を狙う盗賊行為が横行したのよ」
「それは聞いた事があるな。それを護衛する組織として“テンプル騎士団”が発足したとも聞いている」
「そうね。そうした活動が人々の支持を集め、次第に規模も活動の幅も大きくなり、巡礼者のための宿坊の経営から、果ては病院や薬局の設置と運用まで手掛けるようになったわ。スオーラがいた孤児院も、騎士団の活動の一環ね」
「改めて聞くと、凄い組織だよな、テンプル騎士団」
「で、その活動の業種の一つに“金融業”が含まれるようになったの。要するに、巡礼者の財布を一時的に預かり、預けた証文を見せれば、各地にある支部でお金を受け取れるようになるというシステムね」
「なるほど! 旅の道中、ジャラジャラうるさい硬貨を持ち歩かなくて済むってわけか! 今では当たり前だけど、当時の人々にとっては画期的だったわけか!」
今でこそ便利なシステムも、それの始まりと言うものが存在する。
“銀行”というシステムもまた、長旅の中で財布を持ち歩かなくて済むという利便性から始まっていた。
とある賢者が「今まで読んだ本の中で一番あなたに影響を与えた物は?」と問われた際、即答で「銀行の預金通帳!」と答えたほどだ。
それほどまでに“銀行”というシステムは画期的だ。
重たい財布は預かり証文になり、それが“手形”で“金銭の情報”をやり取りするようになり、今やカード1枚でそれが叶う。
このシステムが生み出される前と後とでは、経済の循環能力が段違いだ。
「それで、その利便性に気付いた商人がこのシステムを真似て、出来上がったのが今日の金融業というわけ」
「つまり、大量の資本が銀行に集まったってわけか」
「それを元手に大規模農地の経営や貸金業まで、幅広く行った。それに巡礼者の護衛や孤児院の運営など、社会的な名声もあり、歴代の国王陛下はテンプル騎士団に数々の特権を与えていたりもした」
「戦力としても優秀、経済力も桁外れ、そりゃ優遇もするわな」
「だからこそ邪魔になったんじゃないかな、と私は思う」
「つまり、ティエラが言いたいのは、巨大資本と万を超す戦闘集団、これらが同一の組織で占められるのが怖い、と?」
「魔王が倒れて平和になったのなら、なおの事でしょう。テンプル銀行が潰れても、代わりに商人組合の銀行もあるし、そちらを政府公認の認定口座に切り替えればいいわけだしね。何より、保有する膨大な財産は魅力的よ。『人からコンクリートへ!』を標榜しているジャン陛下からすれば、インフラ整備にいくらでも金は必要だから、テンプル騎士団が保有する財産は、さぞや魅力的でしょうよ」
デビィドはティエラの言動から、すでに王国政府が仕組んだ陰謀ではないかと疑っているのを感じ取った。
実際、事件の処置は苛烈を極めていた。
銀行の預金については完全保護を行っていたが、テンプル騎士団や幹部、銀行の保有していた財産は全没収。
かなり国庫が潤っている。
あまりの手際の良さから、事前の計画があったのではと疑いたくもなる。
実際、当事者であるモロコスはそう睨んでいた。
「その後の騎士団はひどいもんよ。正義の騎士団は怪しげな儀式を執り行う邪神の狂信者扱い。おまけに口封じとばかりに、幹部は全員火炙りで処刑。正規の騎士も大半は獄に繋がれ、一部は個人的な功績から特赦が認められた」
「モロコスも特赦が認められた口か」
「まあ、それがしは“魔王討伐”という功績がありましたからな。いの一番に特赦が認められた」
「それに関しては、不幸中の幸いと言うやつだな」
「よくないよくない! 魔王討伐の賞金も全額、騎士団に寄進していたから、一夜にして何もかもを失ったんだぞ! 財産も、職場も!」
「それはご愁傷様……。ああ、それでティエラを頼ったというわけか」
「ここでしたらば、人目を気にしなくて済みますし、何より金も働き場もありますからな」
この点ではモロコスの判断は正しかったと言える。
ティエラの実家は広大な農場であるため、世情に疎い小作人しかおらず、偏見を持って見られる事もない。
何より、モロコスの怪力は農作業にぴったりだ。
開墾の捗り具合を見れば一目瞭然。
ある種の“天職”とも言えよう。
正義の騎士様が辺境地の開拓事業に汗水たらしていた理由について、デビィドはようやくに認識する事が出来た。
そして、同時に感じた。
お前も世間から弾かれた報われざる英雄なのか、と。




