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問.俺は魔王を倒して世界を救った勇者なんだが、それでも税金って払わないとダメなの?  作者: 夢神 蒼茫


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第19話 税金は国民の味方に非ず!

「くっそ! こんな連中に搾り取られるなんて、納得いかん!」



 そうとしか叫べないデビィドであったが、もはや後の祭りだ。


 そもそも、自分が自堕落に1年も無駄に凄知た事が原因であるからだ。


 祖父の死亡届や相続手続きを怠った点が大きい。


 また、世界を救った勇者という金看板を利用すれば、いくらでも稼ぐことができたであろうに、ただ無駄に時間と貯蓄を浪費しただけなのも原因だ。


 要するに“自業自得”という一言に尽きる。


 むしろ、国税庁からはお目こぼしに近い温情措置で、一年放置されていたとも言えるが、督促状を無視した段階で破滅が確定したとも言える。


 その破滅の擬人化として、ペコニアとリボンちゃんが現れたのだ。



「そういう制度や法律になっておりますので」



「 (๑꒪▿꒪)*。_。)) ウンウン 」



「…………。勇者おれが、魔王に、自宅で、税金を、絞らる」



「文節ごとに区切って、組み合わせる言葉遊びね。まあ、こう言う状況になるのは、さすがの私も1年前には予想したなかったわ」



「ジャン陛下がこいつらの降伏を認めたから、俺が妙な状況になったんだぞ! クソッタレが!」



「国王陛下に文句を言うのはお門違いよ。あなたが税金をちゃんと払ってたら、こうはならなかったんだから」



 実際、それは正論だ。


 ペコニアにしても、自堕落になった勇者がここまで無防備、無思慮とは予想を超えていた。


 嬉しい誤算ではあったが、こうも簡単に勇者を素寒貧にしてしまえるのは、愉快痛快、拍手喝采ものの快挙だ。


 だが、勇者は諦めない。


 最後の手段とばかりにそれに手を伸ばす。


 それは“巻物スクロール”。


 ティエラが置いていった物で、【帰還リターン】の魔力が込められている。


 これさえあればいつでも会える。


 それがティエラの願いだ。


 たが、デビィドは今更どの面下げて会えるのかと、自堕落な自分を卑下し、使うのを躊躇わせてきた。


 だが、今は違う。


 不完全とは言え、魔王リボー(リボンちゃん)は復活し、“金欲”のペコニアが暗躍を始めた。


 またあの明晰な頭脳がいる。


 それが錆び付いた勇者を動かした。


 なけなしの矜持プライドは納税額の重みによって圧殺された。


 躊躇ちゅうちょする余裕など、すでにない。


 巻物は発動し、勇者の身を遥か彼方へと飛ばした。


 しかし、残されたペコニアは余裕だ。



「愚かな事ね。制度や法律は民衆を守るために存在しない。そうした制度や法律を理解し、利用できる者の味方よ」



 その点では勇者は落第点、それがペコニアの下した判断だ。


 勇者という最高品質の看板を有していながら、それを活かす方向性をまるで確立していない。


 損失であり、非効率であり、自堕落な愚者との評価が正しい。


 平和な時代に適合できなかった英雄とは、ああも情けない醜態を晒すものなのかとほくそ笑む。


 そして、その笑みの真なる理由は、“最大の賭け”に勝った事による。



「お疲れ様。もう元に戻ってもいいわよ」



 そういうと、ペコニアがリボンちゃんの方を振り向くと、すぐに正体を現した。


 可愛らしい女の子の姿はなくなり、代わりに現れたのは“顔無し”。


 他人の姿を擬態する魔族、投影魔人ドッペルゲンガーだ。



「愚かなり、勇者デビィド。こいつが偽物の魔王様だと気付かない程に錆びついていようとはな! 本当に弱くなったわ!」



「ビッ Σd(   )」



「とは言え、こいつは魔王様の血を受けた特別な個体。いくばくかのスキルも擬態できたし、それも信用を与えた要素の一つ」



 実際、偽魔王が所持していた『個人証明札マインカード』は本物であり、身に付けている高レベルのスキルや魔術は本当に習得していた。


 影の中に流れる『与えられた魔王の血』がそうさせたのだ。


 一昔前、ペコニアは人間社会に投影魔人ドッペルゲンガーを潜り込ませ、時に“本物”とすり替わり、内部から浸食しようと謀った事があった。


 成果は上々で、王国上層部にまで偽者を忍ばせたまでは良かったのだが、そこで先王リシャールは事態の深刻さに気付き、導入されたのが『個人証明札マインカード』だ。


 国民全員を検査し、潜んでいた投影魔人ドッペルゲンガー虱潰しらみつぶしにされた。


 投影魔人ドッペルゲンガー対策として導入された『個人証明札マインカード』だが、それの対策にペコニアは色々と頭を捻った。


 国民すべてに配布する事や、その膨大なコストや情報管理の手間を考慮に入れてもなお、実行に移したリシャール王はもはや“狂人”だ。


 よくまあこんな方法を思い付くのかと感心し、また各種行政サービスと連結させ、社会全体の効率化を成し遂げた点は、掛け値無しに賞賛に値するという評価をペコニアはしていた。


 社会基盤は強固になり、人間社会に溶け込んで潜ませていた配下もすべてやられてしまったが、ペコニアは失敗を糧とし、別の切り口から攻め込んだ。


 新しいやり口をいくつか実験的に試し、その内の一つが目の前の“少女”。


 国民がカードを受け取るのは、役所に出生届を出す際だ。


 そこでカードを受け取り、個人の魔力に馴染ませて、当人以外が使えなくさせる一種の“生体認証”を付与させる。


 その僅かな空白の期間を、ペコニアは狙った。


 生まれたばかりの赤ん坊を、出生届が出される前に赤ん坊に擬態した投影魔人ドッペルゲンガーとすり替えた。


 結果は“成功”だった。


 赤ん坊が“嬰児えいじ交換”された事に誰も気付かず、普通にカードが交付され、影が本物として生活を続けられているのが、その証拠だ。


 いずれ何かに使えるだろうと、そのまま少女として過ごさせ、身体も少しずつ大きくする事で年相応の成長も完璧に擬態。


 本当にごく普通の女の子、王都在住の一般庶民に成り切ってみせた。


 今回の“勇者へのお礼参り”がなければ、本当に普通の人間として過ごせていた。



「ご苦労さま。あなたは元の“女の子”に戻っておいてね。また何か仕事があれば呼び出すから」



「 ハーイ ヽ(=^▽^= )ノ =3 」



 走り去る仕草も完璧。


 どこからどう見ても普通の女の子。


 あれが怪物だとは誰も考えない。


 カードの所持という絶対の証拠があるからこそ、疑えないとも言える。


 そのカードの仕様をすり抜けた、ペコニアの手腕が優れていただけの話だ。


 だが、それでもペコニアの立場は厳しい。


 魔王は転生に失敗し、今は“別の場所に匿われている”。


 手駒は今やあの特殊な投影魔人ドッペルゲンガー1匹だけ。


 演技指導をした甲斐もあって、勇者に関しては完全に騙せた。


 この状況を上手く利用していかなければならない。



「フフッ、もう勇者デビィドは魔王復活を信じて疑わない。大魔導士ティエラならあるいは気付けるかもしれないけど、なら直接“リボンちゃん様”を見せなければ良い」



 勇者は馬鹿な上に錆び付き、勘も鈍っている事は、先程のやり取りで明白になった。


 しかし、大魔導士はかなりキレる(・・・)


 あるいは、少女の擬態のからくりに気付くかもしれない。


 しかし、勇者が「魔王が復活した!」と宣えば、色眼鏡をかける事ができる。


 あとはそこから思考誘導していけば、騙し切る事も決して不可能ではない。


 勝てる、そう確信すればこそ笑みも自然と出てしまう。



「さて、それじゃ勇者もとい、税金滞納者くそやろうを追いかけるとしますか!」



 そして、ペコニアもまた、勇者を追って何処かへと消えてしまった。


 勇者はうまく逃げつもりかもしれないが、税金とはどこまでも追いかけてくる。


 国税局も、税務署も、それらから派遣されてくる徴税官、いずれもだ。


 『自己証明札マインカード』がある限り、決して逃れる事はできない。

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