第18話 地価上昇
知らず知らずの内に、控除によって税金を払わなくて良い身分なっていた勇者デビィド。
それを知らされた時に衝撃は、決して小さくはない。
己の無知を恥じ入ると同時に、別の恐怖もうまれていた。
即ち、“今”の自分はどういう立ち位置にいるのか、と。
「な、なあ、ペコニア、今の俺、税金払わないといけないのか!?」
「当然! 納税は国民の義務! 今までのあんたは、あくまで控除やらなんやらで、納税の義務を免除されていただけ。その立場を失えば、義務が発生して当たり前!」
「う、嘘だろ!? 俺は魔王を倒した勇者なのに、一般庶民と同じ扱い!? ほら、さっき言ってた高ランク冒険者の免税とかどうとか!」
「高ランクの冒険者としての立場を維持できてたら、その限りじゃなかったんですけどね。フフッ、御愁傷様!」
「 (~ ̄³ ̄)~ アホスギヤデ 」
「ああ、ちなみに言っておくと、Sランクの恩恵はあくまでSランクの状態を維持すればの話。今のあなたはサボりまくって、ランク下がっているからね」
「ね、年金とか、高級官僚としての登用は?」
「そっちは“Sランクを累計で5年以上続ける事”が条件になっているから、当然、適応外よ」
「くっ、くそ〜!」
「 ヘソデチャガワク (*´・ω・)(・ω・`*) ネー 」
どこまでも小馬鹿にしてくるペコニアにリボンちゃん。
冷や汗がドバドバと出てくる。
かつて感じたことの無い緊張感と共に。
「まあ、ざっと聞いた経歴だと、冒険者1年目は“特殊職初年度控除”で割り引かれて、しかも運よく“Bランク”まで昇格できたから、それで無税になったかな」
「特殊職控除!?」
「ええ。“勇者”を始めとするいくつかの特殊職は、先天的な適性がないとなれないから、かなり貴重なのよね。だから、そうした職業の人が冒険者になると、税金が控除される」
「どんだけ優遇されてたんだ、勇者って!?」
「あと、初期に王様と謁見できたり、その場で初期装備や資金を融通してもらったりとか」
「あれもなの!? てっきり爺さんの伝手でああなったのかと」
「んなわけないでしょ! いくらあんたの祖父が近衛騎士だったからって、その孫が何の功績なしに、いきなり王様と謁見できるとでも!?」
「言われてみれば、その通りだわ」
「あれは特殊職“勇者”に対する箔付け! 勇者よ、頑張って魔王倒せよっていう激励みたいなもんよ」
「つまり、勇者専用のスターターキットが、あの謁見の意味か!」
「初期資金に加えて、初年度の税優遇。しかも、あんたの場合は、2年で“Aランク”まで行ったから、恩恵が分かり辛かったのかもね」
「財布はティエラにほぼ丸投げだったしな」
「切れ者は、あの小娘だけか。よくまあ、魔王様に勝てたもんね」
「 (๑꒪▿꒪)*。_。)) ウンウン 」
「それについては、なんも言えねぇ……」
頭脳労働はティエラの担当、これが勇者パーティーの“いつもの”であった。
メンバー最年少でありながら、パーティーの頭脳であり、お財布担当。
他メンバーは戦闘においては無類の強さを誇るものの、その他の事は抜けが多い。
それを上手く補ってくれてたのが、ティエラという存在だ。
田舎出身で礼儀作法がイマイチよろしくないという点を除けば、これ以上にない参謀役とも言えよう。
あるいは、目の前にいる悪魔ペコニアにだって負けない程の。
そして、悪魔はどこまでも悪魔であった。
「さってと、収入がこの金額で、ここから算出される通常の所得税に住民税がこの額になるっと。それと固定資産税に相続税、これらに加えて、未登録の償却資産、死亡届未提出による違約金やら追徴課税やら諸々……」
「改めて並べられると怖いな」
「 ┐( ̄ヘ ̄)┌ ヤレヤレ 」
「自業自得だぞ! と申しております」
「そんだけ“勇者特権”の控除がデカかったって事だよな」
「そういう事! そんじゃあ、こんだけ払ってもらいましょうか」
そう言って、ペコニアは計算を終えた勇者の資産状況と去年の年収、そこから算出された税金の支払い合計金額が示された。
あまりの巨額であり、デビィドの目は吹っ飛ぶかと思うほどに大開きに丸くなった。
「なんだよ、この金額は!?」
「支払うべき税金やら罰金ですが、なにか? あ、罰金の窓口は私じゃないので、然るべき場所に納めましょうね。通報はしておきますから(親切)」
「(・∀・)ニヤニヤ」
「それと、冒険者としての特権もなくなっていたから、年金もちゃんと払っておきなさいよ。学生と冒険者は年金の支払い猶予期間があるけど、それ無くなっているからね。国民年金事務所にも通報しておくから(超親切)」
「ねぇよ! 金がどんどんなくなるよ! てか、支払額、預金残高超えてる!」
「自業自得な部分が多いんだし、払うもんは払いなさい」
ペコニアも、リボンちゃんも、勝ち誇ったように笑う。
実際、支払うべき税金は、デビィドの預金残高を超えている。
そうなると、家を売らざるを得ない。
差し押さえからの競売。
財産相続の際、現金資産がなく、不動産から宝石、美術品などの価値ある財産を物納する場合もあったりする。
そして、競売にかけられるというのが、割とよくある話だ。
「てか、この家、めっちゃ査定額がデカくないか!? こんなに高かったっけ!?」
「そりゃそうよ。ここ最近の王都の地価の上昇率、凄いからね。値段がグングン上がっているわ」
「なんでまた!?」
「国の方針転換。リシャール先王陛下は『コンクリートから人へ!』を標榜して“人”に投資した。んで、今のジャン陛下は『人からコンクリートへ!』に変更して、“土地や建物”に資金投入している」
「前に謁見した時にそう言っていたな。復興事業を進めるとかどうとか」
「そうそう。だから、平和の時代と到来と共に、焼け出される心配もなくなって、不動産価格が上昇しているのよ」
「それでか! ……あ、って事は、地価の上昇と共に不動産価値が上がって、この家も資産としての価値が上がったって事か!?」
「そうよ。なので、査定額も上がる。もちろん、固定資産税や、相続税もそれに連動して上がる。オ・メ・デ・ト・ウ!」
資産価値の上昇と言う点では喜ぶべき事ではあるが、素直に喜べる状況でもないのもまた事実だ。
相続手続きの不備が(そもそもやってない)追徴課税を生み、搾り取られる額もまた上昇してしまっているからだ。
それを誰よりも理解しているからこそ、ペコニアも満面の笑みだ。
リボンちゃんもニヤニヤ笑っている。
やっぱりこいつら徴税官だと、改めて実感するデビィドであった。




