第17話 装備品にかかる税 (3)
「と言うのが装備品にかかる税金のお話し。そして、勇者デビィド、あなたのお持ちのこの剣、基礎攻撃力が100を超えてますよね?」
「う……!」
「 (・∀・) ニヤニヤ 」
デビィドは笑みを浮かべるリボンちゃんやペコニアに反論ができない。
“税金”というものに無頓着であった自分と、しっかりと履修した上で“徴税官”という特殊職に就いた者の差だ。
完全に防戦一方となった。
「で、でもよぉ、高威力の武器の所持に制限かけたら、高レベルの冒険者、それこそ魔王軍の上の連中とやり合う時に枷になるんじゃ!?」
デビィドとしては、絞り出せる言い訳としてはこれが限界だ。
店売りの量産品ならともかく、凄腕職人による一点物の専用装備や古代人の製造物、果ては神造宝具ともなると、性能は段違いだ。
神の力が宿る大業物であるからこそ、付与されている力も大きい。
それの所持に対して制限をかけるなど、ザコモンスターならともかく、幹部クラスの上位魔族とやり合うのに不利過ぎる。
それがデビィドの意見だ。
実際、自分の持つ剣もそうであったように、仲間の聖戦士モロコスの持つ槍、竜殺槍『アスカロン』もまた基礎攻撃力が“100”を超えている。
この手の伝説の武器は、付与されている魔力も高く、基礎攻撃力も高いと相場が決まっていた。
リシャール王のやり方では、全体の底上げや全体平均値の上昇にはなっても、高ランクのパーティーにとっては足枷以外にはならない。
そうデビィドは考えた。
なお、“それ”についてもすでに履修済であるのが、“金欲”のペコニアであった。
「まあ、店売り品で基礎攻撃力100超えの物はほぼないし、あるとすれば一点物の特注品とか、あなたの剣のように“伝説の一品”くらい」
「そうだよ! この制度だと、俺らみたいな“高ランク冒険者”が損するだけじゃねえか! 伝説の武器を持っているだけで高い税金を払わされるんなら!」
「だからこそ、リシャール王はこれも先手を打って補填できる仕組みを作っていたわ。そう、『高ランク冒険者控除』をね」
「何じゃそりゃ!?」
「平たく言うと、冒険者としてのランクが上がるほど、税金が安くなる制度よ」
「そんなのがあるのか!?」
「冒険者は基本的に冒険者組合に所属するじゃない」
「まあ、そうだな。組合に入るか、あるいは貴族やら富豪やらのお抱えになる奴もいるけど」
「貴族のお抱えだと、仕事はその貴族の専属になるから実入りは大きい。でも、控除対象からは外れる。で、組合所属の冒険者は、受けた仕事の難易度やこなした数によってポイントが付与され、それに合わせた“冒険者ランク”が設定される」
「ああ、それも知ってる。俺の場合だと、冒険開始から1年で“Bランク”にまで昇格しで、更に1年で“Aランク”になったな。それからしばらくは昇格無しで、冒険5年目で“Sランク”になった」
「かなりハイペースな昇格スピードね。どれだけ腕の良くて幸運に恵まれた冒険者パーティーであっても、“Sランク”は異次元の領域。運と実力に恵まれても、最低10年はかかるって言われているもの」
「まあ、俺の実力からすれば当然だろ」
実際、デビィドのパーティーは魔王を倒しているのだし、この大言壮語も許される。
勇者デビィド、聖戦士モロコス、大魔導士ティエラ、聖女スオーラ、いずれも才能豊かな者達で、幸運にも恵まれた。
だからこそ、魔王討伐という偉業を成し遂げる事が出来たとも言える。
もっとも、その魔王が復活して、嫌がらせをしてきているのだが。
「そう言えばティエラの奴が、“Aランク”に昇格した時は凄いはしゃぎ様だったな」
「へぇ〜、大魔導士ティエラがね。どうやら大魔導士だけが“ランク昇格の価値”を知っていたみたいね」
「買い物の際の“割引特典”だろ? ランクが上がって、いくつかの品が安く買えるようになった。消耗品の魔法薬が安くなったのは良かった」
「阿呆か! そんな事よりもっともぉ~っと重要なのが、さっき言った『高ランク冒険者控除』よ!」
「だから、それは何なんだよ!?」
「読んで字のごとく 高ランクの冒険者は、税金が安くなる制度の事よ!」
「なんだと!?」
「“Bランク”は所得税の半額控除! “Aランク”は所得税の全額控除や各種免税! しかも、冒険者引退後の公務員優先登用のおまけ付き!」
「マジかよ!? なら、俺は!?」
「あなたは“Sランク”だから、全額控除に加えて、引退後の特別年金の支給! しかも“国家公務員試験1種”をパスした扱いになるから、その気になればエリート官僚としての道もあるわよ」
「えぇぇぇぇぇっ!?」
まさかの話にデビィドは絶叫。
今で税金を払った記憶がなかったのは、払う必要のない“高ランクの冒険者”だったためだと言う事実を始めて知った。
高威力の武器に関しても、無税の状態を維持できたからこそ、負担を感じていなかったのだ。
パーティーの財布はティエラに任せ切りだったのが、“税”に関する無知を加速させる結果になった。
「特に、ポイント制によるランクアップ形式だから、冒険者達の“競争心”を煽って、熱心に魔王軍と戦うように仕向けた点も見事としか言えないわ」
「え? そうなの?」
「Sランク、Aランクの冒険者は枠数に制限があるからね。さっき言った特別控除を手にするために、必死でモンスターと戦ったりクエストをこなしたのよ。なにしろ、Aランク以上なら全額控除なんだし、稼いだ分は丸々儲けになるわ」
「そ、そうだったのか! てか、冒険中は全然金に困った事はなかったけど、そういうカラクリだったのか!」
「おまけに、ランキングのデータは冒険者組合が国税局に送るから、高位ランカーは自動的に課税対象から外されるようになる。確定申告も出さなくてよくなるし、役所から督促状やらが届く事もないわ」
「あ……、俺が税金払った記憶がないって、そう言う事か!」
「いやほんと、ティエラちゃんはメチャクチャ優秀だったみたいね。魔術師としても、勇者パーティーの経理としても……。多少の事務処理もササッと片付けていたようね~」
「ああ、そうだな。一点物のレアな超高額装備品を買うとき以外、マジで金に苦労した記憶がないわ」
なにしろ、勇者パーティーの顔触れの内、ティエラ以外は金勘定に疎いため、財布についてはほぼ丸投げ状態であった。
そもそも、浪費が多い。
デビィドはすぐに豪快に飲み食いするし、モロコスとスオーラは金があればすぐに教会や慈善団体に喜捨してしまうので、一向にお金が貯まらない。
これでは装備品の更新ができないと、ティエラが財布の管理を始めたのが、丸投げ状態の始まりだ。
金銭管理からクエストの請負や内容・報酬の交渉、それら全てがティエラ任せ。
彼女が唯一できないのが“御貴族様との社交”で、これだけが他3名の出番となる。
だからこそ、ティエラは余計に頑張った。
華やかさに欠ける自分ができるのは、裏方の仕事なのだと。
自分は裏方だと割り切り、ティエラはパーティーの財務管理や対外交渉(貴族以外)を頑張ってこなしてきた。
その気になれば、いくらでも自分の懐を温める事ができる立場にありながら、私欲に傾いたのは一度だけ。
絶版もののBL小説(愛蔵版)を古書店で発見し、自分の手持ちでは足りなかったために、デビィドの財布に手を突っ込んだあげく、「超絶レアな魔導書を買うために勇者様のお金、使っちゃいました!」と嘘をついたことだ。
“賢者タイム”になるための“悟りの書(笑)”だと虚偽申告した点は、失笑ものだったが。
「まあ、別にいいけど、そんなら体で払ってもらおうか」
などと冗談半分にデビィドが言った言葉を、ティエラが真正面から受け取ってしまったのが、二人の“肉体関係”の始まりであったりする。
デビィドは本の中身を知ってはいたが、他人の趣味嗜好にあれこれ言うつもりはないのでスルー。
普段頑張っているティエラへのご褒美感覚で、金の事は不問にした。
体で払えなどと言うのは本当に冗談だったのだが、ティエラはあっさり過ぎるぐらいに差し出してきた。
一連の流れを、ティエラは都合よく脳内解釈してしまったためだ。
デビィドを“自分の趣味に理解力のある男性”と頭の中で変換された。
この人なら、実家の倉庫に山積みになっている“禁書目録”を見ても、絶対に引いたりしないと。
実際、ティエラの実家に立ち寄った際、デビィドにさり気なく倉庫の中身を見せたのだが、デビィドは深く突っ込まなかった。
ほぼスルーに近い。
マジで大丈夫だと確信したティエラは、デビィドを“将来の旦那様”に決定。
それからはわりと積極的に逢瀬を重ねるようになった。
ティエラは将来の伴侶の心を繋ぎ止めておくために、デビィドは年頃男児が発症する生理現象の解消のために。
(な~んて事もあったりしたけど、ティエラは体の具合は良かったしな~。普段はだぶだぶの長衣着てるから分からないけど、脱いだら結構凄いし)
今となっては良い思い出とするべきか、黒歴史として封印しとくべきか、悩ましい自分とティエラの馴れ初め話に思いを馳せるデビィド。
それを察してか、ペコニアのツッコミが入る。
「いなくなって初めて分かるその良さ、身に染みてる?」
「なんも言い返せねえわ、それ……」
今更ながらに思い知らされる勇者デビィドであった。




