第16話 装備品にかかる税 (2)
愛用している伝説の剣に税金がかけられる!
冒険者を引退して自堕落な生活を送っていた勇者デビィドにとって、伝説の武器はもはや過去を偲ぶ“思い出の品”程度の価値しかない。
しかし、それに多額の税金がかかるとなれば話は別だ。
さっさと処分しなくては、そう考えた。
「と言うか、そもそもの話として、なんで装備品に多額の税金をかける!? リシャール先王陛下は魔王討伐に死力を尽くしていたってんなら、むしろ装備品は無税にした方が良かったんじゃないか!?」
当然ながら、デビィドはその疑問に行きつく。
冒険者の強化を考えるのであれば、安価でかつ質の高い装備品を揃えるのは不可欠なはず。
しかし、質の高い装備品に高額の税金を掛けたら、値段が上がって手が出なくなるのは自明だ。
まったく訳が分からんと、デビィドは首を傾げて唸る。
「まあ、その発想をするのが普通なのよ。でも、リシャール王は高い税金をかけた。そこがあの王様が切れ者の証なのよね」
「税金を搾り取る以外に、なんか理由でもあんのかよ!?」
「さっきも言ったけど、税金は国家の方針を定めた重要な指標。何をやりたいのかは、税制と金の流れを追えば、だいたい分かるわ」
「フンッ! “金欲”の二つ名はハッタリじゃないって事か!」
「ま~ね~」
ドヤッって胸を張るペコニア。
実際、この女悪魔は極めて明晰な頭脳を有しており、魔術抜きにしても、この知略の冴えは十分に脅威と言えた。
「 (*≧ω≦)b~♪ 」
「我が参謀は優秀だぞ! と申しております」
「つ~か、ならなんで魔王城の決戦の際には留守にしてたんだよ!?」
「あの時は、私が追っかけやってる魔界のアイドルグループ『蛍GENJI』のツアーライブがあって、そっちに行ってたの」
「勇者との決戦より、追っかけ優先!?」
「 (´-ω-`;)ゞ ポリポリ 」
「たまってた有休消化させるために休みをくれてやったら、たまたまお前らが来たんだぞ! と申しております」
「有休消化!? 魔王軍って意外とホワイトなんだな……」
魔王軍の意外な一面を知り、反応に困るデビィド。
むしろ、人間側の方が過酷ではと思ってしまったほどだ。
「おっといけない。話が逸れちゃったけど、高い税金を掛けたら、装備品の流れが悪くなるって話だったわね」
「そうだよ。税金が上がれば値段が上がって、装備が高くなって買えなくなる。当然の流れじゃないか?」
「そう。でも、そこがリシャール王の発想の差。高い税率に設定したのが、“基礎攻撃力100以上”としたところがミソなのよ」
「いや、それだと“基礎攻撃力100以上”の武器を誰も持たなくなるだろ」
「そりゃね。んで、“元”冒険者として、店先に並んでいた装備品、どうだった?」
「あ~、今にして思えば、基礎攻撃力が90代の武器が多かったような気がする。つまり、税金が累進課税されないギリギリを攻めていたって事だな」
「商人、職人ともに、本当にギリギリを攻めていたわ」
「でも、そんな状態なら、それ以上は強くなれないし、やっぱり税金は害悪では?」
「だから、職人の“創意工夫”が試された。“永続強化”が付与された“魔術付与武器”、それが主流に変わっていったのよ」
「あ……!」
そこまで説明されて、デビィドはようやく合点がいった。
店売りされている装備品のラインナップが基本値80を超えた辺りから、付与魔術がかけられている品が急激に増えていた事を思い出した。
「そうか! 基礎攻撃力に敢えて“障壁”を設ける事で、別方向からの装備品強化を図ったってわけか!」
「そう言う事よ。例えば“剣”だと、“武器の基礎攻撃力”と“使用者の腕力値”で“最終的な攻撃力”が算出される。もし、剣に“使用者の腕力の永続強化”の魔力が込められていた場合、どうなるかしら?」
「強化の付与がある武器の方が、最終的な攻撃力が高くなるな」
「他にも、火属性とか氷属性とか、弱点を突ける武器とかね」
「あ~、なるほど。基礎攻撃力に実質的な上限が設けられたら、別の方法から武器の強化を考えるのは当然と言えば当然だものな!」
「しかもリシャール王はそれを見越して、魔術具の生成に必要な“特殊素材の採取クエスト”の報酬上乗せを税金で賄ったわ。あるいは“魔術付与武器の納品ノルマと達成時の特別報酬”まで用意していたりもした」
「税金を上げたように見せて、わざと抜け穴のあるザル法を作り、その実、装備品の強化を徹底していたって事か!」
「リシャール王はそう言う意味においては、本当に先見の明がある。税金の取り方はもちろんの事、何よりその使い方もね。『コンクリートから人へ!』という自身が打ち立てた看板を、本当によく弁えて実行に移している」
かつての宿敵ではあるが、その手腕は目を見張るものがある。
その点では称賛を惜しまないペコニアであった。
そうした数々の施策があったからこそ、王国は魔王軍と戦い続ける事ができ、最終的に勇者が魔王を倒す事が出来たのだ。
だからこそ、“税金”と言うものの恐ろしさが分かるというものだ。
税制は国家の指標であり、道標でもある。
そこに“悪意”が入り込めば、瞬く間に耐え難い腐臭を撒き散らす事になる。
目的意識がない者や、邪な考えを持つ者が税金を差配できる位置を占めてしまうと、たちまち世情は乱れる。
だからこそ、そこにこそ付け入る隙があるというのが、ペコニアの考えだ。
その本質を“金欲”の二つ名を持つ悪魔は、誰よりも熟知していた。
そして、その整備された税制度を以て、勇者に掣肘を加えるという悪意。
やはり自分はつくづく悪魔だなぁと実感するペコニアであった。




