第14話 監査開始!
「さて、それでは、脱税容疑の勇者デビィドの監査、始めましょうか」
「 (・∀・) ニヤニヤ 」
ペコニアも、リボンちゃんも、これ以上にない程の笑み。
煮え湯を飲まされた勇者を、これから一方的に嫐れるのだ。
合法的に、反撃される事もなく、ボコボコに出来る。
溜飲を下げるのに、これ以上にないシチュエーションだ。
「クソッタレが! こんな事が許されるわけないだろ!」
「許すも何も、“法律”によって定められた範疇ですので、何の問題もないですね。なので、大人しく監査を受けてください。抵抗は無駄です」
「俺は勇者なんだぞ! 救国の英雄なんだぞ!」
「勇者だろうが、英雄だろうが、国民である事には違いありませんので、税金はキッチリと徴収いたします。もちろん、法の定める範囲でね。私、順法精神の塊みたいなもんですから♪」
「悪魔が順法とか語ってんじゃねぇよ!」
「悪魔だから順法なんですよ。契約第一、交わした約束は絶対に守りますから♪」
「契約の穴を突いて、後で面倒事を引き起こすくせに!」
「そりゃそうですよ。お気に召さないのであれば、最初から契約の内側にその“やられたら困る内容”を書き込まなくてはならないわ。後からウダウダ言うのは、それこそ法の遡及になりますからね」
「 (๑꒪▿꒪)*。_。)) ウンウン 」
もはや取り付く島も一切なく、ズカズカと屋内に侵入するペコニア。
一方のリボンちゃんは中には入らず、庭をウロウロ。
普通ならば“不法侵入”となるが、“徴税官”は別だ。
監査中の徴税官には納税者への家宅捜査権が付与されており、邸宅に上がり込んで調べものをするくらいなら普通にやる。
勇者と言えど、今はただの納税者。
徴税官には逆らえない。
「さてと、何から搾り取ってあげようかな~」
「搾り取る事が前提なのかよ!?」
「そりゃあねえ、まあ、取り敢えずは……、スキル【情報開示】」
ペコニアがパチンと指を鳴らすと、呼び出してもいないデビィドの『個人証明札』が現れ、しかもペコニアの手に収まった。
「あ、俺のカード! なんで“他人”が勝手に呼び出せんだよ!?」
「徴税官の特殊スキルよ。監査中は納税者の事をもっと良く知らないといけませんので、本来ならカード名義人以外は使用できないカードも、情報の内容確認までなら権限を委譲できるの」
「ぐ……」
「隠し事はダメ。全部洗いざらい~って、あなた、この一年で随分とまあ、豪遊三昧、浪費の日々ね。って、魔王様を倒して得た賞金、ほぼ半減してんじゃない」
ペコニアからすれば失笑したくもなる程の自堕落ぶりを垣間見た気分だ。
凄まじい勢いで減る預金残高は、この一年の勇者の凋落ぶりを確認するに十分な数字であり、堪え切れずにニヤニヤと笑う。
そこに庭をウロウロしていたリボンちゃんが駆け寄って来た。
「 (●≧з≦)b モ~マンタ~イ 」
「勇者宅の敷地面積、建蔽率は事前の調査通り。登記簿を事前確認しておいたけど、特に不正はなかったみたいね。……そう、一点を除いては」
「な、なんだよ。問題があるとでも言いたいのか?」
「名義人が“リヒテン=フェヒトブーフ”になっているけど、これって確か、あなたの祖父よね?」
「そうだよ、爺さんの名前だ」
「だったらおかしいわね。この人から、“固定資産税”が払われていないわ。土地や建造物の所有者は、必ず毎年それの支払い手続きをしないといけない。でも、今期の分が支払われた形跡がないのよね」
「そりゃそうだ。爺さん、死んじまったからな」
「死んだ……。あれあれ、おかしいですね~。リヒテン=フェヒトブーフと言う人物の“死亡届”が役所に提出されてませんね」
「……え?」
「当たり前じゃないですか。生まれたら“出生届”、死んだら“死亡届”、それぞれ提出しないとダメですよ」
「 (゜∀゜ノノ”☆ パチパチパチ 」
そう言って、ペコニアは腹を抱えて笑い出す。
たっぷりほじくり返して“粗探し”をして、税金を搾り取るはずの計画が、軽く表層を掘っただけで巨大鉱床を発見したようなものだからだ。
リボンちゃんもそれに気付き、拍手喝采、大はしゃぎ。
「初歩の初歩だけど、改めて言っておくわね。国民全員に『個人証明札』が配布されるようになり、“徴税官”の仕事ってかなり減っているのよ。それこそ、銀行口座と紐づけにされたから、個々人の年収は把握しやすくなったし、そこから税率を算出して納税額を決定。直接、税務署に払いに行くも良し、自動引き落としの手続きをしておくも良し、支払い方法は自由ね」
「だったら、徴税官が出しゃばって来る必要が無いじゃねえか!」
「でも、データ上に上がっている数字と、実態が乖離している場合が往々にしてあるのよね。実際、リヒテン=フェヒトブーフ名義の家に当人はおらず、代わりに住んでいたのがデビィド=フェヒトブーフなんだし」
「身内だから、別に問題ないだろう!?」
「でも、“固定資産税”を支払うのは名義人の方。そして、名義人はそれを支払っていない。しかも、死亡しているのに死亡届を出していなければ、これは“詐欺”に該当しますね」
「なんだと!?」
「死亡した家族の年金不正受給、固定資産税の滞納、『個人証明札』の返還義務違反、ありゃ~、これは追徴課税どころか刑事罰案件に発展するかもしれませんね~」
「 Σd(≧ω≦*) イイゾ~コレ 」
「魔王様、これは余裕で“破産”させられますわ。相続税と、その追徴課税分もありますから、素寒貧で世間の寒空の下に放り出せます!」
「 カッタナ (●゜v゜d)人(b゜v゜●) アア 」
どうやら自分はとんでもない大ポカをやらかしていたと、今更ながらに気付くデビィドであったが、全ては後の祭り。
悪魔の追撃が降りかかる。
「亡くなったリシャール王が設けた『個人証明札』の制度、その管理を徹底していますからね」
「だ、だからなんだってんだ!?」
「出生届や死亡届の際に、カードの授与や返還の義務があり、しかも、身内や法的に認められた後見人が必ず立ち会うことになっています。それをやっていないのでしたら、カードの不正利用を疑われても仕方ないですね」
実際、デビィドは祖父の死亡届を出していなかった。
一通りの葬儀を執り行い、墓地へと埋葬した後、そのまま自堕落な生活に突入したのがここ一年の動きだ。
役所での手続きなど頭になく、酒に女に美食に溺れ、その手の事が完全に抜け落ちていた。
今までなら何かと助言や世話焼きをする旅仲間はもういない。
役所から届く通知や督促状も、郵便物の山に埋もれて確認さえしていない。
怠惰が招いた当然の帰結であり、ペコニアからすれば想定以上に隙を晒していた格好になった。
腹を抱えて笑いたくもなると言うものだ。
「まあ、刑罰に関しては管轄外ですから、そちらは司法機関に任せるとして、こっちはあくまで税に関する調査。通常の所得税や住民税に加えて、固定資産税に相続税、むほ~、こりゃ凄い金額になりそうですわね」
「 ヤッタ━━━ヾ(*≧∀≦*)ノ━━━!!! 」
「ああ、もちろん、支払い期限を過ぎている分に関しては、追徴課税も発生しますので、その辺もお忘れなく」
粗を見つけたらとことんまで行く。
まさに悪魔そのものだ。
もっとも、その悪魔を呼び寄せたのは、デビィド自身の“怠惰”という罪であるため、異議申し立てすらできない。
結局、罪は回り回って自分の手元に帰って来るのであった。




