第13話 徴税官特権
レベル1のクソザコ魔王にすらダメージを通せない勇者デビィド。
それほどまでに、“徴税官”の特性が強すぎた。
納税は国民の義務であり、税金を徴収する事を何人も妨げる事はできない。
まさに、納税者に対しては最強の存在、それが“徴税官”だ。
「クソッタレがぁ!」
デビィドはリボンちゃんに攻撃が通らなかった事に憤りつつも、攻撃対象を今度はペコニアに切り替えた。
魔王軍幹部と言えども、戦闘能力は弱い。
そんなペコニアであれば、全力で殴り飛ばせば余裕で吹っ飛ばせる。
しかし、放った拳打はまたしても当たらない。
再び薄い膜が生じて、勇者の一撃を防いでしまったのだ。
「ぐ……!」
「無駄無駄無駄ぁ! そんな攻撃は通用しませんよ!」
「 アハハ ヾ(≧∀≦*)ノ〃 」
「払うものを払わない限り、我らは無敵だ! と申しております」
何度殴ろうとも効果なし。
剣を握り、思い切り斬りつけても弾き返される。
本当にあらゆる攻撃に対応しているようで、何もかもが無効化された。
「お、俺は魔王を倒した勇者なんだぞ! 税金を払うなんて……!」
「残念ですが、この国の国民である事には変わりませんので、“納税の義務”は存在します。勇者であろうが、なんであろうが、ちゃんと払ってもらいますよ」
「勇者から金を搾り上げて、タダで済むと思うなよ!」
「そう、それなのですよ。今の今まで勇者宅に、税務署の役人やら他の徴税官が来なかったのは」
「 (・∀・)ニヤニヤ 」
まさに悪魔の微笑みだ。
何もかも奪い尽くしてやると言わんばかりの態度に、さすがの勇者もたじろぐ。
魔王城での激闘以上の圧がのしかかって来た。
「実のところ、税務署からあなた宛てに“納税の督促状”は出していたのですよ」
「督促状!? マジで!?」
「……まあ、この有様では確認していなのは一目瞭然ですね」
ペコニアの視線の先には、郵便物がぶっ刺さりまくって、入りきらない分が溢れ出ている郵便受があった。
数ヶ月分は溜まっていそうな量であり、自堕落な生活を続けていた勇者は、ろくに郵便物すら確認していない事が伺い知れた。
督促状もこれでは意味もない、そんな雰囲気だ。
「実際、税務署も困っていたのですよ。納税は国民の義務ですので、税を滞納する者にはきっちりと払ってもらわねばならない。しかし、救国の英雄から税の徴収を無理強いした場合、国民が反発してしまわないかと」
「 d(* >ω<)=3 ムフ~! 」
「だが、我は魔王! 悪評なんぞ着こなしてなんぼだ! と申しております」
「てめぇ……!」
「国民の反発は覚悟の上。と言うか、勇者を“合法的に”ボコボコに出来るのであれば、喜んで引き受けますよ、こんなお仕事!」
「 (´・ω・)(・ω・`) ネ~ 」
ペコニアも、リボンちゃんも、勇者を狩る気満々であった。
しかも、デビィドにはこれに抗う術がない。
“国民の義務”の文言が、とてつもなく重いのだ。
「まあ、“徴税官”という仕事に理解が足りないようですので、少しご説明しましょう。言ってしまえば、徴税官とは“徴税権を買い取った自由業”」
「徴税権を買う!?」
「例えば、年間1000万マネイの税収を見込める村があるとしましょう。その村の徴税権を900万マネイで売る」
「その差額が、“徴税官”の儲けって事か」
「そう。お上としては、税を徴収する手間を省ける上に、さっさと現金収入を得られるので、差額分を考えるとコスト安になる」
「まあ、回収するのに人手はいるし、事務処理にも時間や手間はかかるからな」
「なお、権利を買った後は、いくら徴税しようがお上の与り知らぬ事。それが腕の見せ所でもある。“納税者”があの手この手で“節税”を心がけるように、“徴税官”もまた“粗探し”をしては増額を試みますので」
「 (*゜∀゜)=3 ハフンハフン 」
「“勇者”に対する徴税権は我々が買い取ったので覚悟しろ! と申しております」
「クソ役人共ガァァァ!」
勇者としては、絶叫したくもなった。
一体、どこの世界に“勇者”への徴税権を、“魔王”に売り飛ばすバカがいるのか?
答えは、“この国の税務署・国税局”である。
天操術でどでかい稲妻でも落としてやろうかと本気で考えた。
なんて事をしてくれたんだ、と。
「でも、今話したのは一昔前の話。今はちょっと勝手が違うのよね」
「……と言うと?」
「答えは“コレ”」
ペコニアの手には『個人証明札』が握られていた。
国の有様を大きく変えた魔術具だ。
「このカードは銀行口座と紐づけされているから、これのデータを確認すれば年収はどれくらいで、家族構成から控除額はこのくらいで、実際の納税額はこの金額、って感じで簡単に計算できる」
「そう考えると便利なカードと制度だな」
「あとは紐づけされた口座から引き落とせば納税完了。役所であらかじめ自動引き落としの手続きをしておけば、確定申告ってすんなり終わるわ」
「ん? それだと、徴税官の出番ないじゃん!」
「そうなのよね。なので、今の徴税官のお仕事って、銀行口座に載らない“隠し財産”とか“現金・現物取引”の監査が主なお仕事。それの調査をしないと、正確な納税額は出てこないから」
「だからって、役人どもめ、悪魔に勇者の監査をさせるなよ!」
「いや~、でも、この件に関しては勇者デビィド、あなたが悪いのよ?」
「ぬぅ……」
「どんだけ自堕落な生活送ろうとも、せめて毎日郵便受は確認しましょうね。これじゃ督促状が来ても分かんないわよ。他にも、役所からの通知も来たりするし、期限のあるやつだって届くから」
悪魔らしからぬ的確な助言に、デビィドとしては反論できない。
前にも、雨が降ってずぶ濡れになったはみ出した郵便物を、まとめて確認せずに処分した事もあり、その中に紛れていたとて不思議ではない。
それがよりにもよって、“魔王召喚”という面倒事を引き起こそうとは考えもしなかった。
ちょっと前の自分を説教してやりたい気分だ。
「だいたい、税務署って血も涙もない、税金をむしり取る鬼畜集団だと思われているようだけど、実際はそうじゃないからね。“税金を払う者”と“税金を払いたいけどお金のない者”には割と親切だから、懇切丁寧にあれこれ指南してくれるわ」
「じゃあ、俺の場合は!?」
「んなの決まっているでしょ! “高額納税予定者”で、しかも“払う意思を示してない滞納者”だから、税務署も容赦しないって事よ」
「ぐ……!」
「とは言え、最後の障害になっていたのが、“勇者”という看板。やはり救国の英雄だし、どうにもやりにくい。『勇者様相手に何やってんだ!』と国民から非難轟々なのは避けたい」
「そこにその手の悪名を気にしない“徴税官(元・魔王)”が登場ってわけか!」
「 (*゜∀゜) ドキドキ ワクワク 」
「いくら搾り取れるか楽しみだ! 無論、貴様の破滅する惨めな姿を眼に焼き付けるからな! と申しております。まったくもって同感でございますね、魔王様!」
姿こそちんちくりんなガキではあるが、その身に宿した魂は紛れもなく魔王!
リボンちゃんの笑みが、あるいはペコニアの笑みが、デビィドに向けられる。
しかし、手は出せない。
“納税者”は“徴税官”に反撃する事はできない。
少なくとも、支払いが終わるまでは。




