第12話 納税は国民の義務です!
「さあ、勇者様、納税のお時間です」
「 (・∀・)ニヤニヤ 」
「覚悟してもらおうか! と申しております」
ペコニアも、リボンちゃんも、妙にニヤついた表情で勇者を見つめてくる。
笑顔は本来、獲物を見定めた時にする肉食獣の表情だ。
2人にとっては、まさに勇者は獲物!
復讐の時は来たと言わんばかりだ。
もちろん、勇者は返り討ちにする気満々であったが。
「納税だと!? 俺はこの世界を救った勇者だぞ!? 英雄だぞ!? それから税金をふんだくろうってか!?」
「納税は国民の義務。払うべきは払ってもらいましょうか」
「てか、俺、払った事ないんだけど!?」
「まあ、今までは払う必要はありませんでした。ですが、“かつての英雄”勇者デビィドにはなくても、“今の一般庶民”勇者デビィドにはあるそれだけです」
「щ(゜д゜щ) 114514」
「税の滞納はマズいですよ! と申しております」
あくまで、自信ありげな雰囲気を崩さない2人に、デビィドはイライラを募らせる。
いきなりの徴税、納税など知った事ではないと言わんばかりだ。
「そもそもの話として、なんでお前らに俺から税金がどうこう言える立場なんだよ!?」
「そういう立場だからですよ。ほら」
「 ( ≧з≦)っ⌒■ 」
2人が再び『個人証明札』を見せ付けてきたのだが、注目すべきは“仕事”の項目。
そこには“徴税官”と記されていた。
“職業”と“仕事”が別物の記載になっているが、これはこの国の“相当職責制度”によるものだ。
基本的にすべての国民には、7歳の段階で“職業”を選択できるようになる。
それまでの幼少期は“無職”の状態であり、ステータスの伸びも年相応だ。
しかし、“職業”を選択する事により、伸ばしたいステータスをある程度方向性を示す事ができる。
肉体労働系、知的作業系、特殊系、これらの“基本職”を選択し、将来なりたいものを目指していくのがおおよその流れだ。
その“職業”に適した“仕事”を振り分けられるという寸法だ。
物によっては、職業である程度の選別がなされ、就けない仕事というものがある。
そうした場合は“転職の神殿”へ足を運び、転職を志す。
ただし、レベル20になるまでは転職できず、転職すればレベルダウンをするため、余程の事情が無い限りは転職はしないのが常だ。
むしろ、“上級職”への昇格の方が多い。
ある程度のレベルに到達すると、上級職への転職ができるようになり、基本職に比べて就ける仕事が格段に増え、ステータスの伸びも良くなる。
基本職をコツコツやり、下手な転職を行わない者にこそ、恩恵がある制度だ。
なお、デビィドは“勇者”という特殊職であり、これは先天的に適性が認められた者にしかなる事ができない。
そして、目の前の二人、魔王とその側近の職業は基本職である“商人”。
金勘定に優れた職業であり、上級職である“政商”や一部の“大臣”になるための必須職業である。
何より目を引くのは“仕事”。
その項目は“徴税官”となっていた。
要するに、税金を徴収する事を生業とする者の事だ。
「今の私と魔王様は“商人”であり、就いた仕事は“徴税官”。つまり、税務署や国税局の依頼を受け、個人、企業を問わず、財務監査や徴税の仕事を行うの。“脱税”の疑いのある阿呆から、ちゃんと納税させるためにね」
「 ヨロティク (=゜ω゜)ノ ~☆」
「なので、まずは監査入りま~す♪ と申しております」
「ふざけんじゃねえ!」
デビィドは拳を横に振り、壁を「ドンッ!」と叩く。
手加減したとはいえ、それでもレベル50の勇者である。
思い切り壁にめり込み、穴が開いた。
「俺は魔王を倒した勇者だぞ!? なんで税金を払わにゃならんのだ!?」
「そりゃもちろん、“納税”は国民の義務だからです」
「英雄から税金ふんだくろうって判断自体、クソじゃねえか! 誰のために命懸けでモンスターと戦ってきたと思っていやがる!?」
「 (* >ω<)=3 プー 」
「魔王は復活してま~す! と申しております」
「だったらもう一回、あの世に出荷してやる!」
まさに一瞬の出来事だ。
風が吹き抜けたかのごとくシュッと踏み込み、デビィドは間合いを詰めた。
そして、拳を放つ。
剣術が一番の特技ではあるが、格闘戦の心得もある。
その一撃が、リボンちゃんに襲い掛かった。
(本来、殺傷行為は厳禁だが、相手は“魔王”なんだし、“勇者”として、本能的にやっちゃいました、とでもしておこう!)
などと、治安当局への弁明を勝手に構築し、リボンちゃんを殴り飛ばした。
どのみち、LPが一桁のクソザコ魔王である。
レベル50の勇者の拳打をもってすれば、一撃で葬るのも容易い。
幼い少女の顔面など、割れたスイカのように弾け飛ぶ。
そうなるはずだった。
だが、止められた。
否、阻まれた、そう評する方が正しい。
何か薄い膜のようなものが拳と顔面の間に展開され、威力が完全に殺された。
要するに、放った拳による一撃が、リボンちゃんには届かなかったのである。
「な……!?」
「 (/ω\*) キャッ」
「大胆な行動は勇者の特権! と申しております」
「なんで防がれた!?」
「そりゃあ、我々が“徴税官”だからですよ」
「なんだと!?」
「ご存じないようですから、改めてご説明いたしますと、“徴税官”は読んで字のごとく、税を徴収する者の事です」
「そりゃ知ってるが、なんでそれが勇者の一撃を防ぐ事ができるんだよ!?」
「決まってるでしょ。勇者であろうとなかろうと、“納税者”に対して、“徴税官”は無敵になれるからよん」
「なんだとぉ!?」
予想外の回答に狼狽するデビィド。
ペコニアは勝ち誇ったようにニヤつく。
リボンちゃんもまた同様だ。
「まあ、これも“制限魔術”の一種ですが、“効果”の範囲が狭い程、より強力な効果が発揮される魔術やスキルがあると言う事! 例えば、あなたのお仲間、聖女スオーラの使う神聖魔術の【悪霊退散】がそうですわね」
「ああ、そうだな。あれは不死系には一撃必殺の威力はあるが、それ以外の奴には全然効果が無い」
「そうそう。そして、“徴税官”は“納税者”に対してのみ無敵になれる。財務監査中に妨害される事を防ぐため、納税者からの物理的妨害の一切を無効化できるのよ~」
「なんだと!?」
「なので、財務監査や行政代執行、それらの行為に及んでいる最中につきましては、“徴税官”は“納税者”によるあらゆる妨害を防ぐ事ができる。それこそ、勇者の一撃も届かず、【滅びの炎】を連発しようが効果はなし!」
「 ( ゜∀゜ )ハァーハッハッ!! 」
「さあ勇者よ、納税のお時間だ! と申しております」
払うべきを払え、それが“徴税官”となったペコニアとリボンちゃんの答えだ。
納税は国民の義務!
それが勇者であろうとも例外なしと、デビィドに重くのしかかるのであった。




