第11話 法の保護
「ほ~う。この俺様と、勇者とサシでやり合おうってか!?」
ペコニアの余裕の態度が妙に鼻に付いたデビィドは、これ見よがしに鞘に納めたまま剣を見せ付けて威圧する。
もし、本気で戦う事になれば、勝つ自信は余裕であった。
そもそも、ペコニアは魔王軍幹部の中では最弱の戦闘力しか持ち合わせていない。
物理、魔術、どちらの攻撃力も大した事はないのだ。
ただ、回復系、補助系の術式は“極めている”と言っても過言でない程に熟達しており、サポート役としてはとんでもなく優秀であった。
単独では大した事はないが、誰か他の幹部級の随伴で現れると途端に化ける。
強化と回復を連発してくるので、長期戦は必至だ。
しかし、今はその心配はない。
なにしろ、ペコニアが随伴しているのは、転生に失敗した魔王リボンちゃんのみ。
“100”を倍にする事は出来ても、“1”を倍にしたところでザコはザコ。
それゆえに、デビィドは仲間がいないこの状況でも余裕なのだ。
しかし、余裕なのはペコニアも同様だ。
こちらは武器ではなくカードをチラつかせる。
「勇者様~、お忘れかしら~? 私も、魔王様も、今はこの国の住民だと言う事を。『個人証明札』がその証。つまり、“理由なき殺傷行為”は明確に犯罪だと言う事! それを忘れてもらっては困るわね」
「む……」
ペコニアの言は正論であり、デビィドも剣を引っ込めた。
当たり前の話であるが、この国には“殺人罪”や“傷害罪”が存在する。
下手な攻撃行動はそれに該当するため、手出しはできない。
魔族と言えども、国王に降伏を申し出たと言う事は、国民になる事を国王自らが認めたと言う事になるため、王国法の保護下にあるのは確定。
地方の気の抜けた役場の窓口が、間違えて手続きをしたとかそんな話ではない。
(おまけに、リボンちゃんは“未成年”だ。下手に手を出したら、“未成年者略取”にまで問われそうだもんな。ここは自重しよう)
デビィドは警戒感こそ維持したが、戦う気は完全に消し去った。
なにより、“法の保護下”と言う事は、“法の縛り”を受けている事にもなる。
守り守られてが法律というものだ。
(それに、ジャン陛下がわざわざ認めたと言う事は、おそらく“契約”をしたのだろう。魔族との取引だとありがちな話だ)
魔族は残忍、残酷であり、人間種を下等な存在と見下している者が大半だ。
しかし、“契約”に関しては極めて誠実であり、人間相手であろうとも、結んだ契約には必ず従う。
(まあ、何かしらの事情で契約を結び、その契約の“穴”を突いて後でとんでもない事態が発生するってのもお約束だけどな)
だからこそ、魔族との契約は慎重にならなくてはならず、契約内容の徹底した確認と契約者たる魔族の思考の先読みは必須だ。
もっとも、デビィドからすれば、魔族と契約を交わす方がどうかしているイカレとしか思っていなかったが。
「ペコニア、お前とリボンちゃん様が降伏するに際して、ジャン陛下と何かしらの“契約”を結んだんだろうが、内容はどんなだ?」
「さすがに察しが良いわね。はい、これが契約の内容よ」
そう言うと、ペコニアは『個人証明札』の表示を切り替えた。
数々の“個人情報”を集積させる事ができるため、公的機関との契約も載せておく事が可能だ。
今回の場合は、国王、魔王、魔王の側近による三者契約。
そして、デビィドが見た契約の内容は以下の通りだ。
***
・魔王リボー(リボンちゃん)並びに“金欲”のペコニアは、当国の国民となる。
・上記の両名は、王国法に忠実である事。
・上記の両名は、王国に対する敵対行動を一切行わない事。
・上記の両名は、魔王軍残党に対しての鎮定の義務を負う事。
・上記の両名は、特殊職を含めて“勇者並びに王族以外”の職業になれる。
・契約はジャン、リボー、ペコニアの三者“全員の死亡”まで継続される。
***
これがペコニアによって提示された契約の内容だ。
その横にいたリボンちゃんもカードを提示し、同様の内容の備考欄を見せてきた。
(なるほど、これが“契約”の内容か。随分とまあ、真っ当な内容ではあるし、この二人もよく受けたもんだ)
法に従え、残党軍をどうにかしろ、“国民”として真っ当に働け、という話であるとデビィドは納得した。
現在、魔王リボーは倒された事になっているため、以前ほど活発にモンスターの活動はないが、それでも本能として人間を襲うモンスターはまだ存在する。
それをどうにかするなら、転生に失敗した魔王とその側近は見逃してやろう、と言うジャンの考えが透けて見えてきた。
要するに、“復興第一”を掲げて、それを阻害してきそうな要素を排除するのを優先したと言う話であった。
「随分とまあ、当たり障りのない内容だな」
「 ヽ(●・ω・●)ノ テヘッ♪」
「平和、平穏が一番! と申しております」
「魔王らしからぬ発言だな、おい。……まあ、弱っちい魔王なんぞ、それしか選択肢ないか」
「と、言うわけで、“真っ当な職業”に就いて、魔王様の養育費を稼ぎます!」
「これまた、魔族の幹部に似つかわしくない台詞」
「だからこそ、ここに稼ぎにきたのではないですか」
そう言って、デビィドの姿はもちろん、その邸宅をジロジロ見回す。
何だと思いつつも、デビィドはペコニアの肢体を見回す。
「クククッ、稼ぐっていったらあれか、売春でもすんのか? まあ、それならそれで構わんが。養育費稼ぎに母役が男に股を開く。悪くないシチュエーションだ。」
それはそれで欲情すると、ニヤつくデビィド。
実際、ペコニアの容姿はなかなかのものだ。
短く切り揃えられた黒髪に、度の強そうな眼鏡、いかにもと言った感じのインテリ系女子と言った感じだ。
身長も高く、スラっとしなやかな雰囲気があり、それでいて胸のサイズもかなりありそうだ。
頭に生えている“角”さえ気にしなければ、間違いなく美女と呼べる。
養育対象の前でアンアン犯してやるのも一興かと、邪な感情がデビィドに芽生えるが、ペコニアは呆れたと言わんばかりにため息を吐く。
「そんなわけないでしょ。ほら、私の職業欄」
「ん~、あ、“商人”だと?」
「そう。今の私の職業は“商人”よ。魔王様もね」
「 ( ≧з≦)っ⌒■ 」
二人のカードの“職業”の欄には、たしかに“商人”と記載されていた。
金銭を扱う事に長けた基本職であり、商売人や銀行員を志すのであれば、まずこれを習得するのが王道と呼べる。
「って事は、何かを売買しに来たのか? それこそ、商品はその“スケベボディ”でもいいんだぜ?」
「そっちは“遊び人”の範疇でしょうが」
「遊び尽くせば、その先には“賢者”タイムがお待ちかねだぜ?」
「いらないわよ。“素”で賢者みたいなもんだから」
実際、ペコニアは参謀として魔王軍にいたのである。
“賢き者”としては、まず優秀と言っても良い。
「じゃあ、何の商売しようってんだ?」
「もちろん、勇者から搾り取るために決まってるでしょ」
「 (ノ∀≦。)ノぷぷ-ッ 」
そして、ニヤリと笑うペコニアとリボンちゃん。
二人揃って、ビシッとデビィドを指さした。
「さあ、勇者デビィドよ、“納税”のお時間ですよ!」




