第10話 転生失敗
「マジかよ……。あんだけ苦労したのに、魔王復活って」
デビィドにすれば、それは悪夢であり、そして、徒労に終わってしまったのかと言う絶望感が重くのしかかる。
冒険の旅に出かけたのが15歳のときで、それからメキメキと頭角を現し、僅か1年で“Aランク冒険者”となった。
それから数々の高難度クエストをこなし、研鑽も怠らず、19歳で最高ランクである“Sランク冒険”にまで上り詰めた。
そして、その2年後にいよいよ魔王を倒す術を見つけ出し、見事に討伐に成功したのが、デビィドのパーティーのおおよその歩みだ。
それを真っ向から否定してきたのが、“魔王復活”という許しがたい現実。
だが、打ちひしがれるほど、勇者の肩書を持つ男はヤワではない。
即座に見抜いたのだ。
「おい、魔王! お前、転生に失敗しただろ!?」
勇者は笑いに堪えるのに必死だ。
なにしろ、目の前にいる魔王“リボンちゃん”からは、本当に微弱な、吹けば飛ぶような魔力しか感じないからだ。
軽く腕を振り回しただけで大山鳴動する圧倒的な実力も、目の前のちんちくりんな少女からは感じない。
そもそも、“角”や“尻尾”が見当たらないので、魔族ですらないのかもしれない。
そう思えるほどに弱いのだ。
「 ∑((((((゜д゜;ノ)ノ ギクッ!!」
「何でバレた!? と申しております」
「ちゃんと喋れよ、“リボンちゃん”」
「 o(*≧д≦)o ンモ~!!」
「様を付けろよ、デコ助が! と申しております」
「はいはい、リボンちゃん様」
「 d(*゜∀゜)=3 ムハ~!!」
「余は満足じゃ! と申しております」
「なんか一気にどうでも良くなってきたわ……」
ガキ相手は疲れる。
例え中身が魔王であろうとも、疲れるものは疲れる。
この状況、どうしたものかと本気で頭を抱えた。
「んで、ペコニア、お前がジャン陛下に降伏した理由って……」
「お察しの通り。魔王様の転生が失敗したのが原因。これではどうにもならないわ」
「あ、やっぱり」
「本来なら、魔族の体に転生するはずだったんだけど、どうにも転生の術式に不具合が生じて、誤って“人間”に転生してしまったみたいなの」
「うわ、だっさ……!」
「 。・゜・(*ノД`*)・゜・。 」
「誰のせいだと思っているんだよ! と申しております」
「知らねえよ、バカ! 術に失敗したのは、お前自身だろうが!」
情けなくも、転生に失敗した事について文句を言いに来たのか、それとも物乞いかと思えるほどに、今の魔王は情けない程に弱々しい。
気配は魔王のそれを感じさせるが、威厳、威圧感、全くと言って程になし。
見た目相応の態度であり、せいぜい“気の強めな貴族のお嬢様レベル”だ。
これなら片付けるまでもないかと、構えを解き、剣を鞘に納める。
もちろん、完全に警戒心を捨てたわけではないので、柄に手を置いたままだが。
「ああ、でも、ちょいと待った。人間になって、この国の住民になったんなら、リボンちゃん様もカード持っているんだろ!? 見せろよ」
「 ( ≧з≦)っ⌒■ 」
「どれどれ……」
提示されたリボンちゃんの『個人証明札』を見て、デビィドは思わず吹き出してしまった。
あまりにも情けなさ過ぎて、“魔王”と冠するには脆弱そのものであったためだ。
「おいおい、LPもMPも1桁て、マジでガキンチョのステータスじゃねえか! かわいいでちゅね~、リボンちゃん様は!」
「 ヾ(≧皿≦メ)ノシ ムキ~!!」
「とは言え、習得済みのアビリティやらスキル、魔術に関してはレベルに不釣り合いなもんばっかりだな。クハハ、よもや天下の魔王様が“パピーサタン”状態とはな!」
デビィドの言う“パピーサタン”とは、たまに出てくる小悪魔系モンスターの事だ。
【滅びの炎】や【天変地異】、【冥府開門】など、超高レベル魔術の数々を習得している。
それだけ聞くと厄介なモンスターかと思われるが、そうではない。
それらを使うための“MP”を持ち併せておらず、強力な魔術を使うたびに「MPが足りないでごわす!」と泣き叫びながら逃げ出すザコモンスターだ。
所詮ガキの悪戯レベルなのだが、冒険者側からすれば逃がすわけにはいかない討伐対象であったりする。
まず、ドロップアイテムが優秀。
通常ドロップの『叡智の果実』は最大MPを上昇させる有用アイテムで、たまに落とすレアドロップも『不可解な帽子』という、消費MPを半分にしてくれるこれまた垂涎もののアイテム。
そのドロップアイテムを狙って、わざわざパピーサタンと遭遇しやすい場所を狩場とする冒険者パーティーもいるくらいだ。
なにより危ういのは“8回逃亡”に成功した個体は、強力な最上位モンスター“ノーブルデーモン”に進化を遂げ、使用不能であった強力な魔術が使えるようになる。
それを阻止する意味でも、発見次第に狩るのが冒険者の中では暗黙の了解になっているほどだ。
そんな状態に近いのが、今目の前にいる魔王リボンちゃん。
転生と言う事で、魔王の持つスキルや魔術の大半を継承していながら、それを使うためのリソースが無いというわけだ。
デビィドが腹を抱えて笑っているのも、その情けなさゆえにである。
「 ヾ(≧皿≦メ)ノシ ムキ~!!」
「大人の体になったら覚えてろよ! と申しております」
「なったらなったで、リボンちゃん様は俺の情婦な。体中のありとあらゆる穴にぶち込んで、生まれたての小鹿のごとく、足をガクガク言わせてやるぜ」
「 (´・ω・`)・ω・`) キャー
/ つ⊂ \ コワーイ」
「ペコニア、お前もな! なんなら、今から相手してもらおうか! 結構、良い体してるもんなお前は!」
「朝っぱらからお盛んな事で……。まあ、そうでなくては面白くないわね」
「何の話だ?」
「腑抜けた勇者を倒したところで、何の自慢話にもならないと言う事よ」
堂々たる宣戦布告とも取れる宣言。
ペコニアには勝算があると言うのかと、デビィドは再び警戒心を高める。
(転生に失敗して大幅に弱体化した魔王を連れて、勇者宅に訪問すると言う事は、何かしらの勝算があっての話だろう)
武力は弱くとも、頭はキレる。
だからこその魔王軍参謀の肩書を持つ“金欲”のペコニア。
やはりさっさと片付けるべきかと、デビィドは剣を強く握り直した。




