第100話 新しい勇者(悪魔付き)
「……とまあ、これが“70年前”のお話。ルイお坊ちゃんのひいお爺様である当時まだ“王国”であった時の王様ジャン陛下が、いかに偉大であったかお分かりいただけましたか?」
「うん! 何度も聞いてもすごいよね、僕のひい爺ちゃん!」
「“善良王”ジャン陛下は国の有様そのものを破壊し、同時に新しい国を築かれました。さあ、今度はルイお坊ちゃんが伝説を築く番ですよ」
「まあ、見ておけって! 僕はひい爺ちゃんみたいな国を動かすなんてことはできないけど、“勇者”として、この国を支えて見せるんだ!」
「そう、あの伝説の勇者デビィドのように、ですね」
「デビィドさん、去年亡くなったんだよね。もっと色々と教えて欲しかったのに」
「90歳を超えてもピンピンしてましたからね。相方のティエラが亡くなってから、一気に老け込んでしまって、後を追うように亡くなりましたが」
「うん。ティエラさんもいい人だったのにな~。そのひ孫は最悪だけど」
ゴチンッ!
「痛いな! って、ティルテュかよ!」
「あ~、もう、最悪最悪! な~んで、こんなのと旅しないといけないのかな~」
「うるせぇよ! つ~か、いきなり背後から杖で殴りつけるとか、お前みたいに頭が悪くなったらどうすんだよ!」
「治してあげてんだから、感謝しなさいよ。ショック療法よ、ショック療法!」
「ティルテュ、お前さあ、本当にあの伝説の勇者と大怪盗のひ孫かって疑いたくなるよ、そういう態度!」
「あんたこそ、“善良王”のひ孫なのか疑わしいわよ。知性も品性も感じないもの!」
「生憎と、え~っと、王政から共和制とか言うのに変わったんだっけ? だから僕は王族でもなんでもないし、これからは剣一本、実力で正義と社会のために行こうって決めたんだ!」
「ボンボンが、粋がっちゃって~」
「そういうティルテュだって、とんでもない豪邸に住んでるんじゃないか!」
「いや~、あれはひい爺ちゃんとひい婆ちゃんが稼ぎまくって、建てた屋敷だからね。別名、“勇者御殿”なんて呼ばれてるし」
「あれ? “外道の魔窟”じゃなかったっけ?」
「そりゃ、あの二人にボコボコにされた“元”貴族が、これみよがしに悪評立てたせいよ! ウザイったらありゃしない!」
「まあそうだよな! デビィドさんは偉人の中の偉人だもんな!」
「そうそう。やられた悪党が泣き言を喚いているだけよ!」
「伝説の勇者デビィド! どんな難敵をも一撃で倒し、品行方正にして清廉潔白な完全無欠の大英雄!」
「そう! あたしも憧れるわ~」
「でも、憧れてるだけじゃ超えらんない! 僕はやってみせるぜ!」
「無理無理! あんたじゃ絶対無理!」
「 (o¯◡¯o) ムダナドリョクオツ~ 」
「どぅあ!? ティルテュだけじゃなくて、リボンまで!」
「 凸( ‾▿‾ ) チャンヅケデヨベ、クソボンボン」
「どいつもこいつも、僕をバカにしやがって! 何度だって言うけどさぁ、こう見えて“勇者”なんだぞ!」
「12歳児が粋がるのは良くないわよ~」
「ティルテュだって、まだ11歳だろうが!」
「永遠の6歳児リボンちゃんよりは年上よ」
「レベルだって僕の方が」
「ざんね~ん! 今のあたし、レベル13だよ~。ほれ、『自己証明札』」
「な、なにぃ!? いつの間に抜かしやがった!? “仮面の大男”先生に毎日鍛えられた僕が、ティルテュに後れを取っただと!?」
「ティエラひい婆ちゃんの実家にね、めちゃくちゃパワーレベリングに適した場所があるのよ。修行の〆だって言って、母さんに連れてってもらったんだ」
「な、なんだってぇ!? ズルいぞ! パワーレベリングなんて邪道だ! しかも親同伴とか!」
「邪道も何も、伝説の聖女にして“慈愛の王妃”と呼び声高いスオーラ様も手掛けてたのよ?」
「う……。と、とにかく反則だ! 絶対に認めない!」
「負け惜しみね~。文字通り、ケツに火をつけてやろうか?」
「はいはい、喧嘩はそこまでよ!」
「む~、この生意気女をどうにかしてくれよ、ペコニア」
「それじゃ勇者は務まらないわよ。伝説の勇者デビィドは曲者揃いの仲間をまとめ上げ、国民の希望の星になったのよ。女の子一人を御せないようじゃあ、勇者は務まらないわよ」
「頑張ります……」
「 ヘソデチャガワク (*´・ω・)(・ω・`*) ネー 」
「うるさいぞ! ティルテュ! リボン!」
「 凸( ‾▿‾ ) チャンヅケデヨベツットロウガ」
「ああ、もう!」
「はいはい。三人とも、先に冒険者組合に行ってなさい。今日は記念すべき勇者ルイの初陣ですからね。新世代の『勇者行為』を見せ付けるんですよ」
「了解! ペコニア、先に行ってるよ!」
「ふ~、やれやれ。子守も大変だわ。いつになったらおしめが取れるやら」
「…………」
「あら、お久しぶり、“仮面男《ジョン=ドゥ》”」
「…………」
「ほんと、この70年、あなた、一度も仮面を外さなかったわね」
「…………」
「でもまあ、次の世代に繋げたんだから良かったじゃない」
「…………」
「寂しくなったことは否めないわね。あなたを除いて、みんな亡くなったもの。デビィドも、ティエラも、スオーラも、そして、ジャン陛下もね」
「…………」
「なんでまだここにいるかですって? そりゃあ陛下にひ孫をよろしくって頼まれたからよ。実際、“勇者適正”を持っていたんだし、『勇者に従え』の契約がなお生きている以上、従者として侍るだけ」
「…………」
「そうそう、デビィドやティエラにも、最後は任されたもんね~、ひ孫の事。どいつもこいつも、悪魔に後事を託すなんて、正気の沙汰じゃあないわね」
「…………」
「自分からも頼むって? 愚問ね。悪魔にとっては契約は絶対。頼まれて、引き受けたからには見届けましょう、次の世代の勇者がどうなるのかをね」
「…………」
「あ~、懐かしいわ~。デビィドが現役引退して以降、強制捜査なかったからね~。久々に言えるわ、いつもの決め台詞! まあ、ほんの数年空いた程度だけど」
「…………」
「ええ、あなたも達者でね。と言っても、そろそろ100歳でしょ? 先に行っている仲間達を追いかけていきそうだけど」
「…………」
「まあ、そうなったらそうなったで、墓石にはちゃんと失った“本当の名前”で刻んであげるから安心して。もちろん、スオーラの横に眠れるように手配するし、そこは任せておいていいから!」
「………。感謝する、寛大なる悪魔よ」
「感謝はいらないわ。自分を殺し続け、民と、子供達の為だけに走り続けたスオーラの、たった一つのお願いを叶えてあげるだけよ。ほんと、寛大な悪魔よね、私」
「………」
「さって、ほいじゃまあ、問題児達の引率、頑張りますか!」
「………」
「そうそう、それ! 『勇者行為』の決め台詞! さあ、久々に絶叫するわよ! 滞納者の悲鳴を聞きながら!」
***
そして、今日も『国民の義務』という名の悪魔が、姿変わることなく国民の元へ訪れる。
義務を果たした者には笑顔を向けて。
義務を果たさぬ者には鎌首もたげて。
脱税、滞納、ダメ絶対!
勇者は悪魔を従え、世代が変わろうとも、今日もまた駆けていく。
『納税は国民の義務です!』の掛け声と共に。
~ 完 ~




