第84話 日向アキラは正しい
白峰リアは、配信開始ボタンを押せなかった。
指は、画面の上に置いている。
あと数ミリ動かせば、いつものように配信が始まる。
タイトルも決めてあった。
【昨夜の件について、私から話せること】
短い。
煽っていない。
泣き顔も使っていない。
怒っているようなサムネイルも作っていない。
それでも、待機画面には人が集まり始めていた。
『リアちゃん大丈夫?』
『浪華色街って本当?』
『黒瀬くんいたって噂ある』
『色相って何?』
『七曜会が動いたってマジ?』
『管理局は何してるの?』
『また隠蔽?』
『相原くんって子、助かったの?』
『リアちゃんの言葉で聞きたい』
最後の一文で、リアの指が止まった。
リアちゃんの言葉で聞きたい。
その言葉は、本来なら嬉しい。
自分の言葉を待ってくれる人がいる。
公式発表ではなく、自分の声を信じたいと言ってくれる人がいる。
配信者として、それはとても大きなことだ。
でも今は、嬉しさよりも怖さが先に来た。
自分が話せば、人が動く。
心配する人が増える。
怒る人が増える。
誰かを責める人が増える。
誰かを守ろうとする人も増える。
その熱が、どこへ流れるのか分からない。
昨日、透真たちは浪華色街でそれを見た。
観客の熱が、賭けに変わる。
賭けが、契約に変わる。
契約が、人を縛る。
人の心配も、怒りも、正義も、誰かに利用される。
それが分かってしまった。
いや、リア自身が直接見たわけではない。
透真から断片的に聞いた。
ミナトから警告だけが来た。
佐伯ユズルからは、しばらく発信を控えてほしいという連絡が来た。
だが、それだけで十分だった。
浪華色街は、観客を燃料にした。
では、配信はどうなのか。
リアの視聴者は、燃料ではない。
そう思いたい。
でも、自分が怒りのままに話せば、その人たちを燃やしてしまうのではないか。
リアは唇を噛んだ。
端末には、佐伯ユズルからのメッセージが残っている。
『現時点で未確認情報が多い。配信で扱うなら、事実確認が済んでからにしてほしい。強制ではない。ただ、黒瀬くんと相原くんの安全に関わる』
強制ではない。
ユズルは、そう書いた。
管理局の人間なのに、命令ではなくお願いとして送ってきた。
それが逆に、リアには重かった。
次に、別の通知が届く。
差出人は不明。
だが、正式な暗号署名がついている。
【七曜会・日向アキラより面談要請】
場所は、管理局施設ではない。
都内の古い迎賓施設。
名目は、色相拡散リスクに関する確認。
文章は丁寧だった。
けれど、佐伯のメッセージとは違う。
強制ではありません、とは書いていない。
来なければ、次の手を打つ。
そう読める文章だった。
リアは画面を見つめた。
「……管理局じゃないんだ」
それがまず引っかかった。
七曜会は、管理局と同じ側だと思っていた。
少なくとも、世間的には国家の危機対応部隊のように語られている。
管理局が正式に動けない時、裏で処理する最強チーム。
そういう噂は聞いたことがある。
でも、ユズルのメッセージにはこうも書かれていた。
『七曜会から接触がある可能性がある。彼らは管理局の指揮下にはない。応じる場合も、何を聞かれ、何を求められたか記録しておいてほしい』
管理局の指揮下にはない。
その一文が、ずっと頭に残っている。
七曜会は、味方なのか。
敵なのか。
あるいは、そのどちらでもないのか。
リアは、配信画面を閉じた。
代わりに、待機してくれていた視聴者へ短い投稿を打つ。
『ごめん、今日は配信しません。確認が取れていないことを、私の言葉で広げたくないので』
送信。
すぐに反応がつく。
『分かった』
『無事ならよかった』
『話せる時でいいよ』
『逆に怖いけど待つ』
『リアちゃんがそう判断したなら信じる』
『管理局に止められた?』
『七曜会?』
『何が起きてるの』
リアは画面を伏せた。
答えられない。
でも、黙っているだけでも何かが動いている。
そのことが、怖かった。
◇
面談場所は、管理局の建物ではなかった。
都心の静かな区画にある、古い洋館のような施設。
表向きは文化財の保存施設になっているらしい。
門の前には警備員がいる。
ただし、管理局の制服ではない。
胸元に小さな七曜の印。
太陽、月、火、水、木、金、黒い点。
リアはその印を見て、息を呑んだ。
ここは、管理局の場所ではない。
七曜会の場所だ。
中へ通される。
廊下は静かだった。
静かすぎる。
ふつう、こういう施設には職員の気配がある。
書類の音、足音、会話、端末の通知音。
ここにはそれがほとんどない。
すべてが整いすぎている。
会議室へ入ると、日向アキラが待っていた。
白い上着。
整った顔立ち。
真っ直ぐな姿勢。
初めて会うのに、この人が中心だと分かる。
年齢は、リアとそれほど離れていないように見えた。
けれど、部屋の空気は日向を基準に並んでいた。
「白峰リアさん」
日向は立ち上がった。
「来ていただき、ありがとうございます」
「断れたんですか?」
リアは、座る前に聞いた。
日向は一瞬だけ沈黙した。
それから答える。
「形式上は」
「じゃあ、実質は?」
「来ていただく必要がありました」
リアは小さく笑った。
「正直ですね」
「嘘をつく理由がありません」
「その言い方、ちょっと怖いです」
「よく言われます」
日向は、リアに席を勧めた。
リアは座る。
机の上には、水のペットボトルと、薄い資料。
録音機器は見当たらない。
しかし、記録されていないはずがない。
ここはそういう場所だ。
リアはスマホを机の上に置いた。
録音アプリを起動している。
日向はそれを見ても止めなかった。
「記録しても?」
「構いません」
「七曜会的には、嫌がるかと思いました」
「嫌がる理由はあります。ですが、止めればあなたの不信を強めるだけです」
「やっぱり怖いです」
日向は少しだけ目を伏せた。
「本題に入ります」
「はい」
「昨夜、浪華色街で色相能力を利用した違法興行が行われました。未成熟な翠、透明鑑定士、紅翠の契約選手、黒の情報屋、蒼透の能力者、制御不能な翠黒。複数の色相が一箇所で交戦状態に入りました」
リアは拳を握る。
透真。
相原。
ミナト。
知らない名前もある。
でも、日向の言い方では全員が人ではなく、色の分類に聞こえた。
「白峰さん。あなたは紅白の色相を持つ可能性が高い」
「可能性、なんですね」
「現時点では、正式な測定を行っていません」
「測定される予定ですか?」
「必要なら」
また、その言葉。
必要なら。
リアは顔をしかめた。
「私、物みたいですね」
「そう扱うつもりはありません」
「でも、言い方がそうです」
日向は否定しなかった。
「配慮します」
「配慮じゃなくて、考え方の問題だと思います」
「その指摘は受け取ります」
リアは、少しだけ調子を狂わされた。
日向は反論してこない。
怒らない。
馬鹿にもしない。
ただ、受け取る。
そして、自分の判断は変えない。
「あなたには、当面の発信自粛を求めます」
日向は言った。
リアは背筋を伸ばす。
「管理局からも、似たようなことは言われました」
「管理局は、お願いとして言ったはずです」
「はい」
「七曜会は、要請として言います」
「命令ですか?」
「命令権はありません」
「でも、従わなかったら?」
「あなたの配信が大規模な混乱を招くと判断した場合、七曜会は独自に遮断措置を取ります」
会議室の空気が一段冷えた。
リアは日向を見る。
「遮断措置って何ですか」
「配信プラットフォームへの緊急停止要求。通信経路の一時制限。必要に応じて、発信者の保護名目での隔離」
「隔離」
「はい」
「それ、管理局の許可がいるんですか」
「いりません」
即答だった。
リアは、喉の奥が乾くのを感じた。
管理局とは違う。
ユズルは、強制ではないと言った。
七曜会は、必要なら止めると言う。
同じ発信自粛でも、重さが違う。
「管理局は、それを認めてるんですか」
「認めていません」
また即答。
「では、違法なんじゃないですか」
「灰色です」
「それ、自分で言うんですね」
「言わなくても事実は変わりません」
日向は、まっすぐリアを見た。
「管理局は手続きが遅い。過去にも隠蔽と先送りを繰り返してきました。黒瀬澪関連記録、アルカディア・ゲート、S級ダンジョン、色相仮説。必要な時に、必要な情報を必要な相手へ出せなかった」
「でも、佐伯さんは」
「佐伯ユズル個人の判断力は評価しています」
リアは少しだけ目を見開く。
「評価してるんですか」
「はい」
「敵じゃないんですか」
「敵対する局面はあります」
日向は言った。
「佐伯ユズルは、管理局の中では例外的に動ける人間です。ですが、彼は管理局の手続きから完全には自由になれない。管理局を通せば、情報は遅れ、削られ、誰かの机で止まる」
「だから、七曜会が勝手に動く?」
「はい」
「それで、間違えたら?」
「責任を取ります」
「どうやって?」
日向はすぐには答えなかった。
リアは、そこを逃さなかった。
「責任を取るって、便利な言葉ですよね。止められた人の配信は戻らない。連れていかれた人の怖さも戻らない。間違って隔離された時間も戻らない。それでも、責任を取るって言えば進めるんですか」
日向は静かに聞いていた。
その目に怒りはない。
だからこそ、リアは余計に言いたくなった。
「あなた、正しいんだと思います」
リアは言った。
「浪華色街の件を今配信したら、たぶん燃えます。透真くんの名前も、相原くんの名前も広がる。七曜会を責める人も、管理局を責める人も、色相持ちを怖がる人も出る。私だって、それくらい分かります」
「なら」
「でも、だからって、七曜会が勝手に止めていいことにはならないと思います」
リアは、机の上のスマホに触れた。
「私の視聴者は、あなたたちのリスク要素じゃないです」
日向の表情が、わずかに動いた。
「白峰さん」
「はい」
「あなたの視聴者が、あなたの意図通りに動くとは限りません」
「分かっています」
「あなたが怒らなくても、彼らは怒るかもしれない。あなたが止めても、別の誰かが切り抜き、拡散し、敵を作るかもしれない。あなたが守りたいものを、あなたの言葉が危険に晒すこともあります」
「それも分かっています」
「なら、なぜ」
「だから、私は配信しないって決めました」
リアは言った。
「あなたに止められたからじゃないです。佐伯さんにお願いされたからでもない。私が、今は見せない方がいいと思ったからです」
日向は黙った。
「そこを奪わないでください」
リアの声が、少し震えた。
「配信するかしないかは、私にとって大事なんです。見せることも、見せないことも、私の選択なんです。危険だからって、そこを最初から取り上げないでください」
会議室に沈黙が落ちた。
日向はリアを見ている。
白。
リアには見えない。
けれど、日向の周囲にある圧は分かる。
この人は、嘘をついていない。
危険を広げたくない。
誰かを守りたい。
管理局の遅さを信用していない。
必要なら、自分たちが汚れてでも止める。
その全部が、本心なのだろう。
だから、怖い。
嘘がない正しさは、逃げ場をなくす。
日向が口を開こうとした時、会議室の扉が開いた。
警備員が一歩入る。
顔がこわばっている。
「日向さん」
「どうした」
「管理局の佐伯ユズルが来ています」
リアは顔を上げた。
日向の表情は変わらない。
「通したのか」
「門前で止めています。ただ、正式な管理局権限を提示しています」
「ここは管理局施設ではない」
「はい。しかし、白峰リアさんへの任意聴取が、七曜会による事実上の圧力である可能性があると」
リアは思わずスマホを握った。
佐伯ユズル。
来た。
日向は静かに立ち上がる。
「通せ」
数分後、佐伯ユズルが会議室に入ってきた。
スーツ姿。
表情はいつもより硬い。
疲れているようにも見えた。
だが、目はまっすぐだった。
「白峰さん」
「佐伯さん」
「無事ですか」
「はい。今のところ」
「よかった」
ユズルは短くそう言ってから、日向へ向き直った。
「日向アキラ。管理局を通さずに、民間探索者へ発信自粛を要請したと聞いています」
「要請した」
「七曜会には、その権限はありません」
「混乱を止める必要がある」
「必要性は、権限を生みません」
リアは、息を呑んだ。
ユズルの声は静かだ。
でも、日向と正面からぶつかっている。
管理局と七曜会。
同じ国家側のように見えていた二つが、全然違う場所から話している。
日向は言った。
「管理局には遅れがある」
「あります」
ユズルは認めた。
「隠蔽体質もある」
「否定しません」
「アルカディア・ゲートの件でも、黒瀬澪の記録でも、あなた方は必要な時に必要な情報を出せなかった」
「その責任はあります」
「なら、七曜会が先に止める」
「それは違う」
ユズルの声が少しだけ強くなった。
「管理局が間違えたからといって、七曜会が手続きを飛ばしていい理由にはなりません」
「手続きを守って被害が広がれば、それは誰が責任を取る」
「手続きを壊して人を縛れば、それは誰が止める」
二人の視線がぶつかる。
リアは、息苦しさを感じた。
日向の白。
ユズルの何か。
色は見えない。
だが、違う力がぶつかっているのは分かる。
日向は正しい。
佐伯ユズルも、正しい。
だから、怖い。
「白峰リアは紅白の影響力を持つ」
日向は言った。
「今、彼女が配信すれば、浪華色街、ロロ、透明、翠、七曜会、管理局。すべてが世論の燃料になる」
「分かっています」
「なら止めるべきだ」
「止め方の問題です」
ユズルはリアを見た。
「白峰さんには、発信を控えてほしいと伝えました。理由も伝えた。けれど、最終判断は本人に残すべきです」
「その判断が誤った場合は?」
「判断を誤る可能性があるからといって、最初から奪ってはいけない」
リアの胸に、その言葉が落ちた。
最初から奪ってはいけない。
まさに、さっき自分が言いたかったことだった。
日向はユズルを見る。
「あなたは甘い」
「あなたは速すぎる」
「遅ければ死ぬ」
「速すぎても壊れる」
空気が張る。
七曜会の警備員が、廊下に増えている気配がする。
ユズルは一人で来ている。
それでも、引いていない。
日向も、引かない。
リアは、ふと理解した。
これは単なる口論ではない。
管理局と七曜会の戦いだ。
隠蔽と手続きの遅さを抱えた管理局。
正しさと即応の名で手続きを飛ばす七曜会。
どちらも危険で、どちらも必要で、どちらも相手を信用していない。
ユズルは言った。
「白峰さんをこの場から管理局管轄の面談へ移します」
日向は即答する。
「認めない」
「七曜会に拘束権はありません」
「拘束はしていない」
「実質的な圧力下に置いている」
「管理局も同じことをする」
「違います」
「何が違う」
ユズルは、ほんの少しだけ間を置いた。
「管理局には、異議申し立ての手続きがあります。遅く、歪んでいて、時に機能しない。それでも、外から突ける形がある。七曜会にはそれがない」
日向の目が細くなる。
「だから、あなた方は遅い」
「だから、あなた方は危うい」
会議室の空気が、さらに重くなる。
リアは、スマホを見た。
録音は続いている。
この会話を配信したら、どれだけ燃えるだろう。
管理局と七曜会の対立。
日向アキラの独断。
佐伯ユズルの反論。
きっと、とんでもない熱になる。
でも、今は違う。
燃やすために持っているわけではない。
これは、記録だ。
自分が何を見て、何を選んだかを忘れないための記録。
リアは立ち上がった。
二人がこちらを見る。
「私、配信しません」
日向が少しだけ視線を動かす。
ユズルも黙る。
「でも、七曜会に止められたからじゃないです。管理局にお願いされたからでもないです。私が決めました」
リアは、自分の声が震えていないことに少し驚いた。
「私は今、見せない方がいいと思いました。だから見せません」
日向が言う。
「それは適切な判断です」
「そういう評価をされるために決めたんじゃないです」
リアは日向を見る。
「私は、あなたの正しさの材料になりたくない」
日向は黙った。
リアはユズルを見る。
「佐伯さんの手続きの材料にもなりたくないです」
ユズルは、わずかに目を伏せた。
「分かりました」
「分かってくれるんですか」
「完全には分かりません。ただ、今の言葉は記録します」
「やっぱり記録なんですね」
「職業病です」
ユズルが少しだけ苦笑した。
リアも、ほんの少し笑った。
日向はそのやり取りを見ていた。
「白峰さん」
「はい」
「あなたの発信自粛は、七曜会として引き続き求めます」
「分かりました」
「ただし、強制遮断は現時点では行いません」
「ありがとうございます、でいいんですかね」
「必要ありません」
「じゃあ言いません」
日向は、少しだけ困った顔をした。
リアはスマホを持つ。
「私は帰ります。佐伯さん、外まで一緒にいてもらっていいですか」
「もちろんです」
日向は止めなかった。
ただ、言った。
「白峰リアさん」
「はい」
「あなたが黙ることで、守れるものがあります」
「はい」
「同時に、黙ることで隠されるものもあります」
リアは振り返った。
日向の目は、静かだった。
「それでも、今は黙ると決めたのですね」
「はい」
「分かりました」
その言葉は、許可ではない。
確認だった。
リアは会議室を出た。
廊下を歩く。
隣にはユズルがいる。
七曜会の警備員たちの視線が突き刺さる。
「佐伯さん」
「はい」
「七曜会って、味方じゃないんですね」
ユズルは少しだけ考えてから答えた。
「敵とも言い切れません」
「一番困るやつですね」
「はい」
「佐伯さんとは、戦うんですか」
「避けたいです」
「避けられますか」
「分かりません」
リアは、足を止めそうになった。
ユズルの声が、少しだけ苦かったからだ。
「七曜会は被害を止める力があります。管理局より速く、強く、迷いが少ない」
「はい」
「でも、彼らは止めるために、選択肢ごと奪うことがある」
「それが怖かったです」
「怖いと感じたことは、間違っていません」
外へ出る。
夜風が頬に当たる。
リアは、ようやく深く息を吸った。
スマホが震える。
通知。
自分の投稿への反応が、まだ増えている。
その中に、一つだけ見覚えのないコメントがあった。
『見せない白は、誰のために沈黙する?』
アイコンは灰色。
名前はない。
次の瞬間、コメントは消えた。
リアは画面を見つめる。
「……また」
ユズルが横から覗き込む。
「何かありましたか」
「コメントが。一瞬だけ」
「内容は?」
「見せない白は、誰のために沈黙する、って」
ユズルの表情が変わった。
「スクリーンショットは」
「撮れませんでした」
「分かりました。端末ログを確認しましょう」
「七曜会ですか?」
「断定はできません」
「管理局でもない?」
「断定できません」
リアはスマホを握る。
配信していない。
話していない。
それでも、見られている。
自分の沈黙すら、誰かに観測されている。
リアは、夜の空を見上げた。
見せること。
見せないこと。
どちらにも意味がある。
どちらも、誰かに利用されるかもしれない。
なら、選び続けるしかない。
誰かに止められるのではなく。
誰かに燃やされるのでもなく。
自分で。
リアは、スマホをしまった。
「佐伯さん」
「はい」
「私、今日は配信しません。でも、見なかったことにはしません」
「それでいいと思います」
「七曜会にも、管理局にも、都合よく黙ったことにはさせません」
ユズルは、静かに頷いた。
「その言葉も、記録しておきます」
「職業病ですね」
「はい」
リアは少し笑った。
その笑いは、まだ軽くはない。
でも、さっきよりは息ができた。
背後の洋館では、日向アキラが窓の奥からこちらを見ていた。
白は、正しい。
佐伯ユズルも、間違ってはいない。
けれど、そのどちらの中にも、リアの居場所が最初から用意されているわけではない。
だから、自分で立つしかない。
見せる時も。
見せない時も。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は、白峰リアと日向アキラ、そして佐伯ユズルの回でした。
七曜会は管理局の指揮下にある組織ではなく、独自の正しさで先に動く存在です。
管理局の遅さや隠蔽を危険視する一方で、七曜会自身もまた、必要の名で個人の選択を奪いかねない危うさを持っています。
リアは配信しないことを選びました。
しかしそれは、七曜会に止められたからでも、管理局に従ったからでもありません。
見せないこともまた、彼女自身の選択です。
次回、七曜会の一人がカナタに接触します。
ブックマークと評価をいただけると幸いです。




