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第38話 白峰リア、媚びるのをやめる

 人気投票バトルの中盤、票数だけを見れば、俺たちは負けていた。


【彩羽プロダクション探索班:92,400】

【九条セーフティリンク臨時隊:41,800】

【灰狼戦線:36,100】


 数字の差は大きい。


 彩羽ミヤビは強かった。


 戦闘力だけではない。

 視聴者が何を見たいかを分かっている。


 魔物を倒す時は、カメラに映る角度を外さない。

 救助対象を助ける時は、安心できる言葉を添える。

 仲間を励ます時も、自然に見える範囲で声を張る。


 配信者として完成されていた。


 だから視聴者は投票する。

 支援物資も届く。

 回復パック、照明ドローン、支援弾、簡易バリア。


 彩羽プロは、その支援をさらに見栄えよく使う。

 そしてまた票が伸びる。


 綺麗な循環だった。


 対して、リアは違った。


 彼女はさっき、自分の過去を認めた。


 危険を軽く見たこと。

 配信を切らなかったこと。

 俺を利用したこと。


 それを、公式コメント枠で言った。


 そのせいで、票が爆発的に伸びることはなかった。


 けれど、支援の質は明らかに変わっていた。


【高信頼支援:静音回復パッチ】

【高信頼支援:視界共有マーカー】

【高信頼支援:防護フィールド発生器】


 派手ではない。

 でも、使える。


 リアが全員に好かれようとしなかった結果、ちゃんと見ている人からの支援が届き始めていた。


 ただ、それでも差はある。


 試合は数字でも判定される。


 このままでは、彩羽プロに届かない。


 灰狼戦線も、じわじわ追い上げている。


 人気投票バトルと言いながら、彼らは派手なコメントをほとんどしない。

 ただ、魔物を倒し、救助対象を運び、危険地帯を封鎖する。


 その堅実さに投票する視聴者も増えていた。


「次の支援ポイントまで、あと二分」


 ミナトが端末を見ながら言った。


「彩羽プロは次の投票ブーストで、大型支援を取りに来る。たぶん、空中支援ドローンか広域回復」


「こちらは?」


 セイラが聞く。


「今のままだと中型支援止まり。でも質は高い。支援者の継続率が落ちてない」


 リアはモニターを見ないようにしていた。


 でも、見えている。


 数字は嫌でも視界に入る。


 九条セイラが言う。


「白峰リア。数字を追いすぎないこと」


「うん」


 リアは頷いた。


 だが、その声は少し硬い。


 追うなと言われて、追わずにいられるほど簡単ではないのだろう。


 彼女は配信者だ。


 数字に励まされ、数字に傷つき、数字で価値を測られてきた人間だ。


 人気投票バトルで数字を見るなという方が無理だ。


 地下商業区画の奥へ進むと、次のイベントが発生した。


【緊急イベント】

【観客救助シミュレーション】

【三地点同時に救助対象出現】

【各チームは任意の地点を選択してください】


 フィールドマップに三つの救助地点が表示される。


 A地点。

 崩落したカフェ跡。救助対象一名。魔物少数。カメラ映えしやすい。


 B地点。

 地下連絡通路。救助対象三名。魔物中程度。視界不良。


 C地点。

 廃映画館。救助対象一名。大型魔物反応。高危険。


 ミナトが即座に言う。


「彩羽プロはAに行く。映えるし、安全。票が伸びる」


 カナタが短く言う。


「灰狼はC」


「だろうね。戦闘点狙い」


 リアが地図を見る。


「じゃあ、うちはB?」


 セイラが頷く。


「救助対象三名。危険度も中。票数ではAに劣るかもしれませんが、支援品質は期待できます」


「でも映えない」


 リアが小さく言った。


 誰かを責める声ではない。


 ただの事実確認みたいな声だった。


 地下連絡通路。

 視界不良。

 救助対象三名。


 配信映えはしない。


 暗いし、狭いし、カメラも入りにくい。


 彩羽ミヤビなら、A地点を選ぶだろう。


 助ける姿が見えやすく、視聴者が安心して応援できる。


 リアは少しだけ迷った。


 その迷いも、きっと公式配信に映っている。


 コメント欄が流れる。


『リアはどこ行く?』

『A行ってミヤビと直接勝負してほしい』

『Bは地味』

『C行ったら盛り上がるぞ』

『でも救助対象多いのBだよね』

『票狙うならA』

『リアちゃん、ここで逃げたら弱い』


 逃げたら弱い。


 そのコメントが画面に出た瞬間、リアの肩がわずかに動いた。


 俺は嫌な予感がした。


 リアは、第1の事件でもそうだった。


 見られている。

 期待されている。

 助けろと言われている。


 その声に引っ張られた。


 今回は違うと分かっていても、コメント欄の圧は強い。


 俺は鑑定する。


 対象:コメント欄の流れ

 嘘:A地点へ行くべき

 危険:白峰リアの判断遅延


「リアさん」


 俺は声をかける。


「A地点へ行くべき、は嘘です。コメントの流れに危険が出てます」


 リアは目を閉じた。


 一秒。


 二秒。


 それから目を開ける。


「Bに行く」


 声ははっきりしていた。


「映えなくても、救助対象三人いるならB」


 セイラが頷く。


「決まりですわ」


 カナタが先行する。


「急ぐ」


 俺たちはB地点、地下連絡通路へ向かった。


 通路は暗かった。


 古い地下鉄通路のような構造で、天井は低く、壁にはひびが入っている。

 照明はところどころ切れていて、公式ドローンも入りづらい。


 支援物資で得た視界共有マーカーをリアが起動する。


 小さな光が、俺たちの視界にだけ通路の輪郭を表示した。


「これ、めちゃくちゃ助かる」


 リアが言う。


「高信頼支援、地味だけど強いね」


 ミナトが笑う。


「見てる人がちゃんと考えて送ってる。派手支援じゃなくて、今のリアさんたちに必要なもの」


 リアは少しだけ表情を緩めた。


「ありがたいね」


 通路の奥で、救助対象の声が聞こえた。


 公式音声ではなく、シミュレーション用の人工音声。


「助けてください……!」

「こっちにいます!」

「足が挟まって……!」


 三人。


 別々の位置にいる。


 その周囲には、小型魔物の反応が複数。


 セイラが即座に指示する。


「カナタ、正面の魔物を止めてください。白峰リアは左側の救助対象。黒瀬透真は危険鑑定。鴉羽ミナト、通路図を出しなさい」


「はいはい」


 ミナトが端末を開く。


 だが、すぐに顔をしかめた。


「通路図、古い。実際の構造とズレてる」


 俺は通路の壁を鑑定する。


 対象:地下連絡通路

 危険:右奥の天井崩落

 嘘:通行可能


「右奥、通行可能が嘘です! 天井崩れます!」


 リアが左へ走る。


 カナタが正面の魔物を押さえる。


 セイラが壊れた手すりを所有権で動かし、仮の支柱にする。


 視界が悪い。


 公式ドローンも、俺たちをうまく映せていない。


 コメント欄には不満が流れている。


『暗くて見えない』

『A地点の方が盛り上がってる』

『ミヤビちゃん救助成功!』

『リアのとこ地味』

『何してるか分からん』


 ミナトが言う。


「票、伸びないね」


「分かってる」


 リアは短く答えた。


 左側の救助対象は、瓦礫に足を挟まれていた。


 リアはしゃがみ込む。


「大丈夫。今出すからね」


 彼女の声は、配信用に張った声ではなかった。


 狭い通路の中で、目の前の相手に届くくらいの声。


 リアは無理に笑わない。


 救助対象を安心させるためだけに、声を落とす。


「痛いよね。でも引っ張らないから。先にここ、どかすね」


 公式ドローンには、ほとんど映っていない。


 でも、リアは気にしなかった。


 セイラが金属片を動かし、瓦礫を少し浮かせる。


 リアが救助対象を引き出す。


 一人目、成功。


 カナタが魔物二体を押し返す。


 だが、正面奥で別の魔物が迂回してくる。


 俺は鑑定する。


 対象:魔物群

 危険:後方から挟撃


「後ろから来ます!」


 ミナトが端末を見て叫ぶ。


「通路図にない抜け穴! 右壁の奥!」


 セイラが動こうとする。


 しかし、右壁は所有権が通らない。


「運営所有ですわ。動かせません!」


 リアが一人目を抱えたまま振り返る。


 このままでは挟まれる。


 そこで、視界共有マーカーが反応した。


 支援者が送った補助機能。


 壁の奥に、細いメンテナンス通路が表示される。


 コメント欄が急に変わった。


『右壁の奥に通路ある!』

『視界マーカー仕事してる』

『リア、後ろ!』

『支援送ってよかった』

『暗いけどちゃんと見てるぞ』


 リアがその表示を見る。


 そして小さく笑った。


「ちゃんと見てくれてる人、いるじゃん」


 彼女は救助対象をセイラへ預け、右壁の奥へ走った。


 カナタが叫ぶ。


「無理するな!」


「無理じゃない!」


 リアはメンテナンス通路へ滑り込む。


 狭い。


 ドローンは入れない。


 完全に映らない。


 それでもリアは行った。


 壁の向こうで魔物の気配。


 リアは支援物資の静音回復パッチを一つ、自分の腕に貼る。


 小さな傷を回復させ、動きを戻す。


 そして、通路の奥から回り込み、魔物の進路に飛び出した。


 見えない場所での戦闘。


 配信映えしない。


 でも、必要な動き。


 リアは魔物を倒し切るのではなく、進路を逸らした。


 狭い通路へ誘導し、セイラが動かした金属片で出口を塞ぐ。


 後方挟撃を防いだ。


 公式ドローンがようやく追いつく。


 リアは少し息を切らしている。


 髪も乱れている。


 顔には煤がついていた。


 いつもの綺麗な配信用の姿ではない。


 だが、コメント欄の流れは変わっていた。


『今の映ってなかったけど助かったの分かる』

『地味だけど判断よかった』

『リア、ちゃんと救助優先したな』

『票狙いならA行ってた』

『今のリア好きだわ』

『派手じゃないけど見てる』


 投票ゲージが伸びる。


 急激ではない。


 でも、落ちない。


【九条セーフティリンク臨時隊:58,600】


 支援品質ゲージがまた上がった。


 リアはそれを一瞬だけ見た。


 そして、すぐに視線を戻す。


「二人目行く」


 彼女は数字に笑わなかった。


 ただ、次の救助へ向かった。


 俺はその背中を見て、少し胸が熱くなった。


 以前のリアなら、ここでコメント欄を拾っていたかもしれない。

 ありがとう、見えてたよ、応援して、と笑顔で返していたかもしれない。


 それが悪いわけではない。


 でも今は、違う。


 反応は受け取る。

 でも、反応に引っ張られない。


 リアは少しずつ、それをやっている。


 二人目の救助対象は、崩落しかけた天井の下にいた。


 セイラが支柱を固定する。


 カナタが魔物を止める。


 俺が危険箇所を見る。


 ミナトが通路の誤情報を修正する。


 リアが救助する。


 チームとしての動きが、かなり噛み合っていた。


 二人目、救助成功。


 残る三人目は、最奥の暗い区画。


 だが、そこで新しい表示が出た。


【彩羽プロダクション探索班:A地点救助成功】

【高得票支援:広域照明ドローン獲得】


 A地点を終えた彩羽プロが、こちらへ向かっている。


 ミナトが言う。


「来るね。B地点の最後だけ持っていく気かも」


「できるのですか?」


 セイラが聞く。


「共同救助判定を取れば、票は入る。最後の一番映えるところに入れば、視聴者印象も持っていける」


 リアは三人目の位置を見た。


 最奥。

 暗い。

 魔物反応あり。

 救助対象は倒れている。


 彩羽プロの照明ドローンが来れば、確かに映像は綺麗になる。


 ミヤビがそこで救助すれば、視聴者は彼女を評価する。


 リアは少しだけ口元を引き結んだ。


 セイラが言う。


「白峰リア。焦ってはいけません」


「分かってる」


 でも、今回は彩羽プロが早かった。


 広域照明ドローンが地下通路へ入り、暗かった区画を一気に明るく照らす。


 彩羽ミヤビが走ってくる。


「リアさん、手伝う!」


 笑顔。


 声。


 カメラ位置。


 完璧だ。


 コメント欄が一気に盛り上がる。


『ミヤビ来た!』

『共闘熱い』

『明るくなって見やすい』

『最後はミヤビが助ける?』

『リアとの並びいいな』


 リアはミヤビを見る。


 ミヤビは悪人ではない。


 さっきの救助でも、リアの指示を聞いた。

 視聴者の目に揺れることはあっても、救助を放棄する人ではない。


 でも、彼女は配信者として勝ちに来ている。


 見せ場を取るために。


 リアの横へ並ぶために。


 リアは数秒だけ考えた。


 その間に、ミヤビが言う。


「私が前出る。リアさんは支援お願い!」


 一見、自然な提案。


 ミヤビが前に出て、リアが支援。


 でも、それだと最後の救助映像はミヤビ中心になる。


 票はさらに彩羽プロへ流れる。


 俺はミヤビの発言を鑑定する。


 対象:彩羽ミヤビの発言

 嘘:リアさんは支援お願い

 備考:救助主導権を取る意図あり


「リアさん、救助主導権を取る意図があります!」


 俺が言うと、ミヤビの表情が一瞬固まる。


 だが、リアは怒らなかった。


「うん、分かった」


 彼女はミヤビに向き直った。


「ミヤビさん、照明ドローン貸して」


 ミヤビが目を瞬く。


「え?」


「救助は私が行く。ミヤビさんは照明と魔物牽制。さっき私があなたに言ったのと逆」


 ミヤビの顔に、迷いが浮かぶ。


 自分が前に出れば票が伸びる。

 リアに任せれば、自分の見せ場は減る。


 でも、リアは続けた。


「今の救助対象、私の位置からの方が近い。ミヤビさんが前に出ると、魔物の射線が救助対象に重なる」


 俺は鑑定する。


 対象:白峰リアの判断

 嘘:なし


「リアさんの判断、嘘なしです」


 セイラが言う。


「合理的ですわ」


 カナタも頷く。


「リアが行け」


 ミヤビは唇を噛んだ。


 コメント欄が荒れる。


『ミヤビ行かないの?』

『リアに任せる?』

『照明支援も大事』

『ミヤビちゃん前出てほしい』

『でもリアの方が近いならそれでいい』


 ミヤビは、カメラを一瞬見た。


 それから、リアを見た。


「分かった。照明、合わせる」


 リアは頷いた。


「ありがとう」


 二人は同時に動いた。


 ミヤビの照明ドローンが、救助対象の周囲を明るくする。


 リアが低く走る。


 魔物が横から襲いかかる。


 カナタが止める。


 灰狼戦線の一人も、別方向から魔物を牽制する。


 セイラが崩落しそうな天井を金属棚で固定。


 俺は救助対象を鑑定する。


 対象:救助対象

 状態:意識なし、右腕挟まり

 危険:無理に引くと腕部損傷


「右腕、無理に引いたら駄目です!」


 リアが即座に動きを変える。


 腕の周囲の瓦礫を先に外す。


 ミヤビが照明を細かく調整する。


「リアさん、右上見える?」


「見える!」


「そこのボルト、外せる?」


「いける!」


 配信映えのためではない。


 救助のための会話。


 でも、そのやり取りは、結果的に一番よく映っていた。


 リアが救助対象を引き出す。


 三人目、救助成功。


【B地点救助完了】

【複数チーム協力判定】

【主導救助:九条セーフティリンク臨時隊】

【照明支援:彩羽プロダクション探索班】

【戦闘支援:灰狼戦線】


 票が大きく動いた。


 彩羽プロにも入る。

 灰狼戦線にも入る。


 だが、主導救助として、リアのチームにも大きく入った。


【九条セーフティリンク臨時隊:86,200】

【彩羽プロダクション探索班:112,600】

【灰狼戦線:55,400】


 まだ追いつかない。


 でも、差は縮まった。


 さらに支援表示が出る。


【九条セーフティリンク臨時隊】

【高信頼支援:選択式補給パック】

【支援品質:安定】


 ミナトが言う。


「来た。安定支援。強いよこれ」


 リアは息を切らしながら、救助対象を安全圏へ置いた。


 ミヤビが近づく。


 彼女は少し複雑な顔だった。


「リアさん」


「何?」


「今の、悔しい」


 リアは少し目を丸くした。


 ミヤビは続ける。


「でも、正しかった。私、前に出ようとした」


「うん」


「見せ場、取りたかった」


「分かる」


 リアは短く答えた。


「私も、ずっとそうだったから」


 ミヤビは黙った。


 リアは公式ドローンを見た。


 ちょうど任意コメント枠が来ていた。


【九条セーフティリンク臨時隊:任意コメント可能】


 リアは少し迷った。


 それから、カメラに向かって言った。


『今の救助、ミヤビさんの照明がなかったら無理でした。灰狼戦線の牽制も助かりました。票は欲しいです。でも、全部うちの手柄みたいには言いません』


 コメント欄が流れる。


『リア、変わったな』

『昔ならもっと自分の見せ場にしてた?』

『ミヤビも良かった』

『灰狼も評価されてほしい』

『こういうコメントできるのいいね』


 リアは続けた。


『私はまだ、見られ方を気にします。今も数字は気になります。でも、数字のために救助の順番を変えたくない。そういう配信者でいたいです』


 コメント枠が終わる。


 投票ゲージは、爆発しなかった。


 だが、安定して伸びた。


 途中離脱率が下がっていると、佐伯から通信が入る。


 リアはそれを聞いて、少しだけ笑った。


「これでいいんだ」


 セイラが言う。


「ええ。今回のあなたには、それが合っていますわ」


 試合終了まで、残り五分。


 彩羽プロがまだ一位。

 俺たちは二位。

 灰狼戦線が三位。


 このままなら突破判定には届くが、勝利には届かない可能性がある。


 それでも、リアは焦っていなかった。


 いや、焦ってはいる。


 でも、媚びる方向へは戻っていない。


 その時、最後のイベントが発生した。


【最終イベント】

【支援物資投下地点、三地点同時開放】

【視聴者投票により、各チームへ一つずつ支援が付与されます】

【ただし、最大票数チームには強力支援、最高信頼チームには特殊支援が付与されます】


 最大票数。


 最高信頼。


 彩羽プロは最大票数を取るだろう。


 では、最高信頼は。


 モニターが切り替わる。


【最大票数:彩羽プロダクション探索班】

【最高信頼:九条セーフティリンク臨時隊】


 リアが息を止めた。


 俺も驚いた。


 票数では負けている。


 でも、最高信頼。


 ちゃんと見てくれている人たちからの支援が、一番安定していた。


 支援物資が投下される。


 彩羽プロには、強力な攻撃支援ドローン。


 そして俺たちには。


【特殊支援:信頼同期フィールド】

【効果:一定時間、チーム内の視界・位置・危険警告を共有】

【発動条件:支援対象者の承認】


 ミナトが目を見開く。


「これは強い」


 セイラが頷く。


「チーム戦向きですわね」


 カナタも短く言う。


「使える」


 リアは、支援端末を受け取った。


 その表情は、泣きそうに見えた。


「私、票数負けてるのに」


 俺は言った。


「見てくれてる人がいるってことだと思います」


「うん」


 リアは頷いた。


 そして端末を握る。


「使う」


 信頼同期フィールドが展開された。


 視界の端に、仲間の位置が表示される。


 カナタが見ている敵の動き。

 セイラが把握している障害物。

 ミナトが読んでいる支援ログ。

 俺の鑑定による危険表示。


 すべてが、薄い光で共有される。


 完全ではない。


 だが、一瞬の判断には十分だった。


 最後の魔物群が現れる。


 彩羽プロの攻撃支援ドローンが派手に魔物を撃つ。


 歓声が上がる。


 でも、俺たちは別の動きをした。


 信頼同期フィールドで危険を共有し、救助対象の安全ルートを最短で作る。


 カナタが前を切り開く。

 セイラが障害物を動かす。

 リアが救助対象を誘導する。

 ミナトが支援物資の残量を管理する。

 俺が危険と嘘を見る。


 派手ではない。


 でも、崩れない。


 リアはもう、カメラに笑いかけなかった。


 目の前の救助対象にだけ、声をかけた。


「こっち。大丈夫。走らなくていい。歩ける速さでいいよ」


 その声は、視聴者全員に向けたものではない。


 目の前の一人へ向けた声。


 それでも、届く人には届いた。


 試合終了のアナウンスが鳴った。


【本戦第二試合終了】

【投票点、救助点、戦闘点、支援品質点を集計します】


 モニターに結果が出る。


【一位:九条セーフティリンク臨時隊】

【二位:彩羽プロダクション探索班】

【三位:灰狼戦線】


 リアは一瞬、理解できなかったようだった。


「……え?」


 ミナトが笑う。


「支援品質点で逆転したね」


 セイラが言う。


「票数では負けましたが、試合には勝ちましたわ」


 リアはモニターを見上げた。


 コメント欄が流れる。


『リアおめでとう』

『票数だけじゃないの熱い』

『彩羽も強かった』

『灰狼も良かった』

『リア、前と違った』

『媚びなくても見てる人は見てる』


 リアはしばらく黙っていた。


 それから、笑った。


 配信用の完璧な笑顔ではなかった。


 少し泣きそうで、少し不細工で、でも本当に嬉しそうな笑顔。


「……勝った」


 俺は頷いた。


「勝ちました」


 リアは小さく息を吐く。


「全員に好かれなくても、勝てるんだね」


 セイラが答える。


「当然ですわ。全員に好かれる必要など、最初からありません」


「九条さんは好かれなさすぎだけどね」


「余計ですわ」


 リアが笑う。


 その笑いは、さっきよりずっと軽かった。


 彩羽ミヤビが近づいてきた。


 彼女は少し悔しそうだったが、笑っていた。


「負けました」


 リアは向き直る。


「ミヤビさん、強かったです」


「票数では勝ってたのにね」


「配信者としては、たぶんまだミヤビさんの方が上手い」


「それ、勝った人に言われると悔しいな」


 二人は少し笑った。


 ミヤビは続ける。


「でも、今日のリアさん、見ちゃった。最後まで」


 リアは少し目を丸くした。


「ありがとう」


「次は負けません」


「私も」


 握手。


 それは派手な和解ではない。


 互いに認め合った、というほど綺麗でもない。


 でも、悪くない終わり方だった。


 俺はその光景を見て、少しだけ安心した。


 リアは、人気を取り戻したわけではない。


 過去の炎上が消えたわけでもない。


 全員に許されたわけでもない。


 でも、媚びるのをやめた。


 それでも見てくれる人がいることを知った。


 それは、彼女にとって大きな勝利だったのだと思う。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


本戦第二試合、人気投票バトルは九条セーフティリンク臨時隊の勝利となりました。


今回はリアが、票数ではなく信頼で勝つ回でした。

彩羽ミヤビは配信者として非常に強く、票数では最後まで上回っていました。

けれどリアは、全員に媚びるのではなく、ちゃんと見てくれる人へ向けて動くことを選びました。


票は爆発しない。

でも、支援の質は安定する。

その結果、最後の「信頼同期フィールド」につながり、チーム全体の勝利になりました。


リアの過去は消えません。

危険配信をしたことも、黒瀬を利用したことも事実です。

でも、事実を認めた上で、今どう動くかを選べるようになったことが、今回の大きな変化でした。


次回は本戦第三試合、カナタ中心回に入ります。

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