表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
37/57

第37話 人気投票バトル

 本戦第二試合の発表会場に入った瞬間、白峰リアの表情が少しだけ変わった。


 ほんの一瞬だ。


 口元はいつものように柔らかい。

 姿勢も崩れていない。

 周囲の視線に怯えたようにも見えない。


 でも、俺には分かった。


 彼女の肩が、わずかに強張った。


 理由はすぐに分かった。


 大型モニターに表示された試合名。


【本戦第二試合】

【人気投票バトル】


 会場がざわつく。


 リアの名前が、あちこちで小さく囁かれた。


「白峰リア、有利じゃない?」

「元人気配信者だろ」

「でも謹慎明けみたいなもんじゃん」

「前の事件、まだ燃えてたよな」

「投票系なら絶対荒れるだろ」


 聞こえてくる声は、応援だけではない。


 好奇心。

 期待。

 疑い。

 そして、少しの悪意。


 リアはそれを聞いていないふりをしていた。


 だが、聞こえていないはずがない。


 彼女は、誰よりも人の反応に敏感だ。


 配信者として、コメント欄の流れ、視聴者の温度、少しの違和感を読み続けてきた人間だから。


 セイラが隣で腕を組む。


「露骨ですわね」


「ですね」


 俺は頷いた。


 人気投票バトル。


 名前からして、リアを意識している。


 前の試合は「所有権争奪戦」だった。

 セイラの《所有権》に正面から関わる試合。


 そして今回は、リアの配信者としての力を狙い撃ちするような試合。


 偶然とは思えない。


 ミナトが薄く笑う。


「本戦、ほんと性格悪いね。こっちの弱点を順番に撫でてくる」


「撫でるというより、抉っていますわ」


 セイラが言う。


 カナタは黙ってモニターを見ていた。


 彼の表情は変わらない。


 だが、警戒しているのは分かる。


 運営アナウンスが流れた。


『本戦第二試合は、試合中に視聴者投票が行われます』


 大型モニターに、ルールが表示される。


【人気投票バトル】

【フィールド内での戦闘、救助、探索、交渉、発信内容が公式配信される】

【視聴者は各チームへリアルタイム投票を行う】

【投票数に応じて支援物資が付与される】

【支援物資の種類は投票者の属性、継続率、信頼値により変化する】

【単純な票数だけでなく、支援の質も判定対象となる】


 リアが小さく息を吐いた。


「票数だけじゃないんだ」


 佐伯ユズルが運営側の席から歩いてきて、補足する。


「はい。短時間で大量の票を集めても、離脱率が高ければ低品質支援になる可能性があります。逆に票数が少なくても、継続して見ている視聴者からの投票は高品質支援につながります」


「つまり、炎上商法だけだと危ない?」


 リアが聞く。


「危ないですが、一時的な爆発力はあります」


 佐伯は淡々と言った。


「この試合では、その爆発力をどう扱うかも見られるでしょう」


 嫌な言い方だった。


 リアが配信者として得意だったもの。


 視聴者を惹きつけること。

 コメント欄を動かすこと。

 空気を作ること。


 それが武器になる。


 だが同時に、第1の事件で彼女を傷つけたものでもある。


 裏切り。

 炎上。

 切り抜き。

 コメント欄の暴走。


 それらが、また試合の中に持ち込まれる。


 対戦相手が表示された。


【本戦第二試合】

【九条セーフティリンク臨時隊】

【彩羽プロダクション探索班】

【灰狼戦線】


 リアの表情が、今度ははっきり変わった。


「彩羽プロ……」


 俺はその名前に聞き覚えがあった。


 配信者探索者を多く抱える大手事務所。

 リアの所属事務所とは別だが、同じ界隈で何度も比較されている。


 ミナトが端末を見ながら言った。


「彩羽プロダクション探索班。配信慣れした探索者チーム。人気投票なら本命候補だね」


 リアが画面を見つめる。


 そこに映ったのは、明るい笑顔の女性探索者を中心にした四人組だった。


 華やかな装備。

 見栄えのいい立ち姿。

 配信用ドローンとの距離感も完璧。


 中心にいる女性の名前が表示される。


【彩羽ミヤビ】

【配信者探索者】

【登録者数:白峰リア活動休止前と同規模】


 リアの指が少し動いた。


 同業者。


 しかも、人気投票バトル向きの相手。


 そしてもう一つのチーム。


【灰狼戦線】

 実戦型の中堅探索者チーム。

 派手さはないが戦闘力が高く、堅実な攻略を得意とする。


 セイラが言う。


「彩羽プロは票を取りに来る。灰狼戦線は実戦で点を取りに来る。役割が分かれていますわね」


 ミナトが頷く。


「問題は、彩羽プロがリアさんの過去を掘ってくる可能性」


 リアが目を伏せる。


「だよね」


 彼女の声は静かだった。


 怒っているというより、もう覚悟している声。


 俺は思わず言った。


「リアさん」


「大丈夫」


 リアは俺を見る。


 笑っていた。


 でも、それは配信用の笑顔ではなかった。


「大丈夫じゃないけど、大丈夫」


「それ、どっちですか」


「どっちも」


 リアはそう言って、モニターへ視線を戻す。


「たぶん来るよ。私が危険配信したこと。裏切りに気づいてたのに配信を切らなかったこと。黒瀬さんを利用したこと。謝罪配信のことも」


 セイラが言う。


「事実ですわね」


「うん。事実」


 リアは頷いた。


「だから、反論しづらい」


 その言葉に、俺は何も言えなかった。


 事実だからこそ痛い。


 嘘なら、俺の鑑定で見抜ける。

 捏造なら、否定できる。


 でも、リアの過去の失敗は本当にあった。


 第1の事件で、彼女は裏切りを配信上で暴こうとした。

 危険を軽く見た。

 俺を利用した。

 配信を切らなかった。


 それは、彼女自身が謝罪配信で認めたことだ。


 彩羽プロがそこを突けば、視聴者は反応する。


 リアはまた、コメント欄の前に立たされる。


 佐伯が言った。


「白峰さん。今回の公式配信では、参加者の任意コメント枠があります」


「任意コメント?」


「試合中、一定間隔で各チームが視聴者へ向けて短いメッセージを出せます。ただし、長時間の配信トークはできません。発言時間は制限されます」


「つまり、何を言うか選ばなきゃいけない」


「はい」


 リアはしばらく黙った。


 ミナトが言う。


「人気を取りに行くなら、謝罪と成長アピールが王道だね。『過去の失敗を乗り越えて、仲間と前に進みます』みたいな」


 リアが苦笑する。


「言いそう」


「言えば票は取れるよ。一定数はね」


 ミナトは軽い口調のまま続ける。


「逆に炎上覚悟で開き直る手もある。『あの事件があったから今の私がある』とか。強い言葉は切り抜かれやすい」


 リアはミナトを見る。


「ミナトなら、そういう方向にする?」


「俺がリアさんを商品として売るならね」


 リアの目が冷える。


 ミナトは両手を上げる。


「でも今は契約上、味方寄りの意見を出す」


「寄りって何」


「完全な味方じゃないから」


「ほんと腹立つ」


 それでも、リアは聞く姿勢を崩さなかった。


 ミナトは少し真面目な声に変える。


「リアさんが今やるべきなのは、全員に好かれることじゃない」


 リアの表情が止まる。


「過去を掘られた時に、全員へ向けて弁解すると負ける。炎上側は納得しない。アンチは謝っても叩く。初見は面白がる。そこに合わせると、支援の質が落ちる」


「じゃあ、誰に向けるの?」


 リアが聞く。


 ミナトは答えた。


「まだ見てくれてる人」


 部屋が少し静かになる。


「リアさんが完璧じゃないって知ってる。それでも見る人。危険配信のことも、謝罪のことも、配信を切ったことも知ってる。その上で、まだ判断を保留してくれてる人」


 ミナトは端末を閉じる。


「その人たちに向けて話した方がいい」


 リアは黙っていた。


 セイラが言う。


「珍しくまともですわね」


「たまにはね」


 ミナトは肩をすくめる。


 カナタが短く言った。


「票を追うな」


 リアがカナタを見る。


「票を追うと、動きが遅れる。見られ方を考えすぎると、足が止まる」


「……うん」


「見る相手を絞れ」


 カナタらしい、短い助言だった。


 リアは目を閉じて、深く息を吸った。


 そして言った。


「私、今回は全員に好かれようとしない」


 その声は小さい。


 でも、はっきりしていた。


「それでも、票は必要だよね」


「必要ですわ」


 セイラが答える。


「支援物資がなければ、灰狼戦線の実戦力に押される可能性があります」


「じゃあ、ちゃんと話す。でも、媚びるのはやめる」


 リアは自分に言い聞かせるように言った。


「失敗をなかったことにはしない。叩かれないために可愛い言い方もしない。見てくれる人にだけ、ちゃんと伝える」


 俺は鑑定した。


 対象:白峰リアの発言

 嘘:なし


 嘘はなかった。


「嘘、出てません」


 俺が言うと、リアは少しだけ笑った。


「ありがと。黒瀬さんにそう言われると、ちょっと落ち着く」


 試合開始時刻が来た。


 フィールドは、都市型の小規模ダンジョンを模したステージだった。


 崩れた商業施設。

 地下街。

 屋上連絡通路。

 小型魔物の群れ。

 救助対象のダミー人形。

 支援物資投下ポイント。


 公式配信用ドローンが、各チームを追尾する。


 視聴者投票のリアルタイムゲージが、モニター端に表示されている。


【九条セーフティリンク臨時隊:0】

【彩羽プロダクション探索班:0】

【灰狼戦線:0】


 試合開始前から、コメント欄の抜粋が会場モニターに流れていた。


『リア復帰戦?』

『白峰リアいるじゃん』

『危険配信の人だよね』

『九条チーム濃すぎ』

『彩羽ミヤビ勝ちそう』

『リアちゃん応援したいけど怖い』

『また炎上しそう』


 リアはそれを見た。


 表情は崩さない。


 だが、手は少しだけ握られていた。


 俺は小声で言った。


「見てくれる人にだけ、でいいと思います」


 リアは頷いた。


「うん」


 カウントダウンが始まる。


 三。


 二。


 一。


【試合開始】


 開始と同時に、彩羽プロダクション探索班が動いた。


 速い。


 戦闘より先に、配信ドローンを味方につける動きだった。


 彩羽ミヤビが、明るい声で公式コメント枠を使う。


『みんな、応援よろしくね! 今日は安全第一で、でも見応えある戦いを届けます!』


 笑顔。

 声の張り。

 カメラ目線。

 完璧だった。


 投票ゲージが一気に伸びる。


【彩羽プロダクション探索班:12,400】

【九条セーフティリンク臨時隊:3,100】

【灰狼戦線:1,800】


 リアが小さく息を吐く。


「さすが」


 だが、焦ってはいない。


 俺たちは商業施設跡の一階へ入った。


 灰狼戦線は別ルートから魔物討伐に向かっている。


 戦闘点狙いだ。


 セイラが指示を出す。


「まずは救助対象を確保します。人気投票でも救助行動は安定して評価されます」


 カナタが先行し、通路の安全を確認する。


 リアは後方のドローン位置を見ながら、無理にカメラへ顔を向けない。


 それが逆に、以前とは違って見えた。


 地下街へ降りる階段の途中で、小型魔物の群れが現れる。


 灰色の猿型魔物。


 数は八体。


 そこまで強くないが、動きが速い。


 カナタが二体を止める。


 リアが横へ回り、救助対象のダミー人形を確保する。


 セイラが周囲の手すりを所有権で動かし、魔物の進路を絞る。


 俺は鑑定で、群れの中の危険個体を探す。


 対象:猿型魔物群

 危険:右奥の個体、毒爪


「右奥、毒爪!」


 リアがすぐ反応する。


 救助対象を抱えたまま、毒爪の個体から距離を取る。


 カナタがその個体の爪だけを剣で弾く。


 セイラが手すりを閉じ、魔物を分断する。


 悪くない。


 地味だが、堅実な動き。


 投票ゲージも少し伸びた。


【九条セーフティリンク臨時隊:8,900】


 だが、彩羽プロはもっと速かった。


 彼女たちは同じような救助場面を、はるかに見栄えよく処理していた。


 ミヤビが救助対象を抱え、仲間が魔物を鮮やかに撃退する。

 カメラ位置も完璧。


 視聴者に分かりやすい。


【彩羽プロダクション探索班:31,200】


 リアが数字を見た。


 口元が少しだけ歪む。


「強いなあ」


 その時、公式コメント欄がざわついた。


 彩羽プロ側のドローンが、ミヤビの発言を拾っていた。


『リアさんも出てるんだよね。いろいろあったけど、今日は正々堂々、いい試合にしたいな』


 一見、善意のコメントだった。


 だが、コメント欄はすぐに反応する。


『いろいろって危険配信のこと?』

『あれ結局どうなったんだっけ』

『仲間裏切ったやつ?』

『いやリアが危険企画したんでしょ』

『黒瀬って人を巻き込んだんだよね』


 俺の胸がざわつく。


 ミヤビの言葉は、直接攻撃ではない。


 だが「いろいろあった」と言うだけで、視聴者は勝手に過去を掘る。


 リアの表情が硬くなる。


 鑑定。


 対象:彩羽ミヤビの発言

 嘘:正々堂々、いい試合にしたい


 嘘が出た。


 俺は言った。


「今の、正々堂々は嘘です」


 リアは頷く。


「分かった」


 怒るかと思った。


 でも、彼女は怒鳴らなかった。


 セイラが言う。


「挑発ですわ。乗ってはいけません」


「うん」


 リアは短く答えた。


 だが、彩羽プロの攻撃は続いた。


 次の任意コメント枠。


 ミヤビは、救助対象を安全圏へ運びながら、カメラに向かって言った。


『私たちは、見てくれる人に不安を与えない配信をしたいです。探索者配信って、信頼が一番大事だと思うから』


 また直接名指しではない。


 しかし、コメント欄は完全にリアへ向かった。


『リアへの当てつけ?』

『でも正論』

『危険配信は不安だったもんな』

『リアちゃん好きだったけど、あれで冷めた』

『謝ったからいいじゃん』

『いや命かかってたし』


 リアの投票ゲージが伸び悩む。


 むしろ、一部が離れている。


【九条セーフティリンク臨時隊:11,300】

【彩羽プロダクション探索班:46,800】

【灰狼戦線:9,700】


 灰狼戦線は派手ではないが、討伐点で着実に伸ばしている。


 このままだとまずい。


 支援物資の差が大きくなる。


 その時、彩羽プロに最初の支援物資が届いた。


【高品質支援物資:回復パック】

【追加支援:照明ドローン】


 見栄えも実用性もある支援。


 ミヤビは笑顔で受け取る。


『みんなありがとう! 大事に使うね!』


 また票が伸びる。


 リアはそれを見ていた。


 唇を噛みそうになり、やめた。


 そして、俺たちに言った。


「次のコメント枠、私が話す」


 セイラが見る。


「準備は?」


「できてない」


「正直ですわね」


「でも、今話さないと、たぶんずっと相手の流れになる」


 ミナトが端末を見ながら言う。


「謝罪テンプレはやめた方がいいよ」


「分かってる」


「炎上に反論するのも悪手」


「それも分かってる」


「じゃあ?」


 リアは、少しだけ笑った。


「今見てくれてる人に話す」


 コメント枠の通知が出る。


【九条セーフティリンク臨時隊:任意コメント可能】


 公式ドローンがリアへ寄る。


 彼女は、いつもの配信者の笑顔を作らなかった。


 目を逸らさず、でも媚びずに、カメラを見た。


『白峰リアです』


 コメント欄が一気に流れる。


『来た』

『何言う?』

『謝罪?』

『また言い訳?』

『リアちゃん頑張れ』


 リアは続けた。


『前の事件のこと、なかったことにはしません。私は危険を軽く見たし、配信を切らなかったし、黒瀬さんを利用しました』


 俺は息を呑んだ。


 リアは自分から言った。


 誰かに暴かれる前に。


 自分の言葉で。


『それは事実です。だから、信頼できないって思う人がいるのも当然だと思っています』


 コメント欄がさらに荒れる。


『認めた』

『やっぱり』

『でも言えるの偉い』

『偉いで済む話?』

『今試合中にそれ言うのか』


 リアは少しだけ息を吸う。


『でも、今見てくれてる人にだけ言います。私は、全員に安心してもらえる探索者じゃありません。全員に好きになってもらえる配信者でもありません』


 その声は、震えていなかった。


『それでも、今ここで誰かを助ける時は、見栄えのためじゃなく助けます。盛り上げるために危険を増やすことはしません。そういう私でよければ、見ていてください』


 沈黙。


 一瞬、コメント欄の流れが変わったように見えた。


 リアは最後に言った。


『無理に応援しなくていいです。でも、ちゃんと見てくれる人がいるなら、その人には恥ずかしくない動きをします』


 コメント枠が終了した。


 リアはカメラから視線を外し、小さく息を吐いた。


「……言った」


 俺は鑑定した。


 対象:白峰リアの発言

 嘘:なし


「嘘、ありませんでした」


「うん」


 リアは少しだけ笑う。


「嘘つかないように言った」


 すぐに票が爆発したわけではなかった。


 むしろ、最初は荒れた。


『開き直り?』

『いや今のは良かった』

『信頼できないのを認めるのは大事』

『私はまだ見る』

『応援するかは分からないけど見届ける』

『前より好きかも』

『でも危険配信は許してない』


 票数は彩羽ほど伸びない。


 だが、支援ゲージの色が変わった。


 佐伯の解説が通信に入る。


「継続視聴者比率が上がっています。投票数は少ないですが、支援品質が上昇しています」


 リアが目を見開く。


 モニターに表示が出た。


【九条セーフティリンク臨時隊】

【支援物資獲得】

【高信頼支援:静音回復パッチ】

【追加支援:視界共有マーカー】


 ミナトが口角を上げる。


「いい支援だね。票数のわりに質が高い」


 セイラが頷く。


「白峰リア。悪くありません」


「それ、かなり褒めてる?」


「かなりですわ」


 リアは少しだけ泣きそうな顔になって、すぐ笑った。


「ありがと」


 だが、彩羽プロはそれを見逃さなかった。


 ミヤビの次のコメント枠。


『リアさん、正直に話してくれて嬉しいです。でも、私は思うんです。配信者は、見てくれる人に不安を与えない努力を最後までしなきゃいけないって』


 綺麗な言葉。


 でも、刺してくる。


『過去を認めることも大事。でも、見てくれる人を不安にさせたまま「無理に応援しなくていい」は、少し寂しいかな』


 コメント欄がまた揺れる。


『ミヤビ正論』

『リアはファン突き放してる?』

『無理に応援しなくていいって優しさじゃない?』

『配信者なら安心させてほしい』


 リアの表情が揺れる。


 今の言葉は刺さった。


 配信者として、ファンを安心させること。


 それはきっと、リアがずっとやってきたことだ。


 見てくれる人を楽しませる。

 不安にさせない。

 笑顔でいる。

 可愛くいる。

 期待に応える。


 その癖が、彼女の中に残っている。


 俺はミヤビの発言を鑑定した。


 対象:彩羽ミヤビの発言

 嘘:見てくれる人に不安を与えない努力を最後までしなきゃいけない

 備考:本人は半分信じている


 完全な嘘ではない。


 ミヤビ自身も、半分は本気でそう思っている。


 だからこそ厄介だ。


「リアさん」


 俺は言った。


「今の、完全な嘘じゃないです。本人も半分信じてます」


「そっか」


 リアは小さく頷いた。


「だから強いんだね」


 その時、地下街の奥から救助アラートが鳴った。


【救助対象出現】

【位置:地下商業区画B2】

【危険度:中】

【支援物資投下ポイント付近】


 灰狼戦線も動く。


 彩羽プロも動く。


 救助対象を取れば票が伸びる。


 支援物資投下ポイントも近い。


 セイラが即断する。


「向かいます」


 俺たちは地下へ走った。


 B2区画は、崩れた店舗が並ぶ狭い通路だった。


 救助対象のダミー人形が、瓦礫の下に半分埋もれている。


 その周囲には、小型魔物が十体以上。


 灰狼戦線が先に到着し、魔物を押さえ始めている。


 彩羽プロは別方向から接近。


 カメラ映えする角度を取りながら、救助対象へ向かう。


 俺たちも遅れて到着した。


 カナタが状況を見る。


「魔物より瓦礫が危ない」


 俺も鑑定する。


 対象:救助対象周辺瓦礫

 危険:二次崩落

 嘘:今すぐ引き抜ける


「引き抜いたら崩れます!」


 俺が叫ぶ。


 だが、彩羽プロの一人が救助対象に手をかけていた。


 リアが走る。


「待って!」


 ミヤビが振り返る。


「リアさん?」


「そのまま引いたら崩れる!」


 ミヤビの顔に一瞬迷いが浮かぶ。


 だが、公式ドローンが寄る。


 コメント欄が流れる。


『リアが止めた』

『救助邪魔?』

『いや危ないって言ってる』

『ミヤビちゃん助けて!』


 ミヤビは一瞬だけ、カメラを見た。


 その一瞬が危なかった。


 灰狼戦線が魔物を押さえているが、長くは持たない。


 リアはもう一度言う。


「引いちゃ駄目! 先に右の支柱を固定して!」


 ミヤビが迷う。


 救助を止めれば、映像上はリアに従ったように見える。

 そのまま引けば、カメラ映えする。


 俺はミヤビを鑑定した。


 対象:彩羽ミヤビ

 嘘:私は正しい判断ができている

 危険:視聴者視線


「ミヤビさん、自分の判断に嘘が出てます! 視聴者の目を気にしてる!」


 言った瞬間、ミヤビの表情が強張った。


 コメント欄も荒れる。


 だが、リアはそこで攻撃しなかった。


「私もそうだった!」


 リアが叫んだ。


 声が地下街に響く。


「見られ方を考えると、一瞬遅れる! だから今は、こっち見て!」


 ミヤビの目がリアへ戻る。


 リアは瓦礫を指差す。


「右の支柱! そこ押さえて! 私が救助対象を引く!」


 ミヤビは一瞬だけ唇を噛んだ。


 そして、頷いた。


「分かった!」


 彩羽プロの仲間が支柱を押さえる。


 セイラが近くの金属棚を所有権で動かし、補助支柱にする。


 カナタが魔物の進路を塞ぐ。


 灰狼戦線の一人が黙って加勢し、瓦礫の反対側を支える。


 リアが救助対象を引き抜く。


 今度は崩れない。


 救助成功。


 アラートが鳴る。


【救助成功】

【複数チーム協力判定】


 票が動く。


 彩羽プロにも、灰狼戦線にも、俺たちにも入る。


 だが、リアのゲージに高信頼支援が追加された。


【九条セーフティリンク臨時隊】

【高信頼支援:防護フィールド発生器】


 リアは救助対象を抱えたまま、息を吐いた。


 ミヤビが彼女を見る。


 複雑な顔だった。


「……ありがとう」


 リアは少し笑った。


「私も、前に同じミスしかけたから」


「見られ方?」


「うん」


 リアはそう言って、公式ドローンへ目を向けた。


「今も怖いけどね」


 その言葉も配信に乗った。


 コメント欄が流れる。


『今のリア良かった』

『ミヤビも止まれて偉い』

『灰狼も支えてたぞ』

『こういうのでいいんだよ』

『票数よりちゃんと見たい』


 彩羽プロのゲージは相変わらず高い。


 だが、リアの支援は少しずつ質を増している。


 セイラが静かに言う。


「白峰リア」


「何?」


「全員に好かれる必要はありません。ですが、今のあなたを見ている者は確かにいますわ」


 リアは目を伏せた。


 それから、少し笑った。


「うん」


 試合はまだ終わっていない。


 彩羽プロは強い。

 灰狼戦線も堅実だ。

 人気投票の数字だけなら、俺たちはまだ劣っている。


 でも、リアはもう、票数だけを追っていなかった。


 そのことが、たぶん一番大きい。


 そして俺は思った。


 この試合は、リアが人気を取り戻す試合ではない。


 人気に振り回されずに、それでも見てくれる人とどう向き合うか。


 それを問う試合なのだと。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


本戦第二試合、人気投票バトルが始まりました。


今回はリアにとってかなり厳しい試合です。

一見すると元人気配信者であるリアに有利な形式ですが、実際には過去の危険配信や炎上が掘り返される場でもあります。


彩羽ミヤビは、完全な悪役ではありません。

彼女自身も「配信者は視聴者を安心させるべき」という価値観を持っています。

だからこそ、リアとは別の意味で強い相手です。


リアは今回、全員に好かれようとするのではなく、ちゃんと見てくれる人へ向けて話しました。

票数は爆発しませんが、支援の質が上がる形で、彼女の変化が少しずつ出始めています。


次回は、リアがさらに「媚びること」と「見てもらうこと」の違いに向き合う回になります。

ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ