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第36話 お嬢様、頭を下げる

中央拠点は、廃都市フィールドの中心に立つ管制塔だった。


 崩れたビル群の中に、一本だけ高く残った塔。

 その周囲には、破損した通信アンテナ、補給コンテナ、簡易バリケード、壊れかけの防衛ドローンが散らばっている。


 所有権争奪戦において、中央拠点は最も点が高い。


 そこを取れば、一気に試合を有利にできる。


 だから当然、東堂重工探索部も、白鷺連合も狙っていた。


 だが、単純に拠点端末へ触れれば取れるわけではない。


 東堂重工はスポンサー承認と企業所有権を盾に、装備や設備の優先権を主張してくる。

 白鷺連合は同盟や共同利用契約をちらつかせ、相手の所有権を少しずつ薄めようとする。


 そして俺たちは、その両方を相手にしなければならなかった。


【東側物資庫の所有権は維持されます】


 表示が確定した瞬間、俺はようやく息を吐いた。


 さっき、東堂重工は俺の登録区分を突いてきた。


 補助枠の黒瀬透真は、物資庫の三名認証条件に含まれないのではないか。


 つまり、俺が穴にされた。


 でも、セイラは即座に反論した。


 必要なのは戦闘員三名ではなく、チームタグ認証三名。

 俺は補助枠でも、正式なチームタグ保持者。


 だから認証は有効。


 彼女はそう言い切った。


 あなたは穴ではありません。


 その一言が、まだ胸に残っている。


 俺は戦えない。

 直接の戦闘力は低い。

 この本戦フィールドでは、足手まといになる場面もある。


 それでも、セイラは俺を穴ではないと言った。


 たぶん、励ましたつもりではないのだろう。

 彼女にとっては、契約上そうだからそう言っただけかもしれない。


 でも、少しだけ救われた。


「ぼんやりしない」


 セイラの声が飛ぶ。


「はい!」


 中央拠点の端末では、三チームの所有権申請が同時に競合していた。


【中央拠点】

【所有権未確定】

【東堂重工探索部:優先所有権申請中】

【白鷺連合:共同占有申請中】

【九条セーフティリンク臨時隊:異議申立準備中】


 情報量が多すぎる。


 端末の文字を読むだけでも目が滑る。


 でも、セイラは違った。


 彼女は戦場の真ん中で、端末と周囲の設備を同時に見ている。


 どの設備が誰の所有物か。

 どの装備が中立か。

 どの契約が有効か。

 どの条文が罠か。


 それらを一瞬で判断していく。


「東堂は中央拠点内の通信設備を企業提供品として押さえに来ます。白鷺は拠点周辺の補給コンテナを共同利用化して、占有実績を作るつもりですわ」


 リアが低く構える。


「じゃあ、どっち止める?」


「両方です」


「出た、無茶なやつ」


「無茶ではありません。面倒なだけです」


 セイラはそう言って、手袋を締め直した。


 東堂重工の重装隊員たちが、管制塔正面から進んでくる。


 盾を構え、背後に防衛ドローンを並べている。


 さっき使用権停止で一機止めたが、まだ数が多い。


 一方、白鷺連合は正面からぶつからない。


 廃ビルの影を使って散り、補給コンテナや小型端末に次々とタグを付けている。


 所有権を取るというより、周辺の占有実績を積んでいる。


 ミナトが端末を見ながら言った。


「白鷺、速いね。中央拠点を直接取れなくても、周辺の三割以上を共同管理に持ち込む気だ」


「分かっています」


 セイラは即答する。


「黒瀬透真、白鷺のタグ付け条項を鑑定」


「はい」


 俺は共有された契約ログを見る。


【白鷺連合による補給コンテナ共同利用タグ】

【共同利用は所有権を移転しない】

【一定範囲内の三割以上の補給設備に共同利用タグが付与された場合、該当エリアは共同管理区域となる】


 鑑定。


 対象:白鷺連合タグ付け条項

 嘘:共同利用は所有権を移転しない


「共同利用は所有権を移転しない、が嘘です!」


「やはり」


 セイラの目が鋭くなる。


「共同利用の名目で、実質管理権を奪うつもりですわね」


 リアが走り出しかける。


「じゃあ、タグ付け止める!」


「待ちなさい」


 セイラが止めた。


「白鷺はあなたを誘っています。散った相手を追えば、こちらの中央拠点対応が遅れる」


「でも放置したら取られるじゃん!」


「だから、別の手を使います」


 セイラは周囲を見る。


 壊れたバリケード。

 道路脇の街灯。

 破損した運搬台車。

 補給コンテナ。


 だが、彼女の表情は明るくならない。


「……駄目ですわね」


「何が?」


 リアが聞く。


「この周辺設備の多くは、すでに白鷺が一時タグを付けている。完全には動かせません」


 セイラの《所有権》が届かない。


 所有権が曖昧になっているからだ。


 東側物資庫では強かったセイラが、中央拠点では思うように動けない。


 東堂重工はそこを見逃さなかった。


「九条セイラ。君の能力は、所有権が確定して初めて機能する」


 東堂隊長が拡声器で言う。


「ならば、所有権を確定させなければいい」


 俺は鑑定する。


 対象:東堂隊長の発言

 嘘:なし


 嘘ではない。


 相手は正面から、セイラの弱点を突いている。


 リアが舌打ちする。


「嫌な相手……!」


 カナタが前へ出る。


「正面は止める」


 彼は東堂の重装隊員へ向かう。


 セイラが即座に言った。


「追いすぎないこと!」


「ああ」


 カナタは短く答え、東堂の先頭隊員とぶつかった。


 金属音が響く。


 剣と重盾。


 カナタの剣は、重装甲を無理に斬ろうとしない。

 相手の盾の角度をずらし、膝の位置を崩し、前進を止める。


 倒すのではなく、進ませない。


 それだけで十分だった。


 だが、防衛ドローンが上から回り込む。


 リアが走る。


「ドローン二機、右から来る!」


 セイラが東側物資庫から持ってきた盾を動かそうとする。


 しかし、中央拠点付近では所有権の干渉が強い。


 盾の動きが鈍い。


「くっ……」


 セイラが小さく呻く。


 俺はドローンを鑑定する。


 対象:東堂重工防衛ドローン

 状態:稼働中

 嘘:東堂重工探索部が完全使用権を保持


「完全使用権、嘘です! どこかに穴があります!」


 ミナトがすぐに端末を叩く。


「識別番号出た。TDD-08と09。こいつら、東堂本体じゃなくてレンタル契約。使用者は東堂、保守権限は別会社!」


 セイラの目が光る。


「保守会社は?」


「白鷺連合の協力企業!」


「面倒ですわね!」


 つまり、東堂のドローンだが、保守権限は白鷺側に近い。


 権利が絡まりすぎている。


 セイラは即座に判断した。


「白鷺に保守停止申請を飛ばします」


「白鷺が承認すると思う?」


 リアが聞く。


「承認させます」


 セイラは端末に短い契約文を打ち込む。


【九条セーフティリンク臨時隊より白鷺連合へ緊急提案】

【東堂重工レンタルドローン二機の保守停止に協力した場合、中央拠点西側補給路の通行権を三分間認める】


 ミナトが笑う。


「いいね。白鷺が欲しいのは占有実績。通行権でも一応記録になる」


 数秒後。


【白鷺連合:承認】


 東堂のドローン二機が空中で揺らぎ、停止した。


 リアがすぐに走り込み、停止したドローンの射線からカナタを逃がす。


 カナタは横へ下がり、東堂隊員の一撃を避けた。


「助かった」


「カナタさんが言うと重い!」


 リアが息を切らしながら返す。


 東堂隊長は表情を歪めた。


「白鷺と組んだか」


 セイラは言い返す。


「三分間の限定通行権です。同盟ではありませんわ」


 だが、その三分間が問題だった。


 白鷺連合はすぐに動いた。


 西側補給路へ入り、補給コンテナに共同利用タグを追加していく。


 セイラが舌打ちしかける。


「早い……」


 自分で与えた通行権だ。


 相手はそこを最大限使ってくる。


 リアが言う。


「止める?」


「今は無理です。東堂を止めなければ、中央拠点を取られます」


 セイラは正しい。


 でも、その正しさが状況を狭くしている。


 東堂を止めるために白鷺へ通行権を渡した。

 すると白鷺が共同管理区域を広げる。

 白鷺を止めれば東堂が進む。


 どちらを取っても、中央拠点の所有権が薄まる。


 所有権争奪戦。


 名前の通りだ。


 誰が何を持つのか。


 その線を引こうとしても、相手が次々に線を消してくる。


 セイラの額に汗が浮かんでいる。


 怒りではない。


 焦りだ。


「九条さん」


 俺は声をかける。


「分かっています」


 彼女は端末から目を離さない。


「ですが、今は私が読むしかありません。私が判断するしかありません」


 その言葉に、少し違和感があった。


 私が。


 私が。


 俺は第三予選を思い出す。


 セイラは、自分の危うさを言った。


 合理性で人を切る判断ができる。

 だから、自分が合理性を盾に誰かを切ろうとした時は、その理由を問え。


 今のセイラは、誰かを切っているわけではない。


 でも、一人で全部を背負おうとしている。


 所有権の試合だから。

 自分の能力に関わる試合だから。

 自分が読めなければ負けるから。


 そう思い込んでいる。


 その時、ミナトが言った。


「九条さん、このままだと詰むよ」


「黙りなさい」


「黙らない。契約上、必要な情報共有だからね」


 ミナトは中央拠点の周辺図を投影する。


「東堂は正面から権利主張。白鷺は周辺占有。九条さんは両方を一人で処理しようとしてる。でも手数が足りない」


「分かっています」


「分かってるなら、下位チームに頼るしかない」


 セイラの手が止まった。


「下位チーム?」


 ミナトはフィールド南側を指す。


 そこには、もう一つのチームがいた。


 いや、今回の対戦三チームには含まれていない。


 だが、フィールド内には中立NPC扱いの補助探索者が配置されている。


 その一部が、実際の低ランク探索者チームだった。


 運営に雇われ、契約対象として参加しているらしい。


【南側補助探索者チーム】

【中立契約対象】

【通称:南小隊】

【保有権限:南側退避路、旧式バリケード、補給水路】


 セイラが眉をひそめる。


「中立契約対象ですわね」


「そう。南小隊と契約すれば、南側退避路と旧式バリケードが使える。中央拠点の周辺占有を白鷺から取り返せる」


「契約条件は?」


 ミナトは少しだけ言いにくそうに笑った。


「協力要請。報酬点は少なめ。ただし、相手の判断で拒否可能」


 リアが言う。


「お願いしに行くってこと?」


「そういうこと」


 セイラの表情が固まった。


 それだけで分かった。


 彼女は、苦手なのだ。


 命令でも契約でもなく、お願いすることが。


 しかも、相手は下位探索者チーム。


 かつてのセイラなら、見下していた相手。


 裁判の時もそうだった。


 彼女は最初、下位探索者に高圧的に証言を頼み、拒否された。


 その後、透真に言われて初めて、命令ではなくお願いをした。


 頭を下げた。


 あれは一度できた。


 でも、今またできるか。


 それは別の話だ。


 セイラは端末を見つめた。


「私が行く必要がありますの?」


 ミナトが言う。


「契約者は九条さんじゃないと意味が薄い。南小隊は九条家の名前に警戒してる。だからこそ、本人が頼まないと乗らない」


「警戒?」


「そりゃそうでしょ。九条のお嬢様に使い捨てにされると思ってる」


 セイラの目が鋭くなる。


「私は」


 言いかけて、止まった。


 リアが静かに言う。


「九条さん」


 セイラはリアを見る。


「頼もう」


「簡単に言いますわね」


「簡単じゃないけど、頼もう」


 リアの声は柔らかかった。


「今、九条さん一人で全部やろうとしてる。無理だよ」


「無理ではありません」


 鑑定。


 対象:九条セイラの発言

 嘘:無理ではありません


 俺は言った。


「嘘です」


 セイラが俺を睨む。


 でも、すぐに目を逸らした。


「……今見る必要がありますの?」


「あります」


 俺は言った。


「九条さん。一人では無理です」


「あなたまで」


「所有権の試合だからって、全部を九条さんが持たなくていいと思います」


 自分で言って、少し緊張した。


 セイラは黙っている。


 俺は続けた。


「前に裁判の時も、九条さんはお願いできました。今回も、命令じゃなくて頼めばいいと思います」


「あなたは、簡単に言いますわね」


「簡単ではないと思ってます」


「なら、もっと重く言いなさい」


「……お願いします。九条さん」


 俺は言った。


「南小隊に、お願いしてください」


 セイラはしばらく黙った。


 東堂の重装隊員が、また中央拠点へ迫る。


 カナタが止める。

 リアが補助に入る。

 ミナトが白鷺の動きを監視する。


 時間はない。


 セイラは端末を握りしめた。


 そして、深く息を吸った。


「分かりました」


 彼女は南側へ向かって歩き出した。


「ただし、下手だったら後で文句を言わないこと」


「言いません」


「絶対ですわよ」


「たぶん」


「そこは言い切りなさい」


 少しだけいつもの調子が戻った。


 南小隊は、崩れた高架下にいた。


 四人組の低ランク探索者チーム。


 装備は地味で、企業ロゴもない。

 だが、フィールド南側の退避路とバリケードを管理する権限を持っている。


 リーダーらしき女性探索者が、こちらを警戒した目で見た。


「九条セイラ……」


「ええ」


 セイラはいつものように顎を上げかけた。


 俺は横で小さく咳払いする。


 セイラが一瞬だけこちらを睨む。


 だが、すぐに姿勢を整えた。


「南小隊の皆様」


 丁寧な言葉だった。


 でも、少し硬い。


「中央拠点周辺の所有権が、東堂重工と白鷺連合によって不当に攪乱されています。あなた方の南側退避路と旧式バリケードの使用権を、私たちに」


 リーダーの女性が眉をひそめる。


「命令ですか?」


 セイラの言葉が止まった。


 空気が張る。


 俺は心臓が少し冷える。


 ここで失敗すれば終わる。


 セイラは唇を噛んだ。


 そして、言い直した。


「いいえ」


 彼女は一歩下がった。


 それから、深く頭を下げた。


「お願いです」


 南小隊の四人が驚いた顔をした。


 リアも少し目を見開く。

 ミナトは口笛を吹きかけて、俺に睨まれてやめた。


 セイラは頭を下げたまま続ける。


「あなた方の権限が必要です。私一人では、中央拠点の所有権を守り切れません」


 その言葉は、彼女にとって相当重いはずだった。


 私一人では無理。


 それを認めた。


「南側退避路と旧式バリケードの使用権を、私たちに貸してください。報酬点は契約通り支払います。危険な前線には出しません。使用範囲と責任範囲は、こちらが明記します」


 リーダーの女性は、まだ警戒している。


「九条さん。あなた、前に下位探索者を見下す発言して炎上してましたよね」


 痛いところを突いた。


 セイラの肩がわずかに動く。


 しかし、彼女は頭を上げなかった。


「事実です」


 短い返事。


「その点については、私が間違っていました」


 南小隊の空気が変わる。


 セイラは続ける。


「あなた方の権限を、私の所有物のように扱うつもりはありません。あなた方が持っているものを、あなた方の判断で貸していただきたいのです」


 リーダーの女性は、しばらく黙っていた。


 それから、言った。


「本当に、私たちを前に出さない?」


「出しません」


「危なくなったら?」


「退避を優先してください。その条件を契約に入れます」


「私たちの権限を使って取った拠点の点は?」


「規定分配に加え、追加で南側支援点を認めます」


「それ、九条さんの取り分減りますよ」


「承知しています」


 リーダーはセイラをじっと見た。


 俺は彼女を鑑定する。


 対象:南小隊リーダー

 嘘:九条セイラを信用した

 備考:ただし、契約内容は信じてもいいと判断


 完全には信用していない。


 でも、契約内容は信じてもいいと思っている。


 十分だ。


 俺はセイラに小声で伝える。


「完全には信用されてません。でも、契約は信じてもいいと思ってます」


 セイラは小さく頷いた。


「それで十分です」


 リーダーは手を差し出した。


「分かりました。南小隊は、九条セーフティリンク臨時隊に南側退避路と旧式バリケードの使用権を貸します」


 セイラはようやく頭を上げた。


 そして、その手を取った。


「ありがとうございます」


 その瞬間、端末に表示が出る。


【南小隊との支援契約成立】

【南側退避路:使用権付与】

【旧式バリケード:共同管理】

【南側補給水路:限定開放】


 セイラの周囲の空気が変わった。


 彼女の《所有権》が、完全な所有ではなく、貸与された使用権に反応する。


 南側の旧式バリケードが、ゆっくり動き始める。


 崩れた道路を塞いでいた鉄板。

 高架下の古い防護壁。

 補給水路のゲート。


 それらが、セイラの指先で組み替わっていく。


「行きますわよ」


 彼女の声は、さっきよりも少しだけ軽かった。


 中央拠点へ戻ると、状況はさらに悪化していた。


 東堂重工が正面から圧をかけ、白鷺連合が西側と北側の共同占有を進めている。


 カナタとリアが何とか止めているが、長くは持たない。


 東堂隊長が笑う。


「戻ったか。もう遅い」


 セイラは静かに言った。


「いいえ」


 彼女が手を上げる。


 南側の旧式バリケードが動いた。


 中央拠点の周辺に、斜めに入り込むように展開する。


 白鷺連合が作っていた共同占有ラインを分断する形だ。


 続いて、補給水路のゲートが開く。


 水が低い音を立てて流れ、東堂重工の重装隊員の足場をぬかるませる。


 カナタがその隙を逃さない。


 盾を構えた隊員の軸を崩し、中央拠点から押し返す。


 リアが白鷺のタグ付け担当を牽制する。


 ミナトが叫ぶ。


「白鷺の占有率、三割切った!」


 セイラが中央拠点端末へ走る。


 俺も続く。


【中央拠点】

【所有権競合中】

【東堂重工探索部:申請保留】

【白鷺連合:占有率不足】

【九条セーフティリンク臨時隊:申請可能】


「黒瀬透真、鑑定」


「はい!」


 対象:中央拠点所有申請

 嘘:申請可能

 危険:東堂重工による企業承認割込


「申請可能は嘘です! 東堂が割り込んできます!」


「でしょうね」


 セイラはすでに反論文を用意していた。


「南小隊との支援契約により、南側退避路と旧式バリケードの共同管理が成立。中央拠点の安全確保における第三者承認を獲得。東堂重工の企業承認より、現地安全管理承認を優先します」


 端末が激しく点滅する。


【東堂重工:異議申立】

【九条セーフティリンク臨時隊:現地安全管理承認】

【白鷺連合:占有率不足】

【判定中】


 数秒。


 長い。


 東堂隊長が叫ぶ。


「企業承認が優先されるはずだ!」


 俺はその言葉を鑑定する。


 対象:東堂隊長の発言

 嘘:企業承認が優先されるはず


「嘘です!」


 セイラが即座に入力する。


【判定確定】

【中央拠点の一時所有権を九条セーフティリンク臨時隊へ付与】


 中央拠点の端末が青く光った。


 管制塔の照明が切り替わる。


 周囲の防衛設備が、セイラの管理下に入る。


 彼女はゆっくり手を上げた。


「中央拠点」


 声は高くない。


 でも、フィールドの中でよく通った。


「いただきましたわ」


 直後、管制塔の防衛ドローンが起動し、東堂重工と白鷺連合の進路を塞ぐ。


 旧式バリケードが再配置され、中央拠点周囲に防衛線が作られる。


 東堂隊長は歯を食いしばった。


 白鷺連合も、これ以上の共同占有を諦めて後退する。


 中央拠点、確保。


 所有点が一気に加算される。


【九条セーフティリンク臨時隊】

【中央拠点:所有中】

【所有点加算】

【支援契約点加算】


 リアが笑った。


「取った!」


 ミナトが肩をすくめる。


「お嬢様、頭下げた甲斐あったね」


「その呼び方はやめなさい」


 セイラが睨む。


 だが、いつものような鋭さは少し弱かった。


 カナタが戻ってくる。


「悪くない」


「あなたに褒められると、少し妙な気分ですわね」


「褒めてる」


「分かっています」


 セイラは中央拠点の端末に手を置いた。


 その表情には疲れがある。


 でも、どこか晴れていた。


 彼女は、自分一人で所有しなかった。


 南小隊に頼み、使用権を借り、共同管理を受け入れた。


 その結果、中央拠点を取った。


 所有するだけでは守れない。


 誰かに頼むことで、守れるものもある。


 それを、セイラ自身が証明した。


 試合終了のアナウンスが流れたのは、その数分後だった。


【本戦第一試合終了】

【所有点、撃破点、契約点を集計します】


 結果はすぐに出た。


【一位:九条セーフティリンク臨時隊】

【二位:東堂重工探索部】

【三位:白鷺連合】


 リアが拳を握る。


「よし!」


 俺も思わず息を吐いた。


 勝った。


 本戦第一試合、突破。


 セイラはモニターを見上げていた。


 観客席から拍手が起こる。


 その中には、南小隊の四人の姿もあった。


 彼らは控えめに手を叩いている。


 セイラは少し迷ったように見えた。


 それから、彼らの方へ向かって、軽く頭を下げた。


 深々とではない。


 でも、確かに。


 南小隊のリーダーが、少し驚いた顔をした後、笑った。


 俺はその光景を見て、少しだけ胸が熱くなった。


 セイラはまだ高飛車だ。


 口も悪い。


 きっと、これからも簡単に性格が丸くなることはない。


 でも、彼女はもう、所有することだけで戦っていない。


 頼むことを覚えた。


 借りることを覚えた。


 頭を下げることを、弱さではなく戦い方に変えた。


 それは、今回の勝利以上に大きい気がした。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


本戦第一試合、所有権争奪戦は九条セーフティリンク臨時隊の勝利となりました。


今回はセイラの成長回でした。

彼女の《所有権》は強力ですが、所有権を曖昧にされたり、契約の抜け穴を突かれたりすると、一人では限界があります。


そこで必要になったのが、南小隊への協力要請でした。

以前のセイラなら命令していた場面です。

けれど今回は、きちんと頭を下げ、相手の権限を尊重した上で力を借りました。


所有することだけが強さではない。

誰かに頼み、借り、責任を明確にした上で共に使うこともまた、セイラの新しい戦い方になりつつあります。


次回は本戦第二試合、リアにとって厳しい人気投票バトルへ進みます。

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