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第28話 嘘つき迷路

『この先、味方の一人が嘘をついています』


 迷路の奥から流れた音声は、やけに澄んでいた。


 焦らせるような警告音ではない。

 脅すような声でもない。

 むしろ、親切な案内みたいな声だった。


 だからこそ、嫌だった。


 国家選抜戦、第一予選。

 嘘つき迷路。


 その名前の通り、ここでは情報そのものが武器になる。


 壁の標識。

 運営からの音声。

 他チームから流れてくる情報。

 床に刻まれたルート表示。

 端末に届く案内。


 何が本当で、何が嘘なのか。


 俺の《鑑定》なら、それを見抜ける。


 そう思っていた。


 けれど、開始して一分で分かった。


 それだけでは足りない。


 通路は薄暗く、壁は黒い石のような素材でできている。

 天井は低く、ところどころに青白い照明が埋め込まれていた。


 俺たちは左の通路を進んでいる。


 先頭は御影カナタ。

 その少し後ろに九条セイラ。

 中央に俺と白峰リア。

 最後尾に鴉羽ミナト。


 並び順は、カナタが勝手に決めた。


「前は俺が見る。黒瀬は真ん中。リアは周囲。九条は判断。情報屋は後ろ」


「情報屋って呼ばないでよ」


「名前を呼ぶほど信用してない」


「ひどいなあ」


「本当のことだ」


 ミナトは笑っていたが、反論はしなかった。


 カナタは本当に口数が少ない。


 それでいて、必要なことだけは短く言う。


 足音も静かだった。


 やる気が薄そうに見えるのに、迷路に入った途端、動きだけは完全に探索者のものになっている。


 元S級。


 その肩書きは、やはり飾りではないらしい。


 リアが小声で言う。


「さっきの音声、どうする?」


 味方の一人が嘘をついている。


 その言葉。


 俺はすぐに鑑定したかった。


 だが、鑑定対象が曖昧だった。


 音声そのものを見る。


 対象:迷路音声案内

 嘘:味方の一人が嘘をついています


 表示は出た。


「今の案内、嘘です」


 俺が言うと、セイラがすぐに言った。


「つまり、味方に嘘つきはいない」


「……とは限りません」


 自分で言って、少し嫌になった。


 リアが俺を見る。


「どういうこと?」


「音声の文自体には嘘が出ました。でも、それは『味方の一人』じゃなくて『全員何かしら嘘をついている』可能性もあるし、『嘘をついているのはこの先じゃなくて今』みたいな引っかけかもしれない」


 ミナトが後ろで笑った。


「いいね。疑心暗鬼っぽくなってきた」


「楽しそうにしないでください」


「楽しくはないよ。面白いだけ」


「同じです」


 セイラが横目でミナトを睨む。


「黙りなさい。あなたが喋ると無駄に疑いが増えます」


「俺、いるだけで疑われるもんね」


「自覚があるなら改善なさい」


「改善したら仕事にならない」


「本当に不愉快ですわね」


 カナタが前を見たまま言う。


「止まるな。音声の目的は足止めだ」


 その一言で、俺たちは歩き続けた。


 そうだ。


 嘘かどうかを考えすぎると、足が止まる。


 迷路で足が止まれば、時間を失う。

 時間を失えば、焦る。

 焦れば判断が雑になる。


 嘘を見抜くこと自体が目的ではない。


 出口へ辿り着くことが目的だ。


 最初の分岐を越えると、通路は三方向に分かれていた。


 正面の壁に標識がある。


【左:出口方面】

【中央:安全経路】

【右:戦闘回避ルート】


 嘘が三つ並んでいるような、嫌な光景だった。


 リアが言う。


「どれ見る?」


「全部は見ません」


 俺は答えた。


 さっき佐伯に言われたことを思い出す。


 全部見ようとするな。


 必要なものだけ見ろ。


 俺はまず、左の標識を見る。


 対象:左標識

 嘘:出口方面


「左は出口方面じゃない」


 次に中央。


 対象:中央標識

 嘘:安全経路


「中央は安全じゃない」


 最後に右。


 対象:右標識

 嘘:戦闘回避ルート


「右も戦闘回避じゃない」


 全部嘘だった。


「最悪じゃん」


 リアが呟く。


 ミナトが肩をすくめる。


「でも全部嘘って分かっただけでも、普通のチームよりマシ」


 セイラが即座に言う。


「左は出口ではない。中央は危険。右は戦闘がある。では、選ぶなら右ですわ」


「なんでですか」


 俺が聞くと、セイラは歩きながら答えた。


「右の嘘は『戦闘回避』です。つまり戦闘はある可能性が高い。しかし、出口ではないとも安全ではないとも言われていない。中央は安全ではない。左は出口方面ではない。消去法です」


 カナタが頷いた。


「右でいい」


「戦闘あるんですよね?」


 リアが確認する。


「あるだろうな」


「軽い」


「避けられない戦闘なら、見えていた方がいい」


 そう言って、カナタは迷わず右へ進んだ。


 俺たちも続く。


 通路をしばらく進むと、床に赤いラインが現れた。


 その先に、低い唸り声。


 魔物だ。


 影の中から、犬型の魔物が二体現れる。


 危険度は高くない。

 E上位からD下位くらい。


 ただ、動きは速そうだ。


 カナタが剣袋から武器を抜いた。


 古びた片手剣。


 派手さはない。

 だが、抜いた瞬間に空気が変わった。


 リアが構える。


 セイラは周囲の壁を確認している。


「迷路内の照明と床の一部は、運営所有ですわね。私の《所有権》では動かせません」


「じゃあ今回は?」


「使えるものを探しています」


 ミナトが後ろから言う。


「左壁の非常プレート、あれ外部業者の管理タグついてるよ。九条系列じゃない?」


 セイラが一瞬で見る。


「……使えますわ」


「ほら、俺も役立つ」


「調子に乗らないこと」


 魔物が飛びかかってくる。


 カナタが一歩前に出た。


 速い。


 俺が反応するより先に、一体目の進路を剣の腹で逸らしていた。


 斬ってはいない。


 殺すためではなく、流すための動き。


 もう一体がリアへ向かう。


 リアは大きく避けるのではなく、少しだけ横へずれた。


 最小限の動き。


 そのまま魔物の側面へ蹴りを入れる。


「せっ!」


 魔物がよろめく。


 そこへ、セイラが左壁の非常プレートを外す。


 金属板が床に落ちる直前、彼女が指を動かした。


 プレートが滑るように動き、魔物の足元に入り込む。


 魔物が踏んで滑った。


 カナタが柄で首元を打ち、動きを止める。


 もう一体も、リアが距離を取ったところでカナタが押さえた。


 あっという間だった。


 カナタは剣を下ろす。


「進む」


「え、もう?」


 リアが少し息を弾ませながら言う。


「倒し切る必要はない。足止めでいい」


 カナタはそう言って、すでに先へ歩いている。


 元S級。


 強いというより、無駄がない。


 戦闘を見せ場にする気がない。


 生きて進むために必要な分だけ動く。


 俺はそれを見て、少しだけ背筋が伸びた。


 国家選抜戦の会場では、俺たちの動きも記録されている。


 どこかで誰かが見ている。


 リアのように魅せる戦いを期待している人もいるだろう。


 だが、カナタはまったく気にしていない。


 見せるためではなく、生きるために動いている。


 通路の奥で、また音声が流れた。


『現在、最下位のチームは九条セーフティリンク臨時隊です』


 リアが反射的に顔を上げる。


「え、うちら?」


 俺はすぐに鑑定する。


 対象:迷路音声案内

 嘘:現在、最下位のチームは九条セーフティリンク臨時隊です


「嘘です」


 セイラが即座に言う。


「無視」


 だが、リアの表情は少し硬い。


 配信者としての癖だろう。


 順位。

 視聴者の評価。

 遅れているという情報。


 そういうものは、リアに刺さりやすい。


 俺は小声で言った。


「リアさん、大丈夫です。嘘です」


「うん、分かってる」


 リアは苦笑する。


「分かってるんだけど、焦るね。こういうの」


 セイラが言う。


「焦っても速度は上がりませんわ」


「九条さん、正論だけど言い方」


「正論は言い方で価値が下がるものではありません」


「下がる時あるよ?」


「ありません」


「あるって」


 リアが少し笑った。


 さっきより表情が戻っている。


 セイラの言い方はきついが、結果的にリアの焦りを散らしたのかもしれない。


 ミナトが後ろで言う。


「でも、この音声、面白いね」


「何がですか」


 俺が聞くと、ミナトは壁のスピーカーを見た。


「全員に同じ内容を流してるわけじゃないかも。チームごとに刺さりそうな嘘を流してる可能性がある」


 セイラが眉をひそめる。


「根拠は?」


「さっき隣の区画から聞こえた音声は、『あなたたちのリーダーは脱落しました』だった。うちは順位。リアさんに刺さる」


 リアが顔をしかめる。


「嫌な分析」


「そういう試験でしょ」


 カナタが言う。


「個人の弱点を突く迷路か」


 その声に、少しだけ嫌なものが混じった気がした。


 俺はカナタを見る。


 鑑定したい気持ちを抑えた。


 今は必要ない。


 全部見るな。


 そう自分に言い聞かせる。


 次の区画に入ると、空気が変わった。


 通路が広くなり、壁に複数の扉が並んでいる。


 それぞれの扉に名前が書かれていた。


【白峰リア】

【九条セイラ】

【鴉羽ミナト】

【御影カナタ】

【黒瀬透真】


 自分たちの名前。


 嫌な予感しかしない。


 中央の床に、文字が浮かび上がる。


【一人だけ、自分の扉に入れば近道が開く】

【ただし、嘘つきが入れば全員が遠回りになる】


 リアが小さく言う。


「うわ、性格悪」


 セイラはすぐに俺を見る。


「鑑定」


「はい」


 俺は床の文字を見る。


 対象:床表示

 嘘:一人だけ、自分の扉に入れば近道が開く


「近道が開く、が嘘です」


 ミナトが言う。


「じゃあ入らないでいいね」


「待て」


 カナタが低く言った。


 彼は扉を見ている。


「扉の奥に音がある」


「音?」


「魔物じゃない。風だ」


 セイラが少し考える。


「換気経路。つまり、どれかが出口方面へつながっている可能性はありますわね」


「でも床表示は嘘でした」


 俺が言うと、カナタは頷く。


「近道は嘘。でも、通路ではあるかもしれない」


 ミナトが楽しそうに言う。


「いいね。黒瀬くんの鑑定結果を、どう解釈するかのゲームになってる」


「楽しむな」


 カナタが短く言う。


 ミナトは肩をすくめた。


 セイラは扉の名前を見た。


「この試験は、誰を選ぶかで揉めさせたいのでしょう。なら、選ばなければいい」


「全部開けるんですか?」


 リアが聞く。


「ええ」


「所有権で?」


「いえ。扉そのものは運営所有です。私のものではありません」


「じゃあどうやって?」


 セイラはミナトを見る。


「鴉羽ミナト。あなた、こういう扉の裏を見る方法くらい知っているでしょう」


「便利に使うねえ」


「契約範囲内です」


「はいはい」


 ミナトは扉の近くへ行き、端末を取り出した。


 何かを操作する。


「運営のセキュリティには触らないよ。契約違反になるからね。ただ、扉の下の空気流量くらいなら測れる」


 端末に数値が出る。


 ミナトは五つの扉を順番に確認した。


「カナタさんの扉だけ、奥が広い。あとは行き止まりっぽい」


 リアがカナタを見る。


「カナタさんの名前の扉?」


 カナタは表情を変えない。


「罠かもしれない」


「でも風がある」


「そうだ」


 セイラが俺を見る。


「扉自体を鑑定できますか」


「やってみます」


 対象:御影カナタの扉

 嘘:御影カナタ専用


「カナタさん専用、が嘘です」


 セイラが頷く。


「なら、全員で入ります」


「自分の扉に入れっていうルールは?」


「床表示の前提が嘘です。従う必要はありません」


 カナタは一度だけ俺を見る。


「いい判断だ」


 それはセイラへ向けた言葉だった。


 セイラは少しだけ目を瞬かせた。


「当然ですわ」


 褒められ慣れていないのか、ほんの少しだけ反応が遅れた。


 俺たちは、カナタの名前が書かれた扉を全員でくぐった。


 奥は狭い通路だった。


 確かに風がある。


 そして、壁に小さな文字が刻まれていた。


【自分の名前を選ばなかった者は、信頼を失う】


 リアが見た瞬間、苦笑した。


「ほんとにしつこい」


 俺は鑑定する。


 対象:壁文字

 嘘:信頼を失う


「嘘です」


 セイラが言う。


「知っています」


 ミナトが軽く笑う。


「俺はもともと信頼ないし」


「そこは直しなさい」


「無理かな」


「努力なさい」


「契約に入ってない」


「次から入れます」


「怖いなあ」


 狭い通路を抜けると、広い円形の部屋に出た。


 中央には石柱。

 上には出口までの残り距離らしき表示が浮かんでいる。


【残り三百メートル】


 リアが明るい声を出す。


「近い!」


 俺は念のため鑑定した。


 対象:距離表示

 嘘:残り三百メートル


「嘘です」


「だよね!」


 リアがやけくそ気味に言う。


 ミナトが周囲を見回す。


「でも、出口が近いか遠いかより、ここが中間チェックポイントっぽい」


 セイラが柱を確認する。


「運営端末がありますわね」


 石柱の下部に、小型端末が埋め込まれている。


 そこにチーム名を登録すれば、通過記録が残る仕組みらしい。


 セイラが端末に手を伸ばす。


 その瞬間、俺の鑑定表示が出た。


 対象:チェックポイント端末

 嘘:通過記録のみ


「待ってください!」


 セイラの手が止まる。


「通過記録だけじゃないです」


 ミナトが目を細める。


「他に何がある?」


 俺はさらに見る。


 対象:チェックポイント端末

 機能:通過記録、チーム内信頼度測定、個別評価送信

 危険:評価誘導


「チーム内信頼度測定と、個別評価送信があります。何か誘導されるかも」


 セイラが手を引く。


「触れない方がいいですわね」


 カナタが首を横に振った。


「通過記録を残さないと失格の可能性がある」


「でも触ったら危険です」


 リアが言う。


 ミナトが端末を覗き込む。


「触り方の問題かも。全員の個別評価を取る仕組みなら、代表者だけが触ると偏る」


「つまり?」


 俺が聞く。


 ミナトは笑う。


「全員で触ればいい」


「大丈夫なんですか?」


「知らない」


「知らないで提案しないでください」


 セイラが考える。


「個別評価を取るなら、誰か一人だけを通過者として扱う可能性があります。全員同時に認証すれば、少なくとも単独評価にはなりにくい」


 カナタが頷く。


「やるなら同時だ」


 リアが俺を見る。


「黒瀬さん、どう?」


 俺は端末を見る。


 同時接触。


 鑑定できるかは分からない。


 対象:五人同時認証

 嘘:不可


「不可、が嘘です。つまり、できます」


 セイラが言う。


「では、同時に」


 俺たちは石柱の端末に手を伸ばした。


 カナタ。

 リア。

 セイラ。

 ミナト。

 俺。


 五人の手が同時に触れる。


 端末が光った。


【九条セーフティリンク臨時隊】

【通過確認】

【個別信頼値:測定不能】

【チーム判定:保留】


 ミナトが吹き出した。


「測定不能だって」


「喜ぶところですの?」


 セイラが聞く。


「たぶんね。運営が欲しい数字を取らせなかった」


 カナタが言う。


「進むぞ」


 俺たちはさらに奥へ進んだ。


 通路はだんだん明るくなっている。


 出口が近いのか。

 それともそう思わせる罠か。


 もう分からない。


 分からないまま、進む。


 しばらくすると、前方に別のチームが見えた。


 三人組。


 どうやら分岐で迷っているらしい。


 その一人がこちらに気づいて叫ぶ。


「おい! そっちの道、出口じゃない! 戻れ!」


 リアが反射的に止まりかける。


 俺はその言葉を鑑定する。


 対象:他チーム探索者の発言

 嘘:そっちの道、出口じゃない


「嘘です!」


 セイラが即座に言う。


「進みます」


 だが、その探索者は必死な顔で続ける。


「違う、ほんとだ! そっちは罠だ! 俺たちも戻ってきたんだ!」


 もう一度鑑定。


 対象:他チーム探索者の発言

 嘘:俺たちも戻ってきた


「戻ってきた、が嘘です!」


 ミナトが言う。


「あれ、敵チームじゃないかもね。迷路が投影した偽探索者かもしれない」


 リアが目を凝らす。


「でも本物っぽい」


 カナタが短く言う。


「本物でも嘘はつく」


 そのまま進もうとした瞬間、別の声が聞こえた。


「待って! 本当に危ないんです!」


 若い女性の声。


 見ると、さっきの三人組の後ろに、一人だけ座り込んでいる探索者がいた。


 足を押さえている。


 怪我をしているように見える。


 彼女は涙目で言った。


「助けてください……この先に魔物がいて、仲間が……」


 リアの顔が変わった。


 第1章の瀬尾を思い出したのかもしれない。


 負傷したふり。

 助けろと騒ぐコメント欄。

 リアが近づいた瞬間の高木の短剣。


 あの時と似ている。


 俺は鑑定した。


 対象:負傷探索者

 嘘:怪我をしている

 危険:足止め


「怪我は嘘です。足止めです」


 リアは小さく息を吐いた。


「……了解」


 彼女は女性探索者から目を逸らさずに言った。


「ごめん。助けないんじゃなくて、今のあなたは助けが必要な状態じゃない」


 その言葉を聞いた瞬間、負傷探索者の姿が揺らいだ。


 映像だった。


 迷路が作った偽の足止め。


 リアは唇を噛んだ。


「ほんと性格悪い」


 セイラが言う。


「あなたに刺さる罠でしたわね」


「うん。でも、今度は止まらなかった」


「悪くありません」


「それ、褒めてる?」


「少しだけ」


 リアは少し笑った。


 先へ進むと、ようやく出口らしき光が見えた。


 今度こそ。


 そう思ったが、油断はできない。


 出口の前に、最後の標識があった。


【この出口を通るには、チーム内の一人を置いていく必要があります】


 空気が止まった。


 ミナトが口笛を吹きそうになり、セイラに睨まれてやめた。


「次の試験みたいなこと、もうやってくるんだね」


 ミナトが言う。


 俺は標識を鑑定する。


 対象:出口標識

 嘘:一人を置いていく必要があります


「嘘です」


 リアがすぐに言う。


「じゃあ全員で行こう」


 カナタが出口を見た。


「罠はある」


「でも置いていく必要はない」


 俺が言うと、セイラが頷く。


「全員で通ります。ただし、隊列を崩さない」


 ミナトが笑う。


「いいね。綺麗なチームっぽい」


「黙りなさい」


「はいはい」


 俺たちは全員で出口へ進んだ。


 光の直前、足元の床が一瞬沈んだ。


 カナタが即座に俺の襟首を掴んで引き戻す。


「うわっ!」


 床の一部が開き、下に落とし穴が見えた。


 だが、落ちる前にセイラが近くの金属枠を動かし、足場を作る。


 リアが俺の腕を掴んで引っ張る。


 ミナトはいつの間にか安全な位置に移動していた。


「危なっ」


 俺は息を荒げる。


 カナタが言う。


「だから罠はあると言った」


「助かりました」


「礼はいらない。次は足元を見ろ」


「はい」


 厳しい。


 でも、正しい。


 全員が足場を渡り、出口の光を抜ける。


 次の瞬間、視界が開けた。


 仮設ドームの明るい照明。


 運営ドローン。

 観客席のざわめき。

 大型モニター。


 俺たちは第一予選会場の出口に立っていた。


 モニターに表示が出る。


【九条セーフティリンク臨時隊】

【第一予選通過】

【通過順位:七位】

【チーム内信頼評価:異常値】


 リアが笑った。


「異常値って何?」


 ミナトが肩をすくめる。


「このチームに信頼とか測ろうとする方が悪い」


 セイラが言う。


「通過したなら十分ですわ」


 カナタは剣を袋に戻す。


「七位なら悪くない」


 俺はモニターを見つめた。


 嘘つき迷路。


 嘘を見抜くだけでは突破できなかった。


 ミナトの情報。

 カナタの経験。

 セイラの判断。

 リアの反応。

 俺の鑑定。


 どれか一つだけでは足りなかった。


 俺は、少しだけ息を吐いた。


 その時、大型モニターの別枠にアルカディア・ゲート推薦チームの名前が表示された。


【アルカディア・ゲート推薦チーム】

【第一予選通過】

【通過順位:一位】


 一位。


 やはり強い。


 いや、ただ強いだけではないのかもしれない。


 彼らは、この試験が公正ではないことを知っていた。


 その表示を見ていると、ミナトが俺の横に来た。


「黒瀬くん」


「何ですか」


「次、気をつけた方がいいよ」


「何を」


 ミナトは笑みを浮かべていた。


 でも、目は笑っていなかった。


「次の試験、チームを壊しに来る」


「前も言ってましたね」


「うん。今度は本当に来る」


 彼はモニターのアルカディア推薦チームを見た。


「迷路はまだ優しい方。嘘を見抜くゲームだったからね。次からは、見抜いた嘘をどう扱うかのゲームになる」


 俺は何も言えなかった。


 セイラが横から言う。


「契約上、知っていることがあるなら出しなさい」


「まだ確定情報じゃない」


「鴉羽ミナト」


「はいはい。分かったよ」


 ミナトは両手を上げた。


「次の予選は、無音エリアか、裏切り者選別系のどっちか。順番はまだ分からない。でも、運営側にアルカディアの影があるのは確か」


 佐伯が近づいてきた。


 いつの間にか、予選出口で待っていたらしい。


「その情報、出所は?」


「高いよ」


「契約範囲内です」


 セイラが言う。


 ミナトは笑った。


「じゃあ後で話す」


 佐伯は俺たちを見た。


「まずは通過、お疲れさまでした。次の予選まで時間があります。休息と情報整理を行います」


 リアが伸びをする。


「七位かあ。まあまあ?」


 カナタが言う。


「生きて出たなら十分だ」


 その一言は重かった。


 生きて出る。


 それは、ダンジョンでは一番大事なことだ。


 俺は頷いた。


「はい」


 第一予選は突破した。


 でも、まだ始まったばかりだ。


 アルカディアは一位で通過した。

 ミナトは次にチームを壊しに来ると言った。

 そして、俺の鑑定だけでは足りないことも分かった。


 嘘は見える。


 でも、嘘が見えた後にどう動くかは、俺一人では決められない。


 この即席で、信用しきれない、どこか歪なチームで。


 次も進むしかない。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


第一予選「嘘つき迷路」を突破しました。


透真の鑑定は強力ですが、今回の迷路ではそれだけでは足りませんでした。

嘘を見抜けても、その嘘が何を意味するのか、どの情報を捨てるのか、どの道を選ぶのかは別問題です。


今回は、ミナトの情報収集、カナタの経験、セイラの判断、リアの反応力がそれぞれ機能しました。

即席チームではありますが、少しずつ役割が見え始めています。


一方で、アルカディア推薦チームは一位通過。

まだ正面からぶつかったわけではありませんが、国家選抜戦の中にもアルカディアの影が見え始めています。


次回は、ミナトの立ち位置がさらに問題になります。

味方なのか、敵なのか。

そもそも味方という言葉で扱える人物なのか。

そのあたりに踏み込んでいきます。

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