第22話 鴉羽ミナトは情報を売る
三谷ユイの救護搬送が終わった後、管理局新宿支部の会議室には、しばらく誰も声を出さなかった。
モニターには、アルカディア・ゲートへの緊急介入記録が残っている。
訓練区画。
単独判断訓練。
失敗記憶再構成。
救助衝動過剰。
恐怖反応抑制。
そして、魔物へ自発的に突撃しかけた三谷ユイ。
あれは訓練ではなかった。
少なくとも、俺にはそう見えなかった。
誰かの過去の失敗を掘り返し、意味を与え直し、逃げる選択を消していく。
その結果、本人は自分の意思だと思いながら、危険へ進んでいく。
アルカディアはそれを、失敗記憶再構成と呼んでいた。
綺麗な言葉だった。
だからこそ、吐き気がした。
佐伯ユズルは、端末に淡々と記録を入力している。
九条セイラは腕を組み、モニターを睨んでいた。
白峰リアは、オンライン通話で参加している。
顔は映していない。
声だけだ。
『三谷さん、無事なんだよね?』
リアの声は、いつもより少し低かった。
佐伯が答える。
「命に別状はありません。軽い打撲と、強い心理的負荷。現在は管理局の保護下です」
『よかった……』
リアが小さく息を吐く音が聞こえた。
俺も同じ気持ちだった。
だが、胸の奥は軽くならない。
あの時、俺は澪の記録へ手を伸ばせた。
アルカディアの事故記録アーカイブ。
一瞬だけ開いた検索欄。
黒瀬澪の名前を入れれば、何かが見えたかもしれない。
でも、俺は三谷ユイを選んだ。
後悔していない。
そう言いたい。
けれど、痛くないわけではなかった。
セイラが俺を見る。
「黒瀬透真」
「はい」
「またその顔ですの?」
「どの顔ですか」
「自分の選択を何度も噛み直して、勝手に傷口を広げている顔」
「……そんな分かりやすいですか」
「かなり」
リアの声が通話越しに入る。
『黒瀬さん、顔に出るもんね』
「リアさん、今映像見えてないですよね」
『見えてなくても分かる』
ひどい。
いや、たぶん当たっている。
佐伯が端末を置いた。
「黒瀬さんの判断で三谷ユイさんは助かりました。その事実は記録されています」
「はい」
「澪さんの記録に関しては、別の手段を探します」
「……別の手段、ありますか」
「あります」
佐伯は即答した。
珍しく、断定した。
「ただし、信用できる手段ではありません」
嫌な予感がした。
セイラも眉をひそめる。
「佐伯。まさか、あの男を使う気ですの?」
「そのまさかです」
「最悪ですわね」
リアが通話越しに聞く。
『誰?』
佐伯は少しだけ間を置いた。
「鴉羽ミナト。元アルカディア・ゲートの情報工作員です。現在は情報屋として動いています」
情報屋。
その言葉だけで、もう面倒な匂いがする。
セイラは露骨に嫌そうな顔をした。
「信用できませんわ」
「はい」
「平気で嘘をつきますわ」
「はい」
「相手にもこちらにも情報を売りますわ」
「はい」
「では、なぜ使うのです?」
「それでも、アルカディア内部に残っている情報へ届く可能性があるからです」
佐伯は淡々と言った。
「アルカディアの正式サーバーは、今日の件で相当警戒されています。令状を取って踏み込むまでに、重要データは移動されるでしょう」
「だから、裏から買うと?」
「はい」
セイラは舌打ちしそうな顔をしたが、実際にはしなかった。
「私は嫌いですわ」
「でしょうね」
「あなたは?」
「嫌いです」
佐伯が即答した。
俺は少し驚いた。
「佐伯さんが嫌いって言うの、珍しいですね」
「好き嫌いと利用価値は別です」
「こわ」
リアが通話越しに呟いた。
セイラは腕を組む。
「鴉羽ミナトは、情報そのものよりも、情報の流れを売る男です。誰が何を知りたがっているか。誰がどこまで掴んだか。そういうものまで商品にしますわ」
「つまり、俺たちが接触した時点で、アルカディアにも売るかもしれない」
俺が言うと、佐伯は頷いた。
「売るでしょう」
「止めないんですか」
「止められません」
「じゃあ危険すぎるのでは」
「危険です」
この人、今日はやけに正直だ。
いや、いつも正直ではある。
ただ、今日は言葉が重い。
リアが言う。
『でも、使うしかないんだ』
「はい」
佐伯は画面へ資料を出した。
黒いフードを被った男の写真。
年齢は二十代半ばくらい。
細い目。
軽そうな口元。
笑っているのに、目が笑っていない。
名前。
鴉羽ミナト。
元アルカディア・ゲート情報工作部門所属。
退職後、探索者界隈の炎上、企業契約、裏取引、情報流出に関与。
公式には複数の調査対象。
ただし、決定的な証拠は少ない。
「うわ、嫌な経歴ですね」
「ええ」
佐伯が頷く。
セイラが冷たく言う。
「情報を売る人間は、信用を売らない。あの男はその典型ですわ」
『でも、アルカディア嫌いなんでしょ?』
リアが言った。
セイラは少し目を細める。
「それも信用できませんわ」
「どういうことですか」
「あの男は、嫌いな相手にも情報を売ります。嫌っているから裏切るとは限りません。嫌っていても、金になるなら使う。嫌っていても、面白いなら泳がせる。そういう人種ですわ」
最悪だった。
だが、俺は写真のミナトから目を離せなかった。
どこか引っかかる。
軽い。
信用できない。
でも、ただの金目当てだけにも見えない。
まだ会ってもいないのに、そう思うのは危険かもしれない。
佐伯が言う。
「すでに接触の打診はしています」
「早いですね」
「三谷さんを保護した直後に」
「仕事が早すぎる」
「早くないと負けます」
その言葉には、冗談がなかった。
会う場所は、管理局ではなかった。
新宿の外れにある、古い雑居ビルの地下。
表向きは会員制のバー。
実態は、探索者、配信者、企業関係者、記者、情報屋が出入りする中立地帯らしい。
俺は正直、行きたくなかった。
だが、行くことになった。
メンバーは、俺、佐伯、セイラ。
リアは同行しない。
活動休止中であることもあるが、鴉羽ミナトが情報屋なら、リア本人が顔を出すだけで余計な材料を与える。
『私は外からログ見てる。変なことあったらすぐ言って』
「分かりました」
『黒瀬さん、変な挑発に乗らないでね』
「乗らないです」
『ほんと?』
「……たぶん」
『そこは言い切ってよ』
無理だった。
俺は自分がそこまで器用ではないことを、最近ようやく理解してきている。
夜。
雑居ビルの地下へ降りる階段は、細くて暗かった。
壁には古いポスター。
階段の端には、消えかけの誘導灯。
扉の奥から、低い音楽が漏れている。
佐伯は平然としている。
セイラは不愉快そうだ。
「趣味の悪い場所ですわね」
「中立地帯としては、よく使われます」
「中立という言葉は、信用できない者たちが好みますわ」
「正しいですね」
佐伯が普通に肯定した。
扉を開けると、薄暗いバーがあった。
客は少ない。
カウンターに数人。
奥のテーブルに二組。
店員は無言でグラスを拭いている。
そして、一番奥の席に、写真で見た男が座っていた。
黒いジャケット。
細い指。
手元には安そうなグラス。
口元には、軽い笑み。
鴉羽ミナト。
彼は俺たちを見ると、ひらひらと手を振った。
「やあ。管理局さんと、悪役令嬢様と、噂のFランク鑑定士」
第一声から嫌だった。
セイラの眉が動く。
「その呼び方をもう一度したら、席を立ちますわ」
「怖い怖い。じゃあ九条さんで」
「軽薄ですわね」
「よく言われる」
ミナトは笑った。
佐伯は正面に座る。
俺とセイラも席についた。
ミナトは俺をじっと見た。
「黒瀬透真。いやあ、実物は思ったより普通だね」
「最近よく言われます」
「普通の顔して、嘘を見ちゃうんだ」
心臓が少し跳ねた。
やはり、知っている。
佐伯が口を挟む。
「鴉羽さん。黒瀬さんへの探りは不要です」
「探ってないよ。挨拶」
「不要です」
「管理局は堅いなあ」
ミナトは肩をすくめた。
セイラが冷たく言う。
「時間を無駄にするなら帰りますわ」
「相変わらずせっかちだね、九条さん」
「あなたと違って、情報を売り歩く趣味はありませんので」
「でも今日は買いに来た」
ミナトの笑みが少し深くなる。
「情報を」
セイラは黙った。
佐伯が言う。
「条件を確認します。アルカディア・ゲートの失敗記憶分類、および事故記録アーカイブへの接続情報。あなたはそれを持っている」
「持ってるかもしれない」
「言い値は」
「高いよ」
「金額を」
「お金だけじゃない」
ミナトは俺を見た。
「黒瀬透真の鑑定結果が欲しい」
空気が変わった。
佐伯の目が鋭くなる。
セイラが即座に言う。
「論外ですわ」
「まだ最後まで聞いてないのに」
「聞く価値がありません」
「九条さんが決めることじゃないでしょ」
ミナトは俺を見る。
「ねえ、黒瀬くん。君、自分がどれだけ価値あるか分かってる?」
「分かりたくないです」
「そういうところがいいね」
「よくないです」
「アルカディアは人の失敗記憶を商品にしてる。でも君は、その場で嘘を見られる。記憶が編集された後でも、本人が本当は何を隠しているか見えるかもしれない」
ミナトはグラスを軽く回す。
「それ、めちゃくちゃ高いよ」
嫌な言い方だった。
俺自身を値札つきで見られている気がする。
佐伯が言う。
「黒瀬さんの能力情報は売り物ではありません」
「管理局はそう言うよね」
「当然です」
「でも、アルカディアは欲しがる」
ミナトは笑う。
「もう欲しがってる」
俺は背筋が冷えた。
セイラが低く問う。
「あなた、もう売りましたの?」
「何を?」
「黒瀬透真の情報です」
「さて」
ミナトの顔を見た瞬間、俺は鑑定した。
対象:鴉羽ミナト
職業:情報屋
嘘:まだ何も売っていない
危険:取引相手
売っている。
少なくとも、何かは。
俺は口を開いた。
「あなた、もう売ってますね」
ミナトの笑顔が一瞬だけ止まった。
ほんの一瞬。
それから、彼は楽しそうに笑った。
「なるほど。これは高い」
セイラが立ち上がりかける。
「佐伯。帰りますわよ」
「待ってください」
佐伯はミナトを見たまま言った。
「鴉羽さん。こちらの動きをアルカディアへ売っているなら、あなたは交渉相手ではなく妨害者です」
「いやいや、情報屋だよ。情報屋は売る。買われたら売る。それだけ」
「こちらがあなたから買う意味は?」
「ある」
ミナトは笑みを消さずに言った。
「俺はアルカディアにも売る。でも、アルカディアが隠している情報も君たちに売る」
「信用できませんわ」
セイラが言う。
「信用なんて高級品、俺は扱ってないんだ」
「最低ですわね」
「褒め言葉として受け取るよ」
俺はミナトを見た。
鑑定。
対象:鴉羽ミナト
嘘:どちらが勝ってもいい
出た。
はっきりと。
俺は言った。
「あなた、どちらが勝ってもいいとは思ってない」
ミナトの指が止まった。
セイラと佐伯が、同時に俺を見る。
「中立を装ってる。でも、本当はアルカディアが嫌いなんじゃないですか」
ミナトは黙った。
初めて、軽い笑みが消えた。
バーの低い音楽だけが、少し遠く聞こえる。
数秒後、ミナトは小さく息を吐いた。
「嫌いだよ」
その声は、さっきまでと違っていた。
「大嫌いだ」
嘘は見えなかった。
ミナトはグラスを置く。
「でも嫌いだからって、タダで刺すほど俺は善人じゃない。アルカディアを壊したい奴らは、今まで何人もいた。正義感で突っ込んで、潰されて、記憶を弄られて、最後は自分が悪かったって言うようになる」
俺は言葉を失った。
ミナトは続ける。
「だから俺は売る。情報を。相手にも味方にも。そうすれば少なくとも、盤面の端には残れる」
セイラが冷たく言う。
「ただの自己保身ですわね」
「そうだよ」
ミナトはあっさり認めた。
「自己保身で生き残ってる。悪い?」
「悪いとは言っていません。醜いと言っているのです」
「きついなあ」
「事実ですわ」
ミナトは少し笑った。
だが、その笑いはさっきより弱かった。
佐伯が言う。
「売れる情報を提示してください」
「事故記録アーカイブの入口は、今日の件でもう閉じられた。黒瀬澪の名前では、たぶん表からは引けない」
俺の胸が痛んだ。
分かっていた。
でも、他人の口から言われると重い。
「ただし、完全に消えたわけじゃない」
俺は顔を上げた。
ミナトは俺を見ている。
「アルカディアは、記憶データを一箇所には置かない。原本、加工済み、学習用、検証用、営業用サンプル。いくつも分ける」
「澪の記録も?」
「可能性はある」
「どこに」
「それが商品だ」
ミナトは笑みを戻した。
「買う?」
殴りたくなった。
だが、ここで怒っても意味がない。
セイラが先に言う。
「条件は」
「三つ」
ミナトは指を三本立てた。
「一つ。俺が渡す情報の出所は聞かない」
「却下ですわ」
「じゃあ交渉終了」
「……続けなさい」
「二つ。俺がアルカディアにも情報を流すことを前提に動く」
「最悪ですわね」
「現実的でしょ」
「三つ目は」
佐伯が促す。
「黒瀬透真。君が見た鑑定結果の一部を、俺にも共有する」
「却下」
今度は俺が言った。
ミナトは少し意外そうに眉を上げる。
「早いね」
「俺の鑑定は売り物じゃない」
「でも君、管理局には喋ってる」
「佐伯さんは売らない」
言ってから、少しだけ佐伯を見た。
「……ですよね?」
「売りません」
「よかった」
ミナトが笑った。
「信頼してるんだ」
「少なくとも、あなたよりは」
「傷つくなあ」
「嘘ですね」
「バレた?」
軽い。
だが、完全に中身がないわけではない。
そこが厄介だ。
セイラが言う。
「鴉羽ミナト。契約にしましょう」
「契約?」
「ええ。あなたがこちらに渡す情報。こちらがあなたに渡す報酬。あなたがアルカディアへ流す可能性のある情報範囲。それを明文化する」
ミナトは楽しそうに目を細める。
「さすが九条さん。情報屋相手に契約で縛る?」
「信用できない相手ほど、契約が必要ですわ」
「俺、契約破るよ?」
「破った時に刺せる形を作るだけです」
「怖いねえ」
ミナトは笑った。
しかし、拒否はしなかった。
「いいよ。契約しよう。ただし、俺は抜け道も売り物にする」
「分かっていますわ」
セイラは即答した。
「だから、抜け道を含めて契約します」
佐伯が小さく言う。
「現実的ですね」
「不愉快ですけれど」
セイラはそう言って、ミナトを睨んだ。
その後、具体的な条件が詰められた。
ミナトが渡す情報。
アルカディア・ラーニングシステムズの失敗記憶分類リスト。
事故記録アーカイブのバックアップ所在候補。
記憶データの加工工程に関する内部資料。
そして、黒瀬澪に関する検索痕跡の有無。
ただし、澪の記憶そのものはまだ出ない。
ミナトはそこをはっきり言った。
「今渡せるのは、澪さんのデータがどこかに残っている可能性を示す足跡まで。中身は別料金……というより、別ルートが必要」
「別ルート?」
「アルカディア内部の研修施設。その奥にある記憶処理サーバー」
「そこへ行けと?」
セイラが問う。
ミナトは笑う。
「行きたいんでしょ?」
誰も答えなかった。
行きたい。
いや、行くしかない。
だが、それを口にすれば、ミナトの手のひらに乗るようで嫌だった。
ミナトは俺を見る。
「黒瀬くん」
「何ですか」
「今日、三谷ユイを助けたんだって?」
俺は黙った。
なぜもう知っている。
いや、情報屋なら知っていてもおかしくないのか。
「澪さんの記録を捨てて」
胸の奥が刺された。
セイラが低い声を出す。
「鴉羽」
「怒らないでよ。大事な確認だ」
ミナトは俺を見続ける。
「君は、生きてる人間を優先した。それは綺麗だ。でも次もできる?」
「……」
「次は、澪さんの記憶と、新人十人かもしれない。澪さんの真実と、アルカディアを刺す証拠かもしれない。選択はどんどん嫌になる」
ミナトの声は軽くなかった。
「それでも、嘘を見る?」
俺は拳を握った。
「見ます」
声は震えていたかもしれない。
でも、言った。
ミナトは少しだけ目を細めた。
鑑定表示が浮かぶ。
対象:鴉羽ミナト
嘘:期待していない
期待している。
この男は、俺たちがアルカディアを刺すことを期待している。
でも、自分だけでは刺さない。
だから情報を売る。
最低だ。
でも、使える。
セイラの言葉を思い出した。
信用できない相手ほど、契約が必要。
佐伯が立ち上がる。
「本日の交渉はここまでにしましょう。契約案は管理局と九条さん側で確認します」
「堅いなあ」
「必要です」
「じゃあ、最後に一つだけ」
ミナトは俺へ、小さなメモリーチップを滑らせた。
黒い、小さなチップ。
佐伯が即座に手を伸ばして止める。
「中身は」
「サンプル。失敗記憶分類の断片。ウイルスは入ってない、と言っても信用しないだろうけど」
「解析後に確認します」
「どうぞ」
ミナトは椅子にもたれた。
「ただし、早めに見た方がいい」
「理由は」
「アルカディアも、君たちが俺と会ったことをもう知ってるから」
空気が凍った。
佐伯が静かに問う。
「あなたが売った?」
「売った」
ミナトは笑った。
堂々と。
セイラが本気で睨む。
「本当に最低ですわね」
「だから言ったでしょ。俺は情報屋だって」
「帰りますわ」
セイラは立ち上がった。
佐伯もチップを回収し、席を立つ。
俺も立とうとした時、ミナトが小さく言った。
「黒瀬くん」
「何ですか」
「アルカディアはね、失敗した人間を二度使う」
「……どういう意味ですか」
「一度目はデータとして。二度目は、同じ失敗をする駒として」
ミナトは笑っていなかった。
「気をつけな。次に危ないのは、君が助けた三谷ユイかもしれない」
俺は動けなかった。
ミナトはまた軽い笑みに戻る。
「じゃ、また買いに来て。高くするけど」
バーを出た後、外の空気は冷たかった。
俺は何も言えなかった。
セイラも黙っている。
佐伯だけが、端末でどこかへ連絡していた。
「三谷ユイさんの保護状況を確認してください。念のため、坂井ナナさんたちも」
ミナトの言葉が残っている。
失敗した人間を二度使う。
データとして。
駒として。
アルカディアは、どこまで人間を材料として見ているのか。
俺はポケットの中で拳を握った。
澪の記録へ近づくには、鴉羽ミナトを使うしかないかもしれない。
でも、使えばこちらの情報も売られる。
アルカディアへ近づけば近づくほど、こちらも商品にされていく。
嘘。
記憶。
失敗。
恐怖。
恩。
全部が売り物になる世界。
その中で、俺は自分の鑑定だけは売らないと決めた。
たとえ、それがどれだけ高く売れるとしても。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は、鴉羽ミナトが登場しました。
情報屋としてはかなり厄介な人物です。
味方にだけ情報を渡すわけではなく、敵にも売る。
信用できない。
けれど、アルカディアの内部に届くためには、彼のような人間の情報が必要になる場面もあります。
透真たちは、信頼できる仲間だけで進める段階を少しずつ越え始めています。
信用できない相手を、どう使うのか。
使った結果、自分たちの情報もどう守るのか。
アルカディアに近づくほど、戦い方も汚くなっていきます。
それでも、透真は自分の鑑定だけは売らないと決めました。
ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。




