仕事と記憶の引き継ぎ
紙が捲られる音だけが響く。ここは機密情報管理室。異常能力対策管理局の情報や異能に関するデータ、その他名簿などが集められた場所である。そんな場所に暇さえあれば入り浸り資料を読み漁る人間がいた。それが神無月朔。彼はこの異常能力対策管理局、略して異管に属している人間である。そんな彼は今目の前にある資料を読み飛ばしながら、とある文字達を探している。次のページにさしかかるその瞬間、冷たい呼び出し音が鳴った。
「コードネーム、月喰い。仕事の時間となりました。即刻対策室へ向かいなさい。繰り返します――」
無機質な声に神無月朔は大きくため息をついた。そして開いていた資料を閉じ、元の場所に戻した。体を伸ばして、急かす声が聞こえていないかのようにゆったりとした足取りで対策室へと向かった。神無月朔は対策室と書かれた扉の前に立ち、ノックを三回した。すると扉が開いたため、遠慮なく部屋の中へと入った。しかし見覚えのない顔があるのを見て首を傾げた。
「新しい子?こんな時期に珍しいね」
部屋の中には制服を着た二人の女性の姿が見られた。一人は気の強そうな女性、副官である。彼女は朔のお気に入りとされており、朔の仕事関係を全て引き渡されている。そしてその傍に所在なく立っていたのが気の弱そうな女性であった。朔の言葉に副官は目を細めた。
「ええ、誰かさんが職員を殺したせいよ。ただでさえ人員不足なのに……これ以上職員を殺さないでくれる?」
耳の痛い副官の言葉に朔はへらりと笑った。一見親しみやすい雰囲気を醸し出しているが、実際現場に合えば普通の人ならこの部屋から飛び出して逃げてしまうだろう。それほどまでに朔は異常さを放っていた。その証拠に気の弱そうな女性は泣きそうな顔をして副官の腕に隠れた。彼女はどうして自分がこの施設に来たのか説明を受けている。そのため朔を危険人物だと判断し、恐怖対象となっている。朔は今にも泣きそうな彼女を見て小さく笑った。そして少し背をかがませ、視線を合わせた。目の前の彼女から小さく悲鳴が上がったのを無視して自己紹介を始めた。
「こんにちは~。俺は月喰い。君も可哀想だね。こんな施設に放り込まれるなんて。……そうだ、基本的に俺の邪魔はしないでね。特に探し物をしている時はね。前の子みたいに殺しちゃうから」
人懐っこい笑みのまま恐ろしい言葉を発した朔に、完全に萎縮した彼女は壊れた人形かのように首を上下に振っていた。そんな反応が気に入ったのだろう、朔はケラケラと笑って彼女を見ていた。そんな朔の後ろで固く握りしめた手が朔へと振り下ろされた。犯人は拳を作って真顔になっている副官だ。漫画も仰天のゴッという遠慮のない殴りに空間は静まり返った。
「っ……、もー。本当、副官じゃなかったら殴ってたよ」
静寂を破ったのは殴られた箇所を撫でる朔であった。殴られて尚ヘラヘラしている彼に気の弱い女性は心臓が冷たくなる感覚を覚えている。
「怖がらせないで。そもそも貴方が余計なことしなければこの子がここに来ることもなかったのよ」
それもそうだけどさ~とふて腐れる朔にため息をつく副官。そして副官はもう一度大きなため息をつきながら資料を手で叩いた。
「ほら、今日はこの子のためにもちゃんと資料の説明をするんだから。座って」
へーい、とこれまたやる気の感じられない返事をしつつ、近くにあった席へと座った。そしてそこから副官の分かりやすい説明が始まった。副官の隣にいた彼女はメモ帳を片手に真剣に聞いているのに対し、朔はだらんと椅子にもたれ掛かって目を瞑っていた。気の弱い女性が起こそうか悩んでいる間に説明は終わってしまった。すると朔は目を開けて体を伸ばした。そして手をひらひらと動かして朔は異管から出て行った。朔が来た目的地はまるで解体作業が途中で止められたかのような場所だった。鉄筋と床だけが残る建物にルンルンで入っていく。人の気配は確実にするがどこを探しても見つけられない現状に朔は首を傾げた。そして異能者がいることを伝える機械を見る。機械は問題なく異能者がいると振動していた。もう一度周囲を見渡すが気配のみ。その気配も薄れていく感覚に朔は故障を疑って機械を分解し始めた。その瞬間を待っていたと言わんばかりに、黒い影が朔のすぐ近くまで急接近した。黒い影は片腕を獣の腕に変え、一直線に朔へと振り下ろした。低い地響きが鳴り、粉塵により視界は白く濁る。視界が晴れると、朔がいた場所はへこみ崩れていた。その真ん中でニヤリと笑ったのが、今回朔の処分する影虎だった。影虎は塵も残らなかった朔を嘲笑し、またもや闇に紛れ込もうとした。
「あ~、逃げないで。というか助けて。これ分解したら元に戻せなくなったんだけど……。君直せる?」
へらりと笑って分解した機械を影虎に見せる朔。影虎はまだ朔が生きていたことに驚き警戒心を上げる。しかし朔は影虎の腕を見て落胆した。
「その腕じゃ直せないよね……、仕方ない。自分で直すか」
そうしてまた機械へと集中した。影虎はそんな舐められたような行為に苛つき、今度は朔の首めがけて鋭い爪を伸ばした。だが朔は機械をいじりながら軽々と避ける。そんな姿を見て完全に怒った影虎は全身を虎へと変えて低い声で彼を威嚇した。威嚇された朔はチラリと影虎を見たかと思えば、少しぐらい待ってくれてもいいでしょ~?と呆れながら機械をポケットに押し込んだ。影虎がフェイントをかけて後ろから攻撃するのをゆっくりと目で追っていた朔はどこからか斧を取り出して片手で振りかぶった。朔の瞳にはもう影虎は映っていない。そして自身の首へと伸ばされる腕に振り下ろした。すると影虎は床に叩きつけられた。影虎の腕は切断され、叩きつけられた衝撃で人型を保っていなかった。これが朔の仮能力「身体強化」であった。斧とは思えない重たい斬撃に体の一部が残っていることから、朔は手加減をしていることが見受けられる。完全に処分者が死亡したことを確認して、さっさと機械を直して電話をかけた。これが朔の仕事内容だ。
仕事が終わり、俺は情報室に引きこもっていた。毎度思うが、どうして情報室はこんなに暗いのだ。この場所こそ明るくあるべきだろう。さっきまで読んでいた資料をもう一度引っ張り出して、とある文字達を探す。探せば探すほど見つからない彼らに悲しさが積もる。ったく、いつからそんなにかくれんぼが上手になったのやら。もう10年はお前らを探しているんだぞ。そろそろ顔を見せてくれたっていいじゃないか。そんなことを考えつつ資料を読む。気がついた頃には時計の針は夜を告げていた。ふと周りを見たら俺が読んだ書類の山。そろそろ帰らなきゃな。後ろ髪が引かれる思いのまま資料を片付ける。家に帰る頃には世界は真っ暗になっていた。一人で暮らすにはあまりにも広すぎる家。電気を付けることもなく布団へと寝転がる。またこの家も騒がしくなるのかな。目を閉じれば聞こえてくるあいつらの声。低くて優しい声、少し高い安心できる声、どこまでも明るい大きな声。困ったらすぐ朔さんって呼ぶあの子達の声。あぁ、早く会いたいなぁ。布団の冷たさだけがどこか現実を感じさせた。――明るくなった部屋の中無慈悲な音がした。まるでこちらが寝ているのを知ったことじゃないと言うかのように鳴り続ける着信音。時間を見れば朝の8時。……無視しようかな。寝てたって言ったら許してくれないかな。携帯に表示されている文字を想像して、ため息をつき電話に出た。
「あら、案外早く出たわね。おはよう。仕事があるからこっちに来れるかしら?」
想像していた通りの副官の声に舌打ちをする。来れるかしら?なんて聞いておきながら、拒否権など初めからありはしないのだ。それでもほんの少しの苛立ちを副官へと向けた。
「朝は嫌だって言ってるじゃん。嫌がらせも大概にしてよ」
「なら朝の5時に起こされても良かったのね?わざわざ私が3時間も延ばしてあげたって言うのに感謝の言葉すらないのかしら?」
あの組織ならやりかねない、というか前例が何度もあるから呆れしか出ない。あれらは俺のことをなんだと思っているんだ。特大のため息をついて準備をする。
「窓開けておいて。開けなくても良いけど、責任は取らないからね」
自身の家の窓を開けて言う。副官は呆れたような声を出しながらも窓を開けた。なので窓枠に足をかけて足に力を入れる。建物が小さくなっていくのを見ながら高度を上げていく。そして異管がある大体の場所を定めて飛んでいく。やっぱりこの移動方法が楽で良いんだよね。風が気持ちいいし、あの頃を思い出す。少しして異管が見えたのでスピードを落としつつ、開いている窓めがけて入る。足が地面についた感覚がして周りを見渡す。そこには何の変化もない部屋。
「これは大絶賛のホールインワンでしょ」
「大ブーイングのパーよ。面倒くさがらず入り口から来なさいよ」
えー、だって何も壊さずにここまで来れたんだよ?いや~俺も成長したよね。なんて自画自賛をする。副官はそんな俺を冷ややかな目で見ながら資料を机の上に置いた。俺は椅子に座って資料を読んでいく。しかしそこに書かれた内容に眉をひそめる。今回の処分者は大学の講師。ここまではいい。一般人に紛れてはっちゃける人は多い。しかし、その後の言葉が理解できない。
「大学生の真似をしろと?この年で?ふざけてる?」
「真似って言ったって服装を少し変えるだけなんだからいいじゃない」
そこは問題ではない。もしこれで制服を着ろなんて言われたら絶対に行かないけれど。問題はそれじゃない。大学生の中に俺が紛れむという状況が嫌なのだ。あの楽しいことだけが渦巻いている場所はどうしても今は行きたくない。本当にどうしてそんなことをしなければならないのだ。心底不本意だが、処分者の情報を見ていく。処分者の異能は「自分より弱いと思った人間を従わせる」……もったいないな~。せっかく凄い異能なのに、使い方を間違えたせいでこんなことになるなんて。まぁ、いいや。場所はどこなのだろうと目を向けたら懐かしい感覚がした。もう一度読むが、大学名は知らない。そもそも俺は中学卒業してすぐここに来たのだから大学に縁なんてない。今までの任務でも大学に行くことはなかった。それなのになんで……?なーんか引っかかるな。悩んでいれば、珍しくすぐに動かない俺に首を傾げた副官。
「なんか分からないところでもあった?」
「ん~。大学生って何歳?」
急な質問に怪しく思いながらも答えてくれる。
「何歳って……色々いるわよ。まぁ、順当に行けば18から23歳ぐらいまでよ。それがどうしたの?」
18歳から23歳までか。自分の年齢と比較していればとある一つの仮説が浮かんできた。俺はその事実に興奮して立ち上がる。もちろん、この仮説が正しいと証明されたわけでもない。それでも俺の中ではそうとしか思えなくなった。今までのことを思い出して口角が勝手に上がる。体温も急に上がって体が熱い。突然動き出した俺の表情を見て、副官は苦虫を噛み潰したような顔をした。俺はそんなことを気にする余裕はなかった。
「やっと、やっと出会えるんだっ。ずっと探してたあの子に!あはははっ!やっとだ!」
「……っ」
気が狂ったかのように笑いだす俺に息を飲む。あまりの興奮に手が震えてきた。笑う声も抑えられない。もう俺の中では確信していた。脳裏には少し背の低いあいつの姿。あぁ、早く迎えに行かないと。でも、その前に。
「絶対に邪魔しないでね。君であろうと殺すよ」
副官に警告をする。こんな絶好のチャンス絶対にないのだから。副官が青い顔をしながらも頷いたのを見て俺は異管を出た。やっと出会えると思ったらスキップをしてしまいそうだ。
「待っててね。すぐに迎えに行くからね」
恍惚とした声は静かに建物の隙へ溶けていった。少しして目的地の大学へと着いた。口角が上がるのを感じる。雰囲気からして分かる。絶対にあの子はここにいる。本当なら仕事なんかすっぽかして探したいが、今回は見つけさせてくれたお礼にしっかりと仕事は果たそう。一応入校許可書があるのを確認して大学へと入る。たしかこの建物だよね。自動ドアに入ろうとした時、向こう側から誰かが走って出るのが見えて端に避ける。しかし相手はこちらへと勢いよく来る。なんだなんだと相手の顔を見れば処分者だった。どうしてなんて思っている間に俺の目の前に来た処分者は俺の肩を強く掴んだ。その表情には恐怖が宿っていた。
「っ!お前が異管だな!?早く殺してくれ!俺があいつに殺される前に!!」
「え~、なになに。どうしたの~?」
普通異管が来たとなったら処分者は逃げるか殺しに来るかの二択だった。まさか殺してくれと願われるなんて、驚きだなぁ。まあ願われているし、俺も殺さないといけないし、ちょうどいいや。処分者を抱えて屋根の上へと飛ぶ。遠くのどこかで笑い声が聞こえる中、斧を取り出して細切れにした。完全に死んだのを確認して電話をかける。もちろん相手が出るより前に切るのだけれど。……よし!これで仕事が終わった。さてさて、あの子を探すとしようかと屋根から降りようとした時、処分者から異能の残骸が感じられて立ち止まる。処分者の異能じゃない?なら誰のだ?じっと見てみるとやはり彼自身の異能ではない。うーん?でも処分対象じゃないしいいか。さっさと飛び降りて生徒達がいっぱいいる所へと足を進める。さて、あの子はどこにいるのやら。人見知りの強いあいつのことだ、一人で静かに過ごしているんだろう。んふふ~と笑い声を漏らしながら歩いて行く。初めての場所だが、慣れた足取りで建物内を歩いて行く。近付くたびに笑みがこぼれる。……それにしても、みんな若いね~。キラキラしていいね、おじさんには眩しいよ。少し大人びた会話に耳を傾けつつ、脳裏にいる姿を探していく。そしてふとすれ違った子が目に映る。今まで何度も人とすれ違った。だから別に珍しいことでもない。でも、ふわりと動く肩に掛かる程度の少し長めの髪。自信がないかのように丸まった背中。後ろ姿から分かるものは全部、全部俺が知っている特徴で、よく見た姿だ。温かい気持ちが胸に込み上がる。――泣いてしまいそうだ。目尻が下がる、それなのに口角はゆったりと上がる。
「……悠翔」
噛みしめるように、あの子の名前を声に出す。これだけガヤガヤとしているからこんな震えた声は聞こえていないかもしれない。そんな考えを打ち消すかのようにあの子は振り向いてくれた。驚きで開かれる瞳も、顔を隠す長めの前髪とマスク。よく知っている姿だなぁ。あの時と何も変わらない。そのマスクの下の顔もすぐに分かるよ。
「さ……く、さん?」
名前を呼んでくれた。たったそれだけ。でも俺からしたら、何年も何年も探していた声。ずっと陽炎を追いかけているみたいに、いるはずなのに見えない存在で。もういないのではないのか。俺だけを置いていったのか。そう考えてしまって、気が狂ってしまう日もあった。ゆっくりと悠翔に近付いて、存在を確かめるようにその頬に触れる。……温かい。
「温かいなぁ……お前は」
一筋だけ流れる涙は悠翔の頬を濡らした。俺は深呼吸をして、悠翔の手を引いてゆっくりと外へ歩いて行く。握り返してくれるその手に愛おしさを募らせる。どこならいいだろうか、邪魔されない場所がいいな。周りをぐるっと見渡して悠翔を抱いて屋上へと飛ぶ。うん、ここなら誰にも邪魔されないね。腕の力を緩めて悠翔の表情を見る。そこには少しだけぼうっとしている悠翔がいた。いきなりのことで動揺しちゃうよね。俺は胸にある温かい気持ちに従って悠翔を抱き締めた。ふわりと知っている香りがした。するとくすりと笑う声が聞こえた。
「このくだり、前もやったって。朔さんはほんまに変わらんなぁ」
彼は俺を見て安心したように笑った。そして俺を強く抱き締め返してくれた。
「いつもごめんな。見つけてくれてありがとう」
「……いいんだ。俺は、お前らがいてくれたら。それだけでいいんだよ」
高揚による歪んだ笑みでも、いつも浮かべているであろうへらりとした笑みでもない。ただひたすらに幸せを噛みしめたような笑顔が浮かぶ。少しして、離れがたい思いを持ちつつもゆっくりと離れる。ふっと息を吐けば、悠翔も肩の力を抜いた。俺はこの後起こることを思い出して胸が痛くなる。でも聞かないといけない。
「悠翔、どこまで思い出してる?」
「んー、まだそんなに。朔さんと遥真と澪くんの名前ぐらいやな」
そっかと悠翔の隣に座る。きっと彼は思い出すと苦しんでしまうから。せめて彼のことを支えられるように。俺は少し昔のことを思い出す。ずっとずっと前。俺たちが初めて出会った時であり、こうなった原因でもある事。屋上の床を撫でる。あの頃と同じでどこまでも冷たい無機質な床。目を伏せればすぐに思い出せる。
「あの時もこんな馬鹿みたいに高い屋上だったんだよ。下の音なんて聞こえるはずがない高さなのに、澪の音だけは鮮明に聞こえたんだよ。俺たち全員動けなくなってさ。遥真なんて凄く混乱してたんだよ」
ふと視線を向ければそこには澪の姿。幻覚だって分かっている。底なしに明るくて、誰よりも暗い澪。あの笑顔に何度救われたんだろう。あの音を思い出していれば、裾を引っ張られる感覚で目を開ける。隣を見れば真っ青な顔で俺の腕に縋り付く悠翔の姿。全部思い出してしまったようだ。俺は悠翔を抱き締めて、頭を撫でる。俺に縋る腕が震えていて胸が痛くなる。苦しいよな、怖いよな。出来るなら変わってやりたいと思うよ。でも駄目なんだ。お前は優しいから、責任感を強く感じるから。何十年も見つけられるか分からない物を探すのは向いていない。頼る相手もいなくて思い詰めて一人で壊れる。それならばせめて苦しみは一瞬で。
「大丈夫。大丈夫だよ。ゆっくり落ち着こうな」
呪いのように大丈夫と繰り返す。あの時も二人の頭を撫でていたなと思い出す。震える手を隠して、自分に言い聞かせるようにずっと。そうでもしないと壊れてしまう気がしたんだ。この再開を喜んでいる時点で俺は壊れているんだろうな。浅はかな自分に笑いをこぼす。いつのまにか悠翔の震えも小さくなっていった。
「もう大丈夫や」
くぐもっている声は凜としていた。だから腕を離してあげた。すると悠翔は恥ずかしそうにそっぽを向いた。全く……ツンデレも変わらないな。
「ありがとう」
とても小さく言った声はちゃんと俺に届いた。恥ずかしがり屋で感謝の声も小さいが、絶対に感謝をするし届くまで伝える。いつもの悠翔だ。だから俺はふっと息を吐き笑う。
「大丈夫だよ」
そう返せば、安心したように笑う悠翔。その表情を見て良かったと安堵する。本当に見つかったんだなぁ。現実なのにどこか夢見心地な感覚に浸る。冷たい風に吹かれてどちらともなく立ち上がる。
「んじゃ、朔さん家に帰るか」
「……そうだね。帰ろう」
手を伸ばせば、恥ずかしそうにしながらも手を繋いでくれた。温かい感覚を忘れないようにしっかりと握った。そして今まで一人で帰っていた家に二人で帰る。大学の正門を抜けたぐらいで悠翔が声を上げた。
「そういえば。俺異能者なんやけど。朔さんもそうよな?俺も異管に入ったほうがええかな」
「え?」
異能者?異管?どういうことだ。というかどうしてそんな重要なことを日常会話のように言ったの?超重要事項のはずなんだけど?もしかして俺が感じた処分対象以外の異能って……。
「俺、やな。あいつはやり過ぎてたから少し懲らしめただけやのに、蜘蛛の子みたいに逃げおって……」
「聞きたいこといろいろあるけど……一旦家に帰ろうか。話はその後全部聞かせて貰うからね?」
俺は少し早足気味に家へと帰り、悠翔への尋問が始まったのだ。




