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死の惑星に安らぎを  作者: 京衛武百十
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滅びゆく者達の安らぎ

それは、バラバラに破壊されたメイトギアだった。しかも、間違いなくタリアシリーズだ。同型機の残骸を前に、タリアP55SIは何も言わずにそれを見つめていた。特に感慨もない。自分達はロボットだ。いつかは壊れてただの残骸になる。そんなのは分かり切ったことだ。気にもならない。


それでも彼女は、地面に転がった頭の後ろからメモリーカードを取り出し、自身の空きスロットに挿入してみた。長らく雨ざらしで放置されていたようだから読み込めなくなっているかもしれないとも思ったが、運が良かったと言うべきかどうか、それは読み込めてしまったのだった。


するとそこには、破壊されたタリアシリーズ、タリアP55SIの最後の数ヶ月分の記憶が残されていた。買い替えによって不要になり、新しい方の機体にデータと記憶のすべてを引き継ぎ、そして初期化されずにCLS患者の処置の指示だけを受けてリヴィアターネに投棄され、廃棄用のコンテナに同梱されていた旧式の超振動ブレードを手に空いた拠点を探して放浪しつつCLS患者を処置、やがてこの集落にたどり着いて、そこでアンナTSLフラウヴェアやプリムラEL808、フィーナQ3-Ver.1911と対立、戦闘となったことまでが記録されていた。


記憶はそこで終わっていたから、その戦闘で破壊されたことは分かった。


自分の同型機がフィーナQ3-Ver.1911に破壊されたことについても、別に気にならない。ただ、フィーナQ3-Ver.1911がこの情報を自分に提示しなかった意図については思うところがない訳でもなかった。とは言えそれを邪推しても始まらない。現時点では重要なことではない。


その時、背後から誰かが近付く気配があった。信号で誰が近付いているのかは分かっていたが、タリアP55SIはそちらに振り返った。アンナTSLフラウヴェアとプリムラEL808だった。


「これを…」


そう言ってプリムラEL808が差し出したのは、鞘に納められた日本刀と思われるものだった。それが、破壊されたタリアP55SIが手にしていた日本刀の太刀を模した超振動ブレードだということはすぐに分かった。プリムラEL808の横に立っていたアンナTSLフラウヴェアが語りかける。


「私達にはこれをうまく使いこなすデータがありません。ですが、彼女と同型機であるあなたなら使いこなせるかもしれないと思いました。形見という訳ではありませんが、持って行っていただけると彼女も報われるかもしれません」


「…ありがとうございます。確かに受領いたしました」


タリアP55SIは、差し出された太刀をしっかりと手に取り、改めて深く頭を下げた。


アンナTSLフラウヴェアとプリムラEL808に背を向け歩き出した彼女には、分かっていた。もしこのコミュニティーがこれからも平穏に存続できたとしても、トーマスもリンナもレミカも、CLS患者である以上はもう成長もしないし、メルシュ博士がやったように手を加えなければ新たに子供が生まれる訳でもない。そしていずれは、肉体の限界を迎え活動を停止し、塵と化していく。


さらに、ここで暮らすメイトギア達も、いくらメンテナンスを続けようとも機械である以上はいつか限界が来る。記録では五百年以上前に製造されたメイトギアが現在でも現役で稼働している例もあるそうだが、それも無限ではない。


そう、このコミュニティーはもう、滅びが決定しているのだ。そして今のままでは、覆す方法もない。


アンナTSLフラウヴェアとプリムラEL808も、本当はそれを理解している筈だ。いくら外見上は生きた人間に見えても、心臓が動いておらず、脳波も検出できず、成長もせず、排泄さえしない。そんなものが人間と言えるのか? だが彼女達は、薄々それを察した上でなお、そうして静かに滅んでいくことを受け入れたということなのだろう。


それが、彼女達にとっての安らぎなのだろうから。


自分の決意がどのような結果をもたらそうとも、タリアP55SIはもう二度とここには顔を出すことはないと思った。ここの物語は既に終わっている。このコミュニティーを形成しているメイトギア達は、終わった物語の余韻に静かに浸っているだけだとも言えるのかもしれないと、彼女は悟ったのであった。



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