逼迫する事態
「また、間に合いませんでした…」
その光景を前に、フィーナQ3-Ver.1911は悔しそうに呟いた。そこには、頭を破壊された何人ものCLS患者の亡骸が横たわっていた。おそらくこの集落の住人達だろう。ある程度の時間を置くと骨も残さず塵になってしまう筈のCLS患者の遺体が完全な状態で残っているということは、まだつい最近になって活動を停止したばかりということだ。
フィーナQ3-Ver.1911と、彼女が連れていたメイトギア達は手分けをしてそれぞれの住宅を確認して回った。だがことごとく家の中のドア全てが開け放たれ、既に何者かが調べた後だということを窺わせた。その部屋の一つを覗き込んだ時、フィーナQ3-Ver.1911が「ああ…」と声を漏らした。
それは、子供部屋と思しき部屋だった。そこに七歳から八歳くらいと思しき少女のCLS患者が横たわっていたのだ。頭には銃で撃たれたらしき痕が残されていた。少女の体にはダンゴムシに似た二十センチくらいの大きさの虫が何匹もたかりその肉を貪っていた。
この虫はリヴィアターネでは多くの地域で生息している節足動物で、生命力と繁殖力が非常に強く、雑食で、紙や木綿や木製の内装さえ餌にして増殖するというものだった。毒は持たないが数が多く窓などを開けておくと勝手に部屋の中にまで入り込んでくる厄介者として嫌われていた。この部屋の窓も開いていた為、そこから入り込んだのだろう。だがそのおかげで、おそらくこの部屋に閉じ込められていたCLS患者の少女は食料にありつけたのだと思われる。
あのパンデミックが起こった時、親などが子供を守ろうとして部屋や物置や自宅のシェルターなどに匿うということが多かったようだ。その為、比較的損傷の少ない子供のCLS患者が住宅などから発見されるという例が数多くみられた。フィーナQ3-Ver.1911はそういうCLS患者を探し出して保護していたのだった。
だが……
「これは間違いなく、フィーナQ3-Ver.2002の仕業ですね……」
現場に残された足跡から、フィーナQ3-Ver.1911はそう推測していた。そしてそれは正しかった。コミュニティーを襲撃するのではなくいまだ放置された状態のCS患者を探し出して回収しているのだ。だから彼女は決心した。
「襲撃は減りましたが、やはりこの事態は看過できません。このまま放置しておくと大変なことになるでしょう。もはや自衛だけでは済まされなくなりました。メルシュ博士の凶行を止めなければ」
活動を停止したCLS患者の少女を抱き締めて、フィーナQ3-Ver.1911は悲しげな中にも強い決意を秘めた目を見せたのだった。




