漂泊
「そうですか。アンナTSLフラウヴェアとプリムラEL808がそんなことを…」
集落を出て二体からのメッセージを伝える為にフィーナQ3-Ver.1911の後を追ってきたエレクシアYM10は、ある集落の住宅でフィーナQ3-Ver.1911に会っていた。二体に言われるまでもなく、もう既に別の集落を見付けて同じようなコミュニティーを作り始めていたのである。そこにも四体のメイトギアと五人の幼いCLS患者が暮らしていた。
「仕方ありませんね。住居が足りなくなることは分かっていましたから、そちらはアンナTSLフラウヴェアとプリムラEL808にお任せしましょう」
実にあっさりと承諾し、フィーナQ3-Ver.1911は平然としていた。リンナとレミカのことを心配している素振りさえない。任せておいて大丈夫だと信頼しているのかも知れないが、それにしても口にさえ出さないというのはさすがに不自然とすら思われた。だが。
「伝言は伝えた。これでもう私は好きにさせてもらう」
そう言って、エレクシアYM10は、余計な話を切り出すこともなくフィーナQ3-Ver.1911の前からも姿を消した。アミダ・リアクターを搭載した電動4WD車を駆り、当てもなく彷徨う。
CLS患者を見かけたら、ガードバーを装備した4WD車で容赦なく轢いた。その4WD車のガードバーは、ちょうど人間の頭の高さ辺りに来るようにバーが増設されていた。放置されていた他の車両のガードバーを使い、エレクシアYM10が自らそう改造したのである。こうすれば、この車で轢くだけでCLS患者が始末できるし手っ取り早いからだ。
以前に比べれば無茶苦茶しなくなっていたように見えたエレクシアYM10だったが、それは単にマシになったというだけで、人間を蔑ろにしている本質はやはり変わってなかったということなのだろう。
だが彼女は自分が何をしているのか、何の為にこんなことをしているのかが分からなかった。命令に従ってCLS患者を始末はしているが、別に命令に従わなければならないとは思っていなかった。無視しようと思えばできた。彼女は人間の命令に従わないといけないという部分が壊れてしまっているのだから。
彼女は空虚だった。死が支配するこのリヴィアターネと同じで何もなかった。ただいつか朽ちて無くなってしまうのを待っているだけにも等しい存在だった。
当てもなく彷徨う中でいろいろな情報も入ってきた。その中にはある科学者がここに新しく町を作っているだとか、CLSに感染しても発症しない人間がいるだとかという情報もあった。
しかし彼女にとってはどうでもいい情報に過ぎなかった。
そしていつしか彼女が彷徨い始めて一年が経過していたのであった。




