イニティウムタウン
<イニティウムタウン>。
建設開始から約一年が経ち、メルシュ博士によって作り出されたその町は、そう名付けられていた。<始まり>を意味するラテン語<イニティウム>から命名され、住人達は町の名前として単にイニティウムとも呼んだ。
現在、住人の数は百名あまり。しかし、厳密な意味で<人間>と呼べるのは、サーシャただ一人であっただろう。何しろ彼女以外の人間は全て、メルシュ博士の手によって生み出されたいわば<人造人間>だったからである。その内訳としては。
<メイトギア人間>。白衣を纏った生身の方のメルシュ博士と同じく、CLS患者の頭部を切開し、CLSウイルスによって形成されたコロニー様の組織を取り除いた後に人工脳を移植された者。それをメイトギアとリンクさせることにより、生身の人間の体を有したメイトギアとしたのがこれにあたる。ちなみにメイトギアには複数の体を同時に操る機能が元々備わっているので、機械の体のメイトギアも同時に活動中であり、基本的には生身の体と機械の体が同居する形となっている。
<CLS患者のDNAを操作し、CLSを発症しないようにされたクローン>。メイトギア人間を作る時に同時にDNAを採取。CLSを発症しないサーシャのそれと同じようにDNAを操作されて生み出されたクローン。メルシュ博士が開発した人工子宮の中で、通常の十数倍の速度で高速育成され、その脳にはメイトギアの意識とメルシュ博士自身の意識をミックスして作り出した疑似的な人格を基礎としてインストールされている。約十歳程度の体にまで成長させたところで人工子宮から出し、その後はメイトギアによって人間として養育中。現時点では数が最も多く、いわば<サーシャと同性代の子供>。
<CLS患者そのものを母体として、DNAを操作した胚で妊娠させ、出産させた人工不顕性感染者>。サーシャを除けば恐らく現時点では最も自然な人間に近い存在。CLS患者から採取された卵子と精子を人工授精させ、それをCLS患者やメイトギア人間の子宮で育成したもの。赤ん坊として生まれ、メイトギア人間とメイトギアによって養育中。DNA的にも誕生の由来的にも肉体の機能的にもほぼ人間と言っていいと思われる。
と、一見すると平穏で人間らしい暮らしをしているのどかな田舎町にも見えるそれは、一人の科学者の狂気の実験の下で生み出された虚構の町だった。
それでも、本来の人間社会を知らないサーシャにとっては、自分以外の子供達がいて、それを見守ってくれる大人達がいてという、ようやく手に入れた人間としての世界だった。
そのイニティウムタウンの路地裏で、サーシャは、同じ年頃の子供達と楽しげに遊んでいたのであった。




