捨てられた姉弟
そこは、今は少し空気に湿り気があるのが分かるが、普段は乾燥し荒れ果てた印象のある土地の谷にある集落だった。谷底に小さな川が流れ、それに沿うようにして数軒の住宅が点在している場所だった。町からもかなりの距離があり、まさかこんなところに集落があるとはエレクシアYM10も思っていなかった。何気なく通りがかってたまたま見付けてしまっただけである。
だが彼女はそこで、さらに思いがけないものを発見してしまったのだった。
「人間…だと…?」
それは、少年だった。年齢は十五歳くらいだろうか。体は細く頼りなげだが、浅黒い肌で鋭い目をした少年だった。棒の先にナイフを括りつけて槍のようにした武器らしきものを構え、問うてきた。
「お前、ロボットか?」
発音やイントネーションが若干おかしいが、辛うじて意味は通じた。それは方言やスラングの類ではなく、明らかにきちんとした教育を受けていない者の喋り方だと彼女には分かった。
「そうだ。私はエレクシアYM10。故障はしているがメイトギアだ」
少年が構えている武器など何の脅威でもなかったが、取り敢えずは抵抗の意思はないということを示す為に手を上げて応えた。
しかし、彷徨っている間に入ってきた、<CLSに感染しても発症しない人間がいる>という情報が事実だということをこんな形で思い知らされたことにはさすがの彼女も戸惑わされていた。
そんな彼女に向かい少年は言った。
「ロボットなら病気のことも少しは分かるよな? 姉さんのことを診てほしい」
「なんだと…? 他にも人間がいるのか…?」
少年の他にも人間がいるらしいとのことに彼女はさらに驚かされた。不顕性感染者というものがいるのは知っていたが、それがこんな小さな集落に二人もいたなどと。
だが……
「ああ、なるほどな…こういうことか……」
少年に案内されて彼の家に入り、姉がいるという地下室に下りたエレクシアYM10は一目で察した。彼が姉だと紹介した、十歳にも満たない子供にしか見えない<それ>の姿を見て。
血色の悪い肌。焦点の合わない目。そして何より、自分の姿を見てのろのろと歩み寄り、脚にかじりつくその振る舞い。
CLS患者だった。少年は発症しなかったようだが、彼の姉はCLSを発症していたのだ。しかし彼にはそのことが理解できず、ただの病気だと思っていたのだった。
「姉さんがおかしくなった日から、父さんも母さんも帰ってこなくなった。姉さんが病気になったから俺達は捨てられたんだ。ここにはもう、俺達家族しか住んでなかったからな」
そう言った少年の目に、明らかな憎悪の炎が揺らいでいたのだった。




