サルベージ
メイトギアはロボットなので、新しい機体さえあればデータを移し替えることはできる。ただ、その為には専用の装置を用いて半日ほどの時間が必要だが。
残念ながらこの商業施設にはその装置がなかった。ロボットは扱いが自動車に近い故に普通はディーラーで取り扱われるのだ。ディーラーに行けば新しい機体はあるかも知れないが、犯罪者に悪用されることを防ぐ目的もあり、所有者登録を済ませて初めて発行される所有者用の管理コードと販売側の管理コードの両方を用いて起動しなければ設定を行うことができず、販売側の管理コードのみで起動した場合は、<お試しモード>と呼ばれる、機能が非常に限定された簡易な動作しかできないのだった。
現在のリヴィアターネで所有者登録ができるはずもなく、また、データや記憶を移し替える作業をするスタッフもおらず、デイジーFS505を復活させる手立ては無いと思われた。
普通のやり方では。
だが、一般には知られていないがいわゆる裏技的な方法が存在しない訳ではない。新品のメイトギアに正規の方法でデータを移し替えることは事実上不可能だが、装置とそれを扱えるスタッフさえいれば、中古のメイトギアにならデータを移し替えることは不可能ではなかったのである。
ただ、完全にそれを行うには今度は元の機体の承諾が必要になるので、起動できなくなったデイジーFS505から承諾をもらうことは当然できない。しかし、完全でなければ、データの一部分だけでよければ移せなくもないというのも事実だった。
もっとも、それで回収できるデータや記憶は、表層的なものにとどまり、しかも元の機体側がロックを掛けているようなデータや記憶はコピーできない上に、そういう強引なデータの移し替えでは機能の一部が破損してしまう危険性も高かった。
それでも、コゼット2CVはサーシャの為にデイジーFS505のデータのサルベージを行うことに決めたのだった。しかも移し替える先は、自分自身。もし上手くいってもいわゆる<ニコイチ>の実に半端な、本来のコゼット2CVでもなければもちろんデイジーFS505でもないデタラメなロボットになってしまうのは確実であった。
「あなたの知っているお母さんではなくなってしまいますが、それでも帰ってきてほしいですか?」
コゼット2CVの問い掛けに、サーシャは頷いた。しかしこの純朴で世間を知らない少女がその言葉をどこまで理解していたかは定かではなかっただろう。
こうして、デイジーFS505の機体を電動コミューターに乗せ、サーシャを一人残したままコゼット2CVはロボットディーラーへと向かったのだった。




