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死の惑星に安らぎを  作者: 京衛武百十
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日記

タリアP55SIが出会った少女の名前は、アンナと言うらしかった。バリケード内の店舗の事務室をどうやら寝室代わりに使っていたらしく、仮眠用のベッドと思われるものとソファーで睡眠をとっていたようだ。そしてその事務室の机の上に、日記らしきものが残されていたのである。それには、こう書かれていた。


『星歴2007年10月3日。今日はアンナはとても落ち着いていた。彼女が落ち着いていると私も気分が落ち着く。だから今日から日記を付けることにした。


それが起こったのは、星歴2007年8月17日だった。まさかこんな映画のようなことが現実で起こるなんて、思ってもみなかった。確かに別の都市で何か大変なことが起こってるらしいというニュースは流れていたが、正直、自分達には関係ないと思っていた。


それにあの日は、アンナの誕生日だった。家族みんなでモールに来て楽しみたかったんだ。それなのに。


客もモールの従業員も次々おかしくなった。サオリも気分が悪いと座り込んだと思ったら、何十分かして完全におかしくなって噛み付いてきた。腕の肉が食いちぎられて結構な血が出た。


私とアンナだけは何故か平気だった。こういう時、噛まれた者も感染するという話が多い気がするが、どうやら私は平気らしい。血も止まったし。


彼らは力は強いが動きがのろくて知能もないらしく、しかもちょっとした段差も越えられないので、最初は恐ろしかったが慣れてくるとそんなに大変な敵でもないことが分かってきた。何より、おかしくなったサオリに噛まれたのに私は平気だ。だから少なくとも私はこの病気か何かに対して免疫があるのだろう。それは非常に幸運だった。


アンナも私と同じかどうかは分からないので、噛まれないように気を付けた。それに何しろ彼らは人間を襲って食う。噛まれるだけで済まないのだから。


最初は、この事務室に立てこもっていた私とアンナだったが、彼らがそれほど脅威でもないことに気付いてからは、私は生活空間の拡大に努めた。私自身を囮にして彼らを誘導し、階段やエスカレーターから突き落としてやると二度と上がってこれなかった。


幸い、来たのが開店直後だったこともあってかレストラン街には客も少なく、ここの彼らを排除してバリケードを築き、そこそこの空間を確保できた。


こうしていくらか落ち着いたことで精神的に余裕も生まれ、私は日記をつけることにした。しかし、まだ八歳のアンナにはショックが強すぎたのだろう。あの子が壊れてしまっているのは私にも分かった。


いや、こんなことを冷静に日記にしたためてる私ももうまともじゃないというのは自分でも感じる。サオリを喪ったことにも平然としてられるのだから、正気ではないのだろう。あんなに愛していた筈なのに。


けれど、命がある限りは生きる努力は続けたいと思う。幸い、水も食料も充分にある。そういう意味でもレストラン街を確保できたのは幸いだったと言えると思う』


その日記を読んだことで、少女の名前がアンナであると推測したのだった。



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