絶望
『星歴2007年10月4日。今日また、メイトギアの一体が故障して動かなくなった。これで四体目だ。
この状況が始まった当初、ロボット達は状況に対応しようとしたらしいが、モールで使われていたロボットはモールの責任者が、客が連れていたロボットは主人がおかしくなって、命令を与えてくれなくなったことで自律行動ができなくなってしまっていた。マネキンのようにただ立ち尽くしているだけだ。
その中でも、七体の接客用のメイトギアが辛うじて自律行動できていた。事態が始まった時、たまたま口頭で客を守るように命令を受けていたからだった。しかし、この異常な事態はロボットにとっても相当のストレスだったんだろう。
おかしくなってしまった人間もロボット達にとっては守るべき<客>なので、果たして誰を守るべきなのかということで混乱し、バグを生じさせてしまったらしく、正常な処理が行えなくなって行動不能に陥ったらしかった。
ここにいた七体は、私達が正気の人間だということを頼りに、それを基本にして私達を守ろうとしてくれていた。心が壊れてしまったアンナの面倒もよく見てくれたし、食事の用意や掃除などもしてくれた。バリケードを築くのも手伝ってくれた。
ただ、私が生活空間を確保する為に彼らを階下に突き落とそうとするところを見つかると、『お客様、乱暴はおやめください』と制止しようとしてくるので、突き落とすのは結局、私一人でやるしかなかった。
私に管理者権限があれば優先事項を設定し直す等のことができるのだが、ここでは私はただの客でしかない。我が家のメイトギアは家で私たちの帰りを今も待っているのだろう。家が無事であればの話だが。
テレビも映らず、電話も通じない。しかも、メイトギアを通じてもインターネットすら繋がらなくなっていた。それにより私は、これがこの惑星全体の規模で起こっているのだと理解した。テレビも電話もインターネットも、それを管理する人間がいなければ機能しないからだ。
たまらない絶望感に心が折れそうになる』
『星歴2007年10月5日。今日もまた、バリケードの外にサオリが現れた。私の姿を見付けて襲い掛かろうと近寄ってくる。
だがその姿形こそサオリそのものでも、それはもう彼女ではないことは分かってる。本当の彼女は、とても穏やかで知的で柔和な表情が素敵な女性だった。しかしそこにいるものに、そんな面影はまるでない。
知性の欠片も感じられない、焦点の合わない虚ろな目をして半開きになった口から涎さえ垂らしているようなそれを、私は彼女だと思いたくないのだ。
もう、私もメイトギアと同じように壊れて動かなくなりそうな気さえする』




