アルバート視点2
一を聞けば十を知るとの言葉通り神童と呼ばれるに相応しい公爵家の跡取りであるクリスは、瞬く間にこの実力主義の国内において様々な分野で名を馳せるようになっていた。さすがに幼い頃とは違い、成長するにしたがってクリスが自分とは違う次元にいることが嫌でも理解できるようになってきた。いくら努力をしても届かない孤高の存在、だが自分が王位を継いだ暁には、彼の父公爵同様自分の右腕、筆頭の側近候補となってくれるであろうことを誇りとし、疑いもしていなかった。有能な彼が自分の補佐となり、また癒しの存在であるオリがずっと自分と共にある未来を信じていたのだ。
ギムナジウムに進学する頃、長年僕と公爵家の家庭教師を勤めていた講師のバジル先生が高齢の為、息子夫婦の住む遠くの町へ引っ越すこととなり、家庭教師を辞職されることとなった。思えば、この時から何かが狂い始めたのかもしれない。ギムナジウムに入ると同時に国内の有力貴族らから、将来の側近候補として子息らを紹介され、そのうちの気の合う幾人かがいつも傍に侍るようになった。もちろんクリスも自分の側近候補として一緒に居てくれると思っていた僕の意思に反し、その頃からクリスは僕と徐々に距離を置くようになったのだ。最初は気のせいかと思っていた。すでに父王にもその能力を認められ・・・、いくつかの国の重要な研究やプロジェクトに参加している為、いつも会うと「忙しい」と背を向け去り、一向に他の側近候補らと馴染もうとしないクリスを庇いつつも少しづつ苛立ちが募っていった。
ギムナジウムを卒業し、ランドリギーヌに入学してしばらくが立ったころ、側近候補の一人で僕がクリス以外で一番目をかけているレドウィンが、深刻な表情で重大で内密な話があるため、人払いをした部屋で話がしたいと言ってきた。ランドリギーヌ学院の中では、生徒らは身分の隔たりなく、部屋が分けられているが、流石に王族だけには、望めば個室が与えられる。もしクリスが同室なら、相部屋でも構わなかったのだが・・・若くして国から認められ研究で遅くなることもあるというクリスも特別に個室を与えられていたため、自分も結局は個室を選んでいた。僕は、レドウィンを自室に案内し、内密の話を聞くことにした。
そこで聞かされた話は正直、耳を疑うようなものであったが、話を聞き進めていくうちに自分の中でも不可解であったクリスの態度が噛み合う気がした。まさか・・・・彼が、いや王家の懐刀と呼ばれている公爵家が王家に仇をなそうとしているなど・・・・。幼いころに自分を見舞ってくれていた公爵夫人の姿、自身を慈しんでくれていた公爵の姿、そしてオリビアが・・・あれら全てが虚像だったと・・・?自分を信用させるために?そんな馬鹿な!そんなはずはない!と心の奥底で悲鳴を上げている幼い自分の心が暗い影に覆われていくのが分かった。
父上や、母上はこのことを知っているのか?いやまだ憶測に過ぎない。大した証拠もなく王家に次ぐ権力をもつ公爵家と事を荒立てることはできない。このことは内密に調査するようにと指示を出し、一人きりの部屋で・・父上さえもまだ掴んでいない筆頭公爵家の謀反を反芻し、いつか追いつきたいと、自分を見てほしいとある意味恋願っていた相手の後ろ姿を思い描きながら自分でも持て余すような暗い愉悦に浸ったのだ。これが全ての間違いだと・・気づくこともなく。
後の自分であったなら即座に気が付いたであろう甘い誘惑と巧みな誘導・・・劣等感に苛まれ、目が曇っていたこの頃の自分は愚かにも感情が先走ってしまい、いくつかの重要な齟齬を見落としていたのだ。もしこの時、変な意地を張らずクリスに直接問うか、または父王に面会しに行っていたのなら後の悲惨な状況は変えられていたであろうに。ああ、でもこの時の僕は初めて自分に向けられるであろう父王からの賛辞を思い浮かべることしかできなかったのだ。




