オリビア視点 4
遅くなりました・・・>_<
数日の後、わたくしは、個人的にシャロン様にお会いしたい旨を手紙にしたため、学院の中庭にて彼女の訪れを待っておりました。
それにしても遅いです。ちゃんと、お返事をいただいたにも関わらず約束の時間より30分も遅れています。お茶会などの行事に関わらず時間の厳守は貴族として当たり前の事なのですがが・・・特に自分よりも爵位の高い方にお会いするときなど、万が一でも遅れてしまっては、家の信用問題にかかわります。どうやら彼女はその辺の貴族の常識についてあまりご存じじゃないのでしょうか・・。学院内はいわば、まだ雛が親元から巣立つまでの箱庭、ここにいる間に貴族の常識など知りませんと、社会に出た時に困ったことになるでしょうに・・・・。
そんなことをつらつらと考えていると、やっと、お目当てのシャロン様がお見えになりました。ですが何度も後ろを振り返ったりと、とても挙動不審な様子です。何かあったのでしょうか。不思議に思いながらも声をおかけすると、慌てて振り向き様にご挨拶なされますが・・・約束の時間に遅れたことに対しての詫びも説明もございません。本当に大丈夫でしょうか・・。
とりあえず気を取り直してまずはご挨拶をしようと近づくと、何やらシャロン様のお体から甘い匂いが致します。あら・・・何処かで嗅いだような匂いですわ・・何処で・・・?? それにしても、初めて近くで拝見させていただきましたが、わたくしよりも一回り小さく、華奢なシャロン様は、こちらを警戒したように上目遣いに口を開きました。
「あ、あの・・何の御用ですか?」
怖がらせるつもりはないのですが・・・次の授業まで時間も押していますのでわたくしは取り急ぎ簡潔にお聞きすることにしました。
「シャロン様は殿下を初めとした側近の方々ととても仲がよろしいようですが、その、悪く取らないで頂きたいのですが、その・・皆さま婚約者のおられる方々ばかりですから、お気を付けにならないと、変な噂がたてられてしまいますわ。そのような事態になるのは、側近の方々だけでなく女性である貴方にとっても望ましいことではないと思うのですが・・・??」
わたくしの言葉をどう解釈されたのか、シャロン様はキョトンとしたお顔で
「なんでっ・・・そんな事いうんですか?皆さんわたしの大切なお友達なんです。オリビア様こそほんとはわたしに嫉妬してそんな噂を立ててるんじゃないですか?」と憤られます。
訳がわかりません・・何をどういっても斜め上の回答が帰ってきます。それにしても、先ほどからむせかえるような甘い匂いに少し気もちが悪くなってきました。
「ところでシャロン…さま、この甘い匂いは何かの香水か何かなのでしょうか・・・?」
「は?え、何?匂いってこれのこと?」そういって胸元から小さな匂い袋を取りだしたときに思い出したのです。この匂いの事を。
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あれは・・中等部のギムナジウムに入学祝としてお兄様がお父様に頼んで作ってもらった庭の隅に建てられた兄様専用の研究室。最年少で国の研究室の一員として認められたクリス兄様は時間があると良くそこで様々な研究をしていらっしゃいました。そんなある日のこと・・・
「お兄様・・・?何をしていらっしゃるの? 」
「ああ、オリ・・ちょっと待ってて・・もう片付けるから」
デスクの上には数種類の草花のサンプルが置いてあります。いくつかはわたくしも知っているものでしたが、一つ、強烈な甘い匂いを放つ美しい紫の花弁をもつ花は見たことがありません。わたしはふと引き寄せられるようにその花を手にとりました。
「お兄様、このお花は何と言いますの?初めて見ましたわ」
「ああ・・・それは、”シュレスカ” という学術名の花だ。東部の国境にある山岳部の一部でしか咲かない珍しい花だし、国の禁忌扱いとなっているものだから見たことがなくて当然だよ。こうやって美しい形と匂いを放つが、厄介な特質があってね・・この花にはある種の麻薬的な成分があって、例えば成分を抽出して香油などにすると身に着けた者の魔力と魅力を引き上げるんだ。だが、一時的にならともかく、個人差はあるが長期に使用した場合には廃人まっしぐらだよ。魔力を吸い取って一時的に底上げしているだけだから、老化も早くなるしね。この花は元々東部の山奥にある部落で呪術的な「媚薬」として使われていたものだが、使い方を誤ると大変なことになるから今では、王家と一部の研究室が管理しているんだよ。」
「まあ・・・こんなに可憐で綺麗なのに恐ろしい花ですのね。」
「ああ、美しい花には毒があるという典型だね。今では厳しく国で管理されているから出回るようなことはないだろうけど、知識として覚えておいた方がいいだろうね。」
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「シュレスカ・・・?」まさか・・?でも、この花は王家が厳しく管理しているはず・・それを一介の下級貴族が所有しているはずはない・・・。
「シュレスカ?何ですかそれ・・・というか、もう返してもらっていいですか?」
シュレスカだと知らない・・・・?
「あ・・・まってシャロン様、それ、その匂い袋は何処から手に入れられたんですか?!」
「これぇ?これは亡くなった私の母様の持ち物だったの。お気に入りだからいつも持ち歩いているのよ。これに匂い袋に香油を染み込ませてあるの。なかなか手に入らない特別な香油なんだって!いい匂いでしょ。ふふっ、み~んないい匂いって言ってくれるんだから!」
「いつから・・・・いつから使用なさってるんですか?その匂い袋」
「え?いつからって・・・身に着けるようになったのは母様が亡くなってからだけど・・・なんでそんな事聞くの?」
「あのっ、少しの間でいいのでそれを貸していただいてもよろしいですか?」お兄様に確認してみないと・・・・もし本当にシュレスカだとしたら・・・
「嫌よっ!これは大事なものなの!さっさと返してよ!」そういって彼女は私の手から匂い袋を引っ手繰りました。
「何をしてるんだ?!」その時です。第三者の声がしたのは・・・。
「アルバート様っ!」喜々とした声が隣から聞こえます。近くの繁みから出てきたのはアル兄様と、側近の一人、騎士団長の長子であるカレド様です。アル兄様はすっとシャロン様をかばう様に前に立たれ、わたくしをキッと睨み付けました。
「何をしていたのか・・・と聞いている」
「あ・・・わたくし、そのシャロン様のお持ちになっている匂い袋を少しお貸し頂きたいと・・」
「匂い袋? これは彼女が大切にしているものだ。まさか爵位を盾にして強要したのではあるまい?」
「なっ!そんなこと致しません!」
「はっ・・・・どうだか・・・。カレド、シャロンをサロンに連れて行ってやれ。私は後から行く。」
「はっ、しかし殿下をお一人にするわけには・・・」
「案ずるな、ここは学院内だ。それに私がこんな小娘一人に遅れをとることはない」カレド様は私を睨み付けるとうやうやしくシャロン様の手をとり、サロンに向かって歩きだしました。
わたくしはとっさにシャロン様に向かって叫びました。
「シャロン様!どうかっ、その匂い袋をお持ちになるのはおやめください!」
怪訝な顔をして振り返ったシャロン様は何も言わずに去られました。そして後に残されたわたくしとアル兄様・・・はじっとわたくしの顔を見つめやがてポツリと零されました。
「おまえは・・・・変わったな。お前は・・いやお前たちだけは俺を裏切らないと思っていたのに・・・・。」
「は・・い?」何が変わったというのでしょう。わたくしからしたら変わったのはアル兄様の方です。それに裏切ったとは表現が穏やかではありません。一体何を・・・
「何のことをおっしゃっているのでしょうか・・?」
ぐっと何かを飲み込むように苦々しい顔つきで私を見ていたアル兄様はおっしゃいました。
「白々しい・・・。お前と話すことは何もない。」そういってアル兄様は唖然としたわたくしを残して立ち去られました。
その後、わたしは失意のまま、授業を受け寮の部屋に戻ると、しばらくしてからクリス兄様が部屋を訪ねて来られました。どうやら、シンさんから事の一部始終をお聞きになっていたようで、わたくしを慰めた後おっしゃいました。
「どうやら先手を打たれていたようだね・・・まったく忌々しい。とにかくオリはもうしばらくあいつには近づかない方がいい。この件はこちらで処理をするから・・。それにしてもなんて奴だろうね、こんなに可愛いオリを傷つけるなんて。そうそう、シュレスカのことについてもこちらで始末をつけるから、ほら、泣き止んで・・それにしても、オリを泣かせたツケはしっかりと返してもらうからね・・・アルバート・・」
何か兄様が怖いことを呟いていたような気がしますが、精神的に疲れたわたくしはそのまま夕飯も頂かずにそのまま眠ってしまったのです。




