EPISODE 11.1
「あのフリーターにも困ったもんね」
お姉さんは不審物を扱うように、夫が奥多摩の町で買ってきた冒険まんじゅうを手に取った。冒険社と無関係の便乗商品のひとつで粒あんにクルミが入っている。口に運ぶと意外と美味しかったようで目を丸くした。
「あぶないことをやめないなら、せめて生命保険はしっかり掛けてもらうのよ」
「大丈夫です。冒険者も自衛官もちゃんと保険には入れます」
手元に広げられているのは今朝の日経新聞。ダンジョンで再びゴブリンと遭遇、冒険社は倒された2体を回収したと書かれている。本当は違うのよね。ゴブリンの死体の片方は去年の事件のもので、情報を小出しにするつもりだった冒険社は発表のタイミングに迷ってしまって、今回まとめて出すことにしたのだ。これはお姉さんにも話せない秘密。
「へえ、保険には入れるんだ。じゃあ家は。家も買ってもらいなさい」
「頭金を貯めてますよ」
ちゃんと話し合ったことはないけど、夫には家を購入するつもりがあるらしい。年齢に不相応な高い俸給だけでも生活は成り立つうえにダンジョンでの副業も認められている。私だって働いているからお金が貯まらないはずはないのだ。
「買えるならすぐ買ったほうがいいの。家賃とローンが同額なら資産が残るほうが得でしょう」
「そういえば、あの家は賃貸することにしたの」
私たち姉妹に残された家には今は誰も住んでいない。名義はお姉さんになっている。それを誰かに貸して、税金分だけでも稼いだらどうかという話になっていた。
「先のことはまだわかんないけど、しばらくは空き家にしておこうと思ってる。人に貸すなら斉藤の表札を外さなきゃなんないでしょう。それが嫌だと思ったの」
「井出さんとあの家に住むのはどうなの」
「生活の快適さはあっちのマンションのほうが上なのよね」
お姉さんは困った顔をしたまま、ふたつ目の冒険まんじゅうに手を伸ばした。私には甘すぎて胸焼けしそうだ。




