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EPISODE 13.1

今回も本部長だから安心だと夫はダンジョンに向かった。21Fや22Fという階層の深さがよくわからないが、深ければ深いほど移動時間がかかることは理解できる。道を知っている冒険者なら最短距離を歩けるので片道、数時間で行き来が可能だそうだ。


「1〜10Fは鉄やマンガンを掘った坑道と自然な裂け目、謎のトンネルが接続して広大な迷路になってる。俺だって主要な通路しか覚えてないから迷いかねない。地図があれば危険は少ない。11〜15Fは鍾乳洞。道がくねくねして歩きにくい。危険な場所はわかっているので道を覚えれば、まあ大丈夫。15Fの大空洞と地底湖は有名だ。観光客はここまで降りて引き返す」


「16Fからは構造がだんだん単純になって通路も平坦になる。単純だから迷わないということはなくて、視覚的な変化の乏しさが注意力を低下させる。最短経路にロープが敷かれているので、それを見失わないように歩くのが基本」


「危険だから走ることはまずない。でも緊急時には、冒険者が本気で走れば3時間で地上に出られる。遭難事件のときは要救助者を背負って交代で走ったから4時間で出られたんだよ」


ダンジョン内の様子はテレビでもよく紹介されている。しかし大丈夫と繰り返す夫の言葉を聞いても、レポーターの明るい解説を聞いても、やはり暗いトンネルには怖さを感じる。



深い階層で仕事をするようになり、彼は泊まりと休日を繰り返すようになった。大地は義父が白いエスティマで送迎をしてくれて、昼間は義母のところにいる。


食事は日持ちがするお惣菜が増えた。薄くしっかり揚げたトンカツは冷凍が効く。それから、きんぴらごぼうとひじきも好評だ。夫の好きなお豆腐や牛乳は長期保存できるものを楽々市場で見つけてまとめ買いするようになった。麻婆豆腐の素やふりかけも常備している。


ダンジョン内で試食するという名目で自衛隊から支給された戦闘糧食も台所の戸棚に置いてあった。缶詰のごはんとレトルトのおかず。おかずは試作品であり、感想文を書くなら一部は自宅で消費してもいいと言われていた。面倒な話だと思った。



ダンジョン22Fで起こったことは新聞が教えてくれた。それはなんとも現実味のない話だった。


探査チームは未知の巨大生物と遭遇。それは現場ではオークと呼称されている。冒険者の神谷氏が日本刀で大立ち回りを演じて手足を切り落として倒した。彼は昨年、ゴブリンを回し蹴りで撃退した人物である。勇敢な冒険者たちはオークの死体を地上に回収する予定。


「美智子さん、新聞は見ましたか。あいつからの連絡はまだなんですか」

「地上に出たらメールが来るはずです。大きな事件だから後始末に時間がかかるかも知れないですね」


大地を迎えに来た義父は興奮状態だった。怪我人が出たなら新聞に書かれているはずだ、あいつは大丈夫だろう、早くオークの話を聞きたいと言っている。楽観的だったり妙なものに関心を持ったりするところは、やはり父子で似ていると思った。


「パーパー」

「パパじゃなくてお爺ちゃんよ。今日もお利口にしていてね」


義父をパパと呼ぶのは夫がいないときだ。大地はもう父親と祖父の区別が付いている。本当のパパが家にいないから代わりを求めているのだ。高校生のときに両親を亡くした私には、それがとてもさびしいことに思われた。



夜遅くになってようやく帰ってきた夫は疲れた顔をしていた。服も埃まみれで自分で洗濯機を回した。


「筑前煮か。これは作るのが大変だっただろう」

「それはお義父さんが持ってきたの。お義母さんが作ったんだって」


あなたにもっとまともなものを食べさせろって伝言があったよ。そのことは伝えなかったけれど、夫は察したようで渋面を作った。


「気にするなよ。明日は俺が何か作る。何にしようかなあ」

「それは楽しみね」


焼きそばしか作れないくせにと思ったけれど、これも言わない。近頃は言葉を飲み込むことが多くなった。夫のほうもそうなのだろうか。


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