EPISODE 13.2
オークを日本刀で倒したという報道は誤報。ロボットがボクシングをしたという噂も間違い。ゴブリンを回し蹴りで倒したのは本当だけど去年の話。どうしてそんなことになったのか。
「広報部の人が冗談で言ったことが第一報になったみたいだ。はっきり雑談やオフレコと断らずに、こりゃ日本刀だねとマイクの前で話して記事にされた。それで訂正の公式発表をあわてて出す羽目になった」
「広報に向いてないんじゃない、その人」
「俺もそう思う」
冒険社とマスメディアはこの件で抗議文を交換した。だけどここで誤報が起きたことは、ある意味で良かったのかも知れない。世間がニュースを鵜呑みにしなくなり、これから起こる現実離れした出来事のショックを和らげる効果があったように思う。
夫が帰ってきた日の夜、テレビの話題の中心になったのはオークでなく若い女性冒険者さんの派手な発言だった。そこにダンジョンがあるから。その人がレコードデビューすることになったと報道されたとき、これこそ冗談だろうと思った。
「あ、美智子さん。私的にご相談したいことがあるんです。ちょっとだけ大丈夫ですか」
「今川くん、またロボットの話ですか。私はあんまり知らないんですよ」
「いえ、そうじゃなくて、そのう。星野さんて冒険者の峰恵さんとご面識があるのかなと思って」
「ファンなの」
それは夫は面識があるよね。さてと、目の前で未成年みたいに赤面しているこの人にはどう答えたらいいだろうか。
「峰さんって、責任感と行動力があってかっこいいですよね」
「そうかもね」
「それで実はデビューCDを買ったんです。星野さんを通じてサインをもらえないでしょうか」
「聞いといてあげる。でも約束はできないよ」
「もちろんそれで大丈夫です。ありがとうございます」
ぺこぺこと情けなく頭を下げる次期工場長を眺めながら私は思った。ラブトラップだっけ。夫が付き合いで買わされたサイン入りCDが家にある。誰も聴かないから困ってたんだ。ちょうどよかったよ。




