EPISODE 9.4
営業部の新入社員の相良くんは仕事の増大が見込まれるルート配送と新規開拓の両方をやることになっている。指導者のゆりちゃんが机の上に PCG-FX33S/BP を置きっぱなしにしているのに、相良くんは IBM ThinkPad X20 をちゃんと持ち歩いていて偉い。
「例の冒険手帳ね、決まりそうだよ。星野さんのアドバイスのおかげだ」
「夫は何もしていませんけど」
「そんなことない。冒険鉱業社の窓口を教えてもらったおかげでスムーズに商談ができた。決まればだけど、初回は5,000冊の納品になるかな。そこからは相良くんに担当してもらうことになる」
冒険社は法律に基づいて設立された特殊法人で営利目的の活動が認められていない。そしてその子会社の冒険鉱業社は普通の会社なので堂々と商売ができる。ややこしいのだ。
夫の適当な助言を鵜呑みにしたA7判の防水ノートは冒険手帳と命名されて売り込まれた。紺地に白の冒険マーク入り。冒険鉱業社は冒険社からマークの使用許諾を受けて比野文具に手帳の製造を委託する。この手帳はうちの商品ではないのでロゴマークも会社名も入っていない。OEMというやつ。
「ダンジョンで活動している冒険者は100人もいないでしょう。そんなに作って冒険社は大丈夫なんですか」
「それが販路はあるんだよ。鉱業社の観光部がダンジョンホテルの売店でお土産用に売るんだ。奥多摩ダンジョンは世界的に有名だから注目されるぞ。販売委託も受けてうちのサイトで扱えたら最高なんだが、それはたぶん無理だ。ネット通販は鉱業社が自前でやるだろう」
ダンジョンなんて意味不明の穴。それがそんなことになっていたなんて。
「ところで美智子さん、いよいよ21F探査が始まるんですよね。星野さんも関わってるんですか」
「うちの人は危ないところには行かないって言ってた。ゆりちゃんもゴブリンとか興味あるんだ」
「当たり前じゃないですか。興味のない人なんていません」
お昼前にメールを着信する。
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これから20F基地。明日、地上に出たらメールする。大地をよろしく。
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あいかわらず素っ気ないこと。そんなんだからパパと呼ばれないのよ。私は携帯電話をポケットに戻して外に出る。今日は真子ちゃんとかおりちゃんといっしょに近所のラーメン屋さんに行くことになっている。レディースデーで半額というポスターを見たので。




