EPISODE 7.1
小林さんの発見と救助が報じられても夫は不通。NHKニュースにゴブリンやロボットが登場して唖然としたり、いっしょにいたのが有名な俳優さんと発表されたりした。驚くことにも飽きて、義母と大地は昼寝してしまった。家事はしなくていいと言われたので手持ち無沙汰だ。携帯で読売、朝日、毎日のニュースを確認してみたが、テレビの速報のほうが早かった。
人間のように歩くロボットのカメラが撮影した小さな怪物の姿は緑色の小鬼のよう。それがどうやら複数いたらしい。こんなものと暗闇で遭遇して助かった小林さんは運の良い人だ。過去にも目撃情報があったこと、そしてそのときは犠牲者がいたこと。現実の世界が不思議なものに侵食されている。
夕方に顔を見せた夫は私が実家にいると思っていなかったようだ。なんということだろうか、彼はメールを見ておらず、普通に大地を迎えに来たのだ。電話はマナーモードでバッグの中。義母に分けてもらった激辛カレーで悶絶すればいい。
出社後は心配してくださった方々に、やはりメールですませてはいけないとお礼にまわった。しかしみんなはダンジョンに興味津々。とくに社長が食い付いてきたのには閉口させられた。旦那さんはゴブリンを見たの、あのロボットの正体を教えてと聞きたがる。その気持ちはわからないでもない。
「奥多摩は大変だったね。無事で良かったじゃない」
「美香さん、ありがとうございます。昨日は急なお休みで大丈夫でしたか」
「忙しい日じゃなかったから平気。それに美智子さんが入社するまで、私がひとりで事務やってたんだよ。今は野原さんもいるからなんとでもなるよ」
それはそれでさびしい。だったら今日もお休みにすれば良かったのかな。
「さっき上の事務所に行ったら英美里さんが数学の勉強をしていましたよ」
「うん。山代さんが微分方程式を教えてるんだって。なんとかモデルの理解に必要だとか。工場の人にそんな理論は必要ないだろうにね」
英美里さんは男の人みたいに重い荷物を運べない。でも採用時からわかっていたことなので誰もそれで怒ったりはしない。そうして得意な分野でがんばれと彼女は経営管理部の虎の穴に放り込まれるのだった。これはいじめではない。
「工場も工場長もどうなるかわからないから不安なんだよ。それでおかしな行動に出たりする」
「計画はまだ白紙なんですか」
ふらふらした新工場計画。その一部を美香さんがそっと教えてくれた。
「有力な計画はあるの。まず場所は市川市のオオミヤさんの倉庫のお隣。そんなに遠くないし国道14号でも高速でも行ける。問題は資金がぜんぜん足りないこと。社長と工場長はオオミヤさんを巻き込むつもり」
「どうするんですか」
「まず関係をもっと深めて、それから株主になってもらう。それでもまだ足りないらしいんだけど」
「うまく行くんでしょうか」
「わかんない。誰にも言ったらダメだよ。確実じゃないんだから」
社長と工場長は川崎あたりで考えていたらしい。ところがオオミヤさんのほうから、良かったらどうかと自社で確保していた土地を紹介された。まったく好都合なことである。
「川崎も市川も距離は変わらないですね。通勤時間も同じくらいかな」
「受注管理部はここから動かないはずだよ。だって事務所と現工場の土地は分筆してるから事務所は都心に残すんじゃないの。たぶんね」
どうなることやら。




