EPISODE 35.3
発端はドラゴンモニターの1台が設定変更のコマンドを受け付けなくなったことだった。24Fではゴブリンやオークとの戦闘は行われておらず、単純な故障と思われた。開発途上の探査ロボットO4が現場に投入され設備の交換を行ったところ。
「そこでドラゴンの糞が発見されたんですよ。しかも形状に爬虫類の排泄物の特徴があります。円柱状で白い尿酸部分が付属していたんです」
「鈴木くんも変なドラゴンに興味あるんだ。というか、こんなことで号外が出るんだね」
自衛隊の災害派遣が終了した後は、冒険者たちがアルカリ性のクリーニング液と吸収シートで清掃活動を行なっていた。上の階から汚れをどんどん下の階に落としていき、ダンジョン銀座の通路から森に搬出して国交省が仮設した道路で運ぶ。世間はダンジョンの話題に飢えているのに通常の活動は再開していない。それでこんなニュースにもメディアが飛び付くのだ。
「その糞からはゴブリンとネズミの遺伝子が見つかったそうです。ゴブリンとネズミは遺伝子的に近似しています。どう思いますか」
「なんとも思わない。それがどうかしたの」
「新聞にはこう書いてあります。仮説A、ドラゴンは広食性でいろいろ食べる。ゴブリンとネズミしか見つからなかったのは、それしか食べるものがなかったから。仮説B、ドラゴンは特定の餌しか食べない。ネズミとゴブリンの区別が付いていない」
それって何もわからないってことじゃないの。違うかな。
「なんで私に聞くの」
「何か知ってるかと思って。星野さんは関わってないんですか」
「あの人は最近はダンジョンに行ってないから。制服で市ヶ谷に通ってるよ」
会議ばかりだと言っていた。防衛庁の内部で何が話し合われているかなんて私が知っているはずはないが、ドラゴンの話ではないだろうと思う。それからも今川くんや松本くん、修くんまで新聞を片手に走り寄ってきた。みんな工場の人ばかりだ。工場長が泣くよ。
動物分類学者や形態学者はゴブリンを捕獲する際の爪の使い方を議論し、歯の形から食性を予想した。動物栄養学者はドラゴンが寝てばかりなのはエネルギーを節約するためだろうとコメントした。動物行動学者は休息パターンを探ろうとしていた。
「ロボットが投入されますね。嗜好性実験が行われるんです」
「英美里さんまで影響を受けたか」
「えっ」
「いやなんでもないです」
O4を使ってドラゴンの前に餌を並べてみようという作戦。実験A、牛や豚の肉を並べてみよう。実験B、生きたウサギやモルモットを見せてみよう。実験C、ネズミとゴブリンの肉ならどっちを選ぶ。こうしたカフェテリア実験が何度も行われて学者さんたちが議論をした結果。このような結論が出た。
ドラゴンはネズミしか食べない。ドラゴンにとってゴブリンはネズミ。
「パンダといっしょなんです。かわいいですよね」
「かわいくはないでしょう」
だけど、これで謎が解けたと世間は大騒ぎしている。あの行方不明になった人物やロボットが襲われなかったのは偶然ではなかったのだと。




