EPISODE 35.1
「なかなか大変な任務だった。これ美味いな」
「気楽そうに言ってるけど、テレビではヒーロー扱いされてるのよ」
ご所望のあんかけ豆腐の他にも豆腐の天ぷら、焼き豆腐のチーズがけ、豆腐サラダを並べてみた。
「テレビがそうしようと思えば、誰だってヒーローやアイドルになれるもんだよ」
「これからどうするの」
「奥多摩のほうは大掛かりな作戦になるとしか言えない。俺は自宅で報告書をたくさん書くから正月明けまで在宅勤務だ」
ここで食事をしたことのない義父母も今日は来ていた。義父がビールを飲んでしまったから泊まりは確定。義母は私の料理に何かを言おうとしては空気を読んでいる。そんな食べ方だと何を食べても美味しくないでしょうに。
「大地は明日からまた幼稚園に行かせる。私は明日もお休み。連休にしちゃったから年内はもう休みにくいかも」
私が頭の中のカレンダーに印を付けているとき、顔の赤い義父が3本目の一番搾りを開けていた。
「哲夫は自衛隊の仕事はどうするんだ。こんなことになったらもうダンジョンの任務は終わるんだろう」
「それもまだわからない。なんというか不確定要素が多すぎて本当にわからない」
自宅の14インチのテレビには真昼のように照らされたダンジョンゲートが映っていた。
在宅勤務というのはずっと家にいるものだと思っていたら、期日までに報告書を出せばちょっと用を足しに出るくらいは何も言われないというものだった。彼は冒険手帳にメモしたあれこれを Word 2000 で文書化していた。TOUGHBOOK M34 を自宅で使うためにブロードバンドルーターを追加購入することになった。
クリスマスにはドンキで2,980円で購入したツリーを飾った。プラスチック製で電飾がセットの全部入りだった。さらにいつもの不二家で4号のケーキを購入した。
「自衛隊の作戦ってまだ終わらないのね」
「すみずみまでやるってことだから時間はかかるだろうね。増強されてるけど倒したゴブリンやオークを運び出すには手が足りない。おそらく再増強されて指揮官が交代すると思う。3佐は大隊長にはなれないから」
「そうなんだ。じゃあ辻さんはどうなるの」
「電話で話したんだっけ。おそらく大隊副隊長として現場に残る。やり始めたら抜けられないよ」
ダンジョンで災害が発生したとき防衛庁は夫を中隊長にするつもりだった。だけど本人が穴の底にいたので上司の辻3佐が代わりに派遣されたのだ。
「救出作戦のあとで恨みごとを言われた。だけどそんなつもりなら前から言っておいてくれたら良かったんだ。俺は悪くない」
国営公園内の広場の前に掘られた大穴にゴブリンやオークが何百体も埋葬され、そこには財団法人奥多摩自然環境保全機構がモニュメントのようなものを建てた。ゴブリンのお墓には夫も手を合わせに行った。
「帰りにドラゴン神社に寄ってみたよ。すごく小さなところで、あそこに初詣に行かなかったのは正解だ」
初詣はいつものように近場の護国神社ですませたのだ。
「美智子の会社のほうはなんともなかったんだ」
「ゴブリンもドラゴンもうちの仕事には関係ないよ。だけどまあ大変なことはあった」
年明けすぐに新しいサーバー NEC Express5800/110Ef (512MB, HDD40GB, Windows 2000 Server, FileMaker Server 5.5J) が導入された。さすがに観葉植物の横に置くのは無理だということで鉢植えのほうが移動させられた。行き先は社長の寝室。これまでサーバーだった Mate NX MA23D/C はただのパソコンとして工場で使われることになった。
社内のあちこちの FileMaker Pro もバージョンが上がって6.0Jになった。これらの作業で土日がなくなることがわかっていたので、島田くんは正月の出勤には抵抗したのだ。
「それって大変だったのは技術者の人だけなんじゃない」
「そんなことないよ。使い勝手に違和感があったらみんな困る。結果的に問題が起こらなかっただけなのよ」




