EPISODE 26.1
銀の長髪の痩せた人物のインタビューが何度もニュースで放映されていた。ダンジョンの未知の領域に消えた男性の最後の映像だった。
「変わった剣をお持ちですね。補助者なのに武器を持っているんですか」
「これですか。これは池袋で買ったんです。刃は付いていないので危なくありません」
男性は剣をすこしだけ抜いて見せる。
「きれいですね。剣に細かい模様がびっしり象眼されています」
「これはルーンなんです。特別な力があるんですよ」
男性の名前は天地翔。28歳。病気の詳細は報道ではわからないが、横浜で両親と暮らしながら在宅緩和ケアを受けていた。ある日、東京に旅行すると書き残して自宅から姿を消した彼は、言葉通りに奥多摩ダンジョンの調査ツアーに参加した。
小学校の卒業文集に書かれた将来の夢は小説家。中学時代の友人は快活な性格と評した。また高校時代の知人は温厚で真面目だと表現した。自宅から通える大学の英文科に進み、病気の治療のため休学していた。趣味は読書で小説が多め。テレビに映し出された書棚にはシェイクスピア、カズオ・イシグロ、村上龍などがあった。
「あの模造刀が重要だと思うんですよ。新聞には海外の小説に出てくる剣だと書いてありました。命を吸い取る魔剣なんです」
「読売新聞にはそんな記事はなかったよ。松本くんは何を読んだの」
「うちは朝日です」
専務が処分しようとした Gateway 2000 P5-100 を救出して休憩室に設置した今川くんが Yahoo! JAPAN で剣を検索してみた。同じ機種を使っていたことのある彼は産廃のトラックにこれが積まれるのを見ていられなかった。
「詳しそうな記事は英語ばかりだ。海外でも話題になってるんだ」
「写真も出てくるでしょ。イギリス製のハンドメイドで池袋のショップが輸入してたんだよ」
「お前たち、もう昼休みは終わってるぞ」
時計を見てあわてて休憩室を飛び出していくふたりを見て工場長はため息を吐いた。
「美智子さんも事務所に戻らないと」
「すみません」
「生き方は人それぞれだ」
ゴブリン、オーク、ドラゴン、中二病、アイドル。工場長がこれらの話題に乗ることはこれまでなかった。ダンジョンでの馬鹿騒ぎに対する最初で最後のコメントだ。春になって新工場の着工を見届けたら、竹山工場長は仕事を引退して取締役も退任する。本人の希望で勇退式などは行わないことになった。




