EPISODE 23.2
吉祥寺で井の頭線に乗り換えて渋谷へ。渋谷から東急田園都市線で二子玉川へ。東口を出るとそこは広大な空き地だった。空き地にはさまざまなテントや簡易な店舗が点在している。
「どっちだろう。あの看板はドッグラン。こっちかな。大地は手を離すなよ」
「うー」
「今日はなんだか暖かいね。寒くなるって予報では言ってたのに」
「連休後半は気温が下がるみたいだよ」
人でいっぱいの砂利道は歩きにくかった。やがて赤いテントと赤い猫の看板が見えてきた。思ったより小さな施設らしい。
「入口はどこなの」
「あそこの人が並んでるところだ。ひとり700円で大地は無料」
夫が財布から夏目漱石を取り出して渡してくれたので入場券を購入する。地図やイベント案内の書かれたリーフレットをもらった。
「人の流れに着いていけばいいんだ。大地は抱っこしないと見れないだろう、ほら」
「にゃんこだ」
そう。ここはにゃんこがたくさんいる施設。飾り付けられたケージが通路沿いに並んでいる。ロシアンブルー、アメリカンショートヘア、チンチラ、エジプシャンマウ。スフィンクスってあれも猫なの。
「にゃんこねてるね」
「そうだね」
ここの猫は外の人間にはあまり興味がないのかな。ケージの枠に手書きで名前や特徴が書いてあるのを大地が読もうとしていた。まだ文字を教えてないのにね。
「これ」
「マンチカン。アメリカの猫だって。顔がふてぶてしい」
「そんなこと書いてないじゃない」
左のほうにメッシュで囲まれた小屋のようなものが見える。並んでいる人は5人くらい。
「あそこ行ってみましょうか」
そこはふれあいコーナーだった。大地を下ろすとさっそくメインクーンを追いかけ始めた。
「走ったらびっくりするだろう。生き物はいじめたらダメだよ」
「にゃんこいるー」
日本っぽい黒猫の隣にいるのはなんだろう。
「あれはシンガプーラです。小さいけど大人の猫なんですよ」
「へえ、かわいいですね」
「このパークでは親子の展示はないんですね」
「親子はおりますけれど、小さいうちは人前には出さない方針なんです」
親切に教えてくれたスタッフさんはやがて手振りで退場をうながした。入口の行列がさっきより長くなっていた。連休だもんな。
「大地、ほら三毛猫だ」
「どれー」
小屋を出てすぐのところに手作りっぽい鳥居と大きな三毛猫のケージがあった。ふくちゃん神社。
「珍しいオスの三毛猫です。きっとご利益がありますだって」
「えっおもしろい。やっぱりドラゴンなんかより猫のほうが身近でいいよ」
小さな賽銭箱に大地が興味を持っていたので10円玉を入れさせた。こんなところで作法は必要ないだろう。
「うちでも猫か犬が飼えたらいいね」
「アパートだしなあ。家を買ったら考えようか。そういえば奥多摩の事務所にも猫がいるんだよ。ダンジョーっていう名前のやつ」
こうして私たちはお土産売り場や屋台をひやかしつつ楽しい気分で帰宅したのだった。大地はもうすぐ誕生日を迎える。そうしたら幼稚園の満3歳児クラスに入ることになっている。




