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EPISODE 23.1

「今度はいったいなんなのよ」


お姉さんは不審物を扱うように、夫が奥多摩の町で買ってきたドラゴンまんじゅうを手に取った。冒険社と無関係の便乗商品の新バージョンである。色はまっくろで中身は黒糖風味のゴマあん。


「くやしいけど美味しい。でもどこがドラゴンなの。ドラゴン要素がないじゃないの」

「色じゃない。皮に炭が入ってると思う」


私にはやっぱり甘すぎる。大人気と聞いてわざわざ行列に並んで買った夫は、気に入ってたくさん食べていた。大地は私の子なのですこしだけ食べて顔を背けた。



ロボットがドラゴンの部屋を歩き回って写真や動画を撮影していた。それがテレビや新聞に毎日出てくる。海外でも報道されていて、当初は Tokyo Dragon と呼ばれていた。冒険社が英文でプレスリリースを出してからは Okutama Dragon とも書かれるようになった。


「エキゾチックレザーのバッグやブーツが人気なんだって。あのドラゴンは正体不明なのにイメージだけで社会が動いてるみたい」

「日焼けサロンが最近また人気で、ドラゴン風のメイクも渋谷では珍しくないってテレビで見たよ」


あれは変なドラゴンだ。シルエットはそれっぽいのに雰囲気がいわゆるドラゴンではない。もっと象みたいな感じ。


「文房具にも影響あるかな。革表紙とか」

「うちのラインナップからはかけ離れてると思う。でもネットに載せたら売れそう」



寝る前に、新しく買った LaVie L LL500 と Yahoo! BB で快適なネットサーフィンを楽しんでいたら、巧妙な冗談のようなニュースを見かけた。奥多摩国営公園の隣接地、ダンジョンの南隣の山に奥多摩龍神社が建立された。


手水舎の水盤にドラゴンの浮き彫り、狛犬代わりのドラゴン像。ご神体はダンジョンそのものとし、ご祭神は大穴持神。大国主神の別名で大地、鉱山、ダンジョンの神様である。ご利益は縁結び、病気平癒、商売繁盛、五穀豊穣。なんかすごい。



打ち合わせのあとで呼び止めてきた裕太さんが、そわそわした様子で突拍子のないことを聞いてきた。


「美智子さん、ダンジョンで見つかったダイヤモンドってどこで買えるんだろう」

「あれは国有財産になるんです。冒険鉱業社が販売を委託されてオークションに出されます。それで手数料が鉱業社に入る仕組みです。どこで買えるかはわかりません」


冒険鉱業社の利益は配当として冒険社に移転されて、その分だけ助成金が下がる。助成金の原資は税金だからダイヤの利益はまるまる国民の利益だ。


「ダンジョン産の宝石はプレミアムがすごいから、手に入れるのはお金持ちなんでしょうね」

「そうすると百貨店か大手の宝石商か、そういうところが落札してるのかも知れない。入手するのは無理みたいだな」

「婚約指輪ですか」


言い当てられて、ぎょっとした裕太さんの顔がおもしろかった。いつも持ち歩いている Rio 800 は彼女からのプレゼント。みんな知ってるのよ。


「ドラゴンダイヤなんて大富豪みたいな指輪を買っちゃったら、結婚指輪はどうするんですか」

「いや別にこだわってるわけじゃ。ただドラゴンに興味があるみたいだから調べてみただけで、そんなに高いものだとも知らなかった」

「彼女が欲しがったわけじゃないの」

「まだプロポーズしてない」


いったい何をしてるの、この人は。


「あのですね。まずは本人に聞くべきです。サプライズなんてバブル時代の風習です。とっくに終わってます」

「そうかなあ」

「そんなにあの変なドラゴンが好きなんですか、奈子さんは」

「なんで名前まで知ってるんだ」

「うちのお客さんだもの。杉浦文房具店の奈子さんでしょう。金山くんから聞いてます」

「あいつ…」


絶句した裕太さんに、美香さんと相談して別プランを考えてあげた。奥多摩龍神社で神式で式を挙げたら彼女はきっと喜ぶと思うよ。


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