友情
マリアの手から伸びる光の剣。
その光景を見て、俺は先ほど何が起こったかを理解した。
勝負が着いたと思った直後、マリアは手から光の剣を伸ばし、拓人を狙って切りつけたのだ。
哲也はそれに気づき、間一髪で俺の命を救ってくれた。
その結果、哲也の右腕は斬り飛ばされてしまった。
自分の油断が起こした取り返しの付かない失態。
マリアへの、そして自分自身への怒りが渦巻く。
「拓人!こちらは何とかなるから大丈夫だ!目の前に集中しろ!」
部屋へ響く哲也の声で気合を入れなおす。
アイツが大丈夫と言うのだから、それを信じて目の前の敵を倒すだけだ。
「友に命を救われたのう、だが次はどう防ぐ?」
再び光の翼を生やしたマリア。
俺はすでに奴の間合いに入っていた。
剣を一振りすれば、俺の命に手が届く距離。
だがそれは、俺の拳が届く距離でもある。
「……今度こそ油断はしねぇ、ミンチにして二度と生き返らないようにしてやるよ!」
先ほどの怒りで増したチャクラを回し、全力で拳を振るう。
だが、マリアはそれを文字通り飛んで躱し、伸びた腕へと剣を刺す。
咄嗟に腕を引くが、浅く皮膚がえぐられていた。
背中の翼を使っているのか、そのまま空中で停止するマリア。
そこには変わらず慈悲の微笑みが宿っていた。
「すぐ楽にしてやる、無駄に足掻くな」
その言葉は神の子としての宣託。
光翼を生やし、白き衣を纏いし天からの使い。
その姿に相応しい物言いだった。
「上から目線で調子こいてんじゃねぇ!」
マリアを見上げて吠えるが、こちらには空中への攻撃手段がなかった。
飛びあがって攻撃すれば届くだろうが、その後は空中で完全に無防備になってしまう。
向こうは致命傷を回復できるが、オレは出来ない。
相討ちでは勝ち目がないのだ。
「拓人!全力で石を投げろ!」
哲也の言葉で、瞬時に床へ転がってる砕けた石をいくつか掴んで投げた。
確かに今の俺なら、砂利程度でも散弾銃の威力を出せるだろう。
そのいくつかがマリアの身体を貫いた。
しかし、それを意にも介さず血を流したままこちらへ突っ込んでくる。
投げ終えた体勢を狙った攻撃を、哲也が盾で防いでくれた。
「ぼさっとするな!どんどん投げろ、防御はしてやる!」
「だが効いてないぜ!」
「効いていなくても回復力は削れる、復活は無限じゃない」
確信したように語る哲也。
「見ろ、オレの腕を」
そこには確かに切り落とされたはずの右腕が、元通りに生えていた。
「お前……それ……」
オレが驚愕していると、哲也が説明を始めた。
「そうだ、生やした!だが何回も出来ることじゃない、蓄えていたエネルギーをかなり消耗する」
「きっと奴もオレと同じだ、生き物である以上、回復の限界量があるはずなんだ」
「上空からさっきの遠距離攻撃をし続ければいつかは勝てるのに、それをしないのも同じ理由だろう」
それを聞いて納得した。
やっぱり哲也は凄い奴だ、こんな状況でも勝つための道を見つけてくれる。
俺は勝利を確信して、足元の石を拾い上げた。
「フフフ……なるほど、確かにそなたの道理は合っておる……半分はな」
口元に手を添え、マリアは微笑んだ。
その笑みは柔らかく見えたが、実際には子供の浅知恵を笑う冷酷なものだった。
「広範囲の光魔法は、これ以上使うと建物を壊すから止めただけだ。この建物には信者もまだおるからのう」
空中から建物の損壊具合を確認するように辺りを見渡す。
「御父様から預かっている大切な信者を、巻き込むわけにはいくまいて」
そしてこちらに向き直り、言葉を続けた。
「実は、妾には御父様から受け継いだ至高の能力があってな。人間から直接エネルギーを貰えるのだ」
マリアが誇らしげに笑う。
「それを月に一度、もう二千年以上続けておる」
まるで父親から貰った宝物を、自慢するように話していた。
「つまり、万を超える人のエネルギーを蓄え続けておるのだ、来たるべき楽園の創造へ向けてな」
そしてマリアは、ゆっくりと指を一本立てる。
「だからそなたらが妾を殺す為には……少なくとも一万回この身を砕かんといかんなぁ」
天使から与えられた絶望の啓示。
たった一度の攻撃を当てるのに、あれだけ苦労させられた。
それを一万回繰り返せと告げられたのだ。
——不可能。
「フン、それがどうした」
哲也がいつものように鼻を鳴らし、胸を張る。
「つまりはオマエもいつかは死ぬことを、わざわざ教えたというわけだ、ド低脳が」
折れない。
「ならばそれまでやるだけだ」
何があっても生き抜く、その変わらない意志こそが哲也の強さだった。
俺はそんな哲也を心から尊敬する。
そして、生まれて初めてできた肩を並べられる友達だからこそ、その強さに負けていられない。
「……俺の通り名は千羽折だ……万羽折るのも大して変わらねぇぜ!おあつらえ向きに、羽が生えてるしなぁ!」
自分で言った言葉に、思わず口角を上げた。
隣に哲也がいれば何も怖くないと思えた。
「フン!アキラには悪いが見合いは破談だ!神の子だか数の子だか知らんがすり潰すぞ!拓人!」
「オウ!」
ボロボロの体に力が漲る。
今までに感じたことのないほどの螺旋が、全身を駆け巡っていた。
マリアがこの状況でも折れない二人を、興味深そうに見下ろす。
「ふむ……そなたらの強き心根、褒めてやろうぞ。ならば、いつそれが折れるか試してしんぜよう……ヘレヴ・オル」
その声と共に、剣がさらに眩い閃光を放ち長く伸びる。
哲也は目を離さずに、盾を構えながら俺へ何かを渡す。
「拓人、これを使え!」
手渡されたのは真珠色に輝くロッド。
「アイツがダラダラ喋っている間に、斬り落とされたオレの腕から骨を抜いて加工したものだ。盾と同じで決して折れん!」
「……ありがてぇ」
馴染みの得物を左手に持って構える。
そのロッドから、哲也との繋がりを感じた。
深く息を吸う。
隣から、同じように息を吸う音が聞こえる。
俺たちの呼吸が重なりあう。
それだけで、負ける気がしなかった。




