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カメレオン

前話のタイトルを間違えてました、修正したのでご注意ください

 彼(・)女(・)は長く波打つ髪をしていた。

 黒髪に混ざった金色のメッシュが、薄暗い照明を受けて輝いている。

 小さな頭と繊細な顔立ち、そこにあるアーモンド形の瞳は深い茶色にきらめく。

 

 なにより、その体には布きれ一枚すらつけていない。


「……」


「ふん、人の裸をあんまりジロジロ見るな、長ネギ」


 艶やかな女性の声で、俺に語りかける見知らぬ人物。

 そのまなざしには、照れているような戸惑いと、こちらへの親しさが漂っていた。


 俺は、ここに哲也を助けにきたはずだ。

 

 モーセはこの箱の中にアイツが入っていると言った。

 そして、内側から現れた人物は、間違いなく哲也そのものの口調で話していた。


 だが、目にいるのは、お目にかかったことのないほどの超絶美人。


「……お、お前は哲也なのか?」


 自分で言っておきながら、常識外の事態に声が震える。

 猫が喋ることより信じられない現実が目の前に現れていた。


「ああ、オレは新井出哲也だ、外見はだいぶ変わっただろうがな」


 親指で自分を指して胸を張る。

 その動きで豊かな胸元が揺れた。

 

 俺はそれを視界から外すように勢いよく顔を逸らす。


「わかった!だが!頼むから服を着てくれ!」


 慌てて周囲を探すが、着られるようなものは落ちていない。

 オレの服は体と同じくボロボロで、貸しても意味をなさないだろう。

 どうにか、倒れているモーセの衣装を使うことを思いついた。


 気を失い倒れているモーセから黒いフードを剥がし、それを渡した。


「……とりあえず、これを使え」


「フードだと丸見えになるな、いっそ裂いて局部だけ隠すか」


 顔を背けながら渡すと、哲也はそれを引き裂いて胸と腰で結んだ。

 

 出来上がったのは、黒で統一されたチューブトップとハイウェストのスカート。

 その姿はシンプルでありながら洗練され、静かな強さと優美さを兼ね備えていた。

 

 俺の知る肉まんのような姿は、カケラも残っていなかった。


「よし着たぞ、次はオマエの怪我だ」


 哲也が余った布で、オレの貫通した左手の止血と、折れている肋骨の固定をしてくれた。


「どうだ?動かせるか?」


 先ほどよりも痛みが軽減され動きやすくなる。

 呼吸もかなり楽になった。


「……おう、サンキュー」


 返事を返したが、どうにも落ち着かない。


「なぁ、そこに転がってるペストマスクは誰だ?」


 気を失っているモーセを指差し、哲也が聞いてきた。


「……そいつはモーセとかいうカラス人間の一人だ、あと二人も倒したぞ」


 とりあえずこれで目下の危機は去ったと言ってもいいだろう。


「こいつがモーセか……」


 哲也の声に怒りと憎しみが滲んでいた。


「絶対に復讐してやろうと思ったが、すでに死にかけてるな。オマエが倒したのか?」


「あ、ああ……ギリギリだったがな」

 

「フン、ならば一応感謝をしておこう、拓人」


 哲也がニヤリと笑ってみせた。

 

 女性の声で初めて名前を呼ばれたこと。

 そして、言葉とは不釣り合いな可愛らしい笑みに思わず心臓が跳ねる。

 顔が赤くなるのを自覚し、咄嗟に自分を殴りつけた。

 

 ——良くない、それは絶対に抱いてはいけない感情だ。

 

 頭の隅で、とある可能性に気づき、今度は顔が青ざめる。

 

「ド低脳!なにやってんだよ!大丈夫か?」


 哲也が慌てたように口にした。

 

「……すまん、なんでもない」


 垂れた鼻血を腕で拭って冷静さを取り戻す。

 

「しっかりしろよ、まだ終わってないんだからな」


 確かにそうだ、俺らが知っている敵を排除しただけで、カラス人間はまだいるかもしれないのだ。

 それに、俺には引っ掛かっている言葉があった。

 

 先ほどモーセが言っていたセリフ。

 

『どちらにせよ、これから人類は絶滅寸前まで減らす』


 その言葉が、どうしても頭から離れなかった。

 俺にはその真意がわからず、哲也に意見を求めた。


「……確かにそれは気になるな、あの時マリアが豹変したのにも理由があるだろうしな」


 冷静に意見を述べる姿を見ていると、中身は変わっていないと分かり安心できた。


「だが、今はいったん日本へ帰るぞ。アキラに会ってこのことを話す」


「……そうか、わかった」

 

 言われてみれば、それが最善だと納得した。

 

 俺は満身創痍だし、哲也に至っては意味のわからない状態だ。

 それに、他のカラス人間と戦闘になるかもしれないのだ。


 まずはここからの脱出を成功させよう。


「おい!スマホがあったぞ!」


 哲也がモーセの懐からスマートフォンを探し出した。

 モーセの指を使いロックを解除し、そのままアキラの番号を入れる。


「……ダメだ、鳴らしても出ない。とりあえず留守電には緊急事態だと入れておいた」


 時差を考えると、日本は夜中だろう。

 だとするとアキラは寝ている可能性が高い。


「とりあえず、外に出てアキラから連絡が来るまで隠れるぞ」


「そうだな……俺も戦うのはキツイ」

 

 警備員程度なら何とかなるが、またカラス人間が出てきたら厄介だ。

 

 部屋を出て二階に降りたが、倒したはずのイサクの姿はなかった。

 きっと警備員が運んでいったのだろう。


 時刻はすでに深夜となっていた。

 静まり返った建物の中を歩き、一階の広間へと下りる。

 

 すると、そこには誰かが待ち構えていた。


 特徴的な白い修道服を着た小柄なシルエット。

 薄暗い広間で、月明かりを浴びて輝くピンクゴールドの髪。


「そなたらの力、少々見縊(みくび)っておったようだな」


 広間に響く声と共に、エメラルドの瞳がこちらを射抜く。

 

 その視線の主は——女王マリア。

 

 静かな声に潜む威圧感。

 その存在だけで空気が張り詰め、広間の温度が下がったように感じられた。

 

 俺は思わず息を呑み、哲也は眉をひそめる。

 モーセが口にしていた“人類絶滅”。

 その言葉と、目の前の存在が重なって見えた。

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