第7話 「旧家破りの大首」
57:名無しさん@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:15:40.12 ID:x8J9aK10
おいおいおい、地下階段の先から漏れてる赤光、マジでヤバいだろ……。
ドット絵のノイズとかテキストでもヤバさが伝わってくるぞ!?
58:名無しさん@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:16:05.88 ID:8bitLove
制限時間も残り11分半か。
ボスを倒して核を砕いて生還するまでがレイドだぞ! スレ主、生きて帰ってこいよ!!
59:【解析班】名無しのアセンブラ@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:16:35.00 ID:Assembler
第二階層ボス【旧家破りの大首】を検知。
注意しろスレ主。これまでの雑魚と違い、ボスは『広範囲ノイズ拡散』を行う。
前庭で使った左右の音像定位だけでは、攻撃の座標を完全に絞り込めない可能性がある。
石階段を一段、また一段と降りるたび、足元から不気味な冷気が這い上がってくる。
明治時代に建造された土蔵の地下——そこは、何十年も太陽の光を知らない完全なる密室だった。
「ひやっ……としてる。陸、ここ……湿気がすごいよ……」
俺の手を固く握りしめた葵が、吐息を殺しながら囁く。
「ああ。……だが、カビの匂いだけじゃない。昭和のブラウン管が焦げ付いたような、甘くて臭いオゾン臭が充満してやがる」
階段を降りきると、そこは畳十枚分ほどの狭い石造りの地下室だった。
壁面には古い神棚や、ネズミに齧られた巨大な葛籠がうずたかく積まれている。
そして部屋の中央——漆黒の空間に、血のように赤いドット光が浮遊していた。
ピッ……ピッ……ピッ……
【レイドエリア:『旧家破りの蔵・地下深層』に入侵しました】
【警告:階層主『旧家破りの大首』とエンカウントしました】
【制限時間:残り 11:15】
ズズズ……ジジジジジッ……!!
石畳の底から、腹に響くような重低音ノイズが沸き立つ。
赤いドット光が不気味に蠢き、膨れ上がり——やがて直径ふたつ分ほどもある『巨大な生首』の形状へと構築されていく。
落ちくぼんだ両目には激しく明滅する赤色LEDのような光。
引き裂かれた巨大な口からは、不快なドット絵の舌がチロチロと覗いていた。
『……イ……マ……ワ……シ……キ……コ……ノ……イ……エ……ヲ……ヤ……ブ……ル……カ……』
ザザァァァッ! とスピーカーが割れるようなノイズ声。
「陸! スレの解析班から警告!!」
葵がスマホの画面を伏せたまま、素早く耳元で叫ぶ。
「このボス、広範囲にノイズを拡散してくるって! さっきみたいに左右の音の大きさだけじゃ、攻撃が来る位置が特定できないかも!!」
「なるほどな……! 単純な左右のステレオ音像だけじゃ回避させないっていう、ボス専用のギミックか!」
俺は右手のラジオナイフを構え、口元を吊り上げた。
目を閉じると、確かに周囲全方向から『ジジジジジ……』という重低音ノイズがサラウンドで押し寄せてきていた。
これでは前庭のように「左チャンネルの音量が上がったから右へ避ける」という単純な音像回避が機能しない。
だが——俺のゲーマーとしての脳細胞が、超高速で回転を始める。
(全方位ノイズ……? いや、待てよ。このノイズの波形、どこかで聞き覚えがある……!)
右手に握った『呪導のラジオナイフ』が、チカチカと赤銅色の光を放ちながら、手に不気味な振動を伝えてくる。
(ナイフの説明文——『1422kHzのノイズ波を纏う』……!)
「葵! スマホのラジオアプリ、起動できるか!?」
「えっ……!? うん、バックグラウンドで動かせるよ! 周波数は!?」
「1422kHzだ! 中波AM放送の周波数に合わせろ!!」
「うんっ! 周波数1422……入力!!」
葵が伏せたスマホの画面を素早くタップする。
その瞬間——
葵のスマホのスピーカーから、シュワァァァ……! という激しいAMラジオのノイズ音が鳴り響いた。
ガガガガガガッ!!
「なっ……何これ!? スマホから変な音が……!?」
「ビンゴだ……! こいつの身体を構成してるノイズと、このラジオナイフの波形は、同じ1422kHzのAMラジオ周波数を使ってる!!」
ボスが全方位に放つノイズ。
それにスマホから出力した同周波数のノイズをぶつけることで——
【周波数同調成功!】
【『旧家破りの大首』の攻撃予兆波形を変換】
全方位に散らばっていた雑音が引き締まり、明確な「位相のズレ」となって俺の耳へ飛び込んできた!
(見える……! 全方位ノイズの中に潜む、本体の『指向性ノイズ』の干渉波が!!)
『グギャアアアアアッ!!』
【旧家破りの大首】が割れんばかりの咆哮を上げ、巨大なドット絵の口を大きく開けた。
口内から、圧縮されたノイズの破壊波が真っ直ぐ俺たちへ向け放たれる!
(右チャンネル周波数、1.4MHzから1.8MHzへ急上昇……直線状の貫通射撃系か!!)
「葵、右へ飛べっ!!」
「きゃあ直っ!?」
俺は葵の細い腰を抱きかかえると、右側へ向かって泥臭くダイブした!
ズドンッ!!!!!
直一秒前まで俺たちが立っていた石造りの壁が、赤と紫のドットノイズに穿たれ、凄まじい衝撃音と共に爆砕する。
「はぁ……はぁ……! 避けた……!?」
「葵、大丈夫か!?」
「うん! 陸が庇ってくれたから、無傷だよ……!」
抱き上げた葵を静かに床へ着地させ、俺は立ち上がった。
ラジオアプリによる同調クラック。
これで全方位ノイズの中でも、敵の攻撃の軌道を完璧に読み切れる!
「へっ……昭和のレトロゲーがAMラジオの電波と干渉する裏技……まさか現実に通用するとはな!」
俺は不敵に笑い、右手のラジオナイフを逆手に持ち替えた。
葵は乱れた息を整えながら、倒れ込んだ拍子に伏せていたスマホを素早く操作し、スレへ爆速で打ち込んだ。
60:名無しさん@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:18:00.00 ID:RikuMKB
きゃあああっ壁が吹き飛びました!!
でも主が直前に抱きかかえて跳んでくれたので、二人とも無傷です!!
主がラジオの周波数を“1422”に合わせたら、敵の攻撃の軌道が見えたみたいです!!
61:名無しさん@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:18:25.12 ID:x8J9aK10
うおおい!? 壁が吹き飛んだってマジかよ!?
てか間一髪で抱きかかえて回避とかヒーローかよスレ主!! 無事でよかった!!
62:【解析班】名無しのアセンブラ@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:18:55.00 ID:Assembler
なに……!? AMラジオの周波数同調で敵のノイズをジャミングしただと……!?
バカな、そんな裏技、内部データにも存在しなかったぞ……!
スレ主……お前、ゲームの仕様を超えて『現象そのもの』を……いや、バカな……。
63:名無しさん@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:19:15.22 ID:8bitLove
おいおいあの解析班のアセンブラが語彙失って困惑してんぞwwww
現実のラジオアプリ使ってゲームのノイズ打ち消すとか、発想が狂気すぎるwww
――
『ギ……ギギ……ユルサヌ……コノ……ヤブリメ……ガ……!!』
ビームを外した【旧家破りの大首】が、屈辱に顔を歪ませる。
巨大な生首が石畳から浮き上がり、部屋全体を覆い尽くさんばかりの勢いで突進体制に入った。
【旧家破りの大首:全体攻撃『ノイズ大嚼』準備中】
【回避不可能領域:部屋全体の80%】
「部屋全体を押し潰す気か……! 逃げ場がねえな!」
「陸! どうするの!? 後ろは行き止まりだよ!!」
葵が俺の腕を強く握りしめる。
「逃げ場がないなら——正面から『相殺』するまでだ」
「えっ……!? 相殺……!?」
俺はラジオナイフを胸の前に掲げた。
ナイフの説明文が、脳裏に鮮烈に浮かび上がる。
——『1422kHzのノイズ波を纏う儀式用の刃。怪異の攻撃判定を一時的に打ち消す』。
「葵、スマホのラジオの音量を最大にしろ! こいつと同調させて、ナイフのノイズ波を限界まで増幅する!!」
「うん……っ! 音量、マックス!!」
ガンガンに響き渡るラジオのノイズ音。
それに呼応するように、俺の右手のラジオナイフが、激しい赤銅色のノイズ光を発して荒々しく震え始めた。
『ホロビヨォォォォッ!!』
迫り来る、壁のような巨大な影。死のプレッシャーが肌を焼く。
だが、激痛を越え、両手を取り戻した俺の心臓は、歓喜で狂ったように打ち鳴らされていた。
(突進のヒット判定発生まで……あと3、2、1……)
脳内で、タイムアタックで培った1/60フレームのクロック刻みが始まる。
(今だッ!!)
迫り来る巨大な大首の正面真芯に向け、俺はノイズを狂乱させたラジオナイフを一心不乱に叩きつけた!
シュガァァァァァンッ!!!!!
【ジャスト相殺成功!】
【『旧家破りの大首』の攻撃判定が無効化されました!】
【敵が大きく体勢を崩しました(スタン状態:3秒)】
『グギャアアアアアッ!?!?』
ドゴォォォンッ! と、空間を揺らす凄まじい衝撃波。
部屋全体を押し潰すはずだった巨大な生首が、ラジオナイフのノイズ波に叩き返され、無防備に仰向けへ転倒した!
「なっ……攻撃を、真っ正面から弾き返した……!?」
葵が息をのむ。
「葵! スマホの光を点けろ!! ライト全開だ!!」
「えっ!? でも、光を点けたら敵が集まって……」
「今のアタマは『スタン状態』だ! 光に反応して暴れることもできねえ!! 明かりを照らして、最奥にある『核』を撃ち抜く!!」
「っ……了解!!陸が言うなら、絶対に大丈夫!!」
葵は恐怖を完全に置き去りにし、スマホのLEDライトを迷わずパッと点灯させた。
陸の背中を信じ抜く彼女の決意が、眩い白光となって暗闇の地下室を容赦なく照らし出す。
転倒した大首の口の奥——喉元の深層に、脈打つ拳大の赤い結晶体——【第二階層の核】が露わになっていた!
「見えた……! あそこが『第二階層の核』だ!!」
俺は両足で力強く石畳を蹴り上げ、無防備なボスの喉元へと肉薄した。
右手に握りしめたラジオナイフの刃先が、暗闇を切り裂いて赤銅色に閃光する。
「ここがお前たちの終着点だ……! くたばれぇぇぇっ!!」
渾身の力を込め、俺はラジオナイフを『第二階層の核』の真芯へ向け、深々と突き立てた!
カァァァァァッ……!!
1422kHzの赤銅色ノイズが核を内側から食い破り、幾何学模様の亀裂が巨大な生首全体へ一気に広がっていく。
『グギャアアアアアッ……!?』
断末魔と共に、巨大なボスが数百万の赤いドット粒子へと豪快に爆破、霧散した。
蔵の地下を満たしていた不快な重低音ノイズが、潮が引くように一瞬で消え去り——静寂が戻る。
そのまま蔵の中が仄明るくなり、少し視界が開けた。
【『第二階層の核』の完全破壊を確認】
【レイド報酬:『旧家破りの秘宝』および『階層スキル:???』を獲得中……】
ドットの塵が消え去った石畳の底。
ボスの核があった場所から、『血のように赤いドット絵の黒電話』がカサカサと怪しい音を立てて実体化し始めていた。
その直後——
ジリリリリリリリリリリッ……!!!!!
一度も回線が繋がっていないはずの明治の蔵の地下深層で、昭和の電子ベルが甲高く響き渡った――。
――続く。
【ステータス】(ボス撃破・核破壊瞬間)
・プレイヤー:真壁 陸
・HP:[全部位:100(健全)]
・装備:[呪導のラジオナイフ(耐久:8/15)] [安らぎの護符羽織(葵装着/ノイズ耐性+10)]
・現在のミッション:【『第二階層の核』の破壊完了および脱出】(残り時間 09:45)




