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第6話 「暗闇の8bit音像と、音で斬る丑三つ時」

46:名無しさん@ゲーマー:202X/08/03(月) 22:30:10.45 ID:x8J9aK10

 おいスレ主、クラフト終わったか?

 あれから書き込み途絶えたけど……まさか部屋で寝落ちしてねえよな?


47:名無しさん@ゲーマー:202X/08/04(火) 01:15:22.01 ID:8bitLove

 保守。

 まあ腕治った直後だし、装備の準備と裏庭の蔵まで移動するのに時間かかってんだろ。気長に待つわ。


48:名無しさん@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:00:05.12 ID:x8J9aK10

 もう深夜2時だぞ……。流石に静かすぎて不気味になってきたんだが。


49:名無しさん@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:09:30.00 ID:RikuMKB

 すみません、準備と移動に時間かかっちゃいました……!

 いま蔵の中に着いたんですが、本当に真っ暗です……。

 スマホの明かりもダメって言われたのに、さっき作ったナイフの刃先が赤く明滅してます!

 主は「面白くなってきた」って言って、電気も点けずに暗闇に入っちゃいました……!


50:名無しさん@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:10:00.12 ID:x8J9aK10

 うお来た!? っておいおい嘘だろスレ主!!

 こんな深夜2時にスマホのライトもNGどころか、ナイフの刃先がチカチカ光ってんじゃねえか!!

 武器の光で敵が集まってくるぞ!? どうすんだよ!?


51:名無しさん@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:10:25.88 ID:8bitLove

 真っ暗闇の中で光も使えないとか、実質目隠しプレイじゃん!!

 いくらスレ主でも流石に無茶だろ!!


52:【解析班】名無しのアセンブラ@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:10:55.00 ID:Assembler

 落ち着け。昭和の8bit音源には【音像定位】が存在する。

 視界が見えなくても、敵の発するノイズ音の『左右の音量差』と『ピッチの上がり幅』で座標は算出できる。

 スレ主、視界を捨てるんだ。……耳で視ろ。


――


ガチャンッ……!!


 俺は迷うことなく、左足の踵で蔵の重厚な鉄扉を力任せに押し戻した。


 鉄が噛み合う不快な重音と共に扉が締まり、外の竹林を照らしていたわずかな月光すら完全に遮断される。


 視界を埋め尽くしたのは、濃密で完璧な『漆黒』だった。


「ひっ……! 陸、本当に真っ暗……! スマホの画面も胸に伏せてるから、何も見えないよ……!」


 葵が背後から俺の腰に回した両腕に、ギューッと強い力を込めてしがみついてくる。


 彼女の薄いブラウス越しに伝わる体温と、ハーブの香りがほんのりと鼻腔をくすぐった。


「大丈夫だ葵。……中途半端に画面(視界)に頼るから、この手のゲームのハメに引っかかる」


 俺はゆっくりと両瞼を閉じ、余計な視覚情報を自ら完全にシャットアウトした。


 視覚を絶つと、研ぎ澄まされた五感のすべてが「耳」と「皮膚の感触」へと一気に集中していく。


 明治時代から空気が滞留していた土蔵特有の、カビと湿り気を含んだ冷気。


 背中に触れている葵の早い鼓動と、静かな息づかい。


 そして——暗闇の空間を網の目のように揺らす、不気味なノイズ音。


ジジジ……ザザッ……ピピッ……


 右手に握りしめた『呪導のラジオナイフ』の刃先が、赤銅色の電子ノイズをチカチカと不规则に明滅させている。


 その微弱な光と熱気を感じ取り、積み上げられた古い葛籠や長持の影から『影を喰う者』が蠢く気配が這い出してきた。


「陸、左……っ! 左斜め前、三メートルから『ジジッ』って低いノイズ!!」


 葵が俺の背中に頬をぴったりと押し当てたまま、澄んだ声で音像の座標を耳元で囁く。


「サンキュー葵……三メートル! 距離、完全に把握した!!」


ジジジジジジッ!!


 暗闇を切り裂く高音の電子効果音。


 『影を喰う者』が、ナイフの刃先が放つかすかなノイズ光を目がけて板張りを蹴り、一直線に飛びかかってきた!


(左チャンネルの音量が急上昇……距離二メートル……一メートル……今だ!!)


 脳内で、暗闇の中に“8bitのグラフィック線”が鮮明に像を結ぶ。


 俺は目を開けることなく、身体を右へわずか半歩だけ軸ズレさせ——怪異が通り過ぎる“1/60フレームの隙”へラジオナイフを滑り込ませた!


 耳元をかすめる冷たいノイズの風。


 すれ違いざま、右腕のラジオナイフを左斜め上へ向け、音の放たれた中心へ一直線に振り抜く!


シュガァァァンッ!!


【会心の一撃(ジャストカウンタ)! 36ダメージ!】

【『影を喰う者』の体力が 0 になりました】


 ギャギャギャッという凄まじい電子の砕裂音が暗闇に爆発し、黒いドットの塵となって消滅していく。


「当たった……! 直撃!! 陸、すごい!!」


 背中で葵が感極まった歓声を上げる。


「いける……! 昭和の8bit音源のSEは、物理法則通りに左右の定位が完璧に割れてる! 視界がゼロでも、耳で完璧に『敵の座標』が見えるぞ!!」


 俺は不敵に口角を吊り上げ、暗闇の中でラジオナイフの柄を固く握り直した。


 だが、蔵の奥深くから響くノイズ音は、一体や二体では終わらなかった。


ジジジ……ザザザ……ピピピピピピッ……!!


「陸! 上と右から同時に二体来る!! 右の敵はスピードが早い、ノイズのピッチが高いよ!!」


 葵の爆速ナビゲーションが飛ぶ。


 右側の音量は急速に接近し、頭上の音量は落下音のピッチを急上昇させていた。


「同時攻撃か……! 縛りプレイの難易度を上げてきやがる!!」


 俺は一瞬の躊躇もなく、右足を踏み込んだ。


 右側から迫る甲高いノイズ音——速度重視の『影を喰う者』。


 俺は左手で葵の腰を力強く引き寄せ、彼女ごと強引に半歩後ろへ下がりながら、右腕のラジオナイフを横一文字に薙ぎ払った!


ガガガッ!!


【弱点特効! 36ダメージ!】

【『影を喰う者』の体力が 0 になりました】


 すれ違いざま、速度の速い一体を正確に切り伏せる!


 だが、攻撃のフォロースルーで右腕が伸び切ったその瞬間、頭上からもう一体が直撃コースで覆いかぶさってきた。


ザザザザッ!!


(上がガラ空き……ナイフのガードは間に合わねえ!!)


「陸の頭上ッ!! 私が守る!!」


 葵は絶叫すると同時に、陸の背中から離れて一歩踏み出した。


 震える手で『安らぎの護符羽織』の裾を掴み、自分たちの頭上を覆うように、躊躇なく一気に掲げ上げる!


 陸を傷つけさせない——その一心が、彼女の恐怖を完全に上回っていた。


ピピピピピッ!!


【安らぎの護符羽織:ノイズ耐性発動!】

【敵の攻撃判定を無効化(ブロック)!】


 俺たちの頭上で、バチバチバチッと激しい紫色のドットノイズが花火のように弾け飛んだ。

 葵の服からクラフトした『ノイズ耐性+10』の効果が、頭上からの奇襲判定を完全に弾き返したのだ。


「ナイス葵ッ!! 完璧なガードだ!!」


「今だよ陸ッ!! 隙だらけ!!」


 ノイズを弾かれ、空中で体勢を崩した怪異のコア——赤く光るノイズの目玉へ向け、俺は右手のラジオナイフを垂直に突き上げた!


ズドォォォンッ!!


【痛恨の一撃! 40ダメージ!】

【『影を喰う者』の体力が 0 になりました】


【連続撃破(2コンボ)! 経験値獲得】

【蔵・前庭の敵反応、全消滅を確認】


 ドシャァァンと重い音を立てて最後の影が崩壊し、蔵の中に再び、シン……と静まり返った静寂(しじま)が戻ってきた。


ピッ、ピッ、ピッ……

【脱出制限時間:残り 11:45】


「はぁ……はぁ……っ!」


 俺はゆっくりとまぶたを開けた。


 視界は相変わらず闇で塗りつぶされていたが、俺と葵の荒い息遣いと心拍音だけが、温かく静寂を伝えていた。


「陸……大丈夫……? どこも痛くない……!?」


 葵が心配そうに小さな手で俺の頬を探り、その温かい掌が俺の頬に触れた。


「ああ、ノーダメだ。葵の羽織のガードが完璧だった」


 俺は彼女の手の上に自分の左手を重ね、あたたかい手指を固く握り締め直した。


 葵はホッと小さく胸を撫で下ろすと、胸元に伏せていたスマホの画面をそっと立ち上げ、震える指先でスレへと爆速で報告を打ち込んだ。


53:名無しさん@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:13:50.00 ID:RikuMKB

 暗闇の中でノイズの音だけ頼りに、主が全部斬り倒してくれました!!

 途中で上から襲ってきたやつも、作ってもらった羽織で弾けました……!

 二人とも無傷です!! 敵の反応消えました!!


54:【解析班】名無しのアセンブラ@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:14:20.00 ID:Assembler

 見事な聴覚回避だスレ主。……そして横の彼女のガード判断も完璧だ。

 前庭の敵は掃討した。そのまま蔵の奥へ進め。

 最深部の地下階段の先に【第二階層の核】が存在する。


55:名無しさん@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:14:45.12 ID:x8J9aK10

 暗闇の中で音だけで全滅させたのかよwwww

 プレイング変態すぎるだろ!!

 てか、さっき作った羽織を即興で防御に使う彼女も優秀すぎんだろwwww


56:名無しさん@ゲーマー:202X/08/04(火) 02:15:10.55 ID:RikuMKB

 あっ、報告打つためにスマホの画面を少し立ち上げたら、漏れた光で蔵の奥に地下へ続く石階段が浮かび上がりました……!

 階段の底が赤く光ってます……!


――


「アセンブラの言う通りだな……」


 俺たちは互いの体温を感じ合いながら、静かに蔵の奥へと歩みを進めた。


 足元に散らばる壊れた葛籠や埃っぽい長持の山を抜けた先、土間の最奥に、地下へと続く漆黒の石階段が口を開けていた。


 階段の底、地下数メートルの深淵から、脈打つ心臓のような不気味な赤いドット光が漏れ出している。


【エリア更新:『旧家破りの蔵・地下深層』】

【警告:強大な呪詛反応(ボス級)を検知】


「葵、スマホをしっかり握りしめておけ。……ここからが本当の『家破り』だ」


「うん! 何が起きても、二人で脱出しよう……陸!」


 繋いだ手から伝わる、葵の熱い体温。


 俺たちは指を絡め合わせるように固く手を繋ぎ直し、明治の呪いが蠢く地下深層への階段を踏み降りていった。


——【旧家破りの蔵】深層攻略へ。


――続く。



【ステータス】(第二階層・地下深層突入時)

・プレイヤー:真壁 陸

・HP:[全部位:100(健全)]

・装備:[呪導のラジオナイフ(耐久:12/15)] [安らぎの護符羽織(葵装着/ノイズ耐性+10)]

・現在のミッション:【『旧家破りの蔵』地下深層での『第二階層の核』の破壊】(残り時間 11:30)

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