第5話 「旧家破りの蔵と、昭和のクラフトレシピ」
42:名無しさん@ゲーマー:202X/08/03(月) 20:04:45.00 ID:RikuMKB
画面に『第二階層:実家地下・旧家破りの蔵』って出ました。
さっき落ちた『門番の鍵』を持って、陸と一緒に裏庭の蔵に向かいます……!
43:名無しさん@ゲーマー:202X/08/03(月) 20:05:12.00 ID:x8J9aK10
おいスレ主、マジで実家の『開かずの蔵』行くのかよ!?
さっき腕治ったばっかだぞ!! 病院行けって!!
44:名無しさん@ゲーマー:202X/08/03(月) 20:05:40.12 ID:8bitLove
でもさっき落ちた『門番の鍵』の説明文、完全に「次のダンジョンのキーアイテム」だったじゃん……。
放置したらまた何かが部屋に湧いてくるんじゃねえの……?
45:【解析班】名無しのアセンブラ@ゲーマー:202X/08/03(月) 20:06:15.88 ID:Assembler
正解だ。
ワールド階層が【第二階層】に移行した以上、攻略を放棄すればアクティブな怪異が拡散する。
スレ主、まずは第一階層の戦利品で【装備合成(Craft)】を行え。
初期装備の包丁は砕けた。素手で第二階層に挑むのは自殺行為だ。
――
「ふぅ……」
俺は完全に元の肉体へと戻った左手を固く握り締め、深く息を吐き出した。
皮膚の温度、爪の硬さ、指先の自由。五体満足で生きている感覚が、脳に熱い快感をもたらす。
「陸、スレの【解析班】の人からレス来てるよ。『放置したら怪異が広域に拡散する』って……」
葵がスマホ画面を掲げながら、不安げに俺の顔を覗き込む。
「わかってる。ここで引き下がる気はないさ」
俺は畳の上に正座し、目の前に並べられた第一階層の戦利品を見下ろした。
・[壊れたラジオ×1]
・[黄泉の銅貨×2]
・[門番の鍵×1]
「葵、インベントリの【合成】画面を開いてくれ。互換機のコントローラーで操作する」
葵が素早くブラウン管テレビの前に膝立ちになり、画面を凝視する。
俺は両手でコントローラーを包み込むように握り直し、セレクトボタンからクラフトメニューを展開した。
十字キーとセレクトボタンを交互に叩く指先。
両手が自由に動く当たり前の感覚に、密かな興奮が込み上げる。
【合成画面】
・素材を選択してください
[選択中]:[壊れたラジオ] + [黄泉の銅貨×1]
ピコンッ!
画面上にドット絵の合成ツリーが立ち上がり、新しい作成可能アイテムが表示された。
【クラフト可能アイテム】
・[電波散弾の短縄]
・[呪導のラジオナイフ] (攻撃力: 18 / 耐久: 15/15)
[説明:1422kHzのノイズ波を纏う儀式用の刃。怪異の攻撃判定を一時的に打ち消す]
「攻撃力18、耐久15……! 初期の錆びた包丁(攻撃力5)の三倍以上か!」
「陸、銅貨をもう一枚使えば、防具も作れるみたい!」
・[黄泉の銅貨×1] + [実家のカーディガン(葵の私服)]
→ [安らぎの護符羽織(ノイズ耐性+10)]
「葵のカーディガンを使うのか……? いいのか葵?」
「もう、私の服なんていくらでもあげるよ! 陸が怪我しない方が何百倍も大事なんだから!」
葵は着ていた薄手のハーブ香るカーディガンを脱ぎ捨て、ノースリーブの涼しげなブラウス姿になると、脱いだカーディガンをブラウン管の前に差し出した。
俺はAボタンを連打し、クラフトを実行する。
シュウゥゥゥ……ガシャンッ!!
ブラウン管から激しい鍛造音が響き、畳の上に煙が立ち昇った。
煙が晴れた後には、赤銅色の金属刃が鈍く光る『ラジオナイフ』と、淡いハーブの香りを残したまま怪しい呪符が縫い付けられた『護符羽織』が実体化していた。
【インベントリを更新しました】
・[呪導のラジオナイフ(攻撃力: 18 / 耐久: 15)]
・[安らぎの護符羽織(ノイズ耐性+10)]
「完璧だ……! 完全攻略の成果が出てる!」
俺はラジオナイフを右手に握り、新しく完成した羽織を葵の肩に優しく羽織らせた。
「えっ……陸? これ、陸が着るんじゃないの……?」
葵が頬を少し朱に染め、パチクリと目を丸くする。
「葵は前線でスマホを持ってナビをしてくれる『オペレーター』だ。俺が防ぎきれなかった流れ弾を受けたら困るだろ」
「っ……うん! 私、絶対に陸を死なせないから!」
葵は嬉しそうに羽織の裾をギュッと握りしめ、力強く頷いた。
準備は整った。
俺たちは互換機とスマホ、そして新たに作った武器を手に取り、実家の奥深き闇——母屋の裏手に位置する『開かずの蔵』へと向かった。
――
真夏の深夜二時。
月光すら届かない実家の裏庭は、不気味な静寂に包まれていた。
竹林のざわめきを抜け、目の前に現れたのは、巨大な黒漆喰の土蔵——『旧家破りの蔵』。
明治時代に建てられて以来、一度も鍵が開けられたことがないという曰く付きの建物だ。
分厚い扉には、錆びついた巨大な鉄の錠前が鎮座していた。
「陸……ここ、昼間でも気味が悪い場所だったよね……」
葵が俺の左腕にぴったりと身を寄せ、身震いする。
「ああ。だが、この鍵がピッタリ合うはずだ」
俺はポケットから『門番の鍵』を取り出し、分厚い錠前の鍵穴へと突き刺した。
ガシャリ……ガラガラガラッ!!
百年の沈黙を破り、重厚な鉄の錠前が解け落ちる。
ギィィィ……という嫌な摩擦音を立てて、漆黒の土蔵の扉がゆっくりと内側へ開いていった。
その瞬間。
カチッ……ピッ、ピッ、ピッ……!
蔵の闇の奥深くから、聞き覚えのある『8bitの電子カウントダウン音』が重低音で響き渡った。
ブラウン管テレビを自室に置いてきたはずなのに、俺たちの網膜に、鮮血のような赤文字で新しいシステムメッセージが直接投影される。
【レイド領域:『実家地下・旧家破りの蔵』に入侵しました】
【目標:蔵の最深部に眠る『第二階層の核』の破壊および脱出】
【制限時間:15:00】
【警告:このエリアでは『光』を放つ行動が怪異を引き寄せます】
「網膜投影……!? ゲームの侵食度が上がってやがる……!」
俺は右手のラジオナイフを構え、蔵の開かれた暗闇を見据えた。
闇の奥——積み上げられた長持や葛籠の影から、ゆらりと新しいドット絵の怪異が蠢き始める。
名前の表示は『影を喰う者』。
漆黒のノイズで形作られた人型の影が、ランタンのように怪しく光る赤い単眼を明滅させていた。
『ザザ……ジジジ……ミツケタ……』
「陸! スレの解析班から警告!!」
葵がスマホの画面を凝視し、素早く叫ぶ。
「『影を喰う者』は光に反応して高速移動してくる! スマホの画面の光や、ライトの明かりは全部NG! 暗闇の中で音だけを頼りに戦わないとダメ!!」
「光NGの視界制限戦闘か……!」
ふと見下ろすと、右手に握った『呪導のラジオナイフ』の刃先が、チカチカと赤銅色のノイズ光を不気味に明滅させていた。
武器そのものが持つかすかな光すら、暗闇の怪異を引き寄せる死の誘惑になる。
だが——激痛と恐怖を越えてきた俺の心臓は、歓喜で跳ねていた。
「縛りプレイ上等だ。……面白くなってきたじゃねえか!!」
俺はあえて照明を一切点けず、ノイズの明滅だけを頼りに、漆黒の蔵の中へと一歩踏み込んだ。
——第2章【旧家破りの蔵】レイド、開始。
【ステータス】(第二階層アタック開始時)
・プレイヤー:真壁 陸
・HP:[全部位:100(健全)]
・装備:[呪導のラジオナイフ(耐久:15/15)] [安らぎの護符羽織(葵装着/ノイズ耐性+10)]
・現在のミッション:【『旧家破りの蔵』最深部への到達および『第二階層の核』の破壊】(残り時間 15:00)




