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第六話 鶏は人を選ぶ

「……」

 夏の朝は早い、俺が生活している部屋は東向きなため朝日に当たりながら起きる。

 髪を適当に梳いて、眼鏡を掛けて部屋を出る。

 朝は八重さんしか起きていない、尾羽月さん、彼女も早起きではあるが日課の朝の湯浴みをしているのもあり、居間に来るのは一番最後だ。

 ペタペタ、廊下を裸足で歩く音が静かに響く。

 ふと、庭に目をやると二羽の鶏が木陰で涼んでいるように見えた。

(そういえば、この二羽があまり餌を食べているのを見たことがないな)

 そんなことを考えながら、俺は縁側に腰を下ろす。

 すると、二羽は俺が縁側に座るのを待っていたかのようにココッと言いながら木陰から出てきた。

「……おはようございます」「コケ」「ココッ」俺の何の気もなしにやった挨拶に二羽は反応したように見えた。

「お二人、お二羽……うーん、どう呼んでいいのか分かりませんね」俺は、茶の鶏と乳白色の鶏のうちの茶の方を持ち上げる。

「お名前が、あった方が俺的には呼びやすいのですが」「1号さんと2号さんはどう思いますか?」

 俺の問いに、二羽はお互いを見つめあっていたような時間があったかと思いきや、抱きかかえていた茶の鶏が。

「コケーッ」と、名前が欲しいと叫んだように思えた。

「やっぱり、1号2号呼びは嫌だったんですね」俺がそう聞くと、今度は乳白色の鶏が器用に縁側に飛び乗り。

 「コケ」と肯定したように見えた。

 「尾羽月さんと一緒に考えようと思うのですが」「……名前の候補とかありますか?」

(そんなこと、聞いても分からないだろうけれど)

 二羽の鶏を交互に撫でながら聞いていると、背後からどたどたという足音が聞こえた。

俺は、その音の正体に気づいて上半身をその正体の方へ向ける。

「蒼一、おはよう!」「おはようございます、尾羽月さん。」

 彼女だった、湯浴み後だろうか、少し髪や尾羽が湿っているように見える。

「うむ、にしてもこんな朝早くから庭で何を……」彼女は少し嬉しそうに俺に声を掛けたのだが。

 乳白色の鶏が、ぴとっと俺の隣についているのが目に入ってしまった。

「コーココッ」乳白色の鶏は尾羽月さんのことをまた挑戦的な目で見る、尾羽月さんは、鳥神なため少し鳥たちの言語が分かるそうだ。

 尾羽月さんは、乳白色の鶏をキッと睨むと。

「2号、貴様ぁ!」キーッと彼女はその場で地団駄を踏む、それを見て乳白色の鶏は(やーねぇ)という顔で彼女のことをまた見上げる。

「尾羽月さん、落ち着いて」「落ち着いていられるかぁ!2号、今日という今日はどちらが上か教えてやらねばならん!」

 俺がどうどうと場を収めようとしたが、難しかった。

 しばらく説得して彼女はなんとか落ち着いた。

 そして、二羽を遠ざけて俺の隣で夏の朝日を取り込んでいる。

「夏は、熱いが……やはり少しでも神食をせんと」「湯を沸かすこともできん」「どういうことですか?」

 彼女は日差しを取り込むために広げていた両腕をグンと空に向かって伸ばすと、キラキラしたものが屋敷内に降り注いだように俺は見えた。

彼女は俺がその煌めきを追っていることに気づいたのか説明を続ける。

 「私が、取り込んだ神気をこの家のお風呂や竈、気の流れなどに活用している」「だから、頻繁にお風呂に入れるのですね」「まぁ特権のようなものだ」

「蒼一は、今日何をする予定なんだ?」「……まだ決めていないのですが」彼女の問いに俺は庭の鶏を指さす。

「あの子らの名前を考えてあげようと思っています」「……名前、それは私も入っていいか?」「えぇ、もちろんです、どちらが雄で雌か分かりますか?」

「茶が1号、雄」「乳白色が雌だ」彼女がぴっと二羽を指さす。

「わかりました、では朝食を食べてから、居間で二人で考えましょうか」「そうしよう!朝餉は何かばあやから聞いているか?」「いえ、厨には行っていないので……」「朝から私が来るまで、庭にいたのか?」 「そう、なりますね」

 そんな会話をしながら居間へ向かうと。

「おはようございます、尾羽月様、蒼一様」八重さんが朝餉の準備が終わったみたいで、卓の上には焼き魚にだし巻き卵、納豆に麦飯にお味噌汁。至って普通の朝餉が用意されていた。

 俺は、戸惑った。

 「……あの、これは俺が食べても、いいんですか?」そう聞くと、八重さんと彼女は目を合わせる。

「1、2、3人前ちゃんとあるぞ?」「えぇ、まさか焼き魚ではなくお肉の方が……」

目の前で自分の分と八重さんの分、そして俺の分と尾羽月さんは当たり前のように数えてほほ笑む。

 八重さんはおかずを下げようとしていたが、俺は戸惑いながら席に着いたのを見て、焼き魚の皿を俺の前に戻した。

俺が、座ったのを見て尾羽月さんは俺が食卓から出ていかないように慌てて、八重さんにも座るよう促す。

 全員が、座ったのを確認して、彼女は。「いただきます」と言い、ご飯を食べ始めた。

 俺も、いただきますと続いて、焼き魚に手を付ける。

(家では、こんなご飯食べたことなかったから、少し驚いた)(……慣れるのだろうか)

 お味噌汁、だし巻き卵……。と食べていたが、ふと疑問に思い聞いてみることに。

「鳥神でも、卵料理をお食べになるんですね」俺のふとした疑問に、尾羽月さんは納豆を混ぜながら答える。

「食べる者もいれば食べん奴もいるが……天尾家はそういうことは特に気にしてはいないな」「なにせ、自分が産んだ卵ではないからな」

 彼女はそう言うと、麦飯に納豆を掛けて口に運び、ひたすら目を輝かせていた。

「尾羽月様、毎朝同じものをお食べになっているのに、目をキラキラさせて……。」「む、良いではないか……納豆は苦手だったのは知っているだろう」

  八重さんはそんな彼女を見ながら、自分の膳に箸を伸ばす。

「卵はどこで手に入れてるんですか?」「2号が卵を産む、自家製のようなものだ」俺の質問に尾羽月さんが味噌汁を啜りながら答える。

俺は、ふむと分厚いだし巻き卵を箸で割って口に運ぶ。

(……祖父の家で食べた味がする)(俺もだし巻き卵を作ったことがあるが、ここまで上手くいかなかった)

(今度、八重さんに作り方のコツを聞こう……。)

バタバタした朝餉だったが、食べ終えることができた。

 そのまま、居間で俺たち二人は書を綴るために準備をして、鶏の名前を決めることにした。

  居間の障子を開けて庭が見えるようにした。

 俺と尾羽月さんはそれぞれの特徴から名前を考えていたが、次第に引き出しが足りなくなり。

「茶の方をトキ」「乳白色の方をコハルにしましょう」という俺の提案で着地した。

 気づいたら、陽は正中に来ており。

 昼餉を食べてから、二羽の小屋に札でも作って取り付けておこうという話になった。

昼下がり、縁側では尾羽月さんはコハルが俺と近いと相変わらずコハルのことをにらんでいたが、コハルには何ともないようだった。

 変わって、トキはというと。

 若干、尾羽月さんのことは下に見ているようだが、コハルよりあからさまではないようだ。

 昼餉を食べている時に、尾羽月さんがコハルとトキもそろそろくっついた方がいいのにな……。と呟いていた。

 俺の足元から離れないコハルに俺は腰を下ろして、聞いてみることにした。

「コハルさん」「コケ」「……トキさんとは、夫婦にならないのですか?」「……。」

 しばらく、間があった。

「……ココッ」「……?」「コケ、コォーッココッ」「……」

 俺にはさっぱり分からないが、まだ彼女とトキさんは夫婦になることはない、らしい。

  「むむむ……相変わらず距離が近い」「コハルめ……名をもらったからと言って蒼一も取ろうというのか」

 俺が腰を下ろしてコハルさんと話をしているのを、縁側から足をプラプラさせながら俺とコハルさんのやりとりを見ていた。

「……面白くはないが、誰かの名を考えるのは久しぶりだったな。」

 コハルやトキを見ながら、彼女は呟いた。

第二章開幕です。


尾羽月と蒼一の朝羽村、天尾家での生活に重きを置いた章になります。

のんびり、でも面白い作品になるよう執筆を頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

もし、よろしければブクマや評価をしていただけると嬉しいです。

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