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路地裏の亡霊たち【第1部最終章連載中/毎週月・金更新】  作者: Nova
03:Fade in Black

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第74話:焦りの証拠

 ジーナ・ノルディが外へ出ると、倉庫の入り口には元から駐車していた1台に加え、もう1台別の車両が駐車していた。その車の近くで、ルーク、ジーク、アインの3人が集まっている。彼らと合流する前に、クレアの件を処理してしまおうと、ジーナはラス・リードの姿を表で探した。


「あ、お疲れ様です!ジーナさん。」ジーナが見つけるより早く、ラスがジーナを見つけて近づいてきた。

「……お疲れ様。簡易的な聴取は終わったわよ。一応ね。」ジーナはやや呆れたようにラスを見た。


 今現場にいるメンバーはジーナを除いてみな戦術局員だ。1本線のメンバー階級とはいえ、危機対応や状況把握は彼らの方がずっと早い。


「ほんとですか!それはよかったです。それで……、クレアの件はどうしましょう?」ラスはジーナに判断を仰ぐようにじっと見た。


「そうね……。まだ彼女が見つかった時の正確な状況までを聞いたわけじゃないから、その辺りはあなたたちの方でまとめておいてくれるかしら。私は現在のクレアの状況と、彼女から得た情報をまとめてくわね。」


「了解です!」ラスはジーナの指示に威勢よく返事をした。

「それから、彼女の服の件だけど……。」


 ―rrrrrr……


 白衣の胸ポケットの中で、ジーナの携帯端末が震えている。今日はやけに着信が多いなと舌打ちをしながら、ジーナは端末を取り出した。相手はまたしてもリオナ・フェティスだ。ジーナはラスに視線で制止を促しつつ、画面の通話ボタンをタップした。


 ―ピッ


「はい、こちらジーナよ。で、本題は?」ジーナは端的に先を促した。


 レオン隊オペレーターであるリオナからの通話だ。内容は自ずと任務に関係のある話だろう。他の筋から新たな情報が入ったとか、あるいは緊急の連絡かもしれない、とジーナは即座に適応していた。


 ―はい、リオナです。クレア・スミス人事局員の回収についてなのですが――。


 リオナは余計な言葉を一切挟むことなく本題を開始した。この辺りの対応力を見ると、否が応でも感心せざるを得ない。ジーナは密かにため息をついた。 


 ―ただいま人事セクションの連携のもと、彼女の衣服を持って回収に向かっているところです。ジーナさんはそのまま、ラス・リード戦術局員にあとを引き継いでください。


 リオナはたった今ジーナが検討していたことを、すでに実行しているらしかった。


「いいわ。そうしようと思っていたところだったもの。……その前に、やけに動きが早かったわね?」ジーナが尋ねると、リオナはふふっと柔らかく笑う。


 ―えぇ、まぁ。ジーナさんがそちらの現場に合流する前、ラス・リード戦術局員から一次報告が上がっていました。宛先はレオン戦術セクション長宛でしたが、外部セクションからの閲覧が不可能なわけではありません。ロッセセクション長が先んじて動かないとも限らないので、こちらで先手を打たせていただきました。


「あ……、そう。なるほど、ありがとう。」淡々と言うリオナに対し、ジーナはやや引き気味にそう言った。

「あなたって、本来の業務に支障はないわけ?」


 ―支障……ですか……?


 リオナはよくわからないというような口調で聞き返した。


 ―いえ、特にないですね。強いていえばクレアさんがいない分の仕事が全体に回されていますけど、そもそも私は新人で、まだ割り当ても少なかったので。


「なるほど。問題がないならそれでいいのよ。」


 ―えぇ、問題は特にありません。それで、ジーナさんの方で何か、報告事項などありますか?


 ありますよね?と半ば期待するような言い方で、リオナが尋ねる。


「えぇ、あるわ。」ジーナは近くにいる局員への配慮もしながら、慎重に言葉を紡ぐ。

「あまり大きな声ではいえない話よ。できる限りシークレットで対応を頼むわ。」


 ―はい。承知しております。


「まず結論、クレアはフェイド連続女性殺人事件の被害者である可能性が高い。」ジーナが告げると、通話越しにキーボードを叩く音が聞こえてくる。


 ―続けてください。


「クレアは行為の最中に首を絞められたと証言し、私もそれを確認した。これはターゲットの殺害方法と概ね一致している。確定するには現場も見てみないといけないけど、ラスの報告で上がっていたかしら。」端末の向こうからカタカタと音が聞こえ、少し長めの沈黙の後でリオナが言った。


 ―……上がっています。セントラルスクエア第5番街、大型の食料品店がある通りの裏ですね。中流階級向けのマンションです。……意識朦朧としていたそうですが、よく聞き出しましたね。


「そうね、まぁ今から追加で確認することもできるけど、先に上がってるならそのほうがいいわね。」ジーナは大きくため息をついた。


 ジーナがチラリとルークたちの方を確認すると、通話中のジーナに気づいたのか、ルークがこちらの様子を窺っている。確かに報告の割には時間がかかりすぎているかもしれない、とジーナは思った。


 ―それで、クレア局員は別の班が回収しますが、ジーナさんたちは現場を確認しに行かれますか?


「えぇ、そうなるでしょうね。……ただ。」ジーナはアインをチラリと見た。


 ―ただ?


「アインの方で、何か問題があったみたいなのよね。だから、それ次第かも。」


 ―問題、ですか。


「やっぱりまだ何も報告してないわよね?」何かを考え込むように沈黙しているリオナに対して、ジーナが聞いた。


 ―はい。


「わかった。なら、今このまま聞いちゃうから、繋ぎっぱなしにしててよね。」そう言いながら、ジーナは端末をスピーカー状態にし、アインの方へと近づいて行く。

「ちょっとアイン!あんた、なんか問題でもあったわけ?」ジーナがアインに尋ねると、アインはパッとこちらを向いた。


「何か、というほどでもないんですが……。スラッシャーの狙いが、エミリア・バートンである可能性が高くなりました。それで気がかりなことがあるんです。」アインは少し落ち着きがない様子でそう言った。


「珍しく取り乱してると思ったら……、なるほどね。あんたの家をわざわざ襲う理由で、明確なものはそれしかない、か……。月影局員のアイン・ザードに揺さぶりをかけた可能性も、なくはないけど。」ジーナはアインの言葉に対して同意を示す。


 確かに少し短絡的な結論にも見えなくはないが、エミリア・バートンの立場は少し複雑だ。すでに放火魔ライターに狙われた件もある以上、スラッシャーに対しても全くないとは言い難い。


「ただその場合、ライターとスラッシャーも共犯ってことになりかねないわよ……。少し慎重にいきましょう。」


 ―そうですね……。これはリーダー・レオンも交えて検討すべき事項です。

 リオナの言葉に、その場の全員が顔をしかめた。


「けど、それがわざわざ非番を放棄してまでここにくる理由だったわけ?」そんなわけないでしょ?とジーナがアインを揶揄うと、アインは「はい。」と頷いた。

「エミリアさんと、連絡が取れません。」

「え?」アインの言葉に、全員が同じような反応をして彼を見つめる。


「朝、セントラルスクエアの雑貨屋の近くまで送っていきました。その後は普通に別れましたが、彼女が食料品店に行った後、昼前には連絡をくれると言っていたんです。……迎えに行くので。」アインは全員に対して軽く経緯を説明した。


「……食料品店。」ジーナは思わず、苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

「ねぇ、それってセントラルスクエアの大型店舗じゃないわよね?第5番街の?」ジーナはリオナに共有されたマップ情報をタブレット端末で調べ、アインに見せた。


 ルークとジークも邪魔にならないようにタブレットを覗き込んでいる。ジーナがアインの顔をそっと窺うと、マップを見ていたアインの顔がみるみる青ざめていくのが見てとれた。


「はい、このあたりだと思います……。ちょっと、個人的な伝手に確認をとります。」アインは急いで車の影に行き、携帯端末で誰かに連絡を取っている。

「え、なんかよくわかんないんですけど、なんかやばい感じですよね、これ。」アインの様子に当てられたのか、ルークはこれまで以上に青ざめた顔で立っている。


 なんと言うべきか考え込んでいると、繋がったままの通話越しに、リオナの声が物々しくこう言った。


 ―すみません、ちょっと良くない仮説が浮かんでしまいましたので、今からすぐクレア局員が逃げ出してきた現場に、皆さんで直行するべきです。


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