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路地裏の亡霊たち【第1部最終章連載中/毎週月・金更新】  作者: Nova
03:Fade in Black

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第73話:シルバーグレイ

 ジーナたちが呼ばれた場所は、同じセントラルスクエア内にある倉庫群のうちの一つだった。中心部からは少し外れたところにあるその建物は、表にある店舗のバックヤードであるらしかった。


 月影の専用車両が入り口付近の路地に寄せて止めてあり、何人かの局員が立っているのが目に入る。ジーナ、ルーク、ジークの3人が倉庫に近づくと、立っていたうちの1人が気づいて手を挙げた。


「お疲れさまです、ジーナさん。こちらでお待ちしておりました。自分は、戦術セクションのラス・リードです。」手を挙げた局員がそう言った。

「あなたが電話をくれた人ね。お疲れさま。」ジーナはラスと握手する。


「それで、状況は概ね理解したけど、彼女は今どうしてる?」

「はい、クレア・スミスは現在とても落ち着いています。会話も問題なく成立しており、軽い聴取なら可能だと思われます。」ラスはハキハキとそう言った。


「そう、ならいいわ。……ただ、衣服の準備はまだできてない。今から調達してくることになるけど、もう少し待てそうかしら。」

「はい、大丈夫だと思います。まだ体温は低いままですが、震えはだいぶおさまりました。」まだ確認する前ではあるが、ジーナはひとまずラスの言葉を受け取った。


「わかった。それじゃあまず、さっさと確認を済ませちゃいましょうか。……案内してくれる?」

「もちろんです。」ラスは大きく頷くと、「こちらへどうぞ。」とジーナを促し、ジーナも彼についていこうと踏み出した。


「あ、そうだ。」しかしジーナは一度足を止めると、ルークとジークを振り返る。

「あなたたちはここでアインを待っていて?あいつ、急いでくるみたいなこと言ってたし、全員で話を聞くのもあれだしね。わかった?」


「そうですね、わかりました。」

「りょうかーい。」ジーナの指示に、ルークはきっちり姿勢を正し、ジークは適当な返事で了承した。


「OK、それじゃあ行きましょう。」

「はい、ではどうぞ。」ラスが促すままに倉庫に入る直前に、ジーナはルークの様子をチラリとみた。


 本人は平気そうな顔をしているが、まだ少し具合が悪そうなのは見ればわかる。2人を連れて中に入れば、当然クレアは萎縮するだろうし、ジークはともかくとして、ルークが耐えられる保証がない。そういう意味でも、双子を外に残していくべきだろう、とジーナは思った。


 倉庫に入ると、中は大きさの揃った大小の木箱がいくつも積み上げられて山になっていた。入り口から入って少し中程の開けた場所に、クレア・スミスと思しき女性が座っている。彼女は大きめのタオルケットに、局員の誰かが貸したのであろう月影のジャケットを羽織っていた。


 しかし、襟から覗く胸元や、素肌のままの両足を見ると、衣服を着ていないことがよくわかる。ジーナははぁとため息をつくと、ゆっくりと慎重にクレアの方へと近づいた。


「こんにちは、クレア・スミスさん。私は科学セクションのジーナ・ノルディよ。少し、お話いいかしら。」両手で包むようにマグカップを持っているクレアが、びくりと肩を振るわせながらジーナを見上げる。


「あ……、はい。その、こんな格好で申し訳ありません。人事セクションのクレア・スミスです。」クレアは立ち上がりこそしなかったものの、ジーナに対して丁寧に挨拶をした。


「もちろん、構わないわ。まぁ、こんな時でも冷静に振る舞えるあたり、アヴェラの教育の賜物かしらね。」ジーナはクレアの前に片膝をついて目線を合わせた。


「とんでもございません!むしろ、本当に恥ずかしい限りです。その、こんなことを言うのは烏滸がましいかもしれないですが、正直ロッセセクション長に会わせる顔がないんです……。」クレアは悲痛な面持ちでそう言った。


「うん、そこについてはあなたにも指導が入るだろうし、当然今後の待遇までは保証できない。でもアヴェラちゃん基準で言うのであれば、今回私たちに捜索願を出したのは、他でもないセクション長アヴェラ・ロッセ本人なのよ?」

「え?」ジーナの言葉に、クレアは大きく目を見開いた。


 彼女は何かを察したのか、白くなった唇をわなわなと震わせて耐えている。同時に頬と瞳がほんのりと赤みを帯びて、考え込むように視線が泳いだ。


「そんな……、さすがに早すぎます。」クレアの声は僅かに震え、堪えるように唇を噛み締めた。


「ほんとよ。私たち、今日は朝から厄介ごとのミーティングをしてたのに、アヴェラちゃんが割り込んできたから失踪者の件を認識したの。当然、判断するにはまだ早いってみんな思ってたわ。でもあなたたちのロッセセクション長は、いつもは1秒だって遅刻しない人間が、何分経っても出勤しないからおかしいって言ったのよ。」ジーナがクレアに言い聞かせる間、クレアはずっと強く唇を噛んでいた。


 しかし込み上げるものを抑えきれなかったのか、クレアの真っ赤な頬の上から、つうっと涙が流れていった。そのままクレアはグスグスと静かに泣き続け、裸の腕で涙を拭った。


「教えていただき、ありがとうございます。処罰も謹んでお受けいたします。」クレアにハンカチを差し出しながら、ジーナはゆっくりと首を横に振る。


「まぁ、処罰って言っても、決めるのはアヴェラちゃんだしね。局長決定もあるにはあるけど、レオンだったらアヴェラの好きにさせると思うわ。……とはいえアヴェラはあなたのことを心底心配していたし、そう悪いようにはならないと思うわよ。」


「はい。……ありがとうございます。」クレアはジーナからハンカチを受け取って涙を拭うと、すっきりとした目でジーナを見つめた。

「それで……、私がここに来たのはあなたに捜査協力をしてもらうためなの。」ジーナは自分のサイドバッグから水のボトルを取り出し、蓋を外して水を注ぐとクレアに渡す。


「はい、一旦これ飲んで。」

「ありがとうございます。」クレアは持っていたカップを一度地面に置き、ジーナからもらった水を飲み干した。


「大丈夫です。できることならなんでも。」

「よかった。」ジーナはクレアから空になった蓋を受け取り、ボトルに戻してサイドバッグにしまった。


「とはいえ、いきなり大変なことをさせたりしないわ。まずは、行方不明になっていた理由とか、経緯を教えてくれると嬉しいんだけど。」

「あ、そうですよね。」クレアは恥ずかしそうに俯くと、ジャケットの前を軽く引き寄せた。


「男性の家にいたんです。」

「男性?」ジーナはタブレット端末を取り出して、メモを取りながらクレアの話を聞いた。


「どうして?」

「懇意にしていた方だったので……。」クレアの瞳が再び揺れる。

「なるほど、親密な関係だったというわけね……。まぁ、そこは大人同士だもの、別に問題なんてないわよ。」ジーナは早口でフォローした。


「でも、結果がこれなのは、なんでなの?」ジーナはクレアをじっと見つめた。

「あ……、えっと……、最中に、首を絞められて……。」

「首?」ジーナが怪訝そうに目を細めると、クレアは少し怯えたような表情をしながらもゆっくりとジャケットの襟をめくった。


 クレアの首にはぐるりと締め付けられたような赤い跡が残っており、紐状ではなく大きな手のひらのような形も僅かに残っているように見えた。


「ごめんなさい。レポートに添付するから、写真撮らせて。下は映さないようにトリミングするわ。」ジーナが断りを入れると、クレアはこくこくと頷いた。


 ―カシャ


「ありがとう、もういいわ。」ジーナが頷くと、クレアは再び襟で喉を隠した。

「それで、その男性の特徴は?」


「ジーナさん!アインさんが来ましたよ!」倉庫の外からルークの声が聞こえる。

「わかった!少し待ってて。」

「はい!」ジーナが叫び返すと、ルークは短く返事をした。


「ごめんなさい。別件が立て込んでるの。あなたのことは、一度月影に連絡して引き取ってもらうわ。着替えとかも持ってきてもらいましょう。」ジーナが言うと、クレアは小さく頷いた。


「それじゃあ連絡を入れないと――。」

「待って。」クレアの声に、立ちあがろうとしていたジーナが一瞬止まる。


「あの、男性の特徴は、シルバーグレイの短髪よ。それ以上にわかりやすい特徴なんて、多分ない。」クレアの言葉に、ジーナはごくりと唾を飲み込んだ。

「ありがとう。重要な証言ね。」


「あの、連続女性殺人事件と、同一だと思いますか?」クレアのすがるような瞳にジーナは少し考え込むように間を置いた。


「わからない。まだ、確証は持てないわ。」

「そうですか。いえ、ありがとうございます。」クレアの言葉に頷くと、ジーナは倉庫の入り口から外へ出た。


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