第69話:行方不明者
セントラルスクエアの中流向けのマンションの前で、ジーナ、ルーク、ジークの3人はジーナのタブレット端末の照合結果を確認しようとしていた。
「で、結果は?」ジーク・シュナイダーが急かすようにジーナに尋ねた。
「今開けるわよ。」ジーナがやれやれといった様子でため息をつきながらそれに応じた。
ルークはというと、何も言わないものの、そわそわした様子でジーナの横へと移動する。それを見たジークも彼女を挟み込むように横に並んだが、平均よりも身長の高い双子の間に挟まれて、ジーナは少し落ち着かなかった。
「待って、あんたたちって、その……、思ってたよりもデカいのね。」ジーナは躊躇いがちにそう言った。
ジーナは女性にしては長身の部類であり、猫背と言っても履いているブーツの影響でそれなりに大きく見える方だった。しかし双子の身長は、ジーナのそれよりもまた数センチほど高く見え、さらに隣に並んだことで彼らの体格の良さが改めて強く認識され、ジーナは少し戸惑いを覚えた。
アインのバイクに乗せてもらった時も、彼の体格の良さを間近で感じることになったが、双子に関しては想定外だった。確かに戦術セクションの中では恵まれている方だと思ってはいた。それでも傍目から見ても分厚いレオンや、頭ひとつ抜けて長身のアインに比べると、彼らはまだまだ普通に見える。今までそれに気づかなかったのは、単に調査に集中していたせいだろう、とジーナは自分を納得させた。
「そう、ですかね?」
「あー、まぁ、そりゃ普通よりはな?」ルークとジークの反応を見るに、彼らにもあまり自覚がないらしい。
「でもジーナさんより少し大きいくらいだと思いますけど。」
「そういうこと言ってんじゃないわよ。」ルークの言葉に、ジーナは思わず即座に返した。
ともかく、端末の画面を覗き込むためとはいえ、両脇から身を屈めている男どもに挟まれるのは、やはりどうにも落ち着かない。
「はぁ、まぁいいわ……。あんたたちね、自分が思ってるよりもデカいってこと、ちょっとは自覚しときなさいよ。」そこまで言って、そういえば前に刺客に襲われた際、ルークに抱きかかえられたことがあったことを思い出し、ジーナは頭を振って記憶を消した。
「で?そんなことより、照合結果だろ。さっさと見ようぜ?」ジーナの戸惑いを一切気にすることなく、ジークが先を促す。
「はいはい、わかってるわよ……。それじゃあ、開くわね。」そう言ってジーナはタブレット端末画面上のボタンを押し、照合結果を表示させた。
『照合結果:行方不明者該当者なし
ID登録者:サラ・マイヤー(29/女/会社員)』
その表示を見た時、ジーナは思わず驚き、安堵した。結果として、被害者の身元は登録済みの住人であり、今捜索中の月影局員ではないことが確定したことになる。被害者の女性には申し訳ないが、これが身内でなくて良かったと密かに思った。
「行方不明者じゃ、なかったですね。」ルークは少し肩を落とした。
「まぁでも、身元のわかるやつで良かったんじゃねぇの?」ジークは途端に興味を失ったように体を離した。
「で、これどうすんだよ。」
「ひとまず被害者の身元について報告ね……。ただ、行方不明者の捜索自体は振り出しに戻ってしまったわけだから、別行動中の捜索班に、現状の確認を取らないと……。ルーク、捜索班に通信取れる?」ジーナが言うと、ルークは「はい。」と答えて無線機を出し、通信を開始する。
「通信します。こちら検証班ルーク、捜索班応答せよ。」ルークが無線で連絡をとっている間に、ジーナは現場検証のレポートを提出してしまうことにした。
先ほど現場で入力した内容を軽く見直し、照合結果を添付する。
「はい。こちらは現場検証とフェイスデータの照合を終えたところです。結果としては、遺体の身元が判明し、現在捜索中の行方不明者とは別人であると確定しました。……はい。引き続き、行方不明者の捜索をお願いいたします。」ルークの現場報告は澱みなく、ジーナにとっても任せていて問題ないと思える安心感があった。
漏れ聞こえる内容から推測するに、捜索班の方でも、おそらくまだ例の月影局員は見つかっていないのだろう、とジーナは思った。本当に、ただの家出みたいなものだったら、と希望的な予測も抱きつつ、このシリアルキラー・フェイドの餌食になっている可能性もまだ残っていることに変わりはない。
「了解。通信終了します。」ルークが無線をしまって、こちらの作業を待っているのが目の端に映る。
ジークはとっくに手持ち無沙汰にしていて、ぼんやりと街ゆく人を目で追っているようだった。しばらくしてレポートの整理と提出が終わったジーナは、レオン・クラッドに通話をかけようと、携帯端末を取り出した。
彼は局長である以前に、ジーナも所属しているレオン隊のリーダーだ。行方不明者は人事セクションのメンバーであるため、早めに一報入れておこう、とジーナ・ノルディは判断した。
―rrrrrr……
しかしジーナが通話をかけるより先に、彼女の携帯端末に通話がかかった。
「あら、誰かしら。」通知を確認すると、相手は「Human-Resources:Riona」と表示されていた。
―ピッ
「どうも、ジーナよ。」ジーナが通話を受けると、スピーカーから柔らかくて淑やかな女性の声が聞こえてきた。
―初めまして、本日付でレオン隊に所属となりました、人事セクションのリオナ・フェティスです。レオン隊のオペレーションを受け持ちますので、報告は一度私に繋いでいただくようお願いします。
リオナはふわふわとした印象ながら、必要事項だけを簡潔に述べた。
「あら、もう?早いわね……。それで、局長は?」ジーナは少しの煩わしさを、隠すことなく返した。
―”リーダー”ですね。あの、さすがにお休みになられています……。連日シフト無視の勤務形態だったので……。先ほどジーナ先輩がレポートを提出されたのを確認しましたので、こちらから通話をいたした次第です。人事セクションへの共有報告ですよね?そちらは私の方で対応しておきますから、ご安心を。後ほど、別行動のアイン・ザードさんにも情報共有しておきますね。
リオナは半ばジーナを牽制するように、テキパキと話した。
「なんというか、手際がいいわね。」それはリオナへの感心だけでなく、アヴェラやレオンへの感心も含まれている。
また、承認に立ち会わされたのであろう、どこぞのセクション長にも言えることだが。
―そうでしょうか?人事セクションでは割と普通なので、あまり不思議には思いませんけど……。リーダー・レオンも、とても手際がいいですよね。ほんと尊敬しちゃいます……。
照れたような声音でレオンを褒めるリオナのことが、新人である以上にどこか恐ろしい存在に見えてジーナは僅かに口角を上げた。
「あなたも十分恐ろしいわよ。」
―はい?どういう意味でしょう?
わかっているのかいないのか、その辺りの印象もふわふわとして掴みどころがない彼女の加入は、新しい風と呼ぶにはいささか出来すぎている気がしないでもなかった。
「いえ、なんでもないわ。まぁ、こんな形で初対面もなんだから、あとで落ち着いた時にでも対面しましょう。」
―そうですね。えぇ、楽しみにしております!では。
可愛らしく喜んでいるように見えたリオナだったが、引き際はとてもあっさりとしていた。
「確かに、空恐ろしいわ、この子。」ジーナの呟きに対し、ルークがうんうんと頷いている。
「肝が据わってるやつって、やっぱりなんか変だよな。」ジークの曖昧な感想に対しても、どこかいつもより確信めいたものを感じてしまい、ジーナはタバコを消してしまったことを少しだけ後悔していた。




