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路地裏の亡霊たち  作者: Nova
サブストーリー:Dialogues in the Lost City

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Fractal Noise

戦闘の前に

第1部第1章ep23~ep24間のサブストーリーです

 アインとジーナは、アインの家でエミリアと一通り話した後、彼女と別れて帰還の準備をすることにした。家を出る時にアインは、ジーナがエミリアに対して何か言っているのを聞いていた。しかし彼は、何か自分の胸の中につかえるものがあるように感じて、それについては深く考えないことにした。

 すでに現場検証を終えていたため、そのまま全員でルミナスイーストの月影ビルへと帰還した。行きと同様、アインは専用のバイクに跨り、後ろにジーナを乗せた状態でエンジンをかける。軽くギアを入れてやると、小気味よくエンジンの震える音がして、アインはグローブ越しに、親指の腹で軽くグリップを撫でつける。

 そのまま出発したが、道中は特に何もなかった。ただどんよりとした雲がぶ厚く覆い被さっていて、それ以外はいつも大して何も変わらないのだとアイン自身は思いたかった。

 ビルに到着すると、車庫に入る前にアインは一度バイクを停めた。まずジーナを先に降ろさなくてはならないからだ。


「どうぞ、降りてください。」バイクをアイドリング停止させた状態でアインは言った。

「どうも。」ジーナはゆっくりバイクから降りたものの、軽くふらついてアインの腕に捕まった。

「大丈夫ですか。」アインはバイクに跨ったまま、寄りかかってきたジーナを片腕で支えるように肘を張る。

「ええ、大丈夫……。ちょっとふらついただけだから。」ジーナは掠れた声でそう言うと、グッと腕に力を入れて体勢を整えた。

「ふぅ。でもちょっとだけ頭痛がするわね……。医療セクションに頭痛薬もらいに行こうかしら。」ジーナはパタパタと顔を手で仰ぎながら言った。


「EVCを使ったからですか?」

「そうね。……ちょっと反動があるのよね。あんたんとこのバカどもは……の話は今度でいいわ。」ジーナは深く息を吐き出すと、腰をたたくような仕草をして、その後軽く腕を伸ばした。

「それじゃあね、もう行くわ。あんたもさっさと行っときなさいよ。医療セクション。流石に放置はまずいでしょ?」

「はい。軽く報告を済ませたら。」アインが携帯端末を軽く振りながらジーナに返答すると、彼女はニヤリと笑って、軽く手を振りながらビルの方へと歩いて行った。


 ジーナの後ろ姿を見送った後で、アインはもう一度エンジンをかけてバイクを進め、地下の車庫へと降りていく。バイクをいつも通り定位置に停め、エンジンを完全に切ってバイクから降りる。足でロックをかけてキーを抜くと、サイドケースからツールボックスを取り出して肩に掛け、入口の方へと歩いて行った。

 今日は愛用のスナイパーライフル―SSR7A(Shade-SR7 A-Mod)は持ってきていない。戦闘が確定していない場合は、私物のアーミーナイフ―Vintage-Navyと、支給品のハンドガン―SHM9(Shade-M9)があれば十分だからだ。だから今日の荷物はだいぶ軽い。


 ゆっくりと車庫へと降りてきた後続の移動車両を横目に見ながら、アインは入口に設置してある液晶端末を操作して、入庫確認にチェックを入れた。データの更新を確認した後、壁際に寄って携帯端末を操作していると、いつの間にか、後続車両に乗っていたメンバーが降車してきたようだった。

「アイン班長、僕らは先に上がります。」入庫確認を終えたメンバーたちがアインに向かって挨拶をする。

「あぁ。各自日報の記録は忘れないように。全体報告は俺の方で出しておく。以上。各自シフトに従って行動してくれ。」

「はい!失礼します。」アインが彼らに指示を告げると、メンバーたちはその場で姿勢を正して返事をし、頭を下げて立ち去った。


―rrrrrrr


 彼らの背中を見送った後で、アインは局長室の内線通信に通話を入れた。レオンのスケジュールは把握している。そろそろ日課の個人訓練から上がってプレジデントルームに戻る頃だろう。レオンの携帯端末に直でかけてもよかったのだが、アインがそれをしなかったのは、単にレオンのタイミングを推し量りたかっただけかもしれない。


―ピッ


「こちらプレジデントルーム。局長レオンだ。……もう戻ったのか?」目論見通り、数コールのうちにレオンに通話がつながった。

「はい、こちらアイン、ただいま戻りました。」アインは通話越しのレオンに対して、ジーナとの現場検証に関する内容や、最後にエミリアと確認した学校の所在についての報告をした。

 レオンは時折相槌を挟みつつも、しかし一切の質問を挟むことなく聞いていた。事実、現場検証の結果については、科学セクションであるジーナの方からより詳細なレポートが上がってくるだろうから、それを見る方が確実だろうとアインは考えていた。


「……それで、エミリア・バートンについてのことなんだが……。」レオンはアインに対して、エミリアとのやり取りについてさらに詳しい説明を求めた。

 エミリア・バートンは、放火事件の被害者であるが、報告書には載せられない話があれば、今この場で詳しく話せということだろうとアインは理解した。

「……場所を変えます。しばらくお待ちください。」アインはレオンにそう告げると、入口付近にある管理室へと足を踏み入れた。


 中では当番の担当メンバーが管理モニターを操作していたが、端末を耳元に掲げたアインの姿を見ると、操作パネルにロックをかけて席を外した。どのみち促すつもりではあったのだが、彼が気を利かせてくれたのをいいことに、即座に扉にロックをかけて話を続けた。

「……エミリアさんには正式に、俺の家に居候してもらうことになりました。手続きは、後でやっておこうかと。それと、彼女が気にしていた学校の所在に関してですが……。」アインはデータベースにアクセスして検索した結果をレオンに伝えた。


「その際、一般のマップで非表示になっている区域についての話になった。……彼女は実際に足を運びたいのだと……。」アインは自分にも処理しきれない事の次第を、包み隠さずレオンに伝えた。

「……俺は、その……。」アインはわずかに言い淀みつつも、ジーナの言っていた仮説と予測をレオンに伝えた。

「放火魔ライターは、エミリア・バートンを狙っていた可能性が高いとジーナさんが言っています。愉快犯的傾向はみられるが、現場に戻ってくる可能性が高いのではないかと。つまり……。」

「つまり、君の家にか、アイン。」言葉に詰まったアインの続きをくみ取るようにレオンがつなげる。

「はい。……狙われてるのは、エミリアさんですが……。」アインは声を潜めてそう言うと、喉の詰まりを解消するためにわずかに唾を呑み込んだ。


「なるほど……。ふむ……。」レオンはしばらく何事かを考え込むように沈黙している。

「なので今晩以降は、カワセミと協力して警戒体制をとろうかと。」レオンの沈黙には自分への負荷の計算も含まれているのだろうと察知して、アインは先手を打つように打診した。

「はぁ……、そうする他は、現状ないだろうな。すぐ片がつけばいいが、もしそうでないなら午前のシフトを調整しつつ対応してくれ。……サブリーダーには、私から伝えておこう。」やや重々しいレオンの声が聞こえると同時に、後ろでキーボードを叩く音が聞こえてくる。

「承知しました。」アインは返事をしながら、レオンには喋りながら作業をする癖があることを思い出した。


「では俺はこれで。」

「あぁ、待ちなさい。」

「はい?」アインが通話を切ろうとすると、レオンに引き止められて手を止める。

「負傷してから半日も時間が経っている。まずは早急に医療セクションに行くように。労災申請の手続きはこちらで通しておこう。」

「了解。……ありがとうございます。」レオンの言葉は気遣いではあったのだろうが、アインにとってはなぜそこまで、と思わずにはいられなかった。

「あぁ。……報告書は、ゆっくりでいい。では。」そう言うとレオンの方から通話が切れた。


―ツー、ツー


 アインはしばらくその場に立ち尽くし、やがて冷たいコンクリートの壁に背中を押しつけて熱を冷ました。どうしてこうも心臓が落ち着かないのだろうと考えあぐねていたが、管理室モニターに表示されている時間が思ったよりも進んでいることに気がつくと、急いで部屋を後にする。

 ロックを開けてドアから出ると、当番局員が車両整備をしながら待機していた。彼は慣れた手つきでツールボックスを片付けた後、アインに軽く頭を下げて管理室へと戻っていった。

「……。」左手の傷を思い浮かべた後、整備か、と喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、アインは医療セクションへと向かうことにした。


 荷物はツールボックスと武器だけだったが、医療セクションに行くには邪魔になるだろうと考え、アインはまず車庫に備え付けてあるロッカールームに寄ることにした。常に人数分の空きがあるわけではないが、アインの場合は他の班リーダーと同じように、専用のロッカーが与えられている。

 自分のネームプレートがかけてある扉を開け、決して広くはないスペースに自分の荷物をしまい込んでいく。どこにでもあるスチール製の簡易的なロッカーではあるのだが、通常の棚やポールに加えて銃器をかけておけるホルダーがついている。アインは手早く荷物を片付けると、ロッカーを閉じて鍵をかけ、いよいよ車庫を後にした。


 月影ビルに入り、局員用エレベータで12Fへと向かう。医療セクションは11Fと12Fに跨る広域フロアだ。他のフロアとは違い、受付窓口が設置してある12Fのエレベータホールには、待合室としても使えるように大小のイスやソファが置かれている。

 ツンとした消毒液のような匂いが染みついたこのフロアでは、暗い顔で椅子に座っている局員や、神経質そうに眉間に皺を寄せて立っている局員たちがチラホラといる。アインが軽く周囲を伺うと、ふと目を向けた隅の方に、戦術セクションの所属らしい数人の局員がいるのが目に入る。

 おそらく訓練で怪我をしたのだろう局員たちは、 アインの姿に気がつくと、1人は立ち上がり、1人は座ったままで軽く頭を下げて挨拶をした。アインも軽く手を上げて応答したが、座っている局員に対して足をやっているのだろうと推測して、ほんの少しだけ気の毒に思った。カウンター窓口の前に立つと、座っていたナース服の局員がアインに気づいて顔を上げた。


「お疲れ様です。こちらの端末にコードをかざして、所属と名前をお願いします。」彼女はアインをじっと見つめていたが、それ以上のことはなく淡々と受付を始めた。

「戦術セクション、アイン・ザードです。」アインは端的に告げると、グローブを脱いで自分の左手首にある認証コードを端末にかざした。


―ピッ


「……はい、確認いたしました。アイン・ザードさんですね。すでに予約を確認しております。……少々お待ちください。」彼女はそういうと、近くにあった別の端末を操作し、ヘッドセット越しに通話を始めた。

 通話が終わるのを待つ間、アインは手持ち無沙汰で待っていた。時間としてはそう長くはないはずなのだが、こういう待ち時間がどうにも苦手だとアインは思った。

「すみません、すぐ対応するそうなので、もうしばらくお待ちください。」

「分かりました。」通話を終えた彼女に対して、アインは軽く頷いた。

 アインは邪魔にならないように、カウンターの端の方で待つことにした。いつもの癖で腕を組み周りを見渡しながら立っていると、なぜだかいつもよりも周りが静かであるようにアインは感じた。


 カウンターの向こうはナースステーションになっており、医療セクションの局員たちが忙しなく動き回っているのが見える。何かの数値を映し出しているモニターや手に持った書類を確認する者もいれば、白衣を着た医師たちが、コーヒーを飲みながら小声で談笑している様子も見える。

 フロア自体が静かだと言えばそれまでなのだが、自分についての噂話が一切聞こえてこないことにアインはわずかに安堵していた。自分に対して興味がないのか、あるいはそんな余裕もないくらい忙しいのかもしれないとアインは思った。その横を、先ほどナースコールを受けていた局員が駆け抜けていく。それをなんとなく目で追っていると、後ろから誰かが近づいてくる気配がして、アインは思わず身構えた。


「……おいおい緊張すんなよ〜……。」気の抜けたような口調で聞こえてきたのは、情報セクション長ハーディ・グラントの声だった。

 萎びた革靴の音が聞こえる。アインが気配のする方へと視線を向けると、靴と同じように萎びた革のジャケットを着たハーディが、アインの肩へと腕を回して乗せてくる。

「よぉ……、元気にしてるかぁ?」アインよりも僅かに小さいがほぼ同じくらいの背丈、意図的なのかどうかも分からないようなボサボサの髪に、わずかに口髭を生やした口元が不敵に笑う。

「……お疲れ様です、ハーディさん。」わずかにただようタバコとアルコールの香りに、アインはゴーグルの下で密かに眉根を寄せた。


「……。」ハーディはハンッと僅かに鼻を鳴らしながら頷いた。

 そのまま肩に回していた腕を解いて肘だけをアインの肩に乗せ、ライダースジャケットの胸ポケットからタバコの箱とライターを取り出した。

「ハーディさん?」そのまま1本口に加えて火をつけようとしたところで、カウンターの女性局員に注意を受ける。

「……。」睨まれては流石に決まりが悪いのか、ハーディは片手を上げて応じると、黙ってタバコとライターをポケットに入れた。


「何してるんですか。」その間も依然として肩に肘を乗せたままのハーディにアインは言った。

「……二日酔いだよ。薬をもらいにきてぇ……、ついでにちょっと情報収集を……な?」これも立派な仕事だろ?とでも言いたげな目でハーディが答えた。

「そしたらあんた、ちょうどいいとこにいやがってんでな……。ちょっと近況でも聞かせてくれや。」

「レポートに上げた以上のことは、ないと思いますが……。」ハーディが何を聞きたがっているのかはっきりしないが、なんとなくあまりいいことではないようにアインは思う。

「そうなんだがよ、そうじゃなくてよぉ……。エミリア・バートンとは、一体どういう関係だ?」ハーディの眼光が鋭く光るのを見ると、ゴーグル越しとはいえ不服にもどこか気圧されるものがあるなとアインは感じた。


「ちょっとおっさん、元ゴシップ記者の血が騒いでんじゃないわよ。」アインが声のした方を見てみると、白い紙の小袋を2つ手に持ったジーナが歩いてきたところだった。

 ジーナの声はアインが普段聞いているよりもずっと大きく、エレベータホールに軽く響き渡るほどだった。カウンターの女性局員や周囲の局員たちも怪訝そうな顔でこちらを見ているが、ジーナ自身も自分の声に驚いたような素振りをしていた。


「んだよ、ジーナちゃん。別にちょっとぐらいいいだろうが。」とハーディが言う。

「今この場で暇してんのはあんたぐらいよ?……ちょっとぐらい”らしい”振る舞い方でもしたらどうなの?……ほらあんたのもついでに貰ってきてやったんだからさっさと仕事に戻りなさいな。……行くわよ!」ジーナがアインに目配せをしつつ、わざとらしく困ったような顔をして抗議をするハーディの腕を引いて、無理やりにでも連れて行こうと試みている。

「……全く厳しいなぁ、ジーナちゃんは。」ジーナの試みをものともせずにハーディはやれやれと大袈裟に両手のひらを広げて見せた。

「チッ……。」ジーナはハーディを睨みつけると、ハーディの腕から手を離し、そのまま彼の脛を蹴りつける。


「イッ……。」ハーディは少し懲りたのか、脛を押さえて僅かによろけた後、ジーナの方に手を差し出した。

「ふん。」ジーナはハーディの手に、薬の入った紙袋を一つ押し付けると、アインに一度視線を投げて、そのままエレベータホールへと歩いて行った。

「はぁ……、仕方ねぇなぁ……。ちょっと待ってくれ!ジーナちゃん!」ハーディは頭を掻いてため息をつくと、エレベータを待っているジーナを追いかけて行った。

 しかし途中でスッとアインの方を振り返ると、鋭い瞳でアインの方を指差し、ニヤリと笑って扉の開いたエレベータへと乗り込んだ。


「お待たせしました、アインさん。……アインさん?」ハーディの消えた方から視線を戻すと、そこにはタブレット型端末を手に持った、白衣姿のバークレイ・エヴァンスが立っていた。

 医療セクションのユニフォームは、白衣を模したものとナース服を模したものの2種類ある。他のセクションは紺をベースにしたユニフォームだが、医療セクションのそれはぱっと見では普通の白衣と見分けがつかない。

 しかし、胸元には紺地に白いラインの入った階級章がついており、それがただの一般的な白衣ではないことを指し示している。戦術セクションのユニフォームもまた、用途に合わせて数種類あるため、その点では似通っているなとアインは感じた。


「何してるんです?局長から話は聞いていましたが、今日はもう来ないつもりかと思いましたよ。」目を細めたバークレイが、皮肉を混ぜながらアインに言った。

 バークレイのことは定期検診で何度か見ていて関わりもある。アインが月影に着任した頃にはまだ階級章は1本線だったバークレイだが、色々あったとはいえ今では3本線になっている。

 彼はいつも、白いシャツに紺色のネクタイを締め、濃紺の髪を綺麗に撫でつけてセットしていた。細フレームのメガネには指紋が一つもついておらず、先ほどから怪訝そうな目でアインを見ている。


「……すみません、遅くなりました。」アインは即座に謝った。

「構いませんよ?来ないよりはマシです……。では、さっさと傷を見てしまいましょう。こちらへどうぞ。」バークレイは軽く指先でメガネを直すと、先導してアインを診察室へと案内した。

 診察室へ入るとすぐ、バークレイは併設する処置室に向けて何かの指示を出していた。アインはその様子を見ながら、手を前に組んで立っていた。

「何してるんです?そこの椅子に座ってください。よろしいですか?」アインはバークレイに言われた通り、近くの椅子に腰掛けた。


「ふむ……。それではまず、問診からです。……いつどのように怪我をしたか、説明していただけますか?」バークレイはデスク上のモニターを起動し、電子カルテを立ち上げた。

 複数あるモニターのうち一つに、自分の顔写真の張られたものが表示されているため、バークレイが過去のカルテも参照していることがうかがえた。そういうところを見ると、普段の立ち振る舞いとは裏腹に、職務に対して誠実な男なのだと再確認する。そんなことを考えながら、アインは左手の裂傷の経緯について説明をした。


「いいでしょう。……さ、怪我を見せて?あ、先に言っておきますが、あなたはこの後検査です。……簡易的なものですがね。」バークレイはアインの報告をカルテに打ち込みながら言葉を続ける。

「全く戦術の方々というのは、医者に対して正確な申告というのをした試しがない。……ま、あなたはマシな方ですが……それでも、申告漏れがないとは限りませんからね。」バークレイは皮肉が多いが、これに関しては反論の言葉が見つからなかった。

「……言い含めておきます。」

「構いませんよ。患者ってのはそういうもんです。……むしろ、あなたぐらい端的にしゃべってくれるとありがたい。」バークレイの物言いは、いつも少し鼻につくような気がするが、年上の多い医療セクションでリーダーをやっていると、年の近い人にぐらいは気軽な物言いをしたくなるのかもしれないとアインは思った。


「……はい、洗浄と縫合が必要ですね。このレベルの怪我を、半日も放置しないでください。……応急処置には文句ありません。それすらしない方も多いですからね。……あなたに手当ての概念が存在していて驚きましたが、まぁいいでしょう。」バークレイはアインの解いた包帯と怪我をまじまじと見て、準備の指示をナースに出した。

「……そもそも、火災現場から戻ったのであれば、すぐにでも医療に来るべきでしょう。一見大丈夫そうに見えますが、肺や気管支がやられていないとも限りませんし、皮膚にやけどを負っているかもしれません。……裂傷部分にも、やけどによる皮膚の癒着が見られます。……やっぱり精密検査が必要ですね……。」バークレイはカルテを書きながらため息をついた。

 アインは自分が施したのではない手当の跡を見つめながら、先ほどまで忘れていた傷の痛みを少しずつ思い出していた。


「……この後、戦闘があるかもしれません……。」

「……分かっています。本来は経過観察の必要な傷ですが、致し方ありません。ひとまず塞いであげますから、しばらく医療に通ってください。……また傷が開くかもしれませんしね。」バークレイはやれやれといった体でため息をついたが、やがてメガネをくいっと持ち上げた。

「……助かります。」アインは少し所在なさげにつぶやいた。

 整備だ。整備なのだ。その言葉が、何度もアインの脳裏をよぎっては消える。

「さ、次は追加検査ですよ。……ま、お時間は取らせませんよ……可能な限りはね。」

「はい、お願いします。」バークレイの言葉に頷きながら、アインは脳裏の言葉を振り払い、バークレイの後に続いて検査室へと向かっていった。


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