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路地裏の亡霊たち  作者: Nova
第1章:Set Fire to the City

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決着?

 燃え盛る炎を見て、アイン・ザードはわずかに焦りを感じた。戦場ならばいざ知らず、ここはただの市街地だ。あまり被害を大きくしたくない、とアインは再びリロードしながら考えた。火炎瓶は起爆前に撃ち落としているものの、燃えるものは燃える。それは致し方ないのだが、いかんせん敵が想定した以上にしぶとかった。


 アインのいる場所はまだ凍えるような海からの冷気に包まれており、吐く息が白く見えるくらいである。しかし火に囲まれているカワセミの居場所は、まさしく燃えるような暑さだろう、とアインはスコープを覗き込みながら思案する。

「ふっ……。」アインは短く息を吐き、雑念を追い払う。

 これ以上長引かせても良いことはない。幸い、放火魔ライターの動きは大きくて雑なフリが多く、さらに分かりやすく鈍ってきている。持久戦には耐えられないだろうと推測するも、そろそろ決着をつけるべきだとアインは思った。


「……はぁ。」カワセミは口の端をぬぐい息を整える。

 正直、標的がこんなにしぶといだなんて思ってもみなかった。しかし、だからどうということはない。カワセミは気だるげに目を細めると、小ぶりのナイフをわずかに握り直した。肌がひりつくような感覚はあるが、それが炎のせいなのか、はたまたやけに長引く戦闘のせいなのかまでは判別できない。


 外には出てこないが、先ほどからチラホラとこちらを伺うような気配がしているため、住民が目を覚ましたのだろうとカワセミは推測していた。放火魔ライターもそれなりの手練れならば、少なからず勘づいてはいるだろう。より面倒なことになる前に、さっさとことを済ましてしまおうとカワセミは考えた。

 一度軽く目を瞑ったのち、身を低く屈めて目を開き、ライターに向かって飛びかかる。あえて燃え盛る地面スレスレを潜っていくと、相手の死角をつき、その足元を崩そうと試みた。

「……っ!」放火魔ライターが驚いたような顔で飛び退く。


 相手の放った火炎瓶が顔のすぐ横で砕け散るのを感じながらも、カワセミはもう一歩地面を踏み込んで大きく距離を詰め、ライターの懐から上に向かって切り上げる。かわされた。そのままの勢いで回転して右足を振り上げ頭を狙う。何か細いものでガードされたようだが、おそらく彼の腕だろうとカワセミは推測した。

 右足を引き、低い体勢から距離を詰め、左足を大きく踏み込んで右後ろからナイフを突き出す。先ほどの蹴りでノックバックされたのか、ライターの反応が遅れているように見えたため、カワセミはそのまま敵の急所の喉を狙った。


―カシャン

―パァン


「……っ。」アインは何者かの視線を感じて大きく屋根の上を転がった。剥がれた瓦が何枚か下に落ちていく。スナイパーライフルから手を離さないように気をつけつつも、左手で屋根の頂点に手をかけ、なんとか新しい瓦の継ぎ目につま先をかける。

「……。おい、無事か。」アインは無線越しにカワセミに向かって声をかけた。

「……逃げられた。」

「なんだって?」カワセミの端的な報告に対し、アインは思わず聞き返していた。

「そのままの意味だよ。早く自分で見てみれば?」やや気分を害したのか、大きく息を吐くような音と共に返答がある。


「……あぁ、すまない。……そのようだな。」アインはふぅと息を吐きながら、屋根の上で体勢を整えた。

「はぁ……、瓶越しだったから確証はないけど、ナイフは当たった。でも深くはない……。」カワセミは放火魔ライターに与えた傷の報告をする。

 アインが下を見てみると、ライターがいたはずの場所には誰もおらず、カワセミは腕を押さえて立っている。そのカワセミの目の前では、轟々と炎が燃えていた。

「帰る。後はよろしく。」もうやることはないと言わんばかりに、カワセミは無線を切って立ち去った。

「……。」アインはカワセミの変わり身の早さに驚きつつも、報告はしていくんだな、と不可思議な感覚に首を傾げた。


 ナイフが当たったということは、ライターが負傷したのは確かだろう。そもそも、カワセミの連撃が始まった時にはすでに、ライターの足は覚束なかった。しかし、とアインは考えて、屋根瓦にめり込んだ弾丸を見る。

「いったいどこから……。いつの間に……。」それはアインの死角から打ち込まれた一撃だった。

 もちろん、不意の乱入者を想定していないわけではなかった。それはいかなる戦場であっても意識していなければいけない事項であり、アインは常に頭の片隅では、警戒を怠らないようにできていた。

「……。」しかし、意識の隙を突かれたという事実に、アインは唇を噛み締める。

「ふっ……。」アインは短く息を吐く。

 月影局員である自分に、感傷に浸っている時間はない。アインは弾丸を引き抜いてサイドポーチにしまうと、残された惨状を収めるために、すぐさま携帯端末を取り出した。


「……こちら治安管理局・月影、戦術セクション所属、アイン・ザード。至急、消火応援を要請します。場所は……。」アインは消防局へと連絡を入れると、一通り現場の状況を伝えて通話を切った。

 続けて、月影の情報セクションへと通話をかけると、眠たそうでがさついた男の声が聞こえてくる。

「あぁい。」時間的にも眠っていたのではとアインは思った。

 けれど、たとえどんな時間であったとしても、彼が電話に出なかったことはアインが知る限り一度もなかった

「ハーディさん、アインです。ソルティノース第3番地にて交戦しました。……レポートの処理をお願いします。」アインはいつものように事の次第をハーディ・グラントへ伝えた。

「……おぉう、ご苦労さん。」ハーディもまたいつものように静かに報告を聞き終えると、通話の向こう側で他の誰かに向かって話しかけているような声が聞こえた。

「……して、アインさんよぉ。」ハーディが酒やけしたかのような声でアインに話しかける。


「あんた、怪我でもしたのかい?いつもより、声が硬ぇみてぇだが。」

「……いや、していない。」アインは先ほどの戦闘を思い返して短く答えた。

「……そうかい。まぁ、気をつけろよ。……また次があるかもしれねぇしな。」ハーディはそれだけ言い残すと、後は何も言わずに通話を切った。

 何か事件があった時は、その事後処理のために連絡をしなければいけないところが何か所かある。そのいくつかに通話をかけているうちに消防局が到着し、速やかに消火作業を進めていった。火が徐々に収まっていくのを眺めながら、アインは端末をポケットにしまい、左手を瓦屋根の上へとついて体重をかけた。


「……っ!」ビクリと指先に震えが走る。

「はっ……。」意識的にゆっくりと息を吐き出すと、指の震えは収まったものの、ドクドクと脈打つような感覚を手の甲からアインは感じた。

 左手の傷か、とアインは思った。昼間自分の家でエミリアと話し、ジーナとともに月影へと帰還した後、医療セクションで治療を受けて来たのだが、先の戦闘で開いてしまったようだった。

 グローブをしているためか血の感触はまだないが、心臓の拍動に呼応するかのような血管の軋みを強く感じて、アインは思わずうつむいた。荒い呼吸を整えつつ、消火の完了を待つために屋根から降りる。燃え盛る火を心配してか、住民たちがチラホラと表に現れ始めたのが見える。


 どうも視界がかすむな、とアインは思った。基本的にライターの相手をしていたのはカワセミだ。しかし、どうにも思考がままならない。かろうじて、手に持っていたスナイパーライフルをガンケースへとしまい込む。そのまま近くに隠していたバイクのサイドバッグからツールケースを取り出すと、邪魔にならないように肩へと掛けた。少しだけ、家で休んで帰ろうか。そう思ったアインが、家の方へと向かおうとした時だった。

「アインさん!」少し遠くの方から、エミリア・バートンの声が聞こえる。

「……どうして、いるんですか。」聞こえたかどうかの確認もままならないまま、アインは静かにつぶやいた。


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